4 退魔師と神様の戦いはフィクションでよく目にする話かもだけど
そして更に数週間が経過した。
私は相変わらず土地神様のもとに会いに行く日々が続いていた。
「おお、悪いな嬢ちゃん。今月も薬を買ってくれるのかい?」
「勿論! ……正直、まとめ買いしたいくらいなんだけどね」
お爺さんからは毎月10万円を出して薬を購入している。
……無論、そのお金は家から盗み出したものだ。
最初のうちこそ良心の呵責があったが、最近ではすっかりマヒしてしまった。
とはいえ、私はぽつりと呟く。
「いつか、この薬に頼らなくても霊能力を持てるように慣れるといいんだけどね……」
「ははは! 残念じゃが、お嬢ちゃんの歳ではもう取り戻せんよ。ワシの薬を買う以外には、土地神様は見れんじゃろう」
だが、お爺さんはそう答えた。
……まあ、今の私は薬の力で無理やり霊能力を高めているのだから、しょうがないのだろう。
(ああ、ダメだ……今日はもう、すぐにでも土地神様に逢いたい!)
最近は、薬を飲む量が増えてきたこともあり、お爺さんに会う数日前には薬を飲みほしてしまう日々が続いていた。
そのこともあり、ここ数日間私は土地神様に会っていない。
そこで私は、お爺さんから離れるなり、すぐに薬を飲んだ。
「……よし、早く祠に行かなきゃ……」
だが、そんな風に思っていると、私から少し離れたところに以前見かけたスーツの男達がこちらに歩いてきた。
相変わらず、腕にはセドナストーンの数珠? を身に着けていた。
「あ、君! ……ちょっといいかな?」
「え?」
その不審な男は突然声をかけてきた。
だが、その瞬間。
『ユズカちゃん、すぐに逃げて!』
土地神様の声が突然聞こえてきた。
どうやら、土手から少し離れた茂みの方から声をかけてきている。
「え?」
『早く! 説明は後でするから!』
「う、うん!」
見ると、その男は小走りにこちらに近づいてくる。
……だが、地の利はこっちにある。
私はその言葉に従い、すぐに茂みの中に逃げ込んだ。
「はあ、はあ……逃げ切ったかな……」
『うん。……ゴメンね、ユズカちゃん?』
どうやら男たちは私を見失ったらしく、私は茂みの中で一息ついた。
周囲にはやぶ蚊がブンブンと飛んでおり、早くこの場から立ち去りたい。
だが、あの男の正体がどうしても気になったので、土地神様に尋ねた。
「あの男は何なの?」
すると、土地神様は少し悩むような表情をした後に答える。
『……変な数珠を付けていたから……多分だけど、退魔師の人だと思う……』
「退魔師?」
『うん。私みたいな土地神様をね? 封印して祟りが起きないようにするのがお仕事の人……』
それを聞いて、私は真っ青になった。
私は土地神様のことを恋人だと思っている。だからこそ、彼女を封印されるなんてゴメンだ。
「そんな! ……土地神様は悪いことを何もしてないのに?」
『うん。……ユズカちゃんみたいに力がある特別な人なら分かるでしょ? あたしみたいな存在が危険だってこと……』
「…………」
私はそれを言われて、何も返すことが出来なかった。
土地神様は続ける。
『けどさ、まだあたしがどこにいるか分かってないから……多分あの男達は手を出せないよ?』
「そっか……だから、私があの男に会わないようにしたってこと?」
『うん。何カ月もあたしの姿を見つけられなかったら、きっと向こうも諦めるだろうしね』
「そうだったんだ……」
やはり、この時代には『神様』は生きづらいのだろう。
そう思いながら私はうなづくと、土地神様は突然神妙な表情をして尋ねる。
『ねえ、ユズカちゃん?』
「なに?」
『実はあたしさ……。前からずっとお願いしたかったことがあるんだけど……』
「お願い?」
「うん……」
普段はニコニコと話すのに、今日は随分もったいぶるな。
そう思いながらも、私は茂みの中で尋ねる。
「なに? 私に出来ることなら、何でも言ってよ!」
『……いいの?』
「当たり前でしょ? 私は土地神様のことが好きだから……だから、土地神様のためならなんでもしたいんだよ!」
『ユズカちゃん……』
私がそういうと、土地神様は少し涙ぐむような表情で尋ねた。
『じゃあ、いうよ?』
「うん……」
そして、しばらくした後に彼女は答える。
『ユズカちゃん、私と一緒にさ。土地神様になって?』