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鈍感彼女が振り向かない!~隣の家に住む幼馴染が、距離が近すぎて俺を全く意識してくれない~  作者: 西織


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第48話

「こんなオシャレなお店で、俺はすずをエスコートできるだろうか……」


 そこだった。

 小太郎が普段友人たちと行っているお店といえば、マックなどのファストフード店、愛知県民のソウルフード・スガキヤ、ファミレス、お茶をするならコメダである。

 子供だけでこんなお店に行って、平然と食事ができるだろうか。

 あわあわしていたら意識してもらうどころか、鈴音もがっかりするのではないか。


「そこです」


 一花はこちらを見上げ、眼鏡の位置を直した。

 ピン、と人差し指を立てて、ぐぐっと近付いてくる。


「だれだって初めてのことには緊張するもの……。しかし、二回目となれば、ある程度は慣れます。なので、このお店に下見に行くのはいかがでしょうか。雰囲気も掴めるでしょうし、一回目で失敗しても次に繋げられます。よく聞く、フィンガーボールの水を飲んでしまった……、という失敗も、本番でやらなければセーフです」

「な、なるほど……。お店の下見……、できる男はやると聞いたことがある……。さすが綾瀬パイセン、デートを知り尽くした女……」

「い、いぇへへへ……、ま、まぁ前回の買い物とやってることはいっしょですけど……。ほら、ランチタイムだったら、さらにお得です」


 てれてれしている一花に賛辞の言葉を贈っていると、一花はスマホをさらに操作した。

 ランチセットも充実しており、これまたお得な値段だった。

 これなら、無理なく下見もできそうだ。


 おお~……、と感心の声を上げていると、一花はきゅっと唇を閉じる。

 そのまま、そっとこちらを窺ってきた。

 緊張した面持ちで、おずおずと尋ねてくる。


「そ、それで、ですね……。もし、よろしければ、わたしといっしょに行きませんか……?」

「え。いいの? 俺にとっては渡りに船で、めちゃくちゃありがたいけど」


 一花のありがたすぎる提案に、すぐさま飛びついてしまう。

 ふたつ返事してしまったせいか、一花はむしろ戸惑ったようだった。

 数秒固まって小太郎の言葉を飲み込んだあと、ふんふんふん、と頷く。


「ぜ、ぜ、ぜひ。行きたいです。行ってみたいと思ったんです、このお店。夏目くんといっしょに行けるなら……、と、とっても嬉しいです」

「え~、めちゃくちゃ嬉しいよ。ありがとう。でも、いいの? また綾瀬さんのお休みをもらうことになるけど」

「そんな、そんな、ぜひ……っ! わ、わたしも嬉しいです……っ!」


 一花はふにゃふにゃの笑みで、何度も頷いていた。

 なんていい人なんだろう。

 本当に行きたい、と言ってくれているのが伝わってきて、小太郎はじぃんとしてしまう。

 人としても、女の子としても、とても可愛らしく、魅力的な人だと改めて思う。

 それなら、と小太郎は笑った。


「なら、予定が合う日に行こう。いつ空いてる?」

「あ、あ、あ、スマホ出します……。わ、わたしは割といつでもいいですけど……っ」


 ふたりしてスマホを突き合わせて、予定を組む。

 そして後日、ふたりして精いっぱいのオシャレをして、このお店にやってきた。

 ランチタイムだったから、客層も幅広く、ある程度の気安さがあった。

 それでも高校生には敷居が高く、予約するのは初めてだったから、ふたりしてきょどきょと扉を開け、「よ、予約した、にゃつめです……」と噛んで、聞き返されたりもした。


 一花はきょろきょろしすぎて段差に躓いていたし、小太郎もカチコチだった。

 テーブルに案内されてからも落ち着かず、そわそわと辺りを窺っていたし、「き、緊張するね」「は、はい。落ち着きません……」「あ、綾瀬さん、このあとコメダ行かない……?」「い、いいですね、行きましょう……」なんて、古巣に戻る提案をしていた。

 それでも料理はおいしかった。

 いくつか失敗もしてしまったけど、ふたりして初めてだったから、それもお互い様だ。

 そのあと、例によってお金を出す出さないをやって、そのあと本当にコメダに行って、たっぷりミルクコーヒーを飲みながら、「落ち着く~……」なんて言い合う休日だった。




 ある程度は内容をぼかしながらも、洗いざらい鈴音に告白する。

 彼女は笑いながら話を聞いていて、特にコメダに行ったくだりは腹を抱えていた。


「……と、いう感じで。もちろん綾瀬さんは取材だったと思うけど、本命はすずの誕生日プレゼントだよ」

「そうだったんだぁ。綾瀬さんも巻き込んでたなんて、なんだか申し訳ないなぁ」


 鈴音はそう言いつつも、ご機嫌そうだった。

 ひとしきり笑ったあと、鈴音は機嫌の良さを見せるように縁石に足を乗せた。

 ふらふらとバランスを取りながら、口を開く。 


「でも、よかった。小太郎がちゃんと緊張してて。落ち着いた小太郎は格好よかったけど、なんだか知らない人みたいだったから。あたしだけ緊張してて、ちょっと恥ずかしかったし。今度は、あたしといっしょに緊張してよね~」


 縁石から降りて何度かステップを踏んだあと、鈴音は振り返って笑う。

 その笑顔を見て、小太郎はなるほどなぁ、とぼんやり思った。

 鈴音に違う顔を見せる、という作戦は大成功だった。最後に全部バレてしまったものの、それでもよかった、と小太郎は思う。

 でも、鈴音も初めてだったのだ。


 鈴音といっしょにご飯を食べられて、雰囲気のいいお店で大人っぽくディナーして、それはそれで物凄く楽しかったけど。

 一花といっしょに緊張しながら、「これ、大丈夫なやつ?」とあわあわしながら、おっかなびっくり食べるのも、それはそれで思い出になった。

 鈴音は、後者のほうがよかったのだろうか。

 小太郎が一花のことを考えていると、鈴音は後ろで手を組んで、足を大きく開きながら歩いていった。


「それにしても、最近本当に仲いいね。綾瀬さんとこたろー。その下見も、ふたりきりで行ったんでしょ? デートじゃん」

「……まぁ。そう言えなくもないけど。何度も言ってるけど、別に俺と綾瀬さんはそういう関係じゃないからね」


 以前から誤解されていることを、改めて訂正する。

 いい加減面倒になってきたけれど、なぁなぁで受け入れるには危険な勘違いだ。

 すると、鈴音は今までと違う反応を見せた。


「あぁ、うん。前に遊びに行ったときに、あ、やっぱそういうのじゃないのかも、とは思ったんだけどね。……少なくとも、小太郎は」


 どうやら、いつの間にか誤解は解けていたらしい。

 まぁ実際、そばで小太郎の態度を見ていれば、勘違いだと伝わるのは当然かもしれない。

 あのときだって、小太郎はずっと鈴音を気にしていたわけだし。

 ほっと胸を撫で下ろしていると、鈴音は怪訝そうに尋ねてきた。


「それならさ、なんで文芸部? 前も言ったと思うけど、こたろーって別に恋愛作品に興味ないじゃん。本だって、そんな読まないでしょ」

「……だから、最近ハマったんだって。綾瀬さんにオススメされて。いくつか映画とかアニメも観たよ」


 まさか、ふたりして鈴音と恋人になるために画策している、とは言えず、苦しい言い訳をしてしまう。

 しかし、それ以上に言いようがない。

 案の上、鈴音は納得していないような「ふ~ん?」という声を出した。


「ま、いいけどね。綾瀬さんのおかげで、おいしいご飯を食べられたわけだし」

「あぁ、それはそう。今回のは、完全に綾瀬さんのおかげ」

「綾瀬さんに拝んでおこう」

「それだと綾瀬さんが星になったみたいでしょ」


 鈴音が星空に向かって両手を合わせるので、思わずツッコミを入れてしまう。

 鈴音はおかしそうに笑っていたので、小太郎も星空を見上げる。

 たくさんの星が瞬いており、その下に鈴音とふたりきりで歩いているのが、なんだか不思議だった。


 今まで、こんなことなかった。

 きっと小太郎だけでは、こんなふうにふたりで夜を歩くことさえできなかった。

 本当に綾瀬さんには感謝だな……、と小太郎が心の中で拝んでいると、そっと鈴音が囁く。


「ねぇ、こたろー」

「なに?」

「小太郎が綾瀬さん目的で文芸部に行ってるわけじゃない、っていうのはわかったけど」

「うん」

「でもね、たぶん、綾瀬さんは――」

「綾瀬さんは?」

「……いや、なんでもない。それをあたしが言うのは、よくないね」


 よくわからないことを言いながら、鈴音は頭を振る。

 それで話は打ち切りらしく、鈴音は笑顔で前を指差した。


「自販機あるよ、こたろー。飲み物買ったげる」


 急にお姉ちゃん面した鈴音が、嬉しそうに自販機に駆け寄っていく。

 彼女の言いかけたことは気になったが、鈴音が楽しそうに笑っているので、すぐにその考えはかき消えた。

 温かい飲み物でも飲もうかな、と小太郎は鈴音のもとへと歩いていく。



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