表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈍感彼女が振り向かない!~隣の家に住む幼馴染が、距離が近すぎて俺を全く意識してくれない~  作者: 西織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/51

第46話

「すず」

「ねぇ、こたろー」


 同時に口を開き、ふたりではた、と止まる。

 鈴音は気が抜けたような笑みを浮かべ、こちらの顔を覗き込んでくる。


「なあに」

「あぁ、いや。すずが先言ってよ」

「そ?」


 自分が口走ろうとしていたことを思い出し、自分自身に動揺していた。

 そのまま、言ってしまいそうだった。

 いくらなんでも、先走りすぎだ。

 それで拒絶されたら、この関係は終わりなんだぞ。

 冷や汗をかきながら、ようやく冷静になる。

 とにかく、鈴音の話を聞きたい。

 鈴音は何歩か前に出て、歌うように口を開いた。


「今日の小太郎、すごく落ち着いてたよね。お店に入るときも、注文するときも。服装も大人っぽくてさ、あたしの知らない小太郎だった。さっきも言ったけど、格好よかったよ。あたしがあたふたしてても、小太郎はいつもどおりでさ。だからね、あたし思ったんだ」


 すぅー……、と鈴音が息を吸っている。

 表情は見えない。声もいつもどおりに感じた。

 しかし、その話の流れで狼狽えてしまう。

 鈴音にいい印象を与えていることは、さっきの反応で十分わかっていた。


 けれどどうやら、思った以上に彼女を揺さぶっていたらしい。

 まさか、と思う。

 自分の先ほど口走りそうになったことを思い出し、まさか、と。

 本当に、彼女の意識を強く変えることができたのかもしれない。

 目の前にいるのが同い年の男子で、しかも、自分の理想のタイプにきっちりはまっていて。


 今まで気付かなかったけど、小太郎って――、という流れに。 

 なったと、したら?

 小太郎が口を滑らせそうになったように、鈴音も同じことを考えていたら?

 その考えに至った瞬間、急激に緊張を覚えた。


「ねぇ、こたろー」

「は、はいっ」


 彼女は前を向いたまま名前を呼び、小太郎はビクっとしてしまう。

 熱い息を吐きながら、彼女の反応を待った。

 なにを、なにを言おうとしているのだろう。

 彼女は、なにを伝えようとしているのだろう。


 鈴音は、ゆっくりと振り返る。

 丸くて大きな瞳も、つんとした鼻も、可愛らしい唇も、長い髪も。

 どれも、愛しくてたまらない。

 鈴音がその唇で、もし愛の言葉を囁いたら。

 小太郎の十年以上の片思いが、成就する。 

 物心ついたときから抱えていた悲願が、達成される。


 彼女は真剣なまなざしで、小太郎を見ていた。

 小太郎はごくりとつばを飲み、鈴音の言葉を待つ。

 鈴音の表情は徐々に変化していき、彼女の手がゆっくりと上がる。

 鈴音は、人差し指を小太郎に向けて。

 いたずらっぽい笑みを、浮かべた。

「小太郎。あのお店、綾瀬さんと行ったことあるんじゃない?」


 ぴしり、と小太郎は完全に固まる。

 あ、の形に口を固めて、違うよ、とも、そうだよ、とも言えなくて。

 ただただ、反応できずに固まった。

 そのまぬけさと言えば、今日積み上げたポイントを全部帳消しにするほどだった。

 鈴音は、それを見ておかしそうに笑う。


「やっぱり~。そうだと思った。こたが初めてなのに、あんなに落ち着いているわけないって思ったもん。二回目だったら納得だよ」


 鈴音はパンパンと手を叩きながら、笑い続けている。

 予想が当たったことと、小太郎の態度に合点がいったのが、よっぽど嬉しいらしい。

 けれど、小太郎はそれどころではなかった。

 別に、鈴音とも一花ともそういう関係ではないし、悪いことをしているわけではないのだが……。


 客観的に見ると、心証がいい話とは言えない……。

 それになにより、見抜かれたのがあまりに恥ずかしかった。

 せっかく格好つけていたのに、それが全部見透かされていたなんて。

 こっそりしている努力がバレたときほど、恥ずかしいものはない。


 そのうえ、変な誤解も生じそうだった。

 鈴音は小太郎の反応が面白かったのか、しばらく笑い、目に涙を浮かべるほどだ。

 涙を拭きながら、彼女は指摘する。


「なに? 例の取材ってやつ? 大人っぽいお店にふたりで行ってみよう、みたいな」

「あ、いや、ち、違う。た、確かに綾瀬さんと行ったんだけど……。俺が鈴音の誕生日プレゼントに迷ってるって話をしたら、このお店がいいんじゃないかって教えてくれて……。で、緊張しそうだったから、下見にも付き合ってもらって……、みたいな感じ……」

「あ、そうなんだ。じゃあ、あたしの誕生日が原因か~。それにしても、綾瀬さん、いいお店知ってるねえ」

「それは俺も驚いた」


 誤解はあっさりと解けたので、そこだけはほっとする。

 けれど、気まずいものは気まずい。

 まさか、『余裕のある大人』を演出するために下見したことが、裏目に出るとは思わなかった……。

 あぁ、格好悪い……。

 小太郎はため息を堪えながら、数日前のことを思い出していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ