5/10
第1章第3話「言葉の縁(えにし)」
丘の上で、ナオはページをなぞった。
真語典の文字列が不規則に乱れ、やがて一つの文に変わる。
〈他界干渉確認:桜影ノイズ/意味再定義中〉
「これ、どっかから“言葉”が流れ込んできてる」
シアが首を傾げた。
「どんな言葉?」
「“ありがとう”ってやつや」
その一言が、リフォルドの空に反響する。
意味の塔がかすかに震え、世界の構文がわずかに変化した。
オウルが呟く。
「外部世界とリンクしてるのか?」
ナオは笑った。
「まあ、だいたいそうやな。
でも悪いもんやない。優しいノイズや」
彼はそっとページを閉じた。
「完璧な言葉はいらん。だいたいOKでええ。
そう思えるなら、きっと世界は繋がる」
そして風の中で、桜の匂いが一瞬だけ過った。




