第五話 段々とカップルらしくなってきたところで
「ねえ、タカちゃん。今日のお昼、どうするの?」
「え? 購買でパンを買って食べるつもりだけど」
「なら、私と一緒にお昼食べよ! ね?」
「うん、いいけど……」
休み時間になり小川さんが俺の席に来て、お昼に誘ってきたので、取り敢えずOKする。
断る理由もないし、小川さんと仲良くして行けば、彼女のことも本当に好きになれるかなと前向きに考えてみることにした。
「やった! 約束だよ。昼休みになったら、すぐに中庭に来て。お昼、私が用意したから一緒に食べようね」
俺がOKすると、小川さんも嬉しそうな笑みを俺に向けて喜んでくれた。
やっぱり笑顔が可愛くて眩しいくらいだなあ……俺も小川さんの明るさの十分の一でもあれば、人生が変わっていたかもしれないのにな。
沙月とのことも付き合っているのは勘違いだって告げられた後も、しつこく言い寄っていれば……いや、あの時は付き合っていた彼氏が他に居たらしいから、どっちにしろ無理か。
昼休み――
「あ、こっちこっち」
中庭に向かうと、小川さんがすでにベンチに座っており、手を振って俺を招く。
「さっ、座って」
「ああ……って近いんだけど……」
「いいじゃん。はい、タカちゃんのお弁当」
「え? 俺の?」
「うん、タカちゃんの分も用意してあるんだ。私が朝、ちょっと早く起きて作ったんだよ」
何と、小川さんの手作り弁当ってか?
朝何時に起きて作ったんだろう……ただでさえ、学校が遠いから、早起きしないといけないのに、お弁当作りなんてしたら、五時くらいには起きないと間に合わないのでは?
「えへへ、タカちゃんのお口に合うかわからないけど、いっぱい食べてね」
「あ、ああ……いただきます」
必要以上に小川さんが体を密着させてきているのが気になるが、まさか俺が女子から手作り弁当をご馳走になる日が来るとは思いもしなかった。
いやー、小川さんってこんなにも家庭的な面があったんだな。
普段結構、押しが強い子だから、あんまりそんなイメージがなかったんだけど、ちょっと失礼だったか。
「へえ、美味しそうじゃない」
「本当? リンゴの皮剥いたりするの、結構難しくて……普段、あんまり料理しないからさ」
弁当箱を開けると、ごま塩がかかったご飯にミートボール、ウインナーにおしんこにリンゴ、トマトと中々色鮮やかで美味しそうじゃないか。
「どうかな?」
「うん、うまいよ」
「ああ、よかったー。ちょっと量が少ないかなって思ったけど、大丈夫? タカちゃん、あんまり食べるイメージなかったから」
「いや、そんなたくさん食わないし」
実際、男としてはそこまで多く食う方ではないので、このくらいの量でちょうど良い。
しかし、俺の好みや食べる量まで考えて作ってくれるとは……もしかして、小川さんは俺の事をなんでも知っているのか?
「小川さん、ちょっと聞きたいんだけど、君の誕生日って何日だっけ?」
「私の? 八月三日だよ」
「へえ……俺の誕生日知ってる?」
「ん? そりゃ知っているよ。十月四日でしょう」
正解だ。
しかし、なぜさも当然のごとく知っているのか……俺は小川さんに誕生日を教えた事があっただろうか?
「なになに、誕生日に二人でどっかデートでもしたい?」
「はは、それはまた考えようよ」
「そうだね。そうだ、今度の日曜日、暇? 部活が午前中だけだから、午後暇なの。一緒にデートしようよー、ね?」
「い、いいよ」
「やったー。約束ね。部活は昼の十二時には終わるから、そのころに駅前に来てね。えへへ、タカちゃんとまたデートだー、楽しみだなあ」
俺の手を握りながら、そう迫ってきたので、俺もOKする。
ま、午後だけっていうなら、別に良いか。
今週に引き続いて、今週も小川さんとデートすることになってしまったが、まあ良いか。
彼女との距離が徐々に縮まっていって、良い感じになってきている。
この調子なら本当に付き合っても良いかなーって。
日曜日――
「えっと、この辺かな」
「タカちゃん! ゴメンね、遅くなっちゃって」
約束通り、午後の十二時半ごろに学校の最寄り駅まで行くと、制服姿の小川さんが走って俺の元へと駆け寄ってきた。
「えへへ、来てくれたんだ。わざわざ来てくれてありがとう」
「いいよ。どうせ、ここまでなら通学定期でいつでも来れるし」
こういう時は便利だな、電車通学って。
まあ、今日はこの辺でちょっとお茶でもしていくか。
「それでね。今度、柔道部の練習試合あるんだけどさ。そこで……」
「へえ……」
相変わらず小川さんはガンガン俺に話しかけ、俺はそれに相槌を打つというのを繰り返す。
殆ど小川さんが一方的に話している感じなので、よく喋れるなって感心しちゃうが、段々と彼女のテンションにも慣れてきたな。
「今日はそこのショッピングモールでクレープでも食べない? ちょうどおいしいクレープ屋さんが来ているみたいで……」
「そうだな。ん? 何か人が多いな」
駅近くのショッピングモールへ入ると、やけに人が集まっており、騒がしいので何かと思い行ってみる。
「何だろう? これは……」
モールの吹き抜けの部分まで行くと、人がごった返しており、何やら歓声と共に女の歌声が聞こえてきた。
「んしょっと……うおっ、何だ。ライブやっているのか」
ようやく人ごみをかき分けていくと、ステージでどこかのアイドルグループがライブをやっていた。
販促用のフリーライブって奴かな?
見た事ないアイドルだけど、何ていうアイドルかな?
「ヒューヒューっ! メイちゃん、最高っ!」
「あれ? あの子たち、スプリングスターズの子たちじゃない?」
「何それ?」
「知らない? 今、人気が出ている女子高生のアイドルグループだよ。私、動画サイトで見た事あるんだ」
「へえ……」
リアルのアイドル事情はあまり知らないのだが、そんな売れている子たちが、こんな所で無料でライブね。
三人とも可愛いけど、真ん中に居る金髪の子が特に可愛いなあ。
金髪で色白、青い目をしており、それでていて彫りが深いわけでもなく明るくてハキハキした太陽みたいな雰囲気の子。
何だか小川さんのちょっと雰囲気が似ているなって思ってしまった。
「小川さん、アイドルとか詳しいんだ」
「別に詳しいって程じゃないけど。何、気になる子でも居るの?」
「そういう訳じゃ……あ」
何て話をしていると、ちょうど真ん中の金髪の子と目が合い、その瞬間、俺にニッコリとほほ笑んで手を振ってくれた。
(お、おおお……めっちゃ可愛いやんけ)
ヤバイ。今の、想像以上の破壊力だぞ。
リアルのアイドルとか大して興味なかったんだが、こういう事をされたら、ハマっちゃうかも。
「む……もう行くよ」
「え? いたたっ! 耳引っ張らないでよ!」
「今日は私とのデートでしょ。アイドルでも、他の子に目移りしちゃダメ」
「わ、わかったって」
くそ、小川さんは鋭いなあ……まあ、良いか。
アイドルグループ名はわかったから、家に帰ったらネットで調べれば良い。
というか、小川さん、アイドルにデレたくらいで嫉妬しちゃうなんて可愛いなあ。