戻って来て!
ルリエルが少しばかり気まずそうにしながらこちらに近付いてくる。
「あの、花嫁、何か嫌だったから出て行ったの?僕は君に戻ってきて欲しいんだ。何か嫌なものがあるのなら何でも作り変えるよ」
「えっと、そうですね。何か嫌だったと言うよりも何も分からないのが怖かったというか、たこさんにも会いたかったですし」
「……僕よりも黒色の魔法使いの方が良いんだ……」
絶望的な表情を浮かべて此方を見るルリエル。空気が震えだす。
「そういうのじゃありません!どっちがいいとかじゃないですよ!知っている人に会いたいと言うのは、そんなにおかしな事ですか?」
「わからないよ。僕には会いたい奴なんていないから」
ルリエルが青い目を揺らしながら首を振る。
「ジャックや私がいるじゃないですか。もし離れたら、会いたくないですか?戻ってきて欲しいって思ってるのはもう一度、会いたいって事でしょう?」
「会いたいよ!会いたかった!奪った奴が憎らしくて堪らないんだ!」
「その気持も分かりますよ。でも、無闇にそれを他人に向けるのは危険です。それは何れ貴方を、独りにしてしまいます」
それは悲しい事だ。人との付き合い方を知らない彼は、このままだと、他人の事も己の事も傷付けるだろう。
「嫌だよ。戻って来て。お願いだよ」
「ルリエルさん……」
捨てられた子犬の様な目で訴えかけてくる。消して小さくはない体を縮こませて泣き出しそうなルリエルは弱々しくて、思わず手を差し伸べたくなってしまう。
彼は寂しい人なのだ。でも素直に言えるだけいいのだと思う。
正直で可愛い人なのだろう。
「分かりました。なら、戻りますよ。いいかな、たこさん?」
泣きそうなルリエルに微笑んで、振り返ってたこさんを見る。
たこさんは相変わらず感情の読めない能面の様な顔で佇んでいた。
「ああ、お前がそうしたいなら」
「でも、たまに遊びに行っていい?」
「フッ、歓迎しよう」
黒色の魔法使いは、初めて少しだけ笑ったように見えた。口角がほんの少しばかり上がったような気がしたのだ。
「では、私は戻ろう。灰色の、私の友人を傷付けるなよ」
「ああ」
ルリエルが鼻を擦りながら短く答える。
「ではな」
黒色の魔法使いで友達であるたこさんは、蛸足で軽く私の頭を撫でると、溶けるようにして消えた。
魔法の残滓が少しだけ光を放って、その内に何もなくなった。




