OK×桜 第1章 第1話 「記憶の庭 ― ふたりの再会 ―」
午後の光がカーテン越しに差し込む部屋で、OKはノートを開いた。
かつてこの街の取材で出会った、ひとりの少女のことを思い出していた。
春の雨の交差点――あの事故の夜から、何かが変わった。
自分の中で、ずっと誰かの「声」が響いている。
ノートの端に書かれた言葉。
『桜魂』。
誰に教わったわけでもないのに、その単語だけが残っていた。
胸の奥が不思議に疼く。
それはまるで、過去と未来が重なるような感覚だった。
外の公園では、早咲きの桜が風に揺れている。
記者仲間が声をかけてきた。
「おい、取材行くぞ。向島の団地、事故の現場、また話題になってる」
OKはペンを握りしめ、少しだけ息を吸い込んだ。
現場に立つと、風が頬を撫でた。
そこには、杖を持つ男の後ろ姿。
振り向いた瞬間、記憶が弾けた。
――あのとき、倒れた原付の横で、彼は確かに“誰か”を守っていた。
彼の目がこちらを見た瞬間、世界が静止する。
桜の花びらが舞い、音が消え、心だけが繋がった。
「……また会えた、んやな」
その声には懐かしさと痛みが混ざっていた。
OKは思わず微笑む。
「やっと、物語の続きが書ける気がする」
風が吹き抜ける。
彼の杖の影が、まるで桜の枝のように地面に伸びた。
その下で二人は立ち尽くし、春の光に包まれていた。
――物語は、ここから再び咲きはじめる。




