第0章第1話 記録の始点(オリジン)
午前零時、世界は静寂に包まれていた。
研究棟の最下層、無機質な照明が一つだけ灯る。
神代オウガはデータの波形を見つめ、指先を止めた。
通常ではあり得ない“共鳴”が観測されていた。
「……これは、地震でも通信ノイズでもないな」
画面の中で、数値がわずかに呼吸するように揺れている。
人為的な信号でも、自然発生でもない。
それはまるで、“世界そのものが意識を持った”かのような脈動。
椅子から立ち上がり、観測ドームへと向かう。
ガラスの向こうには、眠る都市。
だが、確かに空気が動いていた。
“誰か”が想いを放った瞬間の余波のように。
オウガはタブレットに短くメモを残す。
──【異常波:記録開始】
「もしこれが単なるエラーなら、すぐに消える」
だが、彼の心は告げていた。
この揺らぎは、始まりだ。
誰も知らない何かが、今、世界に侵入した。
端末の画面が一瞬だけ明滅する。
“観測対象:不明。波長:感情共鳴”
見えない何かが、データの向こうで息づいていた。
オウガは静かに眼鏡を押し上げる。
「……記録者の仕事だ。すべてを見届けよう」
その目は冷静でありながら、どこか懐かしさを帯びていた。
まだ彼は知らない。
その共鳴が、遠い地で流れた“守る想い”と同調していたことを。




