OK×桜 第1章 第3話 「声の余白 ― だいたいOKな再会 ―」
福田朋広は、ベンチの端に腰かけていた。
右手には使い慣れた杖。雨上がりの夜気が、頬をなでる。
向かいに座るOKが、録音機をそっと置いた。
「福田さん、あんた……覚えてはるか? 桜交差点の夜を。」
男はゆっくりと目を細める。
「……夢ん中で、よう見るわ。誰かが泣いとる夢をな。」
桜の花びらが夜風に舞い、街灯に照らされて淡く光る。
その光の中から、桐生さくらが姿を現した。
制服のまま、少しだけ背が伸びた彼女は、はにかむように笑う。
「覚えてへんのですね。でも、いいんです。助けてもらったことだけで十分ですから。」
朋広は、ゆっくりと笑った。
「ええやん、それで。……まあ、だいたいOKや。」
OKは録音を止めた。マイクが拾った最後の音は、風と桜の音。
彼らの周囲には、街の残響が重なっていた。
過去と現在、記録と記憶。
誰もが、自分だけの“意味”を抱えて生きている。
桜はそれを包み込むように咲いていた。
「なあ、桜さん。」
「はい?」
「人が人を助ける理由に、意味なんて要るんやろか。」
「意味より、想いが残るほうが……きっと、だいたいOKですよ。」
その瞬間、交差点の光が強く瞬いた。
桜の残滓が宙を舞い、スマホの画面に浮かぶ“記録”が淡く揺れる。
現実と記録の境界が、ひとときだけ曖昧になった。
彼らは知らない――その“余白”の向こうに、他の世界がすでに共鳴を始めていたことを。




