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第1章第4話「優しさの文法」
リフォルドの空には、今日も光が漂っていた。
ナオは真語典の頁を開くと、文字の間に“感情”の揺らぎを見つけた。
「この構文……知らんはずの言葉や」
〈翻訳結果:ありがとう〉
その言葉が流れ込むたび、世界の理が微妙に変化する。
人々の声が穏やかになり、街角の灯りが温かくなる。
シアが微笑む。
「外から来た言葉が、世界を癒してるんだね」
ナオは頷く。
「せやな。どこの誰か知らんけど、めっちゃええ奴や」
彼はそっとペンを置いた。
「“だいたいOK”で救える世界もあるんや」
その瞬間、空から一片の桜の花びらが舞い落ちた。
リフォルドには桜が存在しない。
それでも確かに、春の匂いがした。




