第十六話 下心を隠さなくなり
「うう〜〜……」
「そんなに睨まないでくれよ。千波の可愛い顔も台無しだ」
「上手い事、言って機嫌を取ろうとしても駄目。私がどんだけ怒っているか、まだ理解していないみたいだし」
頬を膨らませながら、千波はクレープを食べて俺に文句を言い続けているが、どうすれば機嫌が良くなるんだか……。
麻衣先輩と絶交すれば良いのか?
いや、なんかそれも先輩に悪い気がするんだよなあ……好意をもたれて悪い気分ではないし、彼女をアイドルとしては応援したい気はあるんだ。
「どうすれば満足するのか教えてほしいなあ。先輩とは友達にはなっても、それ以上の関係には絶対にならないからさ」
「友達にはなりたいって言ってる時点で下心満々じゃない。それが気に入らないって言ってるの!」
「う……いや、はは……麻衣先輩のあの可愛い笑顔を見ていると、ついそう思っちゃって。千波だって仲良くすれば良いじゃん。アイドルの友達とか、自慢できるだろ……っで、いててっ!」
千波も先輩と仲良くすればと言った所で、千波に思いっきり耳を引っ張られる。
「タカちゃんって、想像以上に根性が腐っているよね。女にだらしないって言うか。彼女の目の前でそんな事が言える神経がちょっと私には理解できない」
「女にだらしないって……そんな事無いって。ただ、あんな可愛い先輩を間近にしちゃうとどうしてもさ……」
「そういう考えが腐ってるって言ってるの! ああ、もうこんな男だったなんて……どんだけ、私を幻滅させれば気が済むのよ……」
もう下心があるのはバレバレなので隠してもしょうがないと思い、開き直ってやると、心底呆れた顔をして千波も項垂れてしまう。
まあ、千波だってさ、強引に俺と付き合っているんだから、アイドルにデレるくらいは大目に見てくれても良いんじゃないって思ったり。
「どうやって鍛えなおそうかな、タカちゃんを……柔道部に入れれば少しはマシになるかな」
「そんなことをしても無駄だよ。柔道なんて体育の授業でもまともに出来てないのに、部活に入っても続けられる訳ないじゃん」
「よく偉そうに……やっぱり、柔道やらせて根性を叩きなおしてやろうかしら」
根性を叩き直すとは言うけど、別れるとは言わないのってのはどういう事なんだろうな。
俺みたいな軟弱な男なんて嫌じゃないのか?
「高俊ーっ! やっと見つけたっ!」
「うわあっ! ま、麻衣先輩っ! どうしてここにっ!?」
何てクレープをかじりながら考えていると、背後からいきなり麻衣先輩が俺に抱き着いてきた。
「後を付けてきたに決まっているじゃない。まだ時間あるのに、二人とも先に行っちゃって、酷いんだー」
「す、すみません。でも、ここは人目があるので……」
ウィッグと眼鏡で変装をしているとは言え、声はそのまんまなので、男にハグしている場面など見られたらまずいんじゃないかとヒヤヒヤしてしまうが、麻衣先輩は全く気にしている様子はなく、
「いいじゃん。どうせ誰も気にしてないし」
「私が気にしているんですけど! 本当、止めてください、人の彼氏にそういう事をするの! タカちゃんもいつまでもデレデレしないっ!」
「は、はい。というわけで、先輩。そろそろ……」
「あ、クレープ食べているの? ちょっとちょうだい。パク♪」
「あ……」
先輩が背後から俺の食べかけのクレープをパクっと一口食べてしまう。
(これって間接キス……いや、もう直接もやっているんだけどさ……)
「うーん、美味しいねー。私も買ってみようかな」
「あ、はは……もう、しょうがないですね、先輩は」
折角なので麻衣先輩が口に付けた部分を敢えて食べてみる。まあ、だから何だって話だけど、アイドルと間接キスとかやべーわ。
「むううう……いい加減にしてください。公衆の面前でイチャついて、はしたない!」
「いや、カップルも普通にいるしさ。ね、二人とも何処に行くの? 私も付いて行って良い?」
「ダメに決まっているでしょう」
「高俊は?」
「え? 俺は別に……」
OKと言いかけたところで、千波がギロっと睨みつけたので、流石にこれ以上は怒らせるとまずいと思い、
「いや、今日は千波が先約ですので……すみません、またの機会に」
「あーん、そっか。じゃあ、今度は私と遊ぼうね。いつがいいかなー……空いている時間は……」
と、スマホを見て、麻衣先輩がスケジュールの確認をするが、やっぱりアイドルは忙しいんだろうか?
絶賛、注目中のアイドルだしなあ。チャンネル登録者数も十万近くあったし、周囲にも気づく人いるかもしれない。
「まあ、また連絡するね。んじゃ、今日はお二人でごゆっくり♪」
「はは、すみません。それじゃまた後で」
スケジュールを見てもなかなか空いている日がなかったのか、麻衣先輩は俺たちの前から去っていく。
取り敢えず助かった……しかし、正に嵐のような人だったな。
こんなハイテンションで常に生きていて疲れないものかね……先輩が怒る姿とか想像つかない。
「ちょっと、タカちゃん」
「何でしょうか?」
「またの機会って事は、麻衣先輩に会う気満々って事だよね? やっぱり二人でそういう関係だったんじゃないっ!」
「い、いやっ、言葉の綾だって! あの場ではそう言っておかないと、麻衣先輩も駄々こねそうじゃん!」
「会う気でいるのは確定じゃないっ! ああ、もう腹が立つっ! 来なさい!」
「うおっ、ちょっとっ!」
まだクレープも食べかけなのに、千波が俺の手を引いて、フードコートから連れ出してしまう。
うーん、流石に怒らせちゃったか……てか、怒られてもあんま怖くないのはどうしてだろうなー?
「えっと、ここは?」
「見りゃわかるでしょう。私の家よ」
「え? ああ、そうなんだ。千波の家、ここなのね」
それから俺の腕をがっしりと組みながら、郊外にある二階建ての結構庭の広い家に連れていかれたが、ここが千波の家かー。
なかなか立派な家じゃん……と感心していたが、まさか俺を両親に紹介するとかじゃあるまいな。
「入りなさい」
「え? いやー、でも心の準備が」
「いいから、入れ。命令」
「はい」
有無を言わさず、千波の家に入れられ、止むを得ず入っていく。
おいおい両親に俺を紹介して既成事実作るとか? だとしたら、なかなかの策士だなーと感心してしまった。
「ここで待ってて」
「うん?」
二階にある千波の部屋らしき部屋に入ると、千波が部屋にあるバッグを持って、一旦部屋を出る。
家の人の気配がないので誰もいないのか? だったら良いが、もしかして千波も遂に俺と。
「いやー、まだ高校生だぞ俺ら」
まあ、千波の大胆さを考えたら不思議はないけど、ちょっと心の準備がさ。
何て早くも大人な関係になってしまうのかと緊張していると、
「お待たせ」
「ん? え? その格好は……?」
千波が部屋に戻ってきて思いもよらぬ格好をしてきたので、面食らってしまう。
「見りゃわかるでしょう。柔道着よ。今日はタカちゃんに柔道の個人レッスンをしてあげようと思ってね」
「は? 個人レッスンって……」
「言ったでしょう。あんたのその腐った根性を叩き直すって。ほら、まずは寝技の練習よ!」
「へ? うぎいっ! ぎゃあああーーーーーーーーっ!」
有無を言わさず、千波が俺を押し倒して、寝技をかけていく。
とほほ、本当に怒らせてしまうとは……でも、千波と密着できたから良しとするか。




