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3 フィクションにおける女の子の口調は男性よりも難しい

そして私は何カ月もの間、土地神様と一緒に毎日過ごす日々が続いた。

土地神様と逢える時間を少しでも長くするために塾はサボっており、学校が終わったら誰とも話をせずにすぐに祠に直行するようになった。



「あの子、何やってるんだろ?」

「なんか、山でいつもぶつぶつ独り言言ってるみたいだよ?」

「うわ、ヤバいんじゃね?」



クラスメイトからはそんな風に陰口を叩かれることもあったが、幸いなことにうちの学校は育ちのいい連中が多いこともあり、いじめられてはいない。

まあ、私に話しかける人は居なくなったが。



(ま、霊能力のない『凡人』には分からないよね、私と土地神様の大切なひと時はさ……)



私は自分が特別な能力を持っていることは、お爺さんにも認められている。

そしてその霊能力を持って、こいつらの住む街を守っている『土地神様』と毎日語り合っているのだ。


また、土地神様は本気になると凄まじい力を持っていることも知っている。

私は数日前に、お爺さんに言われたことを思い出す。



「気をつけろよ、嬢ちゃん。土地神様を怒らせたらどうなるか分かるのか?」

「え?」

「恐らくじゃが、この町は洪水で壊滅する……土地神様は、それだけの力を持っておるからな……」

「そんなことできるんですか?」

「無論……。じゃが、嬢ちゃんが土地神様にとって『特別な存在』であるうちは……そんなことは怒らんじゃろ。ま、嬢ちゃんが町の壊滅を望めば話は別じゃがな」



(フフ、この町が無事なのは、異能持ちの私のおかげでもあるってことだよね……)



そう思うと私は改めて、自分が特別な存在なんだと感じるようになった。

……正直クラスの子たちは、私にもっと感謝してカフェにでも誘ってほしいものだ。


そう思いながら、私はまた祠に向かうことにした。




(それにしても……今日は、いつにも増して暑いな……)



その日の気温は35度を軽く上回っていた。

アスファルトが日光を照り返し、ジリジリと足元を焼いている。

土手沿いの道を歩いているが、早く日陰に入りたい。



そんな風に思っていると、私の前をどこかで見覚えのある二人組が近づいて来るのを見かけた。その男女の二人組は楽しそうに談笑している。



「でさ、この間やったゲーム『臆病者の隠し砦』ってやつなんだけど、凄い良かったよね?」

「ああ、分かる! あれは本当に泣けたよね!」



そのゲームは私もよく知っているゲームだ。

私が生まれる前……確か90年代だったか……に流行したと言われる『ビジュアルノベル』という懐かしいジャンルのゲーム。


そのリマスター版であり、重厚な物語と主人公である兄妹の禁断の愛がテーマになっていることが印象的で、父さんが買ってくれたのを私も一通りプレイした。


ストーリーはとても良かったが、そのゲームは原作が古いこともあり、登場人物が妙に時代がかった話し方をしていたのが気になった。

だが、それを補って余りあるレベルでは質の高いゲームだったことを覚えている。



(けど、あの二人どこかで見たような……)



じりじりと焼けるような日差しがまぶしく、ハッキリ相手の姿が見えない。

私は目を細めながらそう思っていると、突然耳元で声が聞こえてきた。



『あら、あの子たち……日南田ひなた君と陽花里ひかりちゃんじゃない?』

「え?」



今の声は土地神様の声だ。

……私は今日はまだ薬を飲んでいないのに、突然その声が聞こえて驚きながらも周囲を見渡す。


だが、土地神様の姿は見えない。



『あなたも声をかけてみたらどうかしら? 昔は仲良かったじゃない?』

「土地神様? どこにいるの?」

『日南田君は優しい子だから、きっとまた友達になってくれるわね。……それに、陽花里ちゃんだって悪い子じゃないもの。きっと受け入れてくれると思うわよ?』



街中で土地神様の声が聞こえるなんて、はじめてっだ。

ひょっとして、私の霊能力が薬の影響で強くなっているのか? けど、私が周囲を見渡しても土地神様の姿が見えない。



(しょうがない、もうここで飲んじゃおう!)



そう思って私はお爺さんから貰った薬を一気に飲み干した。



(……これで姿が見えるはず……。どこにいるの、土地神様?)


薬を飲んだ後しばらく周囲を見渡していると、



『おーい、こっちこっち!』


そんな声とともに土地神様が交差点の向こうにある屋根の上で手を振っていた。



「土地神様!」



土地神様は、祠から離れたところにも存在できるのか!

そう思いながら私は彼女の元に走っていった。



『や、ユズカちゃん! たまにはあたしから会いに来たよ!』

「土地神様! 珍しいね、こんなところで!」



通行人は私が何もないところに声をかけているのを見て、訝しげにこちらを見ている。

……うん、私だって今の自分がただの不審者だということくらいわかっている。

そう思いながら私は土地神様を手招きしながら、いつもの祠に向かった。





祠の前で、私はいつものように土地神様に尋ねる。


「今日は土地神様から会いに来てくれたの?」

『うん! いつもいつも、ユズカちゃんに会いに来てもらっているでしょ? だから少し悪いなって思ってさ! だからちょっと遠出してみたんだ!』

「そうだったんだ……。けど、ありがとね。声かけてくれて」

『声?』


そういうと、土地神様は少し怪訝そうな表情を見せた。


「うん! あの二人が日南田君と陽花里ちゃんだったなんて、私も知らなかったからさ! ……あんなに二人とも美男美女になったのは驚いたけど……」

『だよね……。まさか、あの二人がね……』



日南田君と陽花里ちゃんは、私が小学生だった時に知り合いだった。

ちょっと内向的だけれど、私が困っているときにはいつも気にかけてくれた優しい子たちだった。



「正直さ。……勇気出して、声かけた方が良かったかな、土地神様?」

『うーん……』


だが、土地神様は少し悩むような表情を見せて、答える。



『正直さ。あたしは山の神様でしょ? だから独占欲が強いんだよ」

「ああ、そうなんだ……」

『……うん。さっきはああいったけど、ユズカちゃんがあたし以外のこと仲良くするのは嫌なんだよね……』

「え? それって……」

『うん。あたしはゆずかちゃんが好きだから……。ユズカちゃんは、一生あたしだけを見てくれると嬉しいんだ!』



そういいながら土地神様は私のことをそっと抱きしめてくれた。

……まあ、感触は伝わらないのだが。



「うん。……私は友達もいないし……土地神様さえいれば、他に誰も要らないよ?」

『嬉しいな……。ありがと、ユズカちゃん』

「土地神様も……私を特別に思ってくれてありがとうね……」



私は祠の前で、そう呟きながら土地神様を抱き返す素振りを見せた。

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