第二十五話 二人とも負けてない
「だーかーら! タカちゃんみたいなクズ男は麻衣先輩には相応しくないでしょう! こんなのと付き合ってたなんて、知られたらアイドル生命終わりじゃない!」
「千波だって、こんな浮気ダメ男じゃなくて、もっと素敵な人、学校にもいくらでも居るでしょう! だから、彼の事は私が責任を持つから、その手を離して。ねー?」
「おっ、おう。はは、二人とも止せって! 俺の為に争うなや」
「あんたは黙ってて! そうやって、タカちゃんがヘラヘラ浮ついた気持ちでいるから、こうなってんだがらね!」
麻衣先輩が俺の手を引いてぎゅっと抱き着いてきて、胸を思いっきり体に押し付けてくるが、こんなことをされてデレデレしない男子はいないって。
ましてや人気アイドルだもんな……千波を怒らせようが、それはもう下心は隠せないし、その必要もない。
「ヘラヘラはしてないって。俺が好きなのは千波なんだしさ」
「あーん、私は?」
「もちろん、麻衣先輩も好きですよ。ステージで歌っている先輩は誰よりも輝いていますし」
「えへへ、ありがとー。ちゅっ♡」
「きいいいっ! イチャつくなって言っているでしょう!」
「きゃんっ! あん、もう」
先輩に頬にキスをされると、千波は激高して、俺達を引き離してしまったが、こんなのももう日常的になってしまった。
「とにかく、彼は私が引き取りますから、麻衣先輩はアイドル活動に安心して専念してください。こんなおバカさんと付き合っていると、アイドルとして傷がつくだけですから」
「アハハ、もう手遅れかもね。てか、バレなきゃいいんだし」
「私にはとっくにバレているんですよ! 自分の立場、わかっているんですよね? こういうダメ男と付き合ったら、アイドル活動に支障が出るだけです」
「それを決めるの千波じゃないしー。私のマネージャーでもないのにさ」
「く……とにかく、彼は私が面倒を見ますから!」
いやー、凄いなこの展開。二人の美少女が俺をディスりながら、奪い合うってさ。
この場合、俺はどっちか選ばないといけないのか?
当り前ではあるんだが……。
「落ち着いてくれ、二人とも。あんまり騒ぐと、近所迷惑になるじゃん」
「誰のせいでこうなっていると思ってるんだか……呑気過ぎるんだよ、タカちゃん……いえ、高俊は」
おっ、俺の事を名前で呼び捨てしてきたな、千波も。
何気に初めてな気もするが、ようやく俺を一人前の男して……認めている訳ないか。
「勘違いしない様に。ちゃん付けで呼んでいるから、そんな甘えた根性になっているんだって思ったから、呼び捨てにしただけだからね。少しは男としての自覚持ちなさいよ」
「はーい」
「って、胸に抱きつかない!」
「良いじゃん、付き合っているんだし」
理由はどうあれ、そう呼んでくれたのは嬉しいので、千波にお礼に抱きついて、胸に顔を埋める。
ああ、やっぱりこうしていると落ち着くな。
甘えるなだって? 無理無理。千波みたいな頼りになる彼女には甘えたくなるって。
「やーん、私には?」
「あ、麻衣先輩にも……」
「もう我慢できない! 今日はこれで失礼しますから! ほら、帰るよ!」
「はーい。すみません、今回はこれでお暇させていただきます」
「もっと遊びたかったんだけどなー。じゃねー。あ、高俊」
これ以上、麻衣先輩と言い合っても埒が明かないと判断したのか、千波が俺の手を引いて、この部屋から出ていこうとすると、先輩が、俺の手を掴み、
「私は愛人じゃ満足しないから、そのつもりで。んじゃねー」
「っ! い、行くよ、もうっ!」
ウインクしながら、麻衣先輩がそう言い、彼女の言葉と可愛らしい笑顔を見て、ドキっとしてしまうと、千波は俺の手を引いて、部屋の外へと連れだす。
愛人じゃ満足しないって事は、自分が正妻になりたいって事か。
うん、あんな事を言っても麻衣先輩も全然、俺への好感度下がってなさそうだな。
何というか……二股宣言しておいても、二人とも全然譲る気がないってのが感心してしまった。
他人事じゃないんだけど、正直、千波も麻衣先輩も趣味悪いなって思ってしまう。
「はあ……何か疲れた」
「ジュースでも奢ろうか? てか、俺も疲れたよ」
「誰のせいで、こんなことになっていると思っているんだか……喉乾いたから、そこの自販機で何か買ってきて」
「はいはい」
千波はぐったりとしながら、心底疲れ切った顔をしてそう言うと、近くの自販機でジュースを二本買い、千波に一本渡す。
「どうぞ」
「ふん。これで許されると思わないことね。てか、コーラ、あんまり好きじゃないんだけどね」
コーラを買ってくると、千波もぶつくさ文句を言いながら、コーラを一気飲みしていき、大きく息を付く。
「タカちゃんは……ああ、ゴメン、高俊は……」
「どっちでも呼びやすいように呼べばいいよ。別に良いじゃん、どう呼んだって」
「そういう甘えた根性をしているから、こんなことになっているんじゃない。まあ、いいや。高俊は私の事、好きなの?」
「好きに決まっているじゃないか。もう千波なしじゃ生きられないくらいにさ」
「軽く言っているから、信用できないんじゃない……今の心が籠った言い方じゃないでしょ」
むしろ、本当に好きじゃないと、ここまで軽く言えないと思うんだけどな。
「先輩の事は?」
「ん? 友達として大好きだな」
「嘘だね。絶対にそんな気持ちじゃないでしょう。でなきゃ、あんなこと、言う訳ないじゃない」
「ああ、愛人にするって話」
「大きな声で言わない。てか、よく言えるよね、あんなこと。先輩が傷ついてるかもしれないでしょう。もう少しちゃんと断りなさいよ」
まあ、愛人にするとか言って、傷つかない人はいないと思うけど、あの麻衣先輩はいつもあんなテンションだから、逆に何を考えてるかよくわからないんだよな。
嫌ってはいなさそうだが……とにかく、俺にやたらと執着しているのだけはわかった。
「てか、千波も先輩の事、心配しているんだ」
「してない。タカちゃんが、酷すぎる事を言ったから、少しは人の心を考えなさいって注意しているだけ」
「そうは言っても、一度はちゃんと断っているんだって。千波と付き合っているから、付き合えないって。それでもああなんだから、俺だってさ……良いと思っちゃうのが男じゃん」
「思っているのが駄目なの! 何度言えば……」
「はいはい。でも、千波だって先輩と同じじゃん。俺があんな事言っても、別れないとか言うんじゃ」
「それは……もし、別れたら……タカちゃん、先輩に完全に取られるだけじゃん。そんなの私が損するだけじゃない」
あ、そういう考えなわけ。
まあ、千波が俺を捨てたら、麻衣先輩と遠慮なく付き合っちゃう事になるけど、それが嫌なわけね
「麻衣先輩も同じだから、ああ言ってんでしょ」
「なるほどね」
「他人事みたいに言わない。ごちそうさま。もう帰るね」
千波はコーラを飲んで俺にそう言うと、そのまま俺の元を去っていった。
二人との関係に決着付けるにはどうすれば良いか?
考えてもなかなか答えが出ずにいた。




