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鈍感彼女が振り向かない!~隣の家に住む幼馴染が、距離が近すぎて俺を全く意識してくれない~  作者: 西織


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第22話

 一花の目の前では、小太郎がぐったりと項垂れていた。

 ここは、上階のレストランフロアにある、カフェ&レストラン。

 とても小太郎が買い物を続けられる状態ではなく、とにかく座るために移動していた。時間的にも、お昼ご飯を取るのにちょうどよかった。


 三越は買い物も食事もできるから、デート場所に適している。一花はそう思っていたが、三越は案外食事処が少なかった。

 これは覚えておかないと、と一花は心のメモに書き留める。

 しかし、きっと小太郎はそれどころではないだろう。


 お店は淡い光で照らされていて、少しだけ暗め。シックな雰囲気の落ち着いたカフェで、一花ひとりだったら、入るのに気後れしたに違いない。

 とにかく入店して席を確保してから、「あ、ここオシャレなお店だ……」と周りをきょろきょろし、居心地が悪くなったところで、「で、でも今日は男の子といっしょだから……!」と顔を上げたのが、少し前のこと。

 打ちのめされている小太郎とともに何とか注文を終えたものの、彼は机に突っ伏してしまった。

 俯いたまま、彼はどよんとした声を吐き出す。


「まさか……。まさか、すずにあんな誤解をされるなんて……」


 先ほど、小太郎と鈴音がどんな話をしたのか、一花は教えてもらっている。

 どうやら、小太郎が一花のことを気になっていて、文芸部に入ろうとしている……。と鈴音は誤解してしまったらしい。

 わたしを追いかけて⁉ いやいや、それはいくらなんでも……! と一花は慌てふためいたが、鈴音が「あんな子相手に、小太郎が本気になるわけないか」と見下すこともなく、素直に受け入れていたのは、正直嬉しかった。


 けれど、小太郎はそうもいかない。

 好きな人に誤解されるなんて、耐えがたい苦痛だ。

 はしゃいでいたのが申し訳なくなり、一花までしょぼんとしてしまう。


「すみません……。わたしが、変なご提案をしたばっかりに……。しかも、下見が見つかってしまった今、ここをデートに使うこともできないですし……。夏目くんにとっては、災難続きの日に……」

「あ、いやいや。それは違う。綾瀬パイセンには本当に感謝してるし、アドバイスもマジでありがたいと思ってる。今回のは、本当に不幸な事故って感じで、綾瀬さんは絶対悪くない」


 一花がしゅんとして謝ると、小太郎は慌てて否定する。

 もし、一花が想い人に誤解されてへこんでいたら、こんなふうに相手を気遣えるだろうか。

 傷心でも「それは違う」と言ってくれる小太郎に、胸がぽかぽかしてしまう。

 一方小太郎は、この状況に頭を悩ませていた。


「綾瀬さんは何も悪くないんだけど……、どうしたもんかなぁ~……」


 小太郎は腕を組み、天を仰いでしまう。

 はぁ~……、とため息を吐く姿も、ぐったりと机に突っ伏す姿も。

 普段、ハツラツとしている彼には珍しい姿だ。


 へこんでいる様子がちょっと可愛くて、その後ろめたい感情からそっと視線を逸らした。

 そろそろ、一花の考えを伝えるべきだろう。

 小太郎にとって、この状況は決して悪いことばかりではない。

 一花は、おほん、と咳払いをした。


「それがですね、夏目くん。これは、逆にチャンスだと思うんです」

「チャンス? この状況が? うそぉ?」


 きょとんとした様子で、小太郎はこちらを見返してくる。

 そのタイミングで、店員さんが注文の品を運んできてくれた。 

 一花の元にはトーストサンドイッチ、小太郎の元にはカレーライス。

 お互い、手を合わせて「いただきます」と告げてから、話を再開させた。


「夏目くんは、今まで恋人を作ったことってないんですよね」

「ないない。俺、すず一筋だったし」


 その一言にはちくりと胸が痛むが、無視して一花は続ける。


「好きな人がいる……、といった話も、春野さんにはしてないんですよね」

「ないね。だからすずは、俺が恋愛に興味ないと思ってる。こんなにも恋愛のことしか考えてないのに」


 はあ、とため息を吐いて、カレーをぱくり。

 お、うまい、と顔を輝かせる彼に、一花は思わず微笑む。

 きゅっと唇を引き結んでから、一花はサンドイッチを持ち上げた。


「春野さんは、心のどこかで油断してると思うんです。夏目くんは彼女を作る気はない、好きな人もいない、自分と同じ状況なんだ、と。もしかしたら、このままずっと、彼女を作らないんじゃないか――、なんて錯覚している可能性もあります」

「ふむ?」


 小太郎は眉を上げたものの、その目は少しだけ期待に染まっている。

 その目を見ながら、一花は続けた。


「だから、ここで夏目くんに『好きな人がいる』『恋人ができた』となれば、意識が変わるかもしれません。あ、やっぱり、夏目くんも男の子なんだ、恋愛だってするんだ――、と」

「ほ、ほう? 綾瀬さんが言ってた、『男であることを意識してもらう』に近付いてる気がするね……?」


 小太郎はそわそわと前のめりになっていた。

 彼の顔が近付くとそれだけドキドキするけど、ここで離れるとそれこそ意識しているのがバレてしまう。

 一花は表情をごまかすために、サンドイッチを一口食べた。

 それを飲み込んでから、整理した考えを述べていく。


「そして、夏目くんが彼女を作ったとします。当然、夏目くんは春野さんより彼女を優先するでしょう。春野さんはきっと、寂しく感じると思います。それが心のトゲとなって、夏目くんの存在がいかに大きかったか、初めて意識するんです」

「お、おお……っ」

「人は、当たり前にあるものにありがたみを感じないもの。なくなってから、初めて気付くんです。そして、人のものはより魅力的に映るもの。特に夏目くんは、ずっと春野さんのそばにいたわけですから。失った後悔はより強くなってしまうわけです」 


 それこそ、恋愛漫画ではありがちな展開だった。

 ずっとそばにいたからこそ、ありがたみに気付かない。離れてようやく、自分が相手を好きだったことに気付く。

 恋人同士になった主人公たちに現れる、恋敵によくある造形。

 そして、今回はその恋敵が本命なのだ。


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