街に出る!魔法使い、殺し合う!何故!
ルリエルと一緒に街に降りてきた。
ヨーロッパっぽい街並みに、露天商が組み合わさったような感じだ。
老若男女行き交い、露店の客引きの声が飛び交っている。
賑わっている。
久し振りの、人間の活気のある光景に気分が上がる。
「わあ、賑わってますね」
「そうだね」
「雰囲気だけでも楽しいですね!」
「そうだね」
にこやかに笑うルリエルだったが、先ほどから「そうだね」botになっている。
他人が何をしているのか、何に喜び関心があり、賑わっているのかに興味がないんだろう。
私が行きたいというので連れてきた、それだけなのだと思う。
私が関心があるのだから貴方も同じ様に感じなさいとは言えないし、別に構わないのだが、興味のないことに付き合わせて悪いなとは思う。
本人は興味がなさそうだったが、活気のある町の中で、太陽の光を受けて立つルリエルは美しかった。
銀色の髪が太陽の光を受けて輝いている。
青い目は空の色と相まって、何時もより澄んでみえた。
此方に向かって微笑んでいる姿は、絵画のようだ。
その姿が綺麗で、私はまた楽しくなった。
興味の無いルリエルとは裏腹に、私はあらゆるものに目を引かれて、あっちにふらふら、こっちにふらふら、右へ左へと露店を見て回った。
私が綺麗な織物を眺めていると横で店主と話をしていたルリエルが支払いを済ませているのが見えた。
「え、ルリエルさん?!」
「おや、他にも欲しいものがあったかい?」
「いえ、あの、買ってくださったんですよね?ありがとうございます」
「どういたしまして。他に欲しいものがあれば何でも言ってくれ」
買い物するというよりも、あれもこれも可愛いと騒いではしゃぎにきたつもりだったのだが、気付いたらそれなりの量をルリエルに買ってもらっている。
何でも買わなくていいとは、言ったのだがせっかくだからと微笑むルリエルに押し切られている。
返品するわけにもいくまい。
出来るだけ手を伸ばさずに済まそうとは思うのだが、素敵なものを見ると心惹かれてしまうので仕方が無い。
何もかもが私には珍しいのだ。
いつの間にかふらふら歩く私の後ろをルリエルが見守るという構図が出来上がっていた。
私が露店ので謎の石を眺めていると、端のほうに見たことのある触腕が見えた。
蛸足がひょこひょこと露店の台の横から手招きしている。
たこさんが現れたのかも知らなかった。
早足で蛸足を追いかける。
「?!花嫁?」
後ろの方でルリエルの慌てる声がした。
すぐ戻るので、少しぐらいいだろう。
促されるままに暗がりの方に蛸足を追いかけていくと、大きな影にぶつかった。
日陰に入ったと思ったら、影そのものが人型になったのだ。
「わっ」
「相変わらず、騒々しいな」
聞き覚えのある声に顔を上げると、夢であった能面のような顔をした男が立っている。
暗い影の中に青白い顔だけが浮かんでいて身体のシルエットは黒いモヤのようでよくわからない。
その中に蛸足だけがいくつか浮かんでいる。
「たこさん!」
「こちらでは、はじめまして、だな」
「そうだね!会えて嬉しい!」
暗がりから這い出している蛸足の一つを、握り握手の気持ちでぶんぶん振り回す。
これが腕なのか足なのか魔法で出来た虚像なのかはわからないが、気持ちの問題だ。
もっちり、ぬめぬめしている。本物の、蛸の腕とも違うなんとも言えないもちもち感。それが楽しくて、ずっと触っていると、唐突に引っ張られた。
触っていた蛸足に絡め取られる様にして持ち上げれた身体が宙を舞う。
視界が回ったと思ったら爆発音がした。
強い光で視界がチカチカして目を開けられなくなった。
「花嫁!」
グワングワンと頭が揺れる中で、ルリエルの声が聞こえた。しかし、どうする事も出来ずに宙吊りのまま藻掻くしか出来ない。
視界が戻ってきて、辺りの状況を見回すと辺りに白い光の結晶の様なものが突き刺っている。
その中にたこさんの腕に絡め取られた私はいた。たこさんに宙吊りにされ振り回せれながらも守られている様だ。
そして光の結晶の出どころはというと、銀色に輝くルリエルだった。バチバチと音を立てながら次の攻撃を仕掛けようとしている。
「ま、待って、攻撃しないで!ルリエルさん!」
「花嫁!すぐに其奴を殺して僕の下へ連れ戻してあげる」
駄目だ。全然話を聞いてない。
白い光が飛んできて、蛸足がそれを弾く。弾いた拍子に蛸足も塵となって霧散した。
「言っただろう。魔法使い相手にそんな問答は意味が無い。しっかり捕まっていろ」
ぐにゃぐにゃと人の形を失いながたこさんが応えた。たこさんの体のヤミが飛び散る様にして私の身体を包むと、その中に、呑み込まれた。世界が反転する。