小話 3-6 ◇◆ 冒険者兄弟の結婚祝い
※過去の法律違反および一歩手前の描写があります。ご注意ください。
在住国の法令を遵守し楽しい飲酒ライフを。そして後悔のないよう倫理観のある行動を。
全7話執筆済。毎日投稿予定です。
「で?お前の方はどうなってんだよ、ユン。」
「どうって?」
勝手に食事処のカウンターへ行って、勝手に酒の代わりにモクテルらしき謎の飲み物を適当に作ってきたユンが、勝手にまた俺の向かいに座って謎の飲み物を飲み始める。
「お前はまだ結婚してねえのか?」
「してない。」
「する予定はねえのかよ。」
「……具体的には、まだない。今のところ。」
「何だよ、妙に歯切れが悪いな。彼女はいんのか?」
「それはいる。……一応。」
「ほー。一丁前にやるじゃねえか。
ただ『一応』ってなんだよ。……そうか、今にも振られそうなんか。聞いて悪かったな。元気出せよクソガキ。」
俺が適当にユンを揶揄うと、ユンは拗ねたように覇気のない声で「うっさい、クソジジイ。」とだけ返してきた。
「おいユン。テメェ『今のところ』だの『一応』だの、そんな弱っちいこと言ってっから振られんだぞ?
はぁ……兄貴の方は王女様と新婚旅行だっつってんのに、弟の方は情けねえなぁ。泣き虫なお嬢ちゃんのときから変わってねえじゃねえか。兄貴を見習え。」
事情は知らねえがとりあえず俺がそういじめると、ユンは下唇を出して情けねえ顔をした。
「……別に。振られそうになってないもん。」
あーあー。コイツ、相変わらず煽られんのに耐性ねえなぁ。
ったく、面倒臭え奴だ。……簡単に涙が出ないだけ、成長はしたようだがな。
俺はお優しく心配してやる気はない。代わりに、この馬鹿を暇つぶしがてらつついてやることにした。
「じゃあアレか。テメェが彼女に飽きて捨てる気なんか。いいご身分になったもんだなぁ〜。」
「別に飽きてなんかない!いい加減うっさいクソジジイ!」
「ったく、じゃあ何だよ。何でそんな歯切れ悪いんだよ。さっさと結婚でもして新婚旅行でも何でも行きゃいいじゃねえか、お前も。
優柔不断だと本当に振られんぞ?後悔しても知らねえからな。」
「っ、クソジジイには関係ないし!」
…………コイツ本気で面倒臭えな。冗談抜きで振られるぞ。
「お前、ゼンのことは俺にバラしたくせに自分のことは黙秘する気か。男気の欠片もねえなぁ。
ゼンは可愛がってた弟に裏切られて、さぞかし傷つくだろうなぁ。信頼してただろうに……可哀想な兄貴だ。」
「うっざ!クソジジイうっざ!!」
ユンは兄のゼンのことが大好きな、馬鹿がつくほどに健気なガキだった。
どうやらそれは今でも微塵も変わっていないらしい。
ゼンにはバレる訳がねえのに、罪の意識からせめてゼンに義理でも通そうとでもしているのか、観念したように溜め息をついてぶつくさと垂れ流し始めた。
「………………俺の彼女、めっちゃいい人だから。」
「良かったじゃねえか。惚気かよ。」
「だから、なんか……最近、俺じゃ駄目な気がしてきて……もう、どうしていいか分かんない。」
「……は?何言ってんだ?」
ユンは情けねえ顔で続けた。
「俺の彼女は王女様じゃないけど……でも、王女様よりも王女様みたいな人だから。」
「何だそれ?ゼンに張り合ってんのかよ。見苦しいな。」
「違う!うっさいなクソジジイ。」
「じゃあどういう意味だよ。」
「…………俺の彼女、まるで王女様みたいな箱入り娘のお嬢様なの。
それで……本物の王女様以上に、なんか夢見ちゃってるの。すっごく純粋なの。世の中全部、物語みたいに綺麗だと思っちゃってるの。
………………肝心の相手が俺なのに。」
……ユン。お前、卑屈すぎんだろ。何だよ「相手が俺なのに」って。
「だから、全部すっごい全力なの。
なんか知らないけど俺が初恋らしいし、手繋いだくらいでめっちゃ照れてくるし、軽くキスしたくらいでめっちゃ真っ赤になるし。……それで、毎回デートで最後になんか期待してそわそわしてるし。
前にただの眼宝玉をプレゼントしたら、すんごい桁違いのお金かけてアクセサリーにしちゃったの。一生の宝物にする──って。
…………全部、大袈裟なの。」
……惚気がキツすぎて吐き気がしてきた。いい加減にしろ。
俺が「じゃあ良かったじゃねえか。大事にしてやれよ、そのお姫様。」とツッコむと、ユンは泣きそうな顔をした。
「……っ、だから大事にできないんじゃん。だから俺じゃ駄目なの。
向こうは全部……俺に純粋に全部くれたのに、全部俺が踏み躙っちゃったんだ。
好きになってないのに付き合っちゃったし、向こうは初めてのキスだったのに適当にしちゃったし、手だって適当に繋いじゃったし……俺、全部適当にやっちゃった。
セレンディーナ様は全部初めてだったのに、俺は全然初めてじゃない。
セレンディーナ様が全部ずっと大切にして夢見てきたものを、俺が全部滅茶苦茶にしちゃったんだ。
でも……セレンディーナ様はそれでも俺のこと許してくれて、全部滅茶苦茶にされてもまだ諦めずに夢見て期待してくれてるの。……ずっと俺のことを好きでいてくれてるの。
それなのに……俺は今まで、セレンディーナ様に酷いこと言って傷つけちゃってた。
セレンディーナ様が必死になって伝えてくれてた俺への気持ちを……俺が、最悪な形で否定しちゃってた。
そのことに、俺、今さら……最近になってようやく気付いたんだ。
……っ、もう駄目じゃん。そんなの。
俺が今さらセレンディーナ様のことちゃんと好きになったって……今さら気付いたって、もう全部、全部手遅れだし……これから先も、全然うまくできる気がしない。
これからは、っ……もっと大切なものを踏み躙っちゃう気しかしない。
だから……そう考えてたら、もう最近、どう手を繋げばいいか分かんなくなって、キスなんて俺がしちゃいけない気がしてきて……何を期待されてもどうしていいか分かんなくなってきた。
ほんとに今さらなんだけど、でも……結婚なんて、そんなの…………俺、できる気がしない。
…………そんなの、俺なんかとしちゃいけないんだ。」
そう言って目に涙を浮かべるユン。
お可愛く下睫毛が長いお陰でギリギリ零れずに済んでいるようだったが、もうこれは泣いている判定でよさそうだ。
……相変わらず泣き虫な奴だ。
「はぁ……お前な。よく分からねえが、要するにただ『お相手がお綺麗な女すぎて、ビビって二の足を踏んでる』っつー話かよ。別にいいだろうが。ぐだぐだ言ってねえで男冥利に尽きると思っとけよ。
むしろどっちかっつーとお前が潔癖すぎるだけだろ。手も繋げねえとかガキか。テメェは何歳だ。」
「そんなんじゃないもん。……だって俺、ほんとに酷いんだもん。俺……やっぱり、全然セレンディーナ様に相応しくない。」
「んなもん、ゼンだってどうせお前と変わんねえんだろ?なんならアイツの方がずっとモテていろいろやってきてそうだよなぁ。
それでも今は王女様と仲良くやってんじゃねえか。ぐだぐだ言ってねえで見習えよ。」
するとユンは泣きの峠を越えたのか、ゆっくりと瞬きをして涙を目元に滲ませて、残りはなんとか引っ込めた。
それから一息ついて、もはや不貞腐れた顔をして投げやりに言った。
「兄ちゃんはまだいいの。兄ちゃんは筋を通してみんな一応は彼女にしてた。ちゃんとお付き合いしてたもん。
でも、俺はそこまでモテなくてそんなすぐに彼女なんて作れなかったから、遊んでる人たちがいるとこに行ってもう適当にやっちゃってたんだもん。俺、ほんとにクソだもん。」
………………お前。
「……聞きたくなかったな。あんなにお可愛い健気なお嬢ちゃんだったお前の口から、そんな話はよ。」
「そっちが無理矢理聞いてきたんじゃん!」
俺は呆れながら言った。
「魔導騎士団に行き着いたっつっても、お前もやっぱりギルド育ちのクソ野郎の道はちゃんと通っちまったっつーことか。
何でそんなことしちまったんだよ。開き直る度胸すらねえならすんじゃねえよ。この考え無しのクソガキが。一生泣いて後悔してろ。」
すると俺の言葉を聞いた瞬間、ユンは一気にこめかみに青筋を立てて、ついにブチ切れて言い返してきた。
「──っ!だって!!うまく眠れなかったんだもん!!!
仕方ないじゃん!!まじでうっさい!!このクソジジイ!!!」
◇◆◇◆◇◆
ユンの声に、そこら辺で転がっていた何人かがビクッと反応して寝ぼけ眼で顔を上げる。
俺はモグラ叩きのようにそいつらの頭を軽く蹴って、もう一度心地良い眠りにつかせてやった。
…………ああ。そうか。そういえばそうだったな。
十年以上も前のことだから、忘れちまってたな。そんな細けえこと。
「…………そうだったな。
そういえばお前ら、寝るの下手くそだったもんな。」
たったの40日程度。コイツらを物置きに泊めてやった間。
そういえば、毎晩ずっとひっきりなしに聞こえてきていた。煩くてこっちが眠れなかったくらいだった。
──ユンの泣き声と、それをゼンが宥める声。魘されている二人の譫言。それと、たまにゼンの啜り泣く音。
そんでもって、お互いが寝ている少しの間に、お前らは夜中に一人で出てきてよく俺に絡んできたな。
…………ちょうど今みてえに。こんな感じで。
そういうことか。
あれから大人になって……それでも、結局まだ変わってねえのか。
そんで今日もまた懲りずに、宿屋を抜け出してきてんのか。
…………相変わらず馬鹿な奴だ。お前は。
「…………そりゃ、ギルド育ちのクソ野郎なら、酒か女くれえしか、いい眠り方なんて知らねえよなぁ。」
ユンは肝心の彼女の前ではなく、どうでもいい俺の前で無駄に開き直って「しんみりしてくんのやめて。クッソ腹立つ。」と文句を垂れてきた。
「お前、酒はどうなんだよ。そっちの方がまだマシじゃねえか。コイツらみてえにアホになれるぞ。」
俺はちょうど足元に転がっていた奴の脚を軽く蹴る。それに対してユンは「ここのギルド離れてしばらくした頃に兄ちゃんと二人で試してみたけど、二人して一杯で吐いちゃって全然駄目だった。味は好きになったけど。」と、しれっと過去の未成年飲酒の罪を暴露した。
ギルド内ならその程度は罪のうちに入らねえから問題ねえが。実質、治外法権だからな。
「まあ…………仕方ねえよな。ユン。」
「何それ。慰めてるつもりなの?」
「慰めてなんかねえよ。哀れんでんだよ。お可哀想なガキだな。」
ユンがまた本気で不快そうに顔を顰めたから、俺は仕方なく適当にアドバイスをしてやった。
「お前がどうなろうと、どうでもいいがよ。
んで?結局のところテメェは別れてえのか?そんな二度とお目に掛かれねえようなお綺麗ないい子ちゃんを手放してえのかよ。
勿体無えよなぁ?そんな馬鹿なことする奴はいねえよなぁ?だったら、開き直るしかねえだろうが。
いいか、ユン。過去の後悔を引き摺って変に馬鹿なことを考えてっと、そのせいで今度は死ぬまで後悔することになるぞ。過去の後悔なんてドブに捨てとけ。」
「………………。」
「テメェが潔癖すぎて捨てきれねえっつーなら、変に取り繕ってねえで泣き虫のクソガキらしく泣きながら土下座でもしとけ。
俺はクソ野郎なので今からお姫様のお綺麗な夢を全部ぶち壊します。大変申し訳ございません。どうか俺を見捨てないでください。──ってな。
それでも許してくれるようないい子ちゃんなんだろ?たいした女じゃねえか。泣きながら感謝しとけ。
それすらもできねえなら、さっさと手放してやったらどうだ?」
俺がそう言ってやると、ユンは無言のまま口を尖らせて、それから謎の飲み物に勝手に軽く酒を足して一口飲んだ。
…………酒は飲まねえんじゃねえのかよ。
コイツ。魔導騎士団なんてご立派なところにいるくせに。やっぱ性根がクソガキだな。
◇◆◇◆◇◆
それからユンは、吹っ切れたのかキレ終えたのか、開き直って酒入りの謎の飲み物を飲みながら俺の方に話を振ってきた。
……テメェはこんなところで無駄に開き直ってねえで、さっさと彼女の前で開き直れよ。
一丁前にお相手の幸せが何なのかなんて考えてんじゃねえよ。自分のことだけ考えてろ。
ガキのくせに欲張りすぎだ。
「クソジジイの方はどうなの。最近。」
「何もねえよ。変わんねえよ。」
「ふーん。たしかに何もなさそう。変わってないもん。」
俺の近況報告は10秒で終わった。
今度は俺の方から適当に振る。
「で、テメェは王都にそのお綺麗なお姫様を置いてきて、今日は魔導騎士様として魔物を討伐してきたんだろ?ご苦労なこった。
あー……獲物は何だったか?」
俺がそう言うとユンは俺の方をジト目で見ながら言ってきた。
「赫灼火龍。とぼけないでよ。……クソジジイ覚えてるんでしょ。俺が最初に角を持ってきたときのこと。
もー。まさか魔導騎士団に入って、ここで赫灼火龍狩りまくることになるとは思わなかった。火龍の顔が一匹一匹、ぜーんぶ12万リークに見えて仕方なかったもん。」
「はっはっは!金額まで覚えてんのかよ!根に持ってんなぁ!」
「だってあのときは本当に腹が立ったんだもん。一生忘れない。」
「ありがてえなぁ。光栄だ。」
そこまで言ったところで、ユンは「あ、そうだった!クソジジイのせいで本題忘れてた。」と言って、斜め掛けにして背負っていた鞄からゴソゴソと何かを取り出した。
「ねえクソジジイ。どうせならこれ、買い取ってよ。」
そう言ってユンは、雑にテーブルの上にゴロゴローっと赫灼火龍の角を6本転がした。
「おい、なんだぁ?くすねてきたのか?手癖が悪いなぁ。いよいよ隊長様に叱られんじゃねえか?」
「違うよ、大丈夫だよ。ちゃんと確認取ったもん。魔導騎士団の方では特に持って帰らないから、自分の狩った分は好きに取っちゃっていいよーって。常識の範囲内で。」
「ま、赫灼火龍の素材なんてろくに使えねえし、わざわざ王都にまで持って帰んのは面倒臭えからなぁ。」
俺は言いながら6本の角を眺める。
ユンは笑顔で「昔のよしみで高く買い取ってよ。」とふざけたことを抜かしてきた。
……そういえばコイツ、気を取り直すのも早かったな。まったく、調子のいいガキだ。
「10万。」
「え!いいの?!」
「違えよ。全部で10万だ。」
「安っ!?何でよ!せめて30万でしょ!?クソジジイ詐欺!」
「『クソジジイ詐欺』ってなんだ!調子乗んな!
テメェら魔導騎士団は回収もせずに赫灼火龍の群れの死体転がしっ放しにしたんだろ?どうせ明日っから冒険者たちがこぞって拾いまくってくるに決まってんじゃねえか。
たまに買い取るならいい値段をつけてやるが、こんなもん一気に何十本もいらねえんだよ。だから10万だ。これでもお優しい方だろうが。
時価ってやつだ、時価。ゼンと違ってユンなら分かんだろ?そのくれえはよ。」
「さり気なく兄ちゃん馬鹿にするじゃん。兄ちゃんだって時価くらい分かってるし。」
ユンは不満そうに「ちぇー」と言いながら、俺に角を渡した。
「分かった。……じゃあいいや。15万で。」
「盛ってんじゃねえよクソガキ。」
それからユンは、当たり前のようにこう言った。
「ねえ、クソジジイ。15万はここで預けちゃってく。だから振込用の書類ちょうだい。」
◇◆◇◆◇◆
ユンは慣れた様子でささっと書類に記入する。
さり気なく金額を15万と書いていたが、ツッコミを入れるのももう一度書き直させるのも面倒臭えから「調子乗んなクソガキが。」とだけ言っておいた。
そしてユンは、金額の欄の下にある「口座ギルド名」の欄に【ベスティレッダ】と書いて、鞄から取り出したベスティレッダ特製の魔法印を押した。
「書けた!はい、これ。」
「……たしかに。本物だな。」
眉唾な噂まみれの、【ギルド荒らし】のゼンとユン。
ソイツらが本物かどうかを見分ける唯一の方法。
それは、この場所──民間ギルド【ベスティレッダ】特製の魔法印だ。
ふらっとギルドにやってきて、【ゼン】と【ユン】の名を名乗って──……そして、このベスティレッダに口座があったら、ソイツらは本物確定だ。
俺はユンから書類を受け取った。
そして「……そろそろ行こうかな。酒抜いて匂い消してから帰んなきゃ。」と立ち上がろうとするユンに声を掛けた。
「お前、せっかくだから新しい魔法印に替えてくか?
持ち手部分が欠けてんじゃねえか。」
俺がそう提案すると、ユンは「あ!いいね!替えてく替えてく!新しいの欲しい!」とガキらしく喜んだ。
俺は出来のいい新しい魔法印を二つ選んできて、書類とともにユンに渡してやった。
「おら。そしたら魔法印の登録書類書け。
……二枚分な。ゼンの分も持っていってやれ。
俺からの結婚祝いだ。王女様の旦那様によろしく言っとけ。」
そう言ってやったら、ユンは
「これ、渡したら兄ちゃん絶対に驚くよね。喜んでくれるかな?」
と言って、嬉しそうに破顔した。
◇◆◇◆◇◆
「よし!じゃあ、外歩いてから宿屋に戻ろ。魔法印ありがとねクソジジイ。」
そう言ってユンは立ち上がり、入り口の扉に向かって歩きだす。
あの頃よりもだいぶでかくなったユンの背中を見ながら、俺は最後に声を掛けた。
「…………なあ、ユン。」
「何?」
ユンがクルッと上半身を捻って振り返る。
俺はユンの顔を見ながら、一言だけ贈ってやった。
「ゼンも、お前も。…………二人とも、幸せになれよ。」
らしくない俺の言葉を聞いたユンは、一瞬だけ固まって──……それから眉間に皺を寄せて、一言だけ口にした。
「………………キモッ。」
「なんだとこのクソガキ──……!!」
俺が遅れて小っ恥ずかしくなりながら腹を立てかけたところで、ユンはけらけらと笑った。
「あはは!……話聞いてくれてありがと。クソジジイ。
今度、また近いうちに兄ちゃんと一緒に遊びにくるね!
──じゃあ、またね!」
そう言ってユンは、あの頃と変わらねえ毒気の抜かれる笑顔を寄越して、ギルドの扉を開けて真夜中の暗闇に消えていった。




