第三話 デート中にまさかの遭遇
「という訳で、沙月ちゃんとは縁がなかったって事にしておきなよ。まさか、未練がある訳じゃ無いでしょ?」
「無いけどさ……てか、俺、あの子との事、小川さんに話した事無いよね?」
「なくても有名だし。それに今の彼女は私じゃん。私は沙月ちゃんと違って、誤解の余地なんか一切ないから安心してね。じゃあ、ランチに行こうか」
「あ、ちょっと!」
さも当然の如く、小川さんに沙月の事まで色々と話されてしまい、彼女にまたも引っ張られていく。
沙月との事を知った上で彼女ぶっていたってのは、すこし意外だったが、だとしてもこれは一方的過ぎて付いていけない……。
(どうする……考えるんだ!)
小川さんとこのまま本当に付き合ってしまっても良いのかも知れないが、それでは駄目な気がする。
悪い子じゃないのはわかるが、彼女のテンションに付いていくのはしんどい……せめて、お友達からにしないと!
「お昼、ここで良い?」
「え? あ、ああ……」
小川さんに連れられた場所はファストフード店。
何処にでもあるチェーン店なんだが、ここは俺にとっては曰く付きの場所だった。
(沙月にフラレた店じゃないか……)
フラレたというか、彼女との関係が勘違いであったことを告げられた店。
ルンルン気分でデートして、実は付き合ってないって言われた時の絶望感と言ったら、思い出しただけでもう……いかん、気分が悪くなってきた。
「どうしたの?」
「いや……小川さん、こういう店来るんだ?」
「そりゃたまには行くよ。友達と一緒にね。男子と二人はタカちゃんが初めてだよ。なんせ、彼氏だもんね。ボーっとしてないで、早く来る」
「あ、ちょっと」
小川さんがここが沙月との関係が終わった店なのか知っているのか、知ってて敢えて連れてきたのか、そんなことはどうでもいいが、俺の方は敢えて来なかった店だったので、辛いよなあ。
「はい、チーズバーガーのセットで良いんだよね?」
「うん」
「えへへ、ちょうど窓際の席、空いてて良かったね♪」
せっせと注文を済ませて、小川さんがハンバーガーのセットを席に持ってきた。
気が利くというか、めっちゃ世話好きな子なんだなー……本当、俺の事を何で好きになっているんだが。
「何か、さっきから浮かない顔をしているけど、どうして?」
「いや……小川さんも知っているなら、言うけど、ここ沙月と最後に来た店でさ」
「ふーん。沙月ちゃんとのこと、やっぱり気にしているんじゃない」
「気にしていると言うかさ。トラウマになっているというか……」
勘違いしていた俺が一方的に悪いのかもしれないが、付き合っていると勘違いしていたって、とんでもない馬鹿で恥ずかしい事なので、一生トラウマになっちゃうだろうな。
「ほら、こっち見て」
「うおっ! な、なに……」
小川さんが俺の頬を両手で強引につかんで、正面を向かせると、
「あんなのはもう気にしてもしょうがないよ。タカちゃんもさ、相手が勘違いの余地がないような事をしないようにもっとハッキリ言わないとね」
「は、はいいい……」
と、ちょっと強めの口調で小川さんに真っすぐな目線でそう言われてしまい、頬を両手で抑えられた状態で返事をする。
「はい。それでよし。んじゃ、お昼にしようか」
「うん……」
何だか母親に説教されているみたいな気分だが、実際、俺のことを子ども扱いしてない、小川さん?
俺の彼女だって言ってくれるのはうれしいけど、流石にちょっと複雑な気分だな。
尻に敷かれるってこういう感じなんだな……小川さん、俺より背も高いし、しかも柔道部だから喧嘩も強そう。
あれ? 俺が勝てる要素なくない?
勝ち負けの問題じゃないんだろうけど、自分より弱い男と付き合うって、彼女的には問題ないのかな。
「それより、午後からどうする?」
「好きにしていいよ」
「じゃあ、私の買い物に付き合ってよ」
「いいよ]
「ありがとう。えへへ、楽しみだなー。やっぱり、初デートはこうじゃないとね」
心底嬉しそうな顔をして、コーラを飲みながら、そう言ってくれた小川さんだったが、本当に楽しいのかね……過去のトラウマで拗らせまくっている男なのにさ。
「あはは、それでね……あ」
「ん? げえっ!?」
ポテトを食べながら、そんなことを考えていると、思いもよらぬ人に遭遇してしまった。
「さ、沙月……」
「高俊君……に、千波ちゃんじゃない」
「やっほー、沙月ちゃん。久しぶり」
何と女友達と一緒に居た沙月が俺たちの前に偶然にも現れ、小川さんもすぐに彼女と挨拶を交わす。
一緒に居る友達も同じ中学の奴だったので知っているが、名前何だったかな……
「ど、どうしたの、二人とも?」
「ん? デートだよ。見ればわかるじゃない」
「デートっ!? もしかして、二人って……」
「うん。付き合っているの」
「ええっ!?」
沙月が俺と小川さんが一緒に居るので驚いていると、小川さんはシレっとした口調でそう告げ、沙月も驚愕してしまう。
「そ、そうなんだ……」
「うん。沙月ちゃんって、今、どうしているんだっけ?」
「私は今、地元の高校に……」
「そうなんだ。私とタカちゃん、同じ高校なんだー。えへへ、その縁でねー。付き合い始めたんだよ。ねー?」
「いや、あのだな……」
ニコニコ顔で小川さんは俺と付き合っているという話を、勝手に進めていき、沙月も唖然として、言葉が出ないようであった。
まるで俺の元カノに俺との関係を見せつけているようだったが……いや、元カノではないんだな、沙月の場合。
「沙月ちゃん、この店によく来るんだ」
「うん、近くだし……」
「そう。あ、ゴメンね、話し込んじゃって。私達、もう行くから」
「あ……うん。またね」
小川さんが俺の手を引きながら、手を立ち、沙月とその女友達を置いて、店を後にする。
思いもよらぬ奴と対面してしまったが、沙月に対して、あんなことを言うなんて、小川さんももしかして性格が悪いのでは?
「いやー、ビックリしたねー。沙月ちゃんとまさか会うなんて」
「そうだな……でも、地元の店だし、会うこともあるよね」
思い出したが、沙月はあの店をよく利用していると俺にも言ったことがある気がする。
まさか小川さんはそのことを知っていて? どうも沙月とも仲は悪くなかったみたいだし……。
「小川さんって沙月と仲良かったんだ?」
「まあ、小学と中学の時はそこそこ仲良かったかなって感じかな。高校に入ってから、連絡は取ってなかったけどね」
「ふーん……」
少なくとも俺よりは付き合いが長かったみたいだが、普通のクラスメイトって関係なのかな?
「俺との関係は何か噂聞いていた?」
「タカちゃんと仲いいなって思っていたけど、まさか付き合っているって勘違いしていたなんてね。あの子の事、好きだったんだ」
「いや、うん」
「ふふふ、良いよ。昔の事でしょう。今は私が好きなんだよね?」
「え? ああ、嫌いじゃないんだけど……」
「じゃあ、好きなんだ。問題ないね。んじゃ、デートの続きしようか」
「いやいや、そういう単純な話じゃっ!」」
嫌いじゃないってのは正直な気持ちだったが、小川さんに無理矢理腕を引っ張られ、デートの続きを強制的にやらされる。
トホホ……何だか色々あり過ぎて、このデートも素直に楽しめそうになかった。