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学校を支配する容姿端麗な女王様二人に歯向かったら、なぜか許嫁にされてしまったんだが…  作者: ネコクロ


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第11話「シャイな少女」

「――んっ……ここは……?」


 俺の部屋に連れて行き、ブレザーだけ脱がせて楽な状態でベッドに寝かせていた白雪さんが、目をゆっくりと開けた。

 だから俺は彼女の顔を覗き込んでみる。


「目が覚めたか?」

「――っ!?」


 しかし、寝起きで覗き込んだのが良くなかったようで、白雪さんは一瞬にして顔を赤くしながら、目を見開き固まってしまった。


 うん……この子、クールな態度の割に意外とシャイなのか?

 頭を撫でた時も俯いて固まっていたし。


風麗(ふれい)に頼まれて、君を俺の家で匿うことにしたんだ」


 おそらく状況が呑み込めていないと思うので、俺は簡潔に説明をする。

 若干事実と異なる部分があるが、まぁ些細なことだろう。


「いつの間に、そんなやりとりを……うっ……!」


 白雪さんは上体を起こそうとして、痛そうに顎を手で押さえた。

 強く叩いていたので、やはり痛みは残っているようだ。


「一応塗り薬は塗っておいたけど、変に痛むようなら病院で診てもらったほうがいいぞ」


 風麗が心配していたように、ヒビが入っている可能性だってある。

 俺は医者じゃないので、さすがに彼女の状態はわからないし。


「いえ……大丈夫です……。それよりも、よく氷を家に入れましたね……?」


 白雪さんは怪訝そうに――警戒するように、俺の顔を見てくる。

 決闘までした相手があっさりと自分を匿っていることに、違和感があるのだろう。


「あのまま君を翠玉(えめら)に渡したら、酷いことをされそうだったからな。俺のためにわざわざ気絶してくれた子を、見捨てることなんてできないさ」

「別に、あなたのためだったわけでは……」


 笑顔で正直に気持ちを伝えると、白雪さんはプイッと顔を背けてしまった。

 あれは、誰がどう見ても俺のために自ら気絶してくれたようにしか見えないのだが、この子は雛と違って素直じゃないな……。


「氷は、借りを作るのが嫌だっただけです……。ですが……結局、こうして借りを作ってしまいましたね……」


 白雪さんは幼い顔付きに似合わず、大人のようにクールな感じで自嘲的に笑った。

 気絶した彼女を翠玉から守り、俺の家に連れてきたことを言っているのだろうか?

 まじめなところは、雰囲気通りという感じか……。


「元々、白雪さんが自ら気絶することを選ばなければこんなことになっていないし、むしろ俺がこれで借りを返した形なんじゃないのか?」

「それは違います……。あなたは、氷のためにわざと翠玉様を挑発し、矛先を自分に向けました……。気絶を選んだのは、その借りを返すためです……」


「気付いていたのか……」

「当然です。これから交渉をしようとしている相手を怒らせるような行為、理由がなければ致しませんから……」


 状況をよく見ている子だな……。

 風麗が大切にしているのもよくわかる。

 この上、普段は翠玉や風麗に対して忠実なんだろうし。


「ですから、これはまた、借り一なのです……」

「そっか、じゃあ――今から、俺の頼みを聞いてくれないか?」


 彼女が借りだと言うのなら、それでもいい。

 だったら、すぐにその借りを返してもらえば、貸し借りはなくなるのだから。


「翠玉様や風麗様に対して、私にできることはありませんよ……?」


 一度は歯向かったとはいえ、これ以上俺に手を貸すつもりはない。

 白雪さんは強い意志の籠った瞳で、俺にそう伝えてきた。


「あぁ、それはわかってる。頼みたいのは、俺の妹のことなんだ」

「……風麗様に怪我をさせた、という御方ですか?」


 雛の話を持ち出すと、薄っすらと白雪さんの瞳に怒りの色が浮かぶ。

 なるべく顔に出さないように努めていてこれなので、風麗に怪我をさせたことは白雪さん自身も怒っているようだ。


「故意じゃない、事故で怪我をさせてしまったんだ」

「風麗様に自らぶつかってきた、と聞いておりますが?」

「物は言いようだな。確かに雛からぶつかってしまったことには間違いないが、曲がり角で風麗が曲がってきていることに気付かずにぶつかってしまったんだ」


 事情を説明すると、白雪さんは瞳を閉じる。

 俺が嘘を吐いていないことはわかったのだろう。


 たくっ、翠玉……わざと白雪さんの怒りを煽る言い方をしたんだろうけど、姑息(こそく)なことをしやがって……。


「あなたの妹を任せたい、ということでしたね? どういうことかお話して頂けますか?」

「あぁ、実は――」


 俺は雛に起こった出来事と、懸念していることを簡潔に伝える。

 それにより、白雪さんは目を揺らした後、気まずそうに俺から逸らしてしまった。


 雛に何をしているかは、翠玉から聞いていなかったようだ。

 そして、自分がその行為に意図せず加担をしてしまったことで、俺の目を見れなくなっているらしい。


「そう、ですか……」

「俺の言っていること、全部信じるのか?」


 あまりにも素直に頷くものだから、俺はあえて聞いてみることにした。


「翠玉様でしたら、やりかねないでしょう。あの御方は、自分たちに歯向かう者には容赦がありませんので。それが、天上院家の教えでもありますし」

「あいつ個人の考え方じゃなくて、家の方針なのか?」


「えぇ……一度でも牙を剥いた者は、徹底的に潰さなければ再び牙を研ぎ、歯向かってきますので。そうならないように、相手の全てを奪うよう幼い頃から教えられています」


 なるほどな……。

 半端にやってしまえば、再び相手が力を付けた時に自分たちを脅かす可能性がある。

 恨みを持ち、敗北も経験している分、最初よりも数段厄介になるだろう。

 今度こそは――と、万全の対策と自分に有利な状況を狙って仕掛けてくるだろうしな。


 そうならないように、徹底的に潰せ、ということらしい。

 頂点に立つ者が、自分の立場を守るための教えなのだろう。


 そういえば昔、真莉愛さんも同じようなことを言っていた気がする。

 上に立つ人たちからすれば、それが常識なのかもしれない。


 まぁでもあの人の場合、俺が『潰すよりも、どうにか自分の仲間に取り込むほうが後々よくありませんか?』と聞いたところ、少し驚いた表情をし、『そう思うのなら、あなたはそのやり方をやってみなさい。確かに、潰すよりも吸収したほうがいいわね。せっかくあるものは、利用するべきだもの。とはいえ――潰すよりも、数十倍難しいことだけどね』と言っていたので、天上院家ほど徹底してそうしろ、という感じではなかったが。


「金持ちの世界も大変だなぁ……。だけど、雛にしたことは許されない」


 翠玉がどういう教えで、どういう立場でやっていようと、選択をしたのはあいつだ。

 その分の責任はあいつに取らせる。


「えぇ、そうでしょうね……」


 その辺は、白雪さんもわかっているらしい。


「あいつらの住所を教えてくれるか? それと、風麗とコンタクトを取ってほしい」


 俺を除けば状況を唯一正確に把握している風麗なら、俺が連絡をしてくるのも想定しているだろう。

 このまま有耶無耶に終わらせられる問題でもないので、白雪さんを経由すれば十中八九、場を用意してくれるはずだ。


「かまいませんが……翠玉様が傍にいらっしゃるでしょうし、危険ですよ……?」


 白雪さんはそう言いながらも、風麗に連絡を取ってくれる。

 そして、俺の予想通り、風麗は俺に対して『一人で……屋敷においで……』と言ったようだ。

 その隣では翠玉が『氷、すぐに戻って来なさい……!』と怒鳴っていたが、横から俺が気にせず通話を切っておいた。

 あいつの言うことを聞く必要なんてないからな。


 まぁ、白雪さんからは恨めしそうにちょっと睨まれたが。


 そこまで話が着くと――

「お兄ちゃん、上がったよ……?」

 ――お風呂で体を温めていた雛が、コンコンコンッとノックをした後、ゆっくりと部屋のドアを開けて覗き込んできた。


「なるほど……とても、自ら風麗様に危害を加えるような御方には見えませんね……」


 雛を見るなり、白雪さんはそう感想を漏らす。

 雛は誰がどう見ても無害という感じなので、俺の言うことを完全に信じたようだ。


「あっ……初めまして、雛です……」

「ご丁寧にありがとうございます。初めまして、白雪氷と申します」


 白雪さんが目を覚ましていることで、雛は慌てて頭を下げ、白雪さんもベッドから出て同じように自己紹介をした。

 どちらもまじめだ。


「そういえば……あなたのお名前を、聞かせて頂いていないのですが……?」

「あぁ、そうだったか? そういえば、自己紹介された後に不意打ちで攻撃されたんだっけ?」

「うぐっ……。あれは、あなたが氷を無視して、翠玉様とお話をされたから……!」


 俺が場を和ませるために冗談で(つつ)くと、白雪さんは痛いところを突かれた、と言わんばかりに苦しそうな声を出しながら、俺のせいにしてきた。

 というか、彼女からすればさっさと終わらせたかったはずなので、即行俺の意識を奪いにきただけだろうけど。


「はは、そうだったな。改めて、愛真英斗だよ」


 余裕のない白雪さんのことを少しかわいいな、と思いながら俺は笑顔で自己紹介をした。


 しかし――

「は……?」

 ――白雪さんは目を見開き、信じられない者でも見るような目で、固まってしまった。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! 天上院姉妹もある意味被害者なのかもしれ無いですね… 恐ろしい家訓だ
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