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1 縄文時代の服装をした怪異ってほとんどいないのはなぜ?

「はあ……暑い……いや、もう熱い!」


最近は異常気象でセミが鳴く声も聞こえてこないくらいだ。

夕方になっても気温は全然下がらない。


むわっとする凄まじい熱気の中、私は祠への道を進む。

汗を何度もブレザーのリボンで拭きながら、藪があちこちにはびこっている階段を上っていった。



(もう……この辺の人は全然お参りに来なくなったんだな……)


小さいころ……大体10年くらい前まではもう少し参拝客が来ていたこの祠の近くも、今となってはただの獣道だ。


しばらく歩いた後、私は目的地の祠に到着した。

そこは小さいころに比べると若干苔むしているが、石造りなことが幸いして原型を留めていた。


そして私は、ポケットに入れていた瓶を取り出し蓋を開ける。

幸い怪しい匂いはしない。



(よし、飲んでみようかな……)



私はまずは一口瓶の中の液体を飲んでみた。

その味は炭酸の入っていないエナジードリンクのような清涼感のある甘さがあり、特に飲んでも体に異変は感じなかった。



(飲んだけど……どうなるのかな……)



そうしばらく思って周囲を見渡すが、特に何も変化はない。

……やはり、インチキだったのか。


そう思いながら私は階段を降りようとした、その時。



『おーい!』

突然そんな声が聞こえてきた気がした。


(え……今、この辺には誰もいなかったよね……?)



そう思って私は振り向くと、


『ねえ、ひょっとしてさ、ユズカちゃんじゃない?』

「え……土地神様?」

『覚えていてくれたんだ! 嬉しいな~! 久しぶりだったけど、元気?』



そこには、私が幼少期に出会ったときとまったく変わらない外見の『土地神様』が祠に腰かけてニコニコと笑みを浮かべていた。



「嘘……? また、見えるようになったの?」

『フフフ、昔みたいに霊能力を取り戻したんだね、ユズカちゃん!』

「……分かるの?」

『勿論! だってユズカちゃん、凄い霊力が高まっているのが分かるから!』



私は彼女との再会に嬉しくなり、全速力で祠の近くにいた土地神様に駆け寄った。

彼女も大人の女性の外見に成長している。


……だが、着ている服もあの時と同じ瑞雲模様の着物で、思わず子どものころに戻ったような気持ちになった。



『けど、すっかり大きくなったね、ユズカちゃんは! あたしも驚いたよ!』

「土地神様も! 凄い可愛くなったね! ……けど、本当にまた会えるなんて……」

『人間は大きくなると霊能力を失うからね。あたしも、もう会えないと思ったけど……良かった……! けど、どうしてあたしが見えるようになったの?』

「うん、実はね……!」



そういって私は、これまでの経緯を説明した。



『そうだったんだ……不思議なお爺さんだね……』

「私も最初は半信半疑だったけど……今土地神様にあえて、インチキじゃなかったんだなって確信したよ」


この薬は恐らく来月くらいにはなくなってしまうだろう。

確かお爺さんは『次の新月に会おう』と言っていたのを思い出す。

次の新月がいつか、私はスマートフォンを取り出して調べてみた。



『あれ、その変な板みたいなのは何?』


土地神様はそう怪訝そうな表情で尋ねてきた。

……ああ、そうか。土地神様はずっとこの祠にいるから知らないのか。



「スマートフォン。これをこうやって使うと、インターネットっていうところにアクセスできるんだ。ちょっと見ててね……」



折角だから、ちょっと操作しているところを見せてあげよう。

私はそう考えて検索機能を使って、モミジイチゴの画像を出してみた。



「どう? 昔土地神様が教えてくれたイチゴってこんなだったでしょ?」

『うわ、すご! こんな小さな画面でそんな物も見れるなんて……! 人間の技術って、凄い進んでるんだね?』

「フフフ、凄いでしょ? 他にもスマホではいろんなことが出来るんだ。見ててね……?」



そして私は土地神様にゲームをやって見せたり、動画を見せてあげたりした。

それを見るたびに土地神様は『へ~!』『あ、凄いね!』『うそでしょ?』と、期待通りの反応を見せてくれた。



(可愛いな……やっぱり、土地神様は……)


ニコニコといつも明るい笑みを浮かべてくれる土地神様に私の胸は高鳴る。

土地神様もこちらと同じく『女性』になっていることが分かる。左前になっている着物ごしでも分かる大きな胸が、窮屈そうに見えるくらいだ。



(……って、我ながら何考えているんだか……)



思わず女性の胸に気を取られるなんておっさんか、私は。

そう思いながらも私は土地神様にスマホを見せて楽しく会話を続けた。



そしてしばらく時間が経過した後。

すでに日がだいぶ落ちてきたことに気が付いた。……このあたりは夜になると街灯がないから暗くなる。早く帰らないと。



「あ、ごめんね土地神様? そろそろ帰らなきゃ」


そういうと土地神様は少し残念そうな表情を見せながらも、うなづいた。



『そっか、お母さんが心配するものね……。あのさ、ユズカちゃん? また来てくれる?』

「うん、もちろん!」



私はそううなづいた。

土地神様に実体があるんだったら、思わず抱きしめているところだ。そう思いながら私は土地神様に別れを告げてその場を去った。






「ふう……まさか、この薬が本物だったなんてな……」


私は満足感とともに住宅街を歩いた。

……やっぱり私は霊能力者だったんだ。だから土地神様にも会うことが出来たんだ。

明日も土地神様に会いに行けるなんて楽しみだ。



そう思いながら、私はこの『魔法の薬』が入った瓶を大事に鞄の中にしまった。

幸いなことに夕食までには家に帰れそうだ。

そう思っていたその時。



(……ん?)



見慣れない二人組の男が、何やらきょろきょろと注意深げに周囲を見渡していた。

腕には※セドナストーンのアクセサリー……いや、あれは数珠? ……を身に着けていた。

(※鉱石の一種)


何かを探しているような様子だが、その雰囲気を見るにあまり関わり合いになりたいような印象を受けなかった。



(なんだろうな……けど、なんか怖そうな人だしこっちの道から帰ろう……)



私はいつもとは違う道を通って、家に帰ることにした。

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