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鈍感彼女が振り向かない!~隣の家に住む幼馴染が、距離が近すぎて俺を全く意識してくれない~  作者: 西織


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第47話

 柚乃と「すずの誕生日プレゼントはどうしよう」と話していた直後、一花のスマホからメッセージが来た。 

 それは、「オススメのプレゼントを思いついたので、明日の放課後に話しましょう」というものだった。

 その言葉につられるままに、小太郎は翌日、文芸部の部室を訪れる。

 一花はいつもの席で、ハードカバーの小説を読んでいた。

 彼女は以前までカーディガンを羽織っていたが、気温が上がってきたからか、今は半袖のサマーセーターを着ている。


 文学少女、という印象は変わらず、それもよく似合っていた。

 小太郎が顔を出すと、一花は慌ててぺこりと頭を下げる。

 顔を上げたときに、眼鏡がズレているのがとてもかわいい。

 挨拶もそこそこに、小太郎もいつもの席に座って、向かい合わせになる。

 小太郎は前のめりになりながら、スマホのメッセージについて尋ねた。


「綾瀬パイセン。いいプレゼントを思いついたって、本当?」

「えぇ、本当です。いい作戦を思いつきました。まず、春野さんへの誕生日プレゼントは、夏目くんの立場では適したものを渡すのが難しい……。それで苦労していた、というお話でしたよね」


 そのとおりだ。

 高いものは遠慮される、安いものだと大体渡したことがある、手作りは難しい。

 でも、鈴音には喜んでほしい。


 だから小太郎は、うんうんと唸っていたのだ。

 一花はピンと背筋を伸ばし、とうとうと語り出す。


「夏目くんは、今までたくさんのプレゼントを渡してきた……。そのせいで、残った手札ではとても喜ばれるようなものは贈れない……。なかなかに難しい問題です」

「そうなんだよ~……。だから毎年、大変で……」


 小太郎は腕を組み、思わずため息を吐いてしまう。

 いっそこれが恋人同士だったら、もしくは別にそこまでプレッシャーを感じない相手だったら、全く問題ないのだが……。

 相手は、片思いしている女子である。


 少しでも、いい格好をしたかった。

 そこで、一花はパン、と手を合わせる。


「それで、いい方法を考えたんです。今回は、体験をプレゼントする、というのはどうでしょうか?」

「体験? あぁ~、どこかに連れて行く、とかそんなの?」

「そうです! 夏目くん、お金に余裕はあるって仰ってましたよね? それで今回考えてみたんですが、大人っぽいディナーをご馳走するのは、いかがでしょうか?」

「おとなっぽいでぃなー……」


 あまりに言い慣れない言葉に、片言になってしまう。

 いや、一花の提案はとてもいいと思う。

 体験、というのは、思いつかなかった。

 思いつかなかっただけに、ピンと来ていないのだ。

 一花はそれでも、熱っぽく語っていく。


「そうです。春野さんには、『誕生日プレゼントはご飯をご馳走させて』と伝えれば、むしろプレゼントをもらうより気楽かもしれません。そして、ついてきてくれた先にあるのは、大人っぽいディナー……。レストラン……。そこで夏目くんがさらっとエスコートすれば、めちゃくちゃ格好良くないですか? 絶対、春野さんの印象も変わると思うんです!」

「おお……っ。そ、それは確かに……」


 小太郎の知る限り、鈴音はあまりそういったお店に馴染みはない。

 大人っぽい雰囲気のお店に連れて行き、鈴音がきょろきょろする中、小太郎が落ち着いた様子でエスコートすれば。

 え、小太郎って格好いい……⁉ と、見直すに違いない。

 小太郎は興奮気味に、目を輝かせた。


「それはめちゃくちゃいいな……! そういえば、すずもエスコートしてもらいたい、って言ってた! 早速、お店を探してみる! どんなレストランがいいんだろ? 名古屋のタカシマヤにある五十一階のレストランとか? 夜景見ながらのやつ! 俺の貯金で行けるなら、全部はたくぞ!」

「ま、待ってください、夏目くん。あんまり高いお店だったら、春野さん来てくれませんよっ」

「そう? ……いや、そうだな。うん」


 つい興奮してしまったが、彼女の言うとおりなので大人しく座り直す。

 大げさな話、五万円のディナーがあったとして、それを奢るよ、と言っても鈴音には断られるだろう。

 よしんば奢れたとしても、彼女の中でいい思い出になるとは思えない。


「でも、すずが遠慮しないでいい値段で、かつ大人っぽいレストランなんて存在しないんじゃないか? 矢場とんとか?」

「矢場とんはおいしいですし、ちょっとお高めなので大人のお店ですけど、ちょっと違いますね……。だから、夏目くんに昨日連絡したんです。これを見てもらおうと思って」


 彼女はスマホを差し出してくる。

 それを受け取ってもいいけれど、いっしょに見たほうが楽そうだ。


「ごめん、ちょっとそっち行くね」

「え、あ、はい……」


 小太郎は立ち上がり、一花の隣の席に腰掛ける。

 一花がそろそろとスマホを前に差し出したので、小太郎は身体を近付けた。

 スマホには、見たことのないレストランが映っている。


 ここから少し電車に乗った先にある、住宅街にあるお店のようだ。

 外観は高校生には縁のないフレンチレストランだし、出てくる料理も立派だ。

 しかし、コース料理の料金はそれほど高くはない。

 もちろん、高校生が普段行くようなお店とは程遠いが、特別な日に奮発するくらいなら手が届く料金だった。


「わ、すごいな、このお店。本格的なのにリーズナブル……。これなら、すずも奢るのを許してくれそう」

「そ、そうなんです……。お店自体は大人な雰囲気なのに、すごくお得で……。こんなお店を見つけたので、どうかなと……」


 小太郎は思わず歓声を上げるが、一花はおどおどと声を小さくさせる。

 隣を見ると、耳まで赤くしながら、お尻の位置をずらしていた。

 慌てて、小太郎は身体を離す。


「あ、ごめん。近かった? 気安く近付いてごめん。離れるね」

「あ、いえ、そんな! ぜんぜん! い、いっしょに見ましょうっ! だ、大体、観覧車のときのほうが近かったですよっ」


 小太郎が離れようとすると、ぐっと顔を上げた一花にそう力説される。

 あ、そ、そう……? と小太郎は椅子に座り直した。

 確かに、観覧車のときは肩がくっつくくらいの距離だったし、小太郎自身もドキドキしたくらいだ。

 でも、改めてそう言われると、今だって意識してしまう。


 なにせ、一花は可愛らしい女の子。

 いい匂いがしてきて、自分から隣に座ったのに気まずくなってしまった。

 よくない、集中しよう、とスマホを見やる。


「こ、こんなに素敵で大人っぽいお店でディナーなんて、すごくいい雰囲気になると思います。

夏目くんが華麗にエスコートすれば、春野さんも夏目くんを意識するかもしれません。そして、お値段もそれほど高いわけじゃない……。ど、どうでしょう?」 


 小太郎の心の動きには気付いていないようで、一花は頬を染めながら提案してくる。

 小太郎はできるだけ意識しないように、スマホを見たまま答えた。


「うん、めちゃくちゃいいと思う。いや、これは穴場だなぁ……。綾瀬パイセン、よくこんなお店知ってるね? すごいな」

「あ、いや、はい……。そ、そうですね……。た、たまたま教えてもらって……」


 なぜかそこで、一花はしどろもどろになりながら、視線を逸らした。

 小太郎は、じっとそのお店を見つめる。

 確かにここに鈴音を連れて行けば、きっと彼女には今までと違う印象を与えられる。

 とてもいい案だと思う。

 だが、問題もあった。



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