第34話
華蓮たちがやってきたのは、名古屋市科学館。
大須観音から徒歩数分の場所にあり、日頃たくさんの人が訪れる。名前からは想像がつかないほど大きな建物で、謎の銀の巨大な球体は圧巻である。
ちなみに名古屋港水族館にも謎の銀の巨大な球体があるので、名古屋は謎の球体が好きなのかもしれない。
目的は、世界一のプラネタリウムだった。
カップルシートがあるイオンモールのプラネタリウムと迷ったが、さすがに男女四人で行くのなら普通のほうにしよう、と話し合った結果だ。
そのうえ、名古屋市科学館には様々な展示があり、それを見て回るのもいいのではないか、という話になった。
小太郎がフロアマップを観ながら、感嘆の声を上げる。
「お~……。すごい。本物の竜巻を起こしたり、放電する瞬間が観られるんだって。なんかショーみたいなのもあるらしい。ちょっと面白そうじゃない?」
小太郎がワクワクしていると、鈴音は少しだけ呆れたような顔になった。
「実験とかそういうの? は~、小太郎もそういうの好きなんだねえ。男の子って感じ」
その言葉に、小太郎がハッとした顔をする。
そのまま、そっと一花のもとに近付いていった。
「綾瀬さん綾瀬さん。あの男の子って感じ……、って俺のことを男として意識したってこと⁉」
「絶対違います。今の夏目くん、めちゃくちゃ弟って感じですよ……?」
そんなことをぼそぼそ話している。
小太郎は気にした素振りもなく話し掛けているが、一花は顔を近付けられて緊張しているようだ。肩を縮めながらも、それでも普通に受け答えしようと努力している。
その内容も、ふたりの様子も、見ていればある程度の事情は把握できた。
上映時間が迫っていたので、ほかのフロアはほどほどに、華蓮たちは六階へ上がる。
プラネタリウムの会場は、何度か来た華蓮から見ても圧巻だ。
だだっ広いホールの中に、円形状に椅子がぶわっと並んでいる。なんだか、変わった映画館のようだった。
お客さんもかなり入っており、それぞれ席に着いていた。
今はまだ照明があって明るいが、時間になれば光は星の瞬きだけになる。
華蓮はあらかじめオンラインでチケットを予約しており、四つ並んで席を確保していた。
鈴音、小太郎、一花、華蓮の順で座っていく。
「は~。おっきいねえ。これは世界一って言われるのも納得かも」
「なんか、名古屋って大きいもの多くない? 名古屋港水族館も日本で一番広いんだっけ?」
「の、延べ床面積が日本一ですね……。確かにあそこ、おっきいですし」
「なんだろね~。名古屋って、土地が余ってるのかな」
「いや、でも名古屋って一応三大都市だし。余ってるってことはないんじゃないの?」
「その三大都市に名古屋が入っているのも、物議をかもすのでやめましょう」
そんな雑談を挟んでいるうちに、上映時間がやってくる。
三人はそわそわしながら、アナウンスを聞いて天井を見上げていた。
やがて、会場内は徐々に暗くなっていく。
正直に言えば、華蓮は大してプラネタリウムは楽しみではなかった。
既に観たことがあるし、カップルシートと違って女の子といちゃいちゃできるわけでもない。
会話をするには、席同士の距離が少し離れていた。
上映時間は、五十分。
いくら星空は色褪せないと言っても、知っている風景は感動が薄れる。
この五十分はとても退屈だろうな。
だからこそ、見てしまう。
隣に座る、想い人を。
「………………」
彼女は、目を輝かせながら幻影の星空を見上げていた。
眼鏡のレンズに反射していても、その奥の瞳はそれ以上の光を宿していた。
美しい横顔だと思う。
会場内が暗いから、こうして見惚れていても一花は気付かない。
それはきっと、同じことを彼女は思ったのだろう。
一花はそっと、眼鏡のレンズを隣に向けた。
さりげなく、隣の男子の様子を窺っている。
その横顔は、星空を見上げるよりも魅力的だった。
潤んだ瞳に、ほのかに赤くなる頬。切なそうに閉じた唇。
つい、吸い込まれそうになる。
恋する女の子は美しい。
そんなこと、身をもって知っていたはずなのに。
華蓮はそっと目を瞑る。
どうしようもなく胸を打ち、それから逃げるように真っ暗な世界に逃げ込んだ。




