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新人

色々あって、やり直すことにしました。

「えっ、新しい人もう見つけたんですか?」

 

 勤務先のコンビニの事務所にて、店長から聞かされた話に驚く。

 店長は「俺もすぐ見つかるとは思ってなかったんだよ。昨日出したばかりだし」と、当の本人も困惑した様子だ。

 

「でも良かったじゃないですか。早めに人がほしいと言ってましたし。で、どんな人が来るんです?」

「まっ、そうなんだが。女性だよ、女性。ほら、近くに大学があるだろ? その大学に入るとかで越してきたらしい。んで、金がほしいってことで仕事を探してたんだと。でもまさか、貼ってる最中に声かけられるとは思ってもなかったわ」

 

 お陰で求人出す手間が省けた、と店長は笑う。

 僕は「それは良かったですね」と無難に返し、いつから働くのかと聞けば、

 

「今日」

「――――はい?」

「だから、今日からだって。もうすぐ来ると思うぞ」

 

 なんてことのない感じで、爆弾を投げつけてきた。

 頭痛を堪えるかのように目頭を揉み、心を落ち着けるべく溜息をつく。

 

「えっと、昨日出したんですよね?」

「そうだな」

「で、今日から働くと」

「そうだな」

「で、その教育係は誰がやるんです?」

「日見人に任せようと思う」

「はいはい、なるほど。なるほど」

 

 ―――うん、この店長処して良いかな?

 殺意が産声を上げる。店長はなぜか腰を引いた。

 

「えっと、怒ってるか?」

「怒ってないとでも? 事前に知らせる方法はあったはずですよ。よしんば、忘れてたとしても、なんで僕なんですか? 今日は遅番だって知ってましたよね? 店員は僕以外にも居るんですから、その人にお願いする手もあったはず。そこのところ、どう考えているか聞かせてください」

「怖い怖い。理論整然と詰めるのやめろ。考えって言われても……あれだ、勤めて長いだろ?」

「まぁそうですね」

「だろ? やっぱり教育係は詳しい奴にお願いしたほうが安全だって考えたんだよ」

「だから僕にしたと」

「まぁ、結果的にはそうなるな。一応、悪いと思ってる。だからって訳じゃないが、ここの弁当を2つ、いや3つ奢るつもりだったんだが、どうだ?」

「………仕方ないですね。良いですよ」

 

 頑張れば3日分の食費が浮くとなれば乗らない手はない。

 それでも事前に教えてほしいとは思うけど。

 店長とそんなやり取りをしていると控えめなノック音が響く。ここの店員でそんなことをする人はいない。

 僕と店長は顔を見合わせ、件の新人が来たのだと察した。

 店長が「どうぞー」と声をかければ、「失礼します!」とやや上擦った声と共にドアが開かれる。

 その先にいたのは1人の女性。緊張した面持ち、ぎこちない動きで部屋に入り、僕に気づいて固まる。

 店長だけだと思っていたんだろうな。

 その心情が手に取るようにわかり、微笑ましくて笑う。すぐに失礼だと気づいて咳払いをして誤魔化し、あらたな同僚に声をかける。

 

「はじめまして、成川(なるかわ) 日見人(ひみと)です。よろしくお願いします」

「ぇっと、はい! 南智(みなとも) 静香(しずか)です! こちらこそお願いしましゅ!!」

 

 アニメぐらいでしか聞かない噛み方だ。はじめて聞いた。面白い人なのかも、なんて思ってしまう。

 彼女は恥ずかしげに顔を両手で隠して「うぅ〜〜!」と、うめき声を上げる。

 その姿を横目に、店長の耳に顔を近づけ、

 

「面白そうな人ですね」

 

 そう思わず言ってしまう。店長は「だろ?」とどこか誇らしげだ。意味がわからない。

 ずっと見てるのも楽しそうではあったが、さすがに仕事をしないといけない。

 パンパンと手を鳴らして意識を引く。


「まずはロッカーに案内しますので、着いてきてください。とは言っても、すぐそこですけどね」

 

 そう言ってニコリと笑い、入口右手側、奥のほうを指さす。

 壁際に10個ほど並べられたロッカー。鍵がかかっているのもあれば、そのほとんどは鍵が差したままになっている。

 おどおどとした態度で「どこを使えば良いでしょうか」と聞いてくる南智さんに、「鍵が差してある場所ならどこでも良いよ」と返し、補足としてロッカーの利用者を伝える。

 やっぱり、同性が近いほうが安心するだろうし。

 南智さんは暫し悩んだのちに、右の奥手側のロッカーに荷物をしまうことにしたらしい。そこはちょうど女性店員の真隣。やはり、同性のほうが安心するのだろう。

 南智さんが荷物を入れてる間に、エプロンを用意して渡す。

 

「このエプロンを着てね。一応、新品だから安心して。汚れたら家に持ち帰って洗濯しても良いし」

「はい!! ……ぁりがとうございます」

 

 元気の良い返事ではあったが、思ったよりも大きな声がでてしまったからか、申し訳なさそうな表情で感謝を伝えてくる。

 僕も最初はこんなんだったな、なんて昔を懐かしみつつ、

 

「難しいと思うけど肩の力を抜いて。緊張したままだと持たないよ」

「頑張ります!」

 

 フンスっとやる気に満ちた表情で返され、違うんだけどな、と苦笑してしまう。

外伝といって良いかはわかりませんが、カクヨムにて女主人公ver.も投稿しております。

あっちは完全にコメディですけど、こっちはシリアスにしたいなと思ってます。

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