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異世界で魔法使いの男に軟禁されているが穏便に済ませたい  作者: 耳耳ミ・ミ・ミ
異世界へようこそ、魔法使いさんこんにちは
9/23

黒い魔法使いの夢

 私の夢には、イマジナリーフレンドの蛸がいる。

 暗い海の底で、大きな蛸の腕だけが視えるのだ。

 そのまま「たこさん」と呼んでいる。

 たこさんは喋らないが、腕を振り回して感情表現をしてくれる。

 私が悲しい時は、そっとぬるぬるした腕でハグしてくれるし、怒っている時は宙でタコパンチを披露してくれる。

 優しいタコさんなのだ。多分私の妄想なのだけど。

 たこさんは私が一番つらい時に発現した。学生時代だったような気がする。それからずっと私の一番のお友達である。碌でもない事があっても、夢の中でたこさんに話すだけで落ち着くのだ。言葉を発さない相手だからこそいいのだと思う。

 蛸は腕で周囲の状況を把握し、独自に判断する。

 腕がそのまま脳のような役割を持って動くのだ。

 そのイメージが反映されているのだと思っていたが、違うらしい。

 今日の夢では「たこさん」に人間の様な、胴体と顔がついていた。

 どういうことなんだ。

 切れ長のつり目、黒い瞳は蛸っぽい。眉が無いので、蛇のような雰囲気もある。髪は長く蛸の腕のようにくるりとカーブしている。人間の手足の部分には、蛸の腕がついていた。



 「た、たこさん!顔ついてる!なんで?!いつも腕しかないじゃん!!!」


 「それは世界が隔たっていたからだ。今は同じ世界に存在しているから姿形が明瞭になったのだ」


 陶器の人形の様な顔が口を動かした。彼は、白磁の人形を思わせる、白く艷やかな肌をしていた。

 形の良い唇からは、抑揚の無い声が発せられる。

 それがより彼を人ならざるものだと感じさせた。


 「じゃあ、たこさんはこの世界の人だったんだね。ていうか話せたんだ。もしかして魔法使いか?!」


 「そうだが。相変わらず姦しいな」


 騒ぐ私をよそに、たこさんの反応は薄い。     

 たこさんの方は私の事を見目も含めてよく知っているかも知れないが、私の方は言葉を話さぬ蛸の腕に一方的に思いの丈をぶつけてきただけなので、嬉しいやら恥ずかしいやらで忙しいのだ。

 私の夢の中のイマジナリーフレンドだと思っていたので、毎日下らない不満や悩み、小さな喜び等何もかもぶちまけてきた。

 その相手が、高い知性を持った個人であった事だけでも私には大事だ。そして、彼が美しい男の見目をしているのも私としては具合が悪い。

 たこさんは暗いというより青白い顔をしてこちらを見ている。


 「じゃあこれからはたこさんと話せるようになるんだね!といいつつ、私は元の世界に戻りたい気持ちもあるんだけど、ソレについて何か知ってたりする?」


 「元の世界に戻るのは難しいだろう。お前は元の世界の軸を忘れてしまっているだろう?」


 元の世界での名前を忘れた事を言っているのだろうか。他も全て朧なのだ。何故わかるのだろう。


 「じゃあ、思い出せれば戻れるということ?」


 「違うな。座標は必要だが、座標がわかってもお前の力で渡ることは出来ない。ならば、哀愁に駆られるだけだ。忘れている方がいい」


 「そっか。確かに覚えている方が辛いかも知れないね。淋しい気もするけど」


 「そのうちに慣れる。時が経てば全ては同じになる」


 「それ魔法使いっぽいね」


 「魔法使いだからな。それで、お前は何処にいるのだ?」


 たこさんが、黒い目を細めてこちらをみる。人形のような顔が動いているのは奇妙な感覚だ。そこにあるはずなのに、現実感がない。

 いや、これは夢なのだが。


 「今はルリエルさんの所にお世話になっているよ。灰色の魔法使いとか呼ばれてたけど知ってる?」


 「そうか。通りで気配が捕まらない訳だ。灰色の、そうか南の若い魔法使いだな」


 「探してくれてたの?ていうか、現実で会えるってこと?」


 「そうだ。ふむ。ルリエルの所からは出られるか?」


 「どうだろう。難しいかも。なんというか、少し激しい気性の人のみたいで、いきなり出ていくとか言ったら怒りそうかも……」


 言葉を最大限選ぶが、どう伝えても角が立ちそうである。


 「そうだろうな。捕らえられているのか?力尽くの介入が必要か?」


 「いや、いい暮らしはさせてもらってると思うんだけど、ちょっと、いやかなり?認識の齟齬がありそうっていうか」


 「歯切れが悪いな。脅されたか、拐かされたか」


 「いやあ、なんかルリエルさんは私のことを、未来の花嫁的なものだと思ってるらしくて」


 「ふむ。まあそれならば側に置いておきたいのは納得がいく。しかし、それは君の望むモノではないだろう」


 「うん。衣食住お世話になっているので、あんまり強くも言えないし、手のひら返しされて攻撃されたら私じゃ手も足も出ないし」


 「そうだろうな。私の方で方策を練ろう」


 「え、ありがとう。でも、出ていったところで行く当てないんだけど。働き口も無いし」


 「私のとこに来ればいい。友人を一人くらい面倒を見る甲斐性はある」


 「頼もしすぎる」


 「お前は外に出れる状況をつくれ。灰色の魔法使いに気付かれないように。魔法使いたる私が言うのもおかしな話だが、魔法使いは己の思うままにならぬことを許容出来ぬ。彼の者を説得しようなどと思うなよ」


 「魔法使いが言うと真実味あるね」


 


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