新人
「で、どんな人を雇ったんですか?」
「みやこと同じ大学の女性だな。たしか名前は……」
同僚の名前をだされ、僕は珍しいと思った。
このお店は最寄りの大学から遠く。それなら近場の華やかなお店やコンビニで十分と、流れていく人が多いため、家が近いとかの理由でなければ雇われにくる人は少ない。
実際、みやこさんは家が近いとの理由でここで働いている。
如月さんが手探りで机から取り出したのは一枚の紙。履歴書と書かれた紙を見ながら如月さんは言う。
「あったあった。っと、名前は南智 静香。ピカピカの大学一年生だ。ほれ、これが顔写真」
止める間もなく、表向きにされた履歴書。僕の視線は自然と吸い寄せられるように一番目立つ顔写真へと向く。
とても綺麗な人だと思った。写真越しでもわかる、染みのない肌。光に当たって輝く黒髪は、顎の高さで切り揃えられたボブカット。
真面目な表情でこちらを見る視線は凛々しく、一文字に結ばれた口も相まって、クールな印象を受けた。
これが今日から入る新人か。気難しい人でなければ良いけど。
無口な同僚を思い浮かべながら、僕は写真から目をそらしてジト目で如月さんを見る。
「他人の個人情報を勝手に晒さないでくださいよ」
「日見人は悪用しないだろ?」
「まぁ、しませんけど」
「なら大丈夫。というか、教えるのなら得意、不得意、知って損はないんだし」
「だから気にするな」と如月さんは笑って言うが、店長なんだからプライバシーをちゃんと守って欲しい。
ただそれは、それだけ信頼を得ている裏返しでもあるため、嬉しくもある。
あとは店長らしくシャキッとしてくれたら言うことはないんだけど、とダラける如月さんを見ながら思う。
「はぁ。今更か」
「ん? それはどういうーー」
コンコンと、扉をノックする音。
音に釣られるように僕たちは出入口へと目を向ける。
如月さんが入って良いよと許可をだせは、「失礼します」といって1人の女性が入ってきた。
彼女が南智さん。緊張した面持ちで入室した南智さんは僕を見て、僅かに目を見開いた。
如月さん以外に人が居ないと思っていたのだろうか。なんて思っていれば、南智さんは深呼吸で息を整え、覚悟を決めた表情で声を発した。
「南智静香です! 今日からお願いします!」
元気の良い声。店内に響いていそうな声に、僕は思わず苦笑して如月さんを見る。
「スゴく元気な人を雇いましたね」
「だろ? この元気さがあれば売上アップ間違いなしだと思ったんだよ。日見人も同じ意見で良かった」
「元気が良すぎる気もしますけど、っと、頭を上げてください」
僕が促せば、南智さんはゆっくりと顔を上げて僕を見た。
たしか、初めてのバイトだっけ。さきほど見た履歴書を思い出し、最初は僕もこんな感じだったのかと、懐かしげに南智さんを見て思う。
「初めまして、南智さん。僕は成川日見人。今日1日、君に仕事を教える係だ。よろしく」
「は、はい! よろしくお願いします!!」
挨拶と共に手を差し出せば、南智さんは裏返った声で返事を返し、僕の手を握り返してくれる。
色々と教えたいことはあるが、まずはこれから始めないと話にならない。
やる気と不安に満ちた南智さんに僕はニコリと笑いかける。
「とりあえず、まずは休憩しようか」
「へ?」
実験的な意味合いでこの作品書いてるけど、正解がわからん。