協定
「僕がフリーターとして暮らしてるのは分かってるだろ? 1人でさえキツいのに、もう1人養うなんて無理だって。シェアなら考えるけど、そうじゃないなら他を当たって」
たとえ、どんなに辛い過去を話されようともここだけは引けない。
僕の生活が懸かってるんだ。安易に受け入れて共倒れになったのでは話にならない。
これは本気だと、言葉だけじゃなく目をもって語れば、降参とばかりに兄さんは手を上げた。
「分かった。俺も働く。これなら良いんだろう?」
「………嘘だったら追い出すから」
「分かってるって。さすがに兄として嘘は吐かねぇよ。じゃ、これからよろしく頼むな」
「はぁ、頼りにしてるよ」
本当に。声には出さず、心の中で呟く。
兄さんの差し出した手を握り返す。これで契約成立。僕と兄さんの共同生活の始まりだ。
「で、さっそく飯を食べたいんだが、良いか?」
「その前に風呂入って! 飯はそれから!!」
風呂にも入ってないような相手と食べる気もなければ、暮らす気もない。
さっさと入って来いと風呂場を指差せば、兄さんは笑いながら「じゃ、行って来るわ」と言って風呂場へと消えて行く。
その姿を横目に、僕はさっそく1人分の朝食を用意すべく動き出す。
「残りがあって良かったよ。今から作るってなったら、経済的にキツかったし。ほんと、どうして突然来るかなぁ」
なるべく節約して暮らしているとは言え、兄さんが働いて給料が貰えるまでの間は僕の自費で賄うしかない。
今度の特売の時にいっぱい買い込もうと考えながら器に装い並べる。
その時間、5分足らず。風呂場から聞こえるシャワーの音を聞きながら、戦場を探すべくネットで近場のスーパーを漁る。
「おっ、こことか結構安いな。距離的にも遠くはないし、他のスーパーも近いと来た」
ある程度はそのスーパーで買って、足りない分は他の場所で安く仕入れる。
割と早く見つかったが、中々良い案だと自画自賛する。
後は特売の日だが……。
「う~ん、あと5日かぁ。まぁ、そんな先じゃないし、良いかな?」
その間はキツくなるが、最悪、貯蓄を使ってなんとかしよう。
なるべく手を付けたくないと考えていると、ちょうど兄さんが風呂から出てきたところだった。
「久しぶりの風呂は良いなぁ~。さっぱりした」
「それは良かったよ。偏見かも知れないけどさ、浮浪者やってた割には筋肉あるんだね」
「ははっ! これでも時間はあったからな!」
兄さんの筋肉は食うに困っていたとは思えないほど引き締まっていた。
時間があるからでは納得できない。話していないだけで、まだ秘密があるのではないかと勘繰ってしまう。
問い詰めるように兄さんを見詰めるが、答える気はないようで席に座り、朝食を食べ始めた。
「うまっ! 料理屋出せるレベルだぞ、これ」
「これでも一人暮らし始めて長いからね。美味しくなって当然じゃん。でも、ありがと」
聞くことはあえてしなかった。
いつでも聞けるのに、今聞く必要はない。
なら、今はこの時間を楽しみたい。兄さんと一緒の卓で食べる、この時間を。




