小話1-4.5 ◇ 国民感謝の破壊像 〜第5部隊の奮闘劇〜
短編を投稿した記念に書きました。
「小話4 ◆ 国民感謝の破壊像」の裏話。
クロドと同期の後衛の彼が所属する第5部隊──その破壊像ができるまで。
よろしければ短編「ムキムキ巨大令嬢の大失敗」とあわせてお読みください。
「今からこちらのクラウス第3部隊長の銅像の例のように、我々も各銅像に攻撃を入れていく。
判別がつくよう顔面は避けつつ、全力の一撃を入れろ。
──我らの日々の研鑽の成果を有志の皆様方にお見せし、この銅像に『命を懸けて国民を守る、魔導騎士団の強き意志』を刻み込め。
それを以て、この記念像は『完成』となる。
では、まず団長である私からいくぞ。」
……………………最悪だ。
話の流れと自分の置かれた状況を理解した瞬間、僕は絶望した。
最悪なんだけど。冗談抜きで無理なんだけど。
──なんで僕、第5部隊長なんだろう。
この流れだと、僕が絶対に「トリ」じゃん。
僕が最後にパフォーマンスするってことだよね?最悪すぎる。
僕が一番見栄えしないのに。攻撃パターンも7番目ともなれば、他の幹部と被るに決まってる。絶対ネタ切れになるって。
銅像を贈ってくれたご令嬢たちも、僕の番になる頃にはもう飽きてるんじゃないかな。……飽きられるだけならまだいいけど「なんか最後に一番しょぼいのがきた」ってガッカリされそう。
ああ、わざわざ僕の分の銅像まで律儀に作ってもらったのに……本当に申し訳ないな。
…………あっ、うわ!
ラルダ団長の攻撃、えぐいな。貫通してる。僕ならせいぜい剣先が刺さるくらいかな。
ご令嬢たち叫びながら拍手してる。やっぱり華のある人はすごいな。
……やばい。最悪。本当無理。今からでも早退したい。
どうしよう、何か考えなきゃ。普通に切りつけるだけじゃダメかな。もうそれでいいかな。
…………うーわ!!
ドルグス副団長、すっごい派手だ。僕あんなに力強くないし壊せないよ。
ご令嬢たち目を輝かせて拍手してる。やっぱり人気のある人は違うな。
……団長は「一撃」って言ってたけど、二連撃でもいいんだ。参考にしよ。
──って、ダメだ。ドルグス副団長の特殊な武器だからこその派手な二連撃じゃん。僕がやってもしょぼいだけだって。
ってか、クラウスくんはアレ真っ二つにしちゃったんだ。信じられないな。……みんな攻撃力どうなってるの?おかしくない?僕、そんなことできないよ。
やばい、やばい何も思いつかない。
この流れ、普通に切りつけるだけじゃ許されなさそう。僕だけ情けない攻撃するわけにはいかない感じ。
あまりにもしょぼかったら後で怒られそう。怒られるだけならまだいいけど、降格とかになったら洒落にならない。そうならなくても今月の給料ちょっと減らされる?それだけはやめて。
いま一生懸命お金貯めてるところなんです。3年後に上の子が中等部に上がったらドカッと学費かかるから、それに備えて。子育てしてるといくら貯めても安心できないんです。
──ああ。それにしても僕、なんで第5部隊長なんだろう。
せめて第2部隊……4番目くらいがよかった。間に紛れてやり過ごしたかった。どうしよう、どうしよう……
◇◇◇◇◇◇
「──って、考えてるよな。絶対。今の隊長。」
「ああ、やばいな。スノリー隊長、多分今ごろ頭真っ白になってるぜ。」
「何か早く僕たちも案を考えて、隊長を助けないと!」
魔導騎士団第5部隊の隊列。
こっそりと縦に長く防音魔法を掛けた先輩方が、待機姿勢は崩さないまま、口をなるべく動かさないようにしてヒソヒソと相談し合っていた。
先輩方に便乗して、俺も必死に考える。
──午後の訓練開始一発目で、無茶振りをされて突如窮地に立たされている、内気な【スノリー・ゼレダノ】第5部隊長を助けるために。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
第32期生の後衛として、俺が魔導騎士団に入団した当初。
はっきり言って、俺は「ハズレの部隊」を引いたと思った。
「……第5部隊長のスノリー・ゼレダノです。
第5部隊は割と水棲魔物とか、昆虫種とか──変なのの討伐が多くなりがちだけど……専門性もあって、やりがいはあると思うから。
楽しいって思ってもらえるように、頑張ります。よろしく。」
「隊長、いきなり『変なの』って自虐すぎません?」
「いや……俺ら実際変なのばっかだろ。半年前の合同討伐遠征以来、龍自体を見てないぞ。現実を見ろよ。俺らは『ゲテモノ専門部隊』だ。」
「というか、スノリー隊長が新入部隊員に向かって決意表明してどうするんですか!初めが肝心ですって!もっと強気にいってくださいよ!」
「…………こちらこそ、よろしくお願いします。隊長。」
「ほらぁ!新人のグレイくん困ってますよ!」
「いや、グレイ。大丈夫だからな?スノリー隊長、めっちゃ優しいし、ちゃんと強いぞ!安心しろ!ようこそ第5部隊へ!」
ずっと憧れだった魔導騎士団。
長年の夢が叶ってようやく入団した先にいたのは、屈強な威厳ある隊長でもなく、統率の取れた凛々しい先輩部隊員たちでもなく──……なんだか猫背気味の気弱そうな隊長と、それを全力で心配しフォローするわちゃついた先輩部隊員たちだった。
………………大丈夫か?この部隊。
もしかして、第5部隊って「補欠」的な……他の4部隊よりも一段格下の部隊とか、まさか、そんなことないよな?
俺は初日の挨拶の時点で不安になったのを覚えている。
今振り返ると、学生気分が抜けてない、新人らしい痛々しい考えだった。
だけど当時、魔導騎士団に入団できてすっかりイキって鼻が高くなっていた俺は、そんな失礼な感想を先輩たちに抱いた。
その感想はすぐに吹っ飛んだけど。
◇◇◇◇◇◇
入団して最初の1ヶ月の研修期間。
月の前半2週間の、各専門に別れての基礎訓練のときに、俺は同じ後衛で第1部隊のゼン先輩の圧倒的な実力に惚れ込んだ。もちろん、他の第5部隊の先輩方も俺よりも何倍も強かった。
後衛の諸先輩方のお陰で、高くなっていた鼻はすぐにへし折られたし、改めて気を引き締めることができた。
そんな後衛の訓練期間中、スノリー隊長は毎日訓練終わりに後衛の特殊訓練場に顔を出して「グレイくん、問題はなさそう?何か困ったことがあったら、僕でも……他の人でも誰でもいいから、すぐに言ってね。」と気を遣って俺に声を掛けてくれた。
だから俺は、自分の部隊の隊長については「いい人ではあるんだろうな。」とは思っていた。
そしてやってきた後半2週間の、各部隊での連携訓練。ようやく前衛、中衛、後衛が揃っての訓練。
そこで俺は初めてスノリー隊長の実力を目の当たりにして、自分の認識の甘さを痛感した。
──……なんだ、これ。凄すぎる。
「──どうだ?
すごいだろ、スノリー隊長。」
「第5部隊が『ゲテモノ専門』になりがちなのは、スノリー隊長のコレがあるからなんだよ。」
「隊長が初日に言ってた通り、ウチの部隊は後衛としては本当にやりがいがあるぞ、グレイ。遠距離攻撃が活躍する相手が多いから。……その分、神経使うけど。」
「でもスノリー隊長、前衛の僕たちにはよく謝ってくるんだよなー。『僕の剣、あんまり参考にならなくてごめん。……討伐対象も変なのばっかりだし、前衛だとやりづらいよね。』って。あんなに強いんだからもっと自信持てばいいのに。気が弱すぎるんだよ。」
「いや。でも実際、まじであの剣は参考にならない。」
「うん。前衛としてはやりにくい変なのにしか当たらない。」
「中衛的には、むしろ隊長に振り回されてる感ある。補助魔法当てられてようやく一人前って感じ。初見殺しにも程があるんだよ、あの動き。」
「味方のはずなのに慣れるまで本当に翻弄されるよな〜、スノリー隊長の剣。」
「「な〜。」」
俺は第5部隊の先輩方の解説を聞きながら、すっかりスノリー隊長の不可思議な剣に見入ってしまった。
隊長が模擬戦を終えて、新入部隊員の俺の元にささっとやってきて、
「……前衛は、だいたいこんな感じ。
これから中衛にもいくつか攻撃魔法のパターン見せてもらって……そうしたら、基本的な部隊内の連携攻撃も見せるね。
その後でグレイくんも入ってやってみよう。」
と、特に胸を張ることもなく、新人の俺に見せつけてくるわけでもなく……むしろ猫背気味になりながら俺に控えめな声で説明してくれたとき、俺のこれまでの価値観が大きく変わった。
──どれだけ強くなっても、相手が俺みたいな新人であっても、この人は変わらずに丁寧で腰が低くて、優しいんだ。
それまでは「強さ」と「印象」、「実力」と「自信」は比例するものだと思っていたけど、俺は考えを改めた。
──強さと印象、実力と自信が全然結びついてない「独特」で「気弱」な隊長も、痺れるくらい格好良い。
俺はすぐに、第5部隊に入れたことを誇りに思った。
そして初日に思った的外れな感想を、心身ともに未熟だった自分への自戒にした。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
そんな「独特」で「気弱」な我らがスノリー隊長は、今この瞬間にも、刻一刻と追い詰められていた。
ドルグス副団長に続けて、第1部隊のベイン隊長が豪快に銅像を大槌で打ち砕いたのを見て、まるで公開訓練初見の素人のように目を丸くしてびっくりしていた。
「……ベイン隊長の攻撃を見て、完全に呑まれてますね。この場の空気に。」
俺の呟きに先輩方が微かに首を動かして頷く。
「隊長、本当に絶望してそう。」
「……だな。多分『えっ、やっぱりそういう方向性で統一なの?破壊しなきゃ認められないの?表面に傷をつけるだけじゃダメ?やばいやばい、僕そんなことできないよ。』って思ってるだろうな。」
先輩の言葉に今度は俺が頷く。
……今まさに、先輩が言ったのと一字一句同じことを思っていそうだ。スノリー隊長。
でも、スノリー隊長の強みは「破壊力」じゃない。
──他の隊長にも勝る「柔軟性」。
フィロソ王国出身の隊長ならではの「剣武術」と「伝統魔術」。隊長の強みはそこにある。
他の部隊長たちの破壊力に気後れする必要なんてない。隊長の独自色を出せれば、絶対にこの場も乗り切れる。
…………はずなんだけど。
隊長自身が自覚ないっていうか……気弱すぎて、多分、気付けてないよな。そのことに。
対魔物のときの隊長は本当に強くて頼もしいけど、こういう人前で何かするときの隊長は恐ろしいほどに頼りない。
入団して数年経った今なら痛いほど分かる。先輩部隊員たちがあんなにも隊長をわちゃわちゃフォローしてた意味が。
今のこの状況も──隊長を放っておいたら、隊長は間違いなく本来の実力の1%しか出せずに儚く散るだろう。
「まっ、まずいですよ!
もう第2部隊長まで終わっちゃいました!」
列の後ろの方にいる今年度の新入部隊員が、あわあわオロオロとしだす。……隊長を心配しすぎて隊長より焦ってるな。落ち着け。
先輩たちが具体的な案を急いで列挙していく。
「アレは?あの隊長お得意の雷属性のやつ。」
「いや、そしたら銅像全体が黒焦げになるだろ。『顔は破壊するな』って団長言ってなかったか?」
「その縛りキッツ!」
「じゃあ、もうアレでいいじゃん。隊長のフィロソ王国謎魔術。」
「いや、剣使わなきゃダメじゃね?」
「その縛りキッツ!」
「見栄えはバッチリなんだけどなー、謎魔術。」
「見栄えはむしろ無いだろ。そもそも初見じゃ見えないって。ご令嬢たちも謎すぎて『?』ってなりそう。」
「ダメかー。」
…………あ、そうだ。
俺は先輩方の危機感があるようでないやり取りを聞いて、一つの案を思いついた。
「じゃあ、これならいけるんじゃないですか?
剣武術と伝統魔術を両方使う、あの例の──……」
◇◇◇◇◇◇
………………終わった。完全に終わった。
何も思いついてないのに、第4部隊長の番まで来ちゃった。
……すみません、ゲンジ隊長。長めに精神統一とかして時間稼いでくれませんか。お願いしますお願いします。
はぁ。でももう、今さら何も思いつく気がしない。ここは発想を変えて、謝罪と弁明の言葉を考えた方がいいかもしれない。
……あ、ラルダ団長が僕の方を見てる。
…………いやいや、何それ。
そんな力強く頷かれても困るんですけど。
何その「スノリーならばできると私は確信しているぞ。自信を持って臨んでくれ。」的な熱い視線。
無駄に期待をかけてくるのやめてください。受け止めきれません。
最悪。この様子じゃ謝罪と弁明も無理そう。
っていうか、なんで事前に告知してくれなかったんですか!おかしいって!
……あ、そうか。クラウスくんがうっかり銅像を斬っちゃったから今こうなってるんだっけ。ユンくんが説明してくれてた気がする。それなら告知なんてする暇なかったか。仕方ないな。
…………いやいや、仕方なくない!仕方なくない!おかしいって!
ゲンジ第4部隊長が風属性を付与した熟達した剣で銅像の腹部に美しい螺旋状の跡を刻み、盛大な拍手が演習場に鳴り響いた。
僕が完全に「終わった」と確信しかけたとき、後ろの方から「(隊長!隊長!!)」と部隊員たちに小声で呼ばれた。
……えっと、どうしよう。
僕は後ろの部隊員たちの方を見て、それからそっとラルダ団長の顔を窺った。
ラルダ団長は僕と再び目を合わせて、それから後ろの方で何やらごそごそしているらしいウチの部隊員たちを見て、また静かに頷いた。
普段だったら、こんな落ち着きがない時点で注意をされそうなもんだけど。今日は許してくれるらしい。
さすがにラルダ団長も、僕たち幹部陣に多少の申し訳なさを感じているんだろうな。ラルダ団長も被害者なのに。……お疲れ様です。
僕は個人的に精神の限界を迎えていたから、ダサいのを承知で部隊員たちから何かアドバイスやヒントがもらえることを期待して、隊列の方に駆け寄った。
「(隊長!隊長!
アレやればいいんですよ!『釣り針爆撃』!水棲魔物の目玉にたまにやってるやつ!)」
「(焦がし過ぎないようにちょっと加減すれば『見栄え』と『顔面無傷』が両立できます!)」
「(ここら辺の距離から攻撃すれば、個性出ますよ!)」
みんながコソコソと僕に解決策を提示してくれる。
「あ、そうか。それなら何とかなるかな。
ありがとう、助かった。……心配かけてごめん。」
いきなり隊列の方に下がっていった僕を見て、ご令嬢たちが「何してんだ?」みたいな顔をしてる……気がする。
やばい、これ以上もたもたしていられない。とりあえず部隊員のみんなにもらったアドバイス通りにやろう。
気を利かせて後退して周りを広げてくれた部隊員たちに感謝しながら、僕は10mほど先にある銅像に向かって剣を構えた。
◇◇◇◇◇◇
スノリー隊長が冷静さを取り戻して剣を構えた様子を見て、俺たちはホッと一息ついた。
あとはもう大丈夫だ。きっと銅像を贈呈してくださったご令嬢方も満足してくれるだろう。
俺は視界の端にご令嬢方を入れながら、隊長の一撃を見届けることにした。
剣を構えている隊長。
しかし、その剣の位置は腰でも身体の正面でもない。
隊長は片足を曲げ、もう一方の足を銅像に向かって伸ばして、屈伸するように深く腰を落とした。
そして右手で剣の柄を握り、左手は剣先に添えるようにして、剣を地面に対して平行になるように頭上に掲げた。
──独特な構え。これがクゼーレ王国にはない、「フィロソ王国流剣武術」の基本姿勢。
……隊長曰く「別に、これ……フィロソ王国の中でもそんなにメジャーな流派じゃないから。勘違いしないでね。」らしいけど、その辺りは俺も皆もよく知らないし勘違いしたところで何の問題もないから、仲間内では完全に「フィロソ王国といえばアレ」みたいになっている。
それから隊長は、銅像を直接切りつけにいき──はせずに、低い姿勢のまま舞踊のように優雅に回転し、その遠心力を活用して銅像に向けて真っ直ぐに己の剣を投擲した。
隊長の投げた剣は見事に銅像のど真ん中に的中した。剣先が綺麗に銅像に刺さっている。
ご令嬢方のうちの一人が、興奮したように鼻息荒く拍手をし始めたのが分かった。
……あ、よかった。「スノリー隊長推し」のご令嬢もちゃんといたんだ。
──でも、これで終わりじゃない。
公開訓練のときはこの独特な構えと舞い方をする「剣武術」しか見せていないんだろうけど。
実は、スノリー隊長の攻撃はあともう一段階クセがある。
他のご令嬢方も「これで終わりかな?」と、続けて拍手をしようとした瞬間、
剣を投げた隊長の右手の指先から、銅像に刺さった剣に向かって、まるで導火線のようにバチバチと火花が高速で走っていき──
そしてその火花が剣に到達したと思ったら、剣先で爆発が起こった。
──これがスノリー隊長のもう一つの武器。「フィロソ王国伝統魔術『練糸術』」だ。
魔力を糸のように操り、その糸を通して魔法を発動させることができる不可思議な魔術。蜘蛛の糸のように細く見えづらいその糸は、魔力の込め方によって強度や伸縮率を自在に変えられるらしい。
……第5部隊員は、まず隊長の糸を目視して避けるところから始めなければ連携すらままならないという、不毛な技術を要求される。俺も1年目は何度も引っ掛かって迷惑をかけたし、隊長にも何度も謝られた。
習得するには青年期までに体質から調整して訓練する必要があるらしいこの謎魔術。大人になってからでは身に付けられないこの不可思議な糸は、クゼーレ王国出身の他の騎士団員たちには使えない代物だ。
ちなみに、スノリー隊長の母国フィロソ王国でも、剣武術と練糸術のどちらか片方を扱える人はそれなりにいるものの、隊長のように両方を組み合わせて使う人はまずいないらしい。……それはそうだろう。
隊長に「何故組み合わせようと思ったんですか?」と聞いたら、隊長は「えっ?……組み合わせたら少しでも強くなれるかと思って。……僕、あんまり筋力がなかったから、当時は苦し紛れだった。両方やらなきゃって。」という、何とも単純明快で切羽詰まった動機を教えてくれた。
……そんなに気弱な性格なのに何故そこまでして強くなろうとしたんだ、隊長。
そこら辺の謎思考回路については、俺はまだよく分かっていない。
ご令嬢方が、理解が追いつかないといった顔でポカンとする中、スノリー隊長はまるで釣り竿で魚でも釣り上げるかのように、右手をひょいっと振り上げて銅像に刺さっていた剣を魔法の糸で引き上げ、左手でパシッと受け止めた。
この一連が通称「釣り針爆撃」。水棲魔物と対峙するときに使われる、第5部隊の連携攻撃の初手行動。
実際の戦闘では、隊長がこのまま一気に糸を魔物に巻き付けて強度を上げて拘束し、中衛や後衛と共に魔法攻撃をしまくって、魔物をのたうち回らせて陸地に跳ね上げさせる──という、豪快な魔物の一本釣りが行われることが多い。
そこから他の前衛たちが魔物が水中に再び戻ろうとする前に急いでめった打ちにする。
第5部隊ならではの討伐の風景だ。
スノリー隊長がまた猫背気味に戻り、そっとご令嬢方に一礼する。
糸が見えたか見えなかったか、今の現象が理解できたかできなかったかは分からないが、その隊長の礼でハッとしたようにご令嬢方が一斉に拍手を送りだした。
スノリー隊長推しらしきご令嬢は「キャー!」を通り越して「ぎぃやぁぁ゛ーーー!!!」と言いながら掌を真っ赤に染めて全力を超えた拍手をしていた。
喜んでもらえてよかった……けど、手、痛そう。
スノリー隊長は危機を乗り越えたことにホッとしながら肩の力を抜いて銅像の方を見て──……それからまたギクッと身体を強張らせた。
「……顔の下半分まで、真っ黒に焦げてるな。」
「だな。」
「隊長、今『うわ、やっちゃった!加減間違えちゃった!どうしよう。怒られるかな。……このくらいなら顔の判別自体はできるし許される?許されるよね?許してくださいお願いします。』って思ってるだろうな。」
俺は先輩の言葉に頷く。
……今まさに、先輩が言ったのと一字一句同じことを思っていそうだ。スノリー隊長。
あ、ラルダ団長の顔を恐る恐るチラッと見たぞ。
……あ、ホッとしてる。分かりやすいな、隊長。
窮地に立たされていた隊長を無事救うことができた俺たち第5部隊員は、その後は場の流れに乗って、平和に記念像の贈呈式を終える隊長の姿を見守った。
──これが、気弱なスノリー隊長が率いる、第5部隊の日常だ。
久々の投稿を覗いてくださった方、長い連載をここまでお読みくださった方、ありがとうございました。
前書きでも触れましたが、こちらは短編「ムキムキ巨大令嬢の大失敗」に登場するスノリーが中心のエピソードになっています。
短編はスノリーの過去話としてお楽しみください。




