異世界なのに初日以降の出会いが無い!
恐らく、私を軟禁している魔法使いの男が探している花嫁を、その男自ら捨ててきたという珍事が起きたが、その後は平穏である。
そもそも、私は、その紫の魔女を見ていないので、どの様な人物で、ルリエルとどのようなやり取りの末、そんな結末になったのか知らない。
ルリエルは、思い込みが激しい人物の様なので、顛末は見えるといえば見える気もするが、できるだけ考えない様にしている。
ルリエルといえば、相変わらず私について回って、やれドレスはどうだ、宝石はどうだと勧めて来るが、あまり興味が無いとわかると、この国の情勢や文化の話をしてくる様になった。
そちらは、今後この世界で生きる為には必要なのでありがたい。
ドレスも宝石も、まったく関心が無い訳ではないのだが、今は優先すべきでない為、反応がおざなりになってしまうのだ。
彼は、夢見る魔法使いなので、『花嫁』の為に、試行錯誤したのだろう。
その気持ちを大切にしてあげたいとは思うが如何せん、こっちは偽物の花嫁なのである。
あまり乗っかっておくのも怖い。
「そういえば、ここにはルリエルとジャック以外にも誰かいるんですか?食事の用意やベッドメイキングなんかが勝手に行われているので誰かがやってくださっているのかと思って」
「魔法で使い魔にやらせているよ。彼らは主人以外の前には姿を現さない」
「そうなんですね」
便利だな。
お願い事には、対価が必要だったりするのだろうか。
どちらにしろ私は会えない様だからあまり関係ないのかもしれない。
異世界もののテンプレといえば、次々にイベントが起こり苦難が待ち受ける奴だが、隣にいる魔法使いの男が私の前に『イベント』らしきものが現れる前に片付けてしまうので、何事もエンカウントしてない。
毎日、豪華な屋敷で、高級ホテルの様な何不自由無い生活のご用意をされてダラダラ過ごすだけである。
あまりにも怠惰の私に向き過ぎていて、何処でしっぺ返しを食らうか怖い。
私の隣でにこやかに微笑む、美しい顔の魔法使いは好意的だが何を考えているのか未だに分からない。
「ルリエルさんは、いつから魔法使いなんですか?ジャックは兄弟だけど、魔法は使えないのですよね?」
「魔法使いなのは生まれた時から決まっているよ。はっきりと自覚したのは、周りの人間が魔法が使えない事を知った時かな。僕は生まれた時から魔法使いだから、皆が魔法が使えない事がわからなかったんだ。僕が見えているものは皆には見えず、僕が触れることが出来るものに皆は触れることが出来ない。それがわかったから、ジャックが魔法が使えない事がわかったんだ。それまでは弟なんだから僕と同じ事が出来ると思っていた」
「なるほど」
そういうものかもしれない。他人との比較が無いと、客観的な自分の立ち位置なんてわからないものだ。
「大丈夫でしたか?その、周りと違うことで色々あったのでは?」
お前、いじめられてたんと違うか?をオブラートに包んだつもりである。
「僕は別に。それを感じていたのはジャックじゃあ無いかな」
「他のご家族は?」
「さあ?僕が物心ついた時には父も母もいなかったからね。街の人間が様子を見に来てくれたし、僕は魔法使いだからなんとでもなるものさ」
「そうなんですね」
あまり関心がなさそうなので、会話を打ち切った。自分の事を話すのが大好きなのが人間というものだが、彼は自身の事に、自身を取り巻くことには関心が薄いようだ。