第42話
週明けの月曜日。
小太郎はその日、いつもよりだいぶ早く起きてしまった。
ワクワクした想いを抑えられず、まるで遠足の朝のよう。
ぱっちりと目が覚めてしまったので、仕方なく朝の用意をしたが、どれだけ髪のセットに時間を掛けても余ってしまう。
家に居ても落ち着かず、もう出るか……、と思ったタイミングと、柚乃が「おはよぉ~……」と寝ぼけ眼でポヤポヤ起きてきたのが、同時刻。
彼女は寝ぐせだらけの髪をそのままに、ほとんど目を瞑った状態で準備万端の兄を見る。
「あれぇ? お兄ちゃん、もう出るの……?」
「あぁ。そうする。柚乃、ちゃんと戸締りしてな。二度寝しないようにな」
「うん、うん、うん……」
聞いているのかいないのか、柚乃は洗面所に入っていった。
若干心配だが、まぁ大丈夫だろう。
小太郎は家を出て、数歩先の春野家の前に来る。
しかし、いくら仲が良い間柄といっても、今は普段よりもかなり早い時刻。
当然、鈴音も想定していないので、「え、もう来たの⁉ なんで⁉」と驚かれてしまう。
さすがに迷惑だよな~……、と思い、家の前で待つこと数分。
これなら家にいても同じだったな……、と思い始めたところで、間がいいのか悪いのか、玄関の扉が開いた。
そこにいたのは、鈴音のお母さんだ。
「ん⁉ なに、こたもう来てたの? 早くない?」
「あぁ、うん。ちょっと早く目が覚めちゃってさ。でも、普段より早いから、外で待ってようと思って」
「あぁ、そうなの? まぁ入りな。外で待ってることないでしょ」
当然のように、手招きされる。
まぁこうなるよな、と反省しつつも、固辞するのもおかしな話。
早く来ちゃってごめんねー、と謝りながら、家の中に入れてもらった。
「鈴音、今、部屋にいるから」
おばちゃんはそう説明して、さっさとキッチンに行ってしまう。
リビングで待っていようが、部屋に行こうがどっちでもいいよ、ということだろう。
家族ばりのラフな関係はいつもどおり。
まぁそれなら、と階段を上がっていく。
鈴音の部屋の前まで来て、コンコン、とドアをノックする。
「すず~、俺~」
「え、こたろー⁉ 早くない? え、もうそんな時間⁉」
「ごめん、早い。急いでないから、ゆっくりでいいよ」
「あぁ、はいはい。時間間違えたかと思って、びっくりしちゃった。あ、入っていいよ」
「うん……。あ。今、着替えてない?」
以前の失敗を思い出し、あらかじめ声を掛ける。
すると、まだ~、と返ってきたので、安心して扉を開けた。
パジャマ姿のすずが、机の前でスマホを確認しているところだった。
幼馴染の関係でも、パジャマ姿の鈴音を見られる回数は、それほど多くはない。レアな光景なので嬉しかった。
彼女の身体を包むピンク色のパジャマは、薄めの生地のごくごく普通の長袖。
細い腕はパジャマ越しにもわかるし、セーラー服を着ているときよりも胸の主張がはっきりしていた。普段よりも無防備な感じがして、ドキドキしてしまう。
なにより、かわいい。
鈴音のパジャマ姿を見られただけでも、早起きした甲斐はあったかもしれない。
彼女はスマホを置き、学校の鞄に教科書を詰めながら、こちらを見た。
「どしたの、こたろー。こんなに早く来るなんて」
「いや、特に意味はなくて。たまたま早起きしたから、そのまま家出てきただけ。外で待ってようと思ったんだけど、おばちゃんに見つかって」
「えぇ? 別に外で待つ必要ないじゃん。入ってくれば」
「だって、いつもより早い時間だったし。さすがに迷惑かな~って」
「迷惑も何もないでしょ。外で小太郎待たせてるほうが嫌だってば。大体、そう思うんなら自分の家で待ってればよかったのに」
「それはそう思う……」
「まぁお母さんが気付いてよかったよ。……ん? 今日って体育ないよね?」
「ない」
「あ、そうだよね、よかったよかった」
そんな他愛ない会話をしながら、鈴音は朝の準備を進めている。
絶え間なくとりとめのない会話が広がっていくのは、小太郎たちにとっていつもの光景。
だからこそ、小太郎は話している最中には言えなかった。
一瞬、会話が止まった瞬間に、それを放り込む。
「……あのさ、すず」
「なあに」
「着替えるんだったら、俺、リビングで待ってたんだけど……」
そう。
鈴音は、小太郎と話をしながら、平然と着替えていた。
いや、鈴音が「どしたの、こたろー」と言いながら、ボタンをぷちぷち外し始めた時点で、小太郎は撤退すべきだったのだ。
しかし、質問に答えている間に、彼女はボタンをすべて外し、躊躇なく上を脱いで、ベッドに放ってしまった。
当然、彼女の素肌が露わになる。
パジャマの下には、張りのある色白の肌と、窮屈そうに胸を持ち上げる下着。今日は真っ白なブラで、刺繍がなんだか綺麗なやつ。
以前、柚乃が口を滑らせて、「すずねえ、寝るときもちゃんとブラするんだって。偉いよねえ。わたし、絶対無理。それとも、すずねえくらい大きいとしないとダメなのかな?」と言っていたが、それが事実であると知ってしまった。
胸や肌だけでなく、相変わらず鎖骨が色っぽい……。ぺたーんとしたお腹も、可愛らしいおへそも、なにより大きめの胸にも動揺していたのだが、鈴音は当然のように会話を続けた。
過剰反応して、慌てて部屋から飛び出せば、それこそ鈴音は不審に思うだろう。
「別に外で待つ必要ないじゃん」と言いながら、さらに彼女は下も脱いでいった。
すると今度は、白いショーツと、それに食い込んだ肌が見えてしまう。
腰からお尻にかけてのなだらかなライン、その先には太ももと下着。彼女の真っ白な太ももと布面積の少ない白い下着は、くらくらするほどに煽情的だった。
ブラとセットなのか、ショーツにはブラの刺繍と同じような模様が施されている。
彼女が背中を向けると、お尻が見えた。
丸みのあるお尻はぷりんとしていて、張りがあるのが見て取れる。弾力があるのが、触らずともわかった。下着と肌のコントラストに、頭がおかしくなりそうだ。
鈴音のお尻は三分の二程度までしか下着に隠れておらず、それ以上の肌は見えてしまっている。女の人のパンツってやっぱり心許ないよなあ、だって全部は隠れてないもんなあ、とぼんやり思った。
後ろを向いたせいで、彼女の背中も剥き出しだ。髪で多少隠れているとはいえ、むしろそのせいで色気を強めている。綺麗で、細い背中だった。彼女は肉付きがいいほうだと思うが、背中はすらっと細い。
女の人の背中って、すごく色っぽいなぁ、なんて考えてしまう。
肌面積があまりにも多いせいで、後ろを向いているとほとんど裸にしか見えなかった。
いや、前から見てもほぼ裸なのだが……。
その状態で、「体育ないよね?」なんて尋ねてくるのだから、勘弁してほしい。
彼女は鞄の中を見ながら、平然と質問に答えた。
「ん~、わざわざ出てもらうのもなんだし。見るのが嫌なら目を逸らしておいて。あ、でも、ごめん。スカート取ってくれる?」
鈴音は下着姿のまま、こちらに手を向けた。
もう片方の手で、髪をササっと撫でながら。
そんなことをしているせいで、脇まで丸見えになっている……。
なんかもう、試されてる? とさえ思ってしまう。
本当にこれは見ていいものなのか……? と思いながらも顔には出さず、スカートを以前と同じく手渡した。
彼女はありがと、と受け取り、スカートを穿いてから長さを調整している。
小太郎はため息を堪えなければならなかった。




