おはなきれい
庭の花、綺麗だな!(現実逃避)回です。
主人公は情報過多で脳が疲れ切っています。
花が綺麗だなぁ。
夢のような豪邸の庭で、背が高くて、青い瞳が輝く美しい男と並んで歩いている。
夢だったら良かったなあ。
夢だったら思いっきり楽しんじゃって、美しい男と腕を組んじゃったりして、美しい花々を愛でちゃったりしたのにな。
しかし、美しい花々は魔法でつくられた得体のしれない植物だし、隣の男は美しいが地雷がわからない危険な魔法使いだしで、なかなかどうしてままならない。
温かい午後だった。
ぼんやり屋敷内を徘徊する私に、ルリエルが声を掛けてきた。
「庭を散歩しないかい?」
「はい。いいですよ。」
別にすることがある訳では無い。
知りたい事はたくさんあるが、多過ぎて何から聞くべきか考えあぐねているという処だ。
美しい庭をルリエルと並んで歩く。
いや、正確には彼は歩いていない。
並んで宙に浮いていると言ったほうが正しい。
ここで人間に合わせない所が、魔法使いと人間、ルリエルと私のズレだなと思う。
地を歩く私は空を飛べないのだから、彼が合わせるしか無いのだが、彼は並ぶ速度は合わせても、地に足をつけて地面を歩きはしないのだ。
彼から私に気に入られたいという素振りは見て取れる。
しかし、私は彼がどうして会ったこともない私の為に屋敷を造り、庭の植物を育て、ドレスをしたためたのかわからない。
なにかの間違いではないのかと、ずっと考えている。
私が何か超自然的な力が使えたりすれば、話は変わるだろうが、彼の話を聞いて、彼の傍にいるほどに、私は何も特別なことは無い唯の人だと思う。
「この庭は気に入ってくれた?」
私の考えを他所に、ルリエルは此方をみて微笑んだ。
はにかむように笑って、それから少し困った様に眉を寄せた。
私の反応が無くて不安になったのかもしれなかった。
「はい、素敵な庭ですね。あの青い花、凄く鮮やかなブルーで綺麗。」
「そう!よかった!君のことを思って育てたんだ。いつか君が僕のところに来てくれたら、喜んでほしくて」
彼はぱっと顔を明るくして、眺めていた青い花と同じ様に輝く青い目を瞬かせた。
「…ありがとうございます」
「ねえ、手を繋いでも良いかな。
何もしないよ、繋ぐだけ。ね。」
「どうぞ」
ルリエルの左手が伸ばされた。
私は少し迷って、右手をそっと差し出した。
彼は、少し恥ずかしそうに笑って、私の手を強く握った。