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男子はバカだし、ガキだ。小学校高学年になり、私は周りの男子を見てそう思うようになった。彼らは給食の最中にしょうもないことを言って笑わせて鼻から牛乳を出し、掃除時間には箒と雑巾を使って野球もする。中にはパソコンの授業中にエロサイトを見て先生から大目玉を食らった者もいた。先生に怒られても懲りない彼らを見て、ガキだなあと私は冷めた目で見ていたのだ。
そのまま地元の公立中学校に進学したのもあり、私は中学生になっても男子のバカさ加減を見て嫌気がさしてしまった。勉強を頑張る人はガリ勉だとバカにされ、勉強せずに遊んでいる人や悪いことをする人の方がもてはやされる風潮もあったからだ。学校への漫画やお菓子の持ち込みがバレて怒られるのはまだかわいい方だった。
「コラッ! バカかお前は!」
廊下を通った時、怒鳴り声が聞こえて振り返る。声の主は生徒指導部の松原先生で、怒られているのは隣のクラスの男子だ。彼はコンビニで万引きをし、コンビニの店長から学校に電話されたことで万引きの件が松原先生の耳に入ったという。松原先生はヒグマのような見た目の40代男性体育教師で、怒らせたら怖いと有名なので誰もが恐れている。そんな松原先生に怒られるリスクや警察に補導されるリスクを冒してまで万引きしたいものかと、私は理解に苦しんだ。
また私が理解に苦しんだのは、そんな彼らをかっこいいとか好きだとか言ってもてはやす女子たちでもあった。見た目はともかく、勉強せずに遊び呆けている彼らの何が良く見えるのだろうと思っていたからだ。
「朋香ちゃんは好きな人とかいないの?」
「私、2組の北村くんが好き」
と恋愛の話になったこともあるけれど、
「私はそういうの興味ないから……」
と首を横に振っていた。彼らは私をガリ勉だとバカにしていたし、私にとってそんな彼らが恋愛対象になり得ることは一生なかったのだ。万引きとかくだらないことをする暇があれば勉強すればいいのにと思っていて、私はこうはならないぞと彼らを反面教師にしていた。そしてまともな人がたくさんいる高校に行き、彼らとは決別してやるぞという一心で勉強も続ける。
「勉強しておいた方が将来の選択肢が広がるから」
と父親に言われたことが胸に残っていたのもあるからだ。
勉強の甲斐もあり、私は第一志望だった県で1番偏差値が高い公立高校に合格した。これでバカな男子たちと関わらなくて済むと思うと安堵する。万引きやいじりをする男子と無縁な高校生活になりそうで楽しみだった。