飲料棚の裏側で
「どう? 落ち着いた?」
「はい。お陰様で」
あれから10分ほど休憩を挟み、僕たちは今、飲料棚の裏側へときていた。
「なら良かったよ。さてと、今から教えるのはドリンクの品出し。壁側にある棚から商品を取り出して品出ししてもらうよ」
「けっこう沢山あるんですね」
「飲料系は沢山あるからね。売上の何割かはこれで稼いでいるよ」
「夏とか売れますもんね」
僕の説明に納得がいったように南智さんは頷く。
実際、ここ数年の夏はとても暑く、近場で工事している作業員が昼飯ついでに沢山買ってくれるため、在庫の減りは早い。それを喜ぶべきかどうかは分からないけど。
なんとも言えない複雑な表情を浮かべる僕の前で、南智さんは棚の方を見る。
「不思議ですね。外からは見えないのに、内からは見えるなんて」
「やっぱり気になる?」
「だってそうじゃないですか。内側に扉がないのに外からじゃあ見えないですよ? いや、覗けば見えるんでしょうけど、それでも見えないんて不思議じゃないですか」
「とは言っても、こちらからもあまり見えないけどね」
外と内を隔てるのはドリンクの壁だ。外側よりは見えるとは言え、ほとんどドリンクしか見えない。
興奮した様子を見せる南智さんを誘うように僕は片手を上下に揺らし、近ずいてきた南智さんに棚の段を見るよう指差す。
「見てもらえれば分かるけど、傾斜になってるでしょ?」
「なってますね」
「これ、ドリンクが自動で前に進むだけじゃなくて、外から覗きずらくなってるんだ。傾斜がつくことでドリンクしか視界に入らないから、意図して覗こうとしなければこちら側は見えない。電気をつけなれば、て付くけどね」
「ほぇ~、普段は意識して見ないところにも、創意工夫ってあるんですねぇ」
なんとも間の抜けた声を漏らす南智さんを見て、僕は笑った。
うん、この人となら上手くやっていけそうだ。
新人が接しやすい人で良かったと思いながら僕は立ち上がる。
「僕たちの使ってるスマホだってそうだし、世の中、気がついていないだけで、ごく当たり前のようにあると思うよ。さてと、雑談はここまでにして、さっそく品出しを教えて行くよ」
「はい! お願いします!」
大きくはありながらも声量を抑えた返事。
さきほどの失敗を生かしてさっそく実践したみたいだ。
人によっては反省もせず、同じ失敗を繰り返す人もいる中で、南智さんのその姿勢は好ましく。僕の中で、南智さんへの印象が向上したのは言うまでもない。
上記の知識はどれもイメージです。事実と異なる点がございます。