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異世界で魔法使いの男に軟禁されているが穏便に済ませたい  作者: 耳耳ミ・ミ・ミ
異世界へようこそ、魔法使いさんこんにちは
2/25

魔法使い、本当に変わった人だったわ

 少年は、ジャックと言うらしい。

 道すがら、自己紹介をしてくれた。

 荒野をジャックについて行くと、石の外壁に囲まれた街があった。

 円を描くように高さ10メートルはある外壁が取り囲んでいる。

 門は空いていおり、門番の様な人が居た。

 男性二人。

 鎧を纏い、剣を下げている。

 中世の西洋世界の鎧のような作りだ。

 それくらいの技術レベルなのだろうか。

 門番の一人がジャックに向けて声を掛けてくる。


 「ジャック、どちらさんだ?」


「兄貴の客」


「…ああ、ルリエルの」


「いくぞー」


 私の身なりはこの世界では特異なのだろう。

 普通のパーカーとズボンなのだが、明らかに化学繊維だからな。

 門番二人は探るように私の上から下までを眺めだ。

 門番と一悶着あるのではないかと身構えていたが、ジャックの一言であっさりと門を通される。

 ジャックが早く付いてこいとばかりに手を振っている。

 私は、慌てて追いかけた。


 ジャックのお兄さんは「ルリエル」というらしかった。


 ジャックの家は、思いの外、というかかなりの豪邸だった。

 大きな洋館の様な造りで、美しい彫り物が施してある壁と、柱。

 所々に、金の細工が施されている。

 庭は美しく整えられ、青い薔薇に似た花が咲き乱れていた。

 元の世界でも、一握りのお金持ちしかこんな建物には住まないだろう。


 てっきり、あばら家に住んでいるのではないかと思っていたので、想像とは違う緊張が走った。

 ジャックはこんな良い家の子なのに、なぜ身なりが悪いのだろうと思った。しかし他所様の家庭事情に気軽に踏み込むものでもない。


 「おい、こっちだぞ」


 ジャックが、美しい庭を過ぎて、白い石段を上がっていく。

 大理石だろうか。

 歩くだけで緊張する。


 「あ、うん、いいの?いきなり入って」


 「大丈夫だろ。流石に兄貴も敷地に入っただけで攻撃はしないって」


 「待って、攻撃される可能性があるの?!大丈夫なの?!」


 魔法使いは過激なのだろうか。


 「さあ?兄貴の事は俺もよくわからないし。」 


 「ええ?!お兄さんなんだよね?!不安だな」



 鮮やかに彩られた玄関ホールに青い花びらが舞っている。

 中央の階段から、ジャックと同じ灰色の髪に青い目の美しい男が舞い降りてきた。

 正しく、舞い降りてきた。

 彼は階段を踏むこと無く、2階からふわりと浮いて私の前に降り立ったのだ。

 宙を優雅に飛行したのである。

 私は映画の様なその姿を眺めていた。


 彼はジャックとは違い、白いシャツに紺のベスト、上からローブの様なものを纏い、色とりどりの宝石のついた金属の飾りを身に着けていた。

 灰色の髪は長く、アシンメトリーに切り揃えられた前髪から青く輝く目が覗く。

 後ろ髪は緩く編み込まれて背中に流されていた。


 整った目鼻立ちは、冷たい印象を与えるが、それを振り払うように彼は笑顔だった。


「ああ!待っていたよ!僕の花嫁!」


 何だって?

 彼は私の前で手を合わせると、生き別れになった家族をみつけたかの様に大仰に喜びを示した。

 私とジャックは、言われた意味がわからないのでぽかんと見つめていた。

 私はジャックに、『あんたの兄貴でしょ!何とかしてよ!』と視線を巡らした。

 ジャックはその意を受け取って、少し顔を歪めると、小さくため息をついて言葉を発した。


 「えっと、兄貴、何だって?花嫁って、聞こえた気がするんだけど」


 「ああ、ジャック、まだいたのか。お前の役目は終わったから、もう行っていいぞ。」


 「何だよ役目って!」


 「僕の花嫁が此処に来るのは決まっていた。お前はその導き手。だからもうお前の役目は終わり。さあ、花嫁、此方にどうぞ!」


 ルリエルは、めんどくさそうにジャックに向けて手を払うと、此方に優雅に手を差し出した。

 エスコートするつもりなのだろうか。

 全く手を取る気にはならない。


 「あの、状況がよくわかりません。説明してもらえますか?あの、よければジャックも一緒に」


 「……!ああ、もちろんだよ花嫁!まずはお互いのことを知るべきだよね!ジャック、ジャックね!君が望むならそうしよう!」


 ジャックは『まじかよ』という顔をしていたが、渋々付いてきてくれた。

 恨みがましい視線が痛いが、私をこのよくわからない。人物と二人っきりにはしないで欲しい。

 出会ってまだ数刻しか経っていないが、この世界で見た人間の中で、ジャックが一番良心的かつまともな気がしている。







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