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鈍感彼女が振り向かない!~隣の家に住む幼馴染が、距離が近すぎて俺を全く意識してくれない~  作者: 西織


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第29話

「デートスポット? え、なんで? 男女四人で遊びに行くのに?」

「ただ遊びに行くなら、もっと別の場所のほうがいいかもしれませんけど……。夏目くんと春野さんの関係を進めるのなら、ここでデートスポットに行くのはいい選択だと思います」 


 はっとする。

 小太郎と一花がともにいるのは、小太郎と鈴音の恋愛成就のため。

 一花はその取材のため。

『四人で遊びに行く』というイベントを、一花は関係を進めるために使おうとしているのだ。

 つい、前のめりになってしまう。


「綾瀬パイセン、どういうこと? 詳しく教えてくれ」

「前も申し上げましたが、夏目くんと春野さんとふたりきりなら、雰囲気のいいデートスポットに誘おうものなら、『なんで?』となってしまいます。だから、以前は買い物の下見に行ったわけです。あそこはもう使えなくなりましたけど……。ですが、今回は四人」


 一花は、そっと眼鏡の位置を直した。


「たとえば、遊園地。水族館。景色のいい公園。ふたりきりで行くなら、なんで? となる状況でも、四人なら全くそんなことはありません。その中で、上手くふたりきりになれる瞬間が作れたら、どうですか?」

「お、おお……ッ! デートスポットに、すずとふたりきり……⁉」 


 小太郎はつい、感嘆の声を上げてしまう。

 たとえば、水族館。

 暗い通路の中、幻想的な光に包まれたくらげを見ている間に、小太郎と鈴音は一花たちとはぐれてしまう。


 仕方なくふたりで彼女たちを探すものの、周りはとてもロマンチックな空気。

 もしかしたら、そこで。

 鈴音の中に、なにかしらの気持ちが芽生えるかもしれない……!


「さすが、綾瀬パイセン……。ありとあらゆることを利用できる、恋愛偏差値九十の女……」

「い、いぇへへへ……。できるのは座学だけですけど……」


 照れくさそうに髪を撫でる一花は可愛らしいが、ひとつ疑問が生じる。

 偏差値九十でも超えられない問題が、ここにはあった。


「でも、綾瀬パイセン。問題は、名古屋に雰囲気のいいデートスポットなんて、存在しないことじゃないか?」

「そうなんですよね」


 大真面目に一花は頷く。

 ロマンチックから最もかけ離れた都市、名古屋。

 まさか、デートスポットと謳って、名古屋城に行くわけにもいくまい。

 ただ、名古屋も最後の抵抗をしていた。


「でも、水族館がありますよね。名古屋港水族館。ちょっと行きづらいですけど、立派なデートスポットじゃないでしょうか」

「水族館は、確かに。めちゃくちゃ広いから、ちゃんと回ろうとするとデートどころじゃなくなるのが玉に瑕だけど……。それこそ、東山動植物園でもいいし」

「動物園は鉄板かもしれませんね……。あそこも広いですけど……。あとはまぁ、遊園地もありますよ。長嶋スパーランド」

「三重じゃん」

「なら、レゴランド行きます?」

「俺、レゴランドでいい雰囲気になる自信ないよ……」


 そんな益体のない話を続けていたのだが。

 話題が切れたところで、一花が身体ごと首を傾げた。


「……ところで。そちらの方は、夏目くんのご友人ですか……?」

「え?」


 視線を一花が見ている先に向けると、ビクリと影が動いた。

 部室の扉が、いつの間にか少しだけ開いている。

 その隙間から、女子のスカートがちらりと見えた。

 その人物は聞き耳を立てていたようで、さらに小太郎のよく知る人物であった。


「……華蓮さん? え、なんで?」

 小太郎が驚いた声を上げると、その影は立ち上がって扉を開いた。

 小太郎が口にしたとおり、そこには伊達華蓮が立っている。

 照れくさそうに頭を掻きながら、視線をきょろきょろさせていた。

 彼女はごまかすようにもごもごしながら、そこにいた理由を口にする。


「いや。ちょっと気になっちゃって……。本当に四人で遊びに行けるのかなって……」


 視線をあっちこっちに向けながら、華蓮は答えた。

 怪しげな行動を起こした華蓮に、一花は少し不安そうな表情を浮かべる。

 華蓮もそれを悟ったらしい。

 できるだけやわらかく微笑みながら、一花に自己紹介をした。


「あたし、伊達華蓮っていいます。夏目とは中学からの友達で。よろしくね」 

「あ、はい、よろしくお願いします……。綾瀬一花です……」


 一花は若干、人見知りのきらいがある。

 そのうえ、華蓮は見るからにキラキラした人物で、近寄りがたい雰囲気があった。

 普段の華蓮なら持ち前の軽さで、さっさと距離を詰めていたところだろう。


 けれど今は、一花を前にして緊張した面持ち。視線も定まっていない。

 気になって来たはいいものの、一目惚れした相手を前にどぎまぎしていた。

 華蓮のこんな姿、初めて見る。

 フォローしたほうがいいだろうな、と小太郎が口を開いた。


「綾瀬さん、遊びに行くのOKだって。今、場所を考えているところ」

「え、本当⁉ やった、嬉しい! すごく楽しみっ」


 子供のようにはしゃぐ華蓮に、一花はようやく肩の力を抜いていた。

 とはいえ、まだまだ打ち解けるには時間が掛かりそうなので、小太郎が橋渡し役になる。


「恋愛小説の取材もしたいから、デートスポットっぽいところに行きたいなって話になってさ。でも、名古屋はあんまりそういうのないよねって、迷ってて」

「はぁん? なるほど」


 華蓮は小太郎相手だといつもの調子が出るようで、顎に指を当てた。

「まぁ名古屋でも、女の子と遊ぶ場所はいっぱいあるけど……。デートスポットっていうと、どこがいいだろうな……。あぁ、プラネタリウムは?」

「プラネタリウム……。そんなの、名古屋にあったっけ?」

「ええと……、確か、名古屋市科学館にあるんでしたっけ……。わたしも、行ったことはないですけど……」


 華蓮の意見に、ふたりとも知識不足が露呈する。

 華蓮は少し呆れた様子で、腰に手を当てた。


「名古屋市科学館のプラネタリウムは有名だぞー。世界最大のプラネタリウムとして、ギネスブックに登録されてるくらい」

「いやいや、華蓮さん。いくらなんでも、冗談が過ぎるよ。名古屋に世界一のものなんて存在しない」

「そう言いたくなるのもわかるけどさ」


 華蓮はさらに呆れ顔で、小さく頭を振る。

 だが、説明は続けてくれるらしい。


「世界一だけあって、観る価値は十分にあるよ。迫力が段違いだし。でも、あたしのオススメは則武のイオンモールにあるプラネタリウムかな。ここはね、プレミアムシートが丸いベッドみたいになってて、カップルで寝そべりながら観られるわけ。ふたりの世界に入りながら、星空を観る。こんなロマンチックなこと、ないでしょ」


 快活そうに笑いながら、華蓮はそう説明してくれる。

 さすがに詳しい。

 一花は「すごい……」と呟いてから、少しだけ顔を赤面させた。男女で寝転ぶところを想像したのかもしれない。

 小太郎も感心はしたけれど、なんというか、やっぱり引っ掛かりを覚えてしまう。



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