『作者未詳』―― この作品の<作者>は誰だ?
歩く。散歩は実に素晴らしい。
思索をするには、やはり散歩が最適か。
「足は第二の心臓」
歩けば、新鮮な酸素と血流が脳へ、といった具合だ。
デスクの前で思案を練るよりも、次々とアイデアが浮かぶ。
そのたび「これは帰って必ず文章化しなければ」と思いながら、歩き続ける。
しかし、帰宅する頃には、そのエッセンスの大半が霧散し、「何か良いことを思いついていた」という感覚だけが残る。
スマートフォンにでも録音すれば?
いや、路上でのそれは、さすがに恥ずかしさがある。
そんな中、送られてきたのが、あのモニター募集のDMであった(まるで脳内の思考までも見張られていたかのように)。
◇
脳に直接インプラントするバックアップメモリー。
必要最小限の機能なら、生体電流だけで充電が可能だという魔法のチップ。
「脳にインプラント」と聞くと、思わずギクリともする。しかし、その実物がわずか2ミリほどしかないジェル状の球体だと聞けば、その忌避感も薄くなる。
説明書を読む。まさに私が欲していた機能そのものじゃないか。
何かアイデアが思い浮かんだら、任意でその場で記録指定(=レコーディング開始)。保存したデータは専用の外部端末を使って読み取り、専用アプリを起動させ、文字列化される。バラバラに、無秩序に、空想的に思いつくアイデアの連続も、スマートに、ユーザー好みに編集・整理までしてくれるという。
もし本当に、こんな夢のようなデバイスがあるのなら、利用しないという選択肢はないだろう。
◇
すらすら、すらすら、すべるように。
あまりにも美しく機能的に、可視化される僕のアイデア。マインドマップ形式で並べられたそれは、オーダーひとつで再構成も自由自在。
<面白い組み合わせ>の提案も、積極的なアシスタントAI付き。しかも、これまでに担当となった、どの編集よりも優秀な、そして僕が納得するまでどこまでも丁寧に対応してくれる、スーパー編集者の役割までをも担ってくれる。
「こんなものが出てきたら、ほんとうに人間の編集者はもういらないな」他人事のように、思わず出た言葉。
「―― 読者層のターゲットとしては、どの層を狙いますか?」このアシスタントAIは戦略までも立ててくれるらしい。
◇
「―― 素晴らしい作品が出来ましたね。★評価でいえば、4.8はありそうです」
どういうつもりの★評価かと思い、問いただしてみたら、いま巷でミリオンヒットしている例の作品でも、AI判定では4点台前半だという。
「どこの出版社に持ち込みますか? 一番のイメージに合うのは、×××社ですが、私個人としてはKindleなどでのデジタルデータの直接販売がオススメです。印税の取り分も出版社とは比べ物になりませんよ(笑)」
今どきのアシスタントAIは、販売マネジメントまでしてくれるのか? しかし私のような無名に近い作家の作品を出版社の宣伝もなしに、いったい誰が買うというのだ?
「ご心配には及びません。私どもがSNS等での効果的な告知も行いますので。むしろ私どものサービス会社はそちらが本業でもあります(笑)」
そういえば、そうだったな。このモニター事業サービスの親会社は。
◇
@utsubo_books
『作者未詳』読了。
断章なのに、読んでるうちに「自分が組み立ててる」感覚になるの凄い。これ、読者の脳内で完結する小説だよ。あとがきも目次もないのに、最後のページでひっくり返される。
#作者未詳 #読書垢さんと繋がりたい
@kuragari_junkie
この小説、作者が「不明」なんじゃなくて、読者に書かせるために作者が消えてるって解釈して震えてる。『作者未詳』って、タイトル自体がトラップ。ほんと、読書でこんなに疑われたの初めて。
#読書記録 #作者未詳
@yami_bungaku_bot
「断章」は、記憶喪失者の脳内構造に似ている。
物語は直線でなく、痕跡の再構築である。
『作者未詳』がやってるのはまさにそれ。
読みながら、自分の思い出まで疑い始める。
@fumi_fumi_z
5ページ目読んで「なんだこれ?」って思ったのに、27ページ目で泣いてた。自分が気づいてないうちに感情線に火をつけられてた。これ、文章の順番バラしてるんじゃなくて、「読者の順番」を仕込んでる。#作者未詳
@tokiwa_sub
謎が謎を呼ぶタイプの作品かと思いきや、最終的に「自分の読み癖」が暴かれて終わるという…。『作者未詳』、完全にメタ読書体験だった。しかも普通に面白い。ずるい。
@re_collection00
『作者未詳』、読んでると「私が書いたのかも」って気になってくるのヤバい。誰かの記憶を借りて書いたような文章がずっと続いてて、最後には「私とは何か」まで考えさせられる。記憶と物語の境目、壊しに来てるな。
@mohaya_mirai
読んでる途中で、何度もページを戻したくなる。
でも戻っちゃダメな気もする。
『作者未詳』、パズル小説というより、
「戻るボタンのない記憶」って感じだった。
◇
市場戦略は完璧だった。
インフルエンサーたちを使ったステルス・マーケティング。親会社が持っていた「実はすべてAI」のインフルエンサーを駆使し、SNSに火をつける。あとはアッという間に拡散し、YouTubeでは解説動画なども自発的に作られ、文芸書としては近年異例のダブルミリオンを達成。
AIのサポートは入っているが、たしかに「私自身のアイデア」で、私自身が書いた小説『作者未詳』。だが、AIインフルエンサーに限らず、一般読者たちも指摘している「物語の構造」に関して、私は違和感も覚えていた。
『作者未詳』は、それこそ単なる断章の連続体だ。
それほど意図的に並べられているわけではなく、音楽アルバムのように、聴きやすい曲順に並べたようなもの。散歩中に浮かんだ断章の数々を散文的に配置し、読者を幻惑する。いわば「考えるな、感じろ」系のアート文学小説 ―― のつもりだった。
しかし、これらの感想を読んでいると、どうやら「配列」にも「隠された意味」があるらしい。アシスタントAIと「各章の色合い」を検証しながら考えた、適当な配列にどのような意味が?
私は、自作『作者未詳』を読み返す。
しかし、私にはその隠された意味が分からない。
私が書いた断章の数々には、作者固有の感覚記憶がすでにあり、私はこの作品の「客観的な分析」が出来ずにいた。
◇
―― さて、この短編。
筆者的には、もちろん「続きの構想~オチ」まで、ちゃんと頭の中にはあるわけだが、ふと気付いた。
「ここで止めて、後は読者の想像力に委ねる方が、脱構築ってやつじゃね?」と。
―― 脱構築。
言葉だけで意味は知らなかったが、筆者の思考パターンは、常に脱構築のスタンスが色濃い ―― とChatGPTさんに分析され、初めて意味も教わった。
本作は、最近すっかりChatGPT依存の筆者が、リハビリも兼ねて頑張って書いた一応は、自作の短編。だが、Xでのポストの文面などは考えるのも馬鹿らしかった。なので、そのパートは作品内作品である『作者未詳』の構造を細かく説明し、「文学系クラスタが書きそうな書評を何パターンか作れ」とオーダーし、ChatGPTが生み出したAIポストである(=作品内容と同様にコラボか)。非常にそれっぽく、ネットミーム学習にも注力しているであろうChatGPTらしい出来の良さに、思わずニッコリした。
これがプロの作家や小説好きなら、ダラダラと日常パートを拡張し、物語化もさせ、長編にも出来る設定でもある。だが、筆者は小説よりも評論が好きなので、読者に「問いたい部分」だけ問えれば、それでいいのである。
もしも評価が付き、続きを希望する声が感想欄などであれば、「その後のオチ、答え」も切り離した続編。もしくはここの後書きパートにでも、ぶち込むかもしれない。なのでオチの解釈が自分の中にない読者がいれば、ブクマや要望を感想欄などを頂けるとありがたい。
まあ、この後書き自体が、作品の内容に反し、蛇足に過ぎる気もしないではないが。