2 本作は過激な性描写のない物語です
それから3週間ほど経過した。
「やっほー! 土地神様!」
『来てくれたんだね、ユズカちゃん! 今日は何して遊ぼっか!?』
「一緒にゲームやってみない? パズル一緒に解くなら、土地神様でも一緒に遊べるでしょ? いいアプリ見つけたから落としたんだ!」
『へえ、面白そう! うん、やりたいやりたい!』
私はあの日以降、学校が終わると塾をサボって、すぐに土地神様のもとに遊びに行くようになった。
土地神様は何を見せても楽しそうにしてくれた。
スマホでダウンロードしたゲームは勿論、小さい時に一緒に遊んだおもちゃなどであっても興味深そうに関心を示してくれる。
「ねえ、ここのコマを左に寄せたら勝てるんじゃない?」
『え? ……あ、本当だ! 頭いいね、ユズカちゃん!』
「やったね、土地神様!」
ステージをクリアした後、私と土地神様は楽しそうにハイタッチを行った。
……とはいえ、土地神様には実体がないから、スカッと手はすり抜けてしまうのだが。
その様子を見て、少し土地神様も残念そうな顔をする。
『……その、ゴメンね、ユズカちゃん? あたし、実体がないからパチン! って出来なくて……』
「ううん? そうやって、手を合わせてくれるだけで嬉しいから! ……ほら、こうやってさ?」
そして私は彼女の手にそっと自分の手を重ねる。
感触はないが、互いの姿を重ね合わせるだけで、どこか心が温まるような感触になる。
「私たちはさ? 現世と幽世で住む世界は違っても……一緒に、こうやって同じ時間を過ごすことは出来るから……。それだけで私は十分だよ?」
『ユズカちゃん……ありがと、優しいんだね……』
「フフ、私だって大人になったんだから! 一生土地神様と一緒にいたいな……」
『……一生? ……嘘でも嬉しい! ユズカちゃん大好き!』
土地神様はそういって私の胸元に頭をこつんと置いてくれた。……まあ、やはりその感触はないのだが、それでも私の心には今までにない満足感と高揚感が満たされるようだった。
(本当に……あのおじいさんに出会えて良かったな……)
「あ……」
『どうしたの、ユズカちゃん?』
だが、私はその時に気が付いた。
お爺さんから貰った薬がもう残り少ないことを。
飲んでいてわかったが、この薬で霊能力を取り戻せるのは精々一日に数時間だ。
私は土地神様に尋ねる。
「ごめん、土地神様? 次の新月っていつかわかる?」
『え? ……ゴメン、分からないよ。スマホで調べてみたら?』
「うん。……ああ、よかった。明日か……」
その様子を見て、土地神様も私が何を調べていたか察したようだ。
『あ、ひょっとしてユズカちゃん……もう、おじいさんから貰った薬が残り少ないの?』
「うん……だから、新しい薬を貰わないといけないんだよね……」
『けど、確か一瓶10万円だよね? どうするの?』
「……大丈夫。土地神様は心配しないで?」
私はもう、どうやって金を工面するかは決めている。
そして翌日。
私は以前お爺さんと出会った路地に行くと、幸いお爺さんはそこにいた。
彼はどこかうさん臭い笑みを浮かべながら尋ねてきた。
「おや、お嬢ちゃん。また会ったの」
「こんばんは、お爺さん」
「あの薬はどうだったかのう?」
「うん、凄かった! まさかまた土地神様に会えるなんて思わなかったから! ありがと、お爺さん!」
それをいうと、お爺さんは少し驚いたような表情を見せた。
「ほう……まさか、土地神様に会えるとはな……。それでここに来たということは……」
「うん、新しい薬を分けてほしいの!」
そういうと私は10万円を現金で渡した。
それを見てお爺さんは少し目を丸くした。
「なんと……。まさか本当に金子を集めてくるとはな? 『売春』でもしたのか?」
今は売春のことを『パパ活』と呼ぶんだけどな。
まあ、お爺さんも怪異の可能性は高いし、そういう表現を知らないのか。
そう思いながらも私は首を振った。
「ううん。……私なんかがそんな高く売れるとは思えないし……」
「ふむ……まあ、金の出所などワシには関係ないがの。それ、持っていくがいい」
「ありがとう、お爺さん」
私はお爺さんから新しい瓶を受け取った。
(ゴメンね、母さん……)
勿論、このお金はパパ活など行ったわけではない。
かといって私のお小遣いでは10万円もする薬は買うことが出来なかった。
(けど、お母さんもさ。私のお年玉を無理やり預かったんだから、おあいこだよね……)
このお金は、家にあった箪笥から持ち出したものだ。
防災など、いざという時に備えて隠してある、緊急用の蓄えとして家に置いてあるものだ。
どうせ災害が出た時にしかこのお金は使わないだろうから、バレるまでは当分ある。
それまでに私はバイトなりなんなりして、お金を戻しておけば問題ないだろう。
(愛する人のために手を汚すなんて、まるで漫画の主人公みたいだよね……)
……正直家のお金を勝手に持ち出したことは悪いと思った。
だけど、私にとっては初恋の相手である土地神様に会うためにはどんな悪事だって辞さないつもりだ。
私はそんな『悪女』である自分に酔いながら、瓶を大切にしまうとお爺さんに別れを告げて路地を後にした。