意外な一面
「はぁ~~~」
事の経緯を聞き終えた僕は思わず大きな溜め息を吐く。
兄さん、あなた予想以上のクズだ。
家出したかと思えば? 住むところに困って友達のところに転がり込んで?
毎日パンチコに打ち込み? 最後は追い出されて浮浪者になったと?
そこでどうして働こうと考えないのか、我が兄ながら理解できない。
逆によく、それで1年間も住まわせた友達も凄い。
家事をしていたとは言え、お金も入れない兄さんをよく養ったと思う。
「あいつは優しいからな。家政婦してくれるなら良いって言ってくれたんだよ」
「善人だ……! 見事にクズ路線を突き進む兄さんをそれだけで受け入れるなんて……!兄さんに爪の垢を煎じて飲ませたいよ」
「絶対クソ不味いだろ、それ」
何されようと俺は飲まん、と兄さんは苦虫を噛み潰したような表情で言う。
強情だと、肩を竦めながら思い、ふと疑問が湧く。
「で、そんな善人から、どうして追い出されたのさ」
「ーーーー恋人が出来たんだと。同棲するから家を出てくれって、突然言われたんだよ」
押し殺した声で兄さんは答える。
その表情は語っていた、“リア充爆発しろ”と。
とてもではないが、友達に向けて良い表情ではない。
兄さんの嫉妬に苛立つ姿は見ていて情けなくなる。
「逆にそこまで居候させてくれたのを感謝しなよ。追い出されたって言っても、猶予はあったんでしょ?」
「まぁな。俺だってお門違いだって分かってるんだよ。これがただの醜い嫉妬だってさ。だけどよ。あいつ、毎日自慢してくるんだぞ? やれ、ここが可愛いとか、ここに行ったとかさあ! 耳に蛸ができそうだった!!」
「ちょっ!? ここアパートだから静かにして!!」
「すまんすまん。つい、我を忘れちまった」
「はぁ~、ほんと、気をつけてよね?」
僕も同じことされたら苛立つ。兄さんの気持ちも分かるが、居候の対価として考えればそこは甘んじるしかないだろう。
その時のことを思い出して重い溜め息を吐く兄さんを見て、僕は初めて兄さんに同情した。
「話を戻すけど、これからどうするの?」
「だから日見人のところに来たんだよ。引っ越していたらどうしようかと思ったけど、まだ住んでいてくれてほんと助かった」
「僕からしたら不幸なんだけど……」
兄さんが来るって分かってたらとっくのとうに引っ越していた。
そこにプラスして朝のこの時間。明日になる頃には至るところで噂になっている筈だ。
そんな僕の今日の運勢は最低としか言いようがないだろう。
「で、やっぱり無理?」
「無理なものは無理」
「凄腕家政婦レベルだとしても?」
「………ねぇ、なにそれ。そんな技術力、何処で手に入れて来たのさ」
「居候中に磨いた。こっち系の才があったみたいでな。気が付いたらプロ級になってた」
「わぁ~、これでいつでも家政夫になれるねぇ~」
「おい、なんで遠い目をして言う。日見人が許してくれたら俺は何時でもお前専属の家政夫になるぞ?」
嬉しくない宣言。これが美人な女性なら、と思ってしまうのは男の性か。
実の兄から告白めいたことは言われたくなかったと、本日何度めとも知れぬ溜め息を吐く。