第1章 「余白の目覚め」 第1話 ― いらないスキル ―
「君のスキルは……“だいたいOK”?」
審査官の声が、乾いた石壁に反響した。
世界名:《リフォルド(Refold)》
すべての存在は《真語典》に記された“定義”で保たれている。
言葉が崩れれば、現実も崩れる。
この世界では「スキル=存在証明」だった。
17歳の少年・ナオは、試験台の上で肩をすくめた。
「まあ……だいたい、OKっすね。」
笑って言ったその一言が、
試験官たちの筆を止めた。
スキルの評価欄には、
《価値なし/発動条件不明/戦闘適正:ゼロ》
そして――追放。
ナオは静かに建物を出た。
淡い光が差し込む街の路地裏。
そこでは、スキルを失った者たちが寄り添い、
“余白の街”と呼ばれる小さな共同体を作っていた。
「おかえり、ナオ。」
声の主は少女・シア。
言葉を発せない失語症の少女。
だが、ナオの“ひとこと”で、
彼女の世界は音を取り戻す。
その瞬間、
周囲の空気が淡く震えた。
“言葉”の定義がわずかに書き換わったのだ。
――スキル《だいたいOK》が、世界の安定構造を修正した。
だが本人は気づいていない。
それが、神格の片鱗であることを。
「……なんとかなるっしょ。だいたいOKや。」
少年の小さな呟きが、
この世界の「定義」を静かに揺らし始めていた。
そして、物語の外からそれを観測する“視線”がひとつ。
監視者=読者。
あなたの読みが、彼の存在定義を確定させる。




