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始まり
フクロウ鳴く、夜時。
暗い森の中に響くは獣が如き息遣い。
音を頼りに歩を進めば、辿り着くは拓けた一角。
その先に森はなく、星々輝く夜空が背景と化す。
その手前、こちらに背を向ける影ありて、象るその姿は獣では非ず、人であった。
「お前が悪いんだ……!」
上気した顔。目を血走らせ、白煙を伴い発せられた声は震えていた。
異様。闇の中であってなお、男は負けず劣らず不気味であった。
男の見下ろす先、崖下は闇に覆われ、底を知ることはあたわず。
微かに聞こえるは水流の音。ただ、それだけ。
「逃げないと。早く、誰にもバレない内に……」
か細い声。なれど、強い焦燥が感じられる。
ふらつく足取り、亡霊が如き動きで男は崖を背に立ち去る。
「ぁ」
微かに漏れる呻く声。闇夜から覗く一対の瞳に、男が気付くことはなかった。