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鈍感彼女が振り向かない!~隣の家に住む幼馴染が、距離が近すぎて俺を全く意識してくれない~  作者: 西織


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第19話

 夏目小太郎は、目の前の光景に激昂し、絶望し、邪悪な光景に心が壊れかけていた。

 かつて解けなかった、「冒頭のメロスの気持ちを書きなさい」という国語の問題が、今なら解ける気がする。

 いや、この感情を言葉にするのは難しいかもしれない。そう考えると、やっぱり太宰治ってすごいや、とおかしくなった頭が昔の文豪を称えていた。


「す、すずが……、すずが、男と歩いてる……!」


 隣に立つ少女に、それをどうにか伝える。

 今日は、とてもいい日だった。

 この瞬間までは。

 一花は、「春野さんとデートをしましょう」という今までにない発想をくれて、そのうえ下見にまで付き合ってくれるという、とても親切な人だ。


 取材という名目があるとはいえ、ここまで親身に手伝ってくれた人は今までいなかった。

 誕生日プレゼント選びも嫌な顔ひとつせずに、こうして付き合ってくれている。

 前に華蓮に、手伝ってくれと言ったときは、「なぁんであたしがぁ」と巻き舌気味で断られたというのに。

 いい友達ができたなあ、と感動しながら、ふたりで三越を散策していたのが、先ほどのこと。

 そこで偶然、大事件を目撃してしまったのだ。


「だ、だれだ、だれだ、あの男は……っ!」

「だだだだだめです、夏目くん、その形相で飛び出すのは……っ!」


 見つけた勢いのまま、彼らの前に飛び出そうとしたが、一花に必死に止められてしまう。

 一花の軽い身体ならしがみつかれても平気だったが、彼女が身を挺して止めようとしている事実に、少しだけ冷静になった。

 改めて、目の前の光景を見やる。

 そこにいたのは、鈴音だった。


 見慣れたセーラー服に身を包んだ彼女が、同じく学ランを着た男性と横並びに立っている。

 お店の中で、何やら商品を見ているようだ。

 学ランを着た男は、小太郎たちと同じ高校であることがわかる。

 見覚えはないし、顔立ちも少し大人っぽい。

 おそらく、三年生だ。

 上級生とふたりきりで、鈴音は三越で買い物をしていたのだ。


 つまり。

 デート。

 デェトだ。


「ぐっ……!」


 その事実に、心臓が止まりそうになり、思わず手で抑える。

 想像しなかったわけではない。

 十年以上、鈴音に片思いをし、全く脈がないことに打ちのめされ続けていた。

 鈴音は「部活引退したら、彼氏つくろっかな~」なんて口をすることもあったし、暇になったら本当に作ってもおかしくない。


 鈴音が「彼氏募集中!」と校舎に呼びかけたら、みんな我先にと窓から飛び降りるだろうから。

 だから、こうして男の隣で笑う鈴音を、想像しなかったわけじゃない。

 だけど、想像と実物は全くの別物だった。


「お、おえええええー……っ!」

「だだだだ、大丈夫ですか、夏目くん……っ」


 猛烈な吐き気を覚えて、うずくまりそうになってしまう。

 慌てて一花が背中を擦ってくれるが、身体の拒否反応は止まらない。


「脳が……、脳が痛い……っ! 爆発する、俺の脳が、脳がっ!」

「お、落ち着いてください、ま、まだ特別な関係だと決まったわけじゃないですよ……! ただの友達で、ちょっと買い物をしているだけかも……」

「だとしても、許せない……っ! 俺が一度もやったことのない、すずとのデートを……っ! ほかの男がやっていることを、俺は容認できない……っ!」

「お、思ったよりも心が狭い……っ! で、ですが、一度冷静になってくださいっ。まずは、まずはあの男の人がどんな立場なのか、確かめないと……! ええと、もし恋人だったら?」

「おええええええっ!」


「え、ええと、春野さんの気になってる人っ!」

「おええええええっ!」

「んんんん、ただの男友達っ!」

「お……。……おえええええええっ!」

「あぁ、これでもダメ⁉ 付き合ってもいないのに、束縛が強すぎませんか……っ⁉」


 一花がわたわたと慌てていて、至極真っ当なことを言ってくるが、心は正直だった。

 嫌なものは嫌だ。

 わちゃわちゃとしてしまったが、確かに一花の言うとおり、関係を確かめるべきだろう。


「わ、わかった、綾瀬さん……。追おう……、追ってみよう……」

「ほ、本当はこんなことやりたくないんですけど……。やらないと、夏目くんたぶん死んじゃいますもんね……」


 真面目な一花は覗きや尾行なんてしたくないようだったが、今は四の五の言っていられない。

 小太郎としてもこのまま帰るくらいなら、あの男にいきなりタックルをかましたほうが千倍マシである。

 三越は休日らしく混んでいるので、尾行は容易い。


 こそこそと追いかけながら、鈴音の動向を見守った。

 鈴音は、男の隣で愛想よく笑っている。

 くすくすと笑いながら、時折手で口を覆っていた。

 その表情は、小太郎が見たことないものだ。


 小太郎の隣にいる鈴音は、あんなふうに笑うことはない。口を手で隠すことなく、明るく大口を開けて、けらけら笑う。

 そんな快活な彼女が、小太郎は好きだった。

 けれど、まるで別人のように大人しくしている彼女に、「そんなに、その男によく見られたいのか……?」と心の中で吠えてしまう。


「……? わ、わあ……っ、夏目くん、無言でハラハラ泣かないでください……っ!」

「ご、ごめん……」


 隣で身を縮ませていた一花が、突然ぎょっとした声を上げた。

 どうやら気付かないうちに泣いていたらしく、顎からぽたぽたと涙がこぼれ落ちていく。

 一花がそっとハンカチを差し出してくるので、ありがたく借りた。

 人から初めてハンカチを借りたが、まさかこんなシチュエーションになるとは思わなかった。


「キャンプ用品売り場があったから、ナイフ買ってこようかな……。自決用に……」

「やめてください……。わたし、男の子との初めてのデートで、相手が自決用のナイフ買ったら一生物のトラウマです……」

「綾瀬さん、介錯してもらっていい?」

「わたしのトラウマをより強固なものにしないでください……」


 ぶつぶつとそんなことを囁き合いながら、彼女たちの動向を探る。

 鈴音の笑顔を見ていると悲しみで胸が潰れそうになるが、隣の男を見ると怒りがめらめらと燃え盛る。

 彼の背丈はそれなりにあるようだが、小太郎には届かない。頬にはニキビがあって、肌の手入れを怠っていることが見て取れる。髪には寝ぐせもついているようだ。


 は? 

 なんでそんな状態で、鈴音の隣に立ってんの?



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