第27話
それは、小太郎も同じ。
だが、彼女は目をギラリと光らせて、今度は小太郎の両肩を掴む。
「なななな夏目! しょ、紹介して、あの子紹介して! た、頼む! 一生のお願い!」
「え、あ、いや、でも……っ」
華蓮の変貌っぷりに、小太郎のほうもパニックになる。
基本的に、華蓮は小太郎に対して下手に出ることはない。
こんなまっすぐに頼みごとをされるのなんて、初めてのことだ。
そこで鈴音がはっとして、華蓮を指差す。
「だ、ダメだって、華蓮! 綾瀬さんは小太郎が気になってる女の子なんだから!」
「いや、それは誤解だから気にしなくていいんだけど」
そこだけは冷静に返す。
ただ、紹介したいかどうかで言えば、やはり否だ。
華蓮みたいなチャラい人は、一花に近付いてほしくない。
どういう立場なんだ、と問われれば、一花と華蓮の友人として、だ。
小太郎が渋っていると、華蓮は手を離した。
そのまま、ペターン! と床にうずくまる。
「お願いします! 紹介してください!」
「え――⁉ そ、そんなに……っ⁉」
目の前ですぐさま土下座をする華蓮に、小太郎のほうが仰天してしまう。
女友達の土下座、かなり怖い。
しかも、小太郎の知る人物の中でも、一番しなさそうな子がしているから、余計。
華蓮は土下座したまま、声を張り上げた。
「こんな、こんな経験は初めてなんだ……っ! ビビッと来た! あの子があたしの運命の人! 絶対そう! 絶対に、真面目に向き合う……っ! 今までのあたしはさっき死んだ! だから、後生だから、紹介を……っ! 何卒……、何卒……っ!」
「え、えぇ~……。いや、それなら、わかったよ……」
はっきり言って、近付けたいタイプではない。
けれど、ここまでひとりの女性に想いを叫ぶ華蓮は、初めて見た。
思わず勢いに負けてそう答えると、華蓮は「本当⁉」とバッと顔を上げる。
すぐさま立ち上がって小太郎の肩を掴み、さらに顔へ力強く指を突きつけてきた。
「言質取ったぞ……ッ! 反故にしたら、絶対殺してやるからな……っ!」
怖すぎるだろ。
血走った目を向けてくる華蓮に、小太郎は頷くことしかできない。
それを見ると、華蓮はにっこりと笑った。
怖。
小太郎から手を離すと、華蓮は手を組んで「楽しみだ~……」とふらふらし始める。
その姿を見て、鈴音は呆けたような声を出した。
「い、意外……。華蓮がこんなにも熱を上げるなんて……。そりゃ、綾瀬さんはいい子だと思うし、かわいいとも思うけど……」
「俺も……。でも、華蓮さんが遊ぶような子って、結構派手めな子も多かったし……。もしかしたら、本当に好きなタイプは綾瀬さんみたいな子なのかも……?」
「あ~……。なんか少女漫画で読んだことある……。イケメンモテ男が、真面目な主人公に一途になっちゃうやつ……」
ひそひそと鈴音とともに話し合う。
華蓮がよく引っ掛けているのは、声を掛ければふらふらするような、悪い言い方をすれば軽めの女の子、恋愛が好きな子が多かった。華蓮自身のフットワークが軽いのも、そういった子たちをハシゴしているのが大きい。
見るからに真面目そうな綾瀬一花とは、真逆と言えた。
今まで視界に入っていなかったのも、どこか別世界の人物と捉えていたのかもしれない。
「春が来てしまった……、はあ……」
華蓮がぽやあっとした顔で呟くのを見ながら、鈴音はうん、と頷く。
「なに?」
「や。改めて、綾瀬さんがどんな子なのか、知りたいなって。仲良くなりたいって言ったでしょ? 華蓮もこの調子だし、四人でどこか遊びに行けないかなって」
どうやら本当に、鈴音は一花のことを気に掛けているらしい。
それは純粋に一花のことが気になるのか、弟の想い人として知りたいのか、それとも華蓮のことがあったからなのか。
それはわからないが、友人になりたい、という思いは強固なようだ。
すると、すぐさま華蓮が反応してくる。
「それすごくいい。あたしも行きたい。鈴音、いい案出すね。ちゅーしてやろうか」
「いらない。こたろー、綾瀬さんに聞いてみてくれない? もし綾瀬さんがよければ、遊びに行こうよ」
鈴音はにこっと可愛らしく笑っており、華蓮は勢いよく頷いている。
鈴音と一花が一堂に会するのであれば、小太郎としてはありがたい。
一花にアドバイスをもらいながら、鈴音に行動を起こせるのだから。
いっしょにいれば、誤解だって解けるだろう。
そのうえ、華蓮との約束も果たせる。
果たして、華蓮が一花に迫ることが、一花にとっていいことかはわからないが……。
「わかった……。聞くだけ聞いてみるよ」
そう答えると、鈴音はぱちぱちと小さく拍手をし、華蓮は拳をぐっと握っていた。




