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婚約者様は非公表  作者: 湯瀬
第三部
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8 ◆ 平凡令息と平民男の7年間(2)

本編開始までの間に起きた、ユンの奮闘と崩壊。そして今、ユンはセレンディーナのどこに惹かれているのか。とある同級生視点からの答え合わせ編(全6話)です。

第三部(全16話)執筆済。基本毎日投稿予定です。

 1学年の終業式の日、寮の下級組にとあるアンケート用紙が渡された。

 次年度の部屋割希望だった。


 基本的には学園側が指定した部屋割になるけど、それでもさすがに同室者との最低限の相性は考慮される。学業や生活に支障をきたすレベルのトラブルがあったり、ストレスを感じてしまうようなら同室者の変更は必要だ。


 ……まあ、要はいじめとか、あまりにも性格が合わないとか。そういうことだと思う。


 アンケート結果はもちろん非公開。同室者の変更があったとしても、どっちの希望かは分からない。どっちからも変更希望が無かったとしても、他の部屋との兼ね合いでずらされることもあるらしい。

 もちろん、ポジティブに「どうせならいろんな友達と同室になってみたい」という根っから明るい社交的な理由で希望を出してもいいみたいだけど。


 僕は「変更希望なし」を選んだ。


 それから少しだけ考えて、備考欄に「僕は内向的な性格なので、理解のある、今同室のユンがいいです。」とあえて書いた。

 この備考欄にどのくらい効果があるのかは分からないけど、多分何も書かないよりは書いた方がいい。


 もしかしたら、変更希望がなくても勝手に変えられちゃうかもしれないから。


 備考欄に書いた内容は本心で、一番の理由だった。

 だけど、そこには書けない理由がもう一つあった。


 ……「ユンは毎晩ずっと魘されているから、他の人じゃなくて、すでに慣れている僕との方がいいんじゃないかと思います。」


 余計なお節介だと思ったけど、ユンの同室者は来年度も僕じゃなきゃいけないと、勝手に使命感を感じていた。



◆◆◆◆◆◆



 希望通り、ユンと僕はそのまま同室で2学年に上がった。

 新年度の部屋割が出たとき、ユンは僕の変な使命感なんてお見通しかのように、笑って「ありがとう」と言ってきた。


 そうして始まった2学年。

 僕とユンはまた同じクラスで過ごした。Xがいない穏やかでちょっと静かな日々を送っていたある日、僕の人生で最大の出来事が起こった。


「ねえねえ、なんか手紙来てたよ。部屋のポストに入ってた。」

「あ、ごめん。最近確認してなかった。」


 ユンから手渡された手紙は、実家の子爵家からのものだった。

 何も心当たりがなかった僕は「いきなりなんだろう?」と言いながら開いて──思わず変な声で叫んでしまった。


「ひゃえぇっ?!?!」

「えっ?!なになに?!どうしたの?!」


 ユンが僕の声にビクッとしながら訊いてくる。僕は驚いたままの勢いで、ユンに内容を伝えた。


「ぼっ、僕に、ここっ……『婚約』の打診があったって。」

「フゥ〜〜〜ゥ!!!」


 ユンがうざかった。せめて一回は「えーっ?!」みたいな反応を挟んで欲しかった。


「お相手誰?誰?!ねね、俺が知ってる人?それとも学園外の知り合いとか?」


 ずけずけ質問してくるユンがうざかったけど、ここで咄嗟に誤魔化したり嘘をついて流せるような器用さもなかった僕は、うざいユンにそのまま正直に答えた。


「アメミラ・ペネッタさん。……去年同じクラスだった。」

「ウェーーーイ!!!……って、えぇーっ?!?!」


 勢いだけで反応していたユンが急に驚く。


「うざい反応と驚く反応の順番、逆にしろよ。」


 僕はとりあえず文句を言ったけど、ユンは僕の文句を完全に聞き流した。


「えー!アメミラさん!?いつの間にそんなことになってたの!?俺、全然気付かなかったー!おめでとー!」

「僕もびっくりしたよ。全然関わりなかったし。っていうか、まだ話決まったわけじゃないから。」


 にっこにこの笑顔で盛り上がるユンに、僕は冷静に返した。ユンに現実を教えるため……というよりは、浮かれそうな自分に言い聞かせるためだった。


「貴族の婚約なんて、だいたい家格の似たようなところで歳が近い人選ぶだけだから。そんなユンが考えてるような好きだの恋だのなんてないよ。」


 そうしたらユンは「えぇー?」と納得がいってないような声を出して、僕に反論してきた。


「でもさぁ。同じクラスで1年間一緒だったじゃん。その後だよ?

 もし仮に家格が理由だとしてもさ、絶対に人柄とか考慮には入ってくるでしょ。アメミラさんが『いい人だな』って思ってくれたのは確実じゃない?」

「そ、そうかな……。」

「そうだよそうだよ!絶対そうだよ!アメミラさん見る目あるぅ〜!フゥ〜〜〜!!!」

「ユン、うざい。」


 でもその日、僕はずっと浮ついていたし、ベッドに入ってからもずっとアメミラさんのことばかり考えてしまった。


 アメミラさんかぁ……。


 ペネッタ侯爵家のアメミラさん。ちょっとふっくらしててほんわかしていて、授業のときは眼鏡を掛けている、いつも三つ編みのご令嬢。誰にでも優しいし、真面目だし、ちょっと大人しめだから全然怖くない。

 正直、女子……っていうか貴族令嬢って、みんなけっこう我が強そうで見た目もすごい気合いが入ってるから、綺麗とか美人よりも「怖い」が先にきちゃうんだよな。

 だから、アメミラさんみたいな人で良かった。アメミラさんとなら穏やかな家庭を築けそう。


 僕に、アメミラさんかぁ……。


 結局僕はその日中に、アメミラさんと結婚した将来の自分をいろいろ妄想しまくって、すっかりその気になっていた。

 ユンはその晩、黙々と勉強をして夜更かしをしていた。ユンは週一くらいの頻度でこんな感じで全然寝ようとすらしないから全然おかしくはなかったけど、ユンは野生児で本当に獣みたいに気配に敏感だから、僕が起きてることに絶対気付いていたと思う。


 僕が浮かれて妄想してることも分かった上で、「今日くらいは自分の呻き声を聞かせないようにしてあげよう」──って思ってるみたいで、気遣いがちょっとうざかった。


 ユンは本当に、うざくて、強い……いい人だ。


 ……そんなこと、気を遣わなくたっていいのに。夜に悪夢に魘されちゃうのは、ユンが悪いわけじゃないのに。


 ……今日の会話での反応は、ただただ本気でうざかったけど。



◆◆◆◆◆◆



 僕は翌月の週末に実家に帰って、そこでアメミラさんと彼女のご両親と会って話して、正式に婚約した。

 彼女のご両親──ペネッタ侯爵と侯爵夫人は、アメミラさんみたいな優しい人だった。というか、ご両親同士が夫婦でそっくりだった。二人ともちょっとふっくらしていて、穏やかで、眼鏡を掛けていた。だから彼女がどっち似なのか全然分からなかった。


 でも、そんなことはどうでもよくて、僕が驚いたのは、婚約打診の一番の理由だった。


 この婚約の話は、アメミラさん本人の希望だった。


 僕が入学式の日から1年間ずっと、Xに絡まれるユンに助け舟を出し続けていたのを見て「家格が上の令息相手でも、友達のために立ち向かえる勇気と正義感と優しさがある人なんだ」って思ってくれたらしい。


 そのことを彼女は、僕の目を真っ直ぐ見てはっきりと伝えてくれた。

 それまでは彼女を「優しくて真面目で大人しい人」って思っていたけど、僕はそこで初めて気付いた。

 彼女は、自分の考えを真っ直ぐはっきり伝えることができる、芯の強い人だった。

 僕はそんなすごい人に「婚約したい」って言ってもらえたことが嬉しくて、その後ずっと舞い上がってしまったし、声も裏返りまくってしまった。


 僕は彼女が思うようなすごい人間じゃないけど、彼女に失望されないよう、これからは頑張ろうと決意した。


 寮に戻ったら、ユンがわくわくしながら「どうだった?どうだった?!」と聞いてきた。

 相変わらずうざかったけど、ユンのお陰で彼女と婚約できたようなものだから、僕は文句は言わずにユンのノリに合わせて、僕にしては珍しく、堂々とにやけながら答えた。


「婚約成立した。」

「ヒューーーーーー!!!!」


 ユンは一人で盛大に拍手をしてから、ケーキの箱を持ってきて「おめでとー!!」と言ってきた。


「え!わざわざ用意してくれたの?!」


 僕が驚くとユンが「今日、王都行って買ってきた!魔法で保冷もしてあるよ!」と、うっきうきで箱を開けた。


「これ、あの超有名店のメロンショートケーキ!?」

「うん!メロン好きでしょ?めっちゃ並んだ〜。」

「ありがとう!ユン!天才!!最高!!」

「ほっほっほ。何、大したことはしとらんよ。」


 ユンが謎に学園長のような貫禄を醸し出す。


 それから僕たちは、ホールケーキを切り分けずに直接両側からフォークで食べていった。

 こんな行儀の悪い豪快な食べ方をしたのは初めてだったけど、なんだか男子学生の寮生活ならではっていう感じがしてドキドキした。

 今までで食べた物の中で、一番美味しかった。


 彼女に言ってもらった婚約打診の理由をユンに伝えると、ユンは「ほらぁー!やっぱりアメミラさん、見る目あるじゃん!いやー、俺も絡まれ続けた甲斐があったなぁ。」と言って、また一口、ケーキを頬張った。

 僕は「X……元気かな。」と思ってそれをぽろっと口にした。それを聞き取ったユンは「ね、ほんと。いないといないで、なんか寂しいよね。面倒くさくなくて楽だけど。」と、Xが聞いたら喜びつつ悲しみそうな感想を言っていた。


 僕がふと気になって「そういえば、もし婚約の話がダメになっちゃってたら、このケーキどうしてたの?」と聞いたら、ユンはあっさりと「『残念だったね。切り替えて次行こ。次。〜涙の失恋パーティー〜』用のケーキになる予定だった。」と言ってきた。


 ……どっちにしろ出して食べるつもりだったんだ。


 ユンのこういう雑である意味無神経なところ、僕は割と嫌いじゃない。

 でも、人生で一番美味しいこの最高のケーキが「涙の失恋パーティー」なんて、うざいタイトルのパーティーに使われなくて本当に良かったと思った。



◆◆◆◆◆◆



 ユンはだいたい、毎晩無自覚に悪夢に魘されている。


 ただ、たまに自覚があるときもある。汗びっしょりで叫んで飛び起きたり、いつも以上に呼吸が荒くなっているとき。


 2年間の共同生活で、僕はその法則も理解していた。


 ほとんど自覚がないのは、入寮初日から1週間くらいですぐに分かった。ただ、入寮2日目に自分で決めた通り、僕はそのユンの自覚がない日についてはほとんど指摘しなかった。

 ユンは多分「()()()俺、自覚なくても魘されちゃってるんだな。」って思っている。

 ……でも、本当はユンは、毎晩のように辛そうにしている。

 だけどユンに「本当はユン、毎晩魘されてるよ。」なんて言ったら、ユンは傷付くだろうし、悩んじゃうだろうし、今以上に僕に申し訳ないって思うだろう。……それに何より、ユンが狂っちゃうかもしれない。

 だからそれは友達として、言うべきじゃないと思っている。


 一方で、ユンが自覚があるときは、さすがに僕もスルーしきれないレベルで酷い。

 最初はユンの叫び声にびっくりして僕も飛び起きた。そうしたら壁の反対側のベッドにいたユンと目が合って、酷い顔をしたユンが呼吸を整えながら「……っ、ごめん。ごめん本当。」って謝ってきた。

 僕が「びっくりしたー…………大丈夫?」って聞いたら、ユンはものすごく辛そうに顔を歪めて、泣くのを堪えながら僕から視線を外して「……うん。大丈夫。」と返してきた。


 ……全然大丈夫そうじゃなかった。今すぐにでも死んじゃいそうなくらい酷かった。


 その後ユンは、僕に気を遣ったのか気まずかったのか、どっちか分からないけど「ちょっと外出てくる。」と言って部屋を出て行ってしまった。

 ユンがいなくなった部屋で、僕はいろいろ考えた。

 いろいろと言っても、正直何を考えるべきなのかも分からなかったし、僕は勘が鋭い方じゃないし、察しもいい方じゃない。それに頭もそんなによくないから、実際は「どうしよう。ユン大丈夫かな。」を頭の中で唱え続けているだけだった。


 そんな僕でも、一つだけ、なんとなくだけど思ったことがあった。


 ユンに「大丈夫?」は禁句な気がする。


 だって、大丈夫じゃないから。

 僕が「大丈夫?」って聞いたとき、ユンは返事に困ってた……って言葉では言い表せないくらい、ユンは苦しそうだった。


 ……どうしよう。


 さすがに無視したり気付かないフリはできないもんな。僕だって心臓止まるかと思って飛び起きたし。


 僕はしばらく考えて、それから答えが出ないまま、ユンを心配しながらもう一度目を閉じた。

 でも当然、うまく眠れなくて、その日僕は寝不足になった。ユンは朝まで帰ってこなかった。

 寝不足のまま、朝に戻ってきたユンと一緒に登校した。ユンはいつもみたいに、魘されていたのが嘘のようにスパッとテンションを切り替えて、にこにこと笑って過ごしていた。でも僕は眠すぎて授業にはまったく集中できなかったし、昼休みには友達と話す元気もなくて一人で過ごしたし、うっすら頭も痛かった。結局その日は課題もやらずにさっさと夜は9時前に寝た。


 僕は一日寝不足なだけでもこんなに辛かったのに、ユンは毎日、何年もずっとこんなんなんだ。


 ユンは何で大丈夫なんだろう──と思いかけて、すぐハッとした。


 あっ、そうだ。ユンは別に大丈夫じゃない。


 じゃあユンは何で……何で生きてるんだろう。何で耐えられるんだろう。僕だったら死にたくなってすぐに死んでる。


 そう思った。



◆◆◆◆◆◆



 ユンが自覚するくらい酷く魘されてる日は、でも、そこまで頻繁じゃなかった。

 僕はとりあえずユンの声にびっくりして起きたときに「大丈夫?」だけは避けるようにした。

 それで、しばらくして二つのことを学習した。



 一つは、僕のすべき反応。

 僕は「びっくりしたー……」だけで止めたり、それすらも言わずにユンと無言で目を合わせたり、無理を承知で布団にくるまったまま寝たフリをしてみたり──2年かけていろいろしてみた。


 寝たフリは悪手だった。ユンは野生児だからすぐに僕が起きていることに気付いて、悲しそうに辛そうに「……本当にごめんね。」と僕の背中に声を掛けて、部屋を出て行ってしまった。素直に反応せず、気を遣い過ぎるのは不正解っぽかった。


 ……たしかに、他人から気を遣われまくるとこっちも気が引けるし、同情されてるみたいで、腫れ物扱いみたいで嫌なことあるよな。


 なんて、浅い人生経験しかない僕なりに共感した。


 だからけっこう「うおっ?!」とか「びっくりしたー」みたいな感じで、普通にびびるので充分っぽかった。それに対してユンは申し訳なさそうに「ごめん」とは言うけど、寝たフリや「大丈夫?」よりは全然辛そうじゃなかった。


 でも一回、僕は眠りが深かったせいか、普通に布団の中に入ったまま「……うるさっ」と不機嫌に呟いてしまったことがある。ユンに気遣う余裕が一切ないくらい、中途半端な目覚めをしてしまったとき。

 無意識に言った後で「しまった!」って思ったけど、意外にもユンはそのときが一番救われたような声をしていた。顔は見れなかったけど、「ごめーん」と言って笑っていた。


 ……なるほど。


 ユンは、変に気を遣ったり、心配して欲しくないんだ。普通に叫び声に反応して、それで終わりでいいんだ。


 それが学んだことの一つ目だった。



 もう一つは、ユンの自覚があるときの夢の内容。

 ユンが悲鳴を上げて飛び起きるとき、言葉じゃないんじゃないかってくらいの悲痛な叫び声になっている。最初は聞き取れなかったけど、何回か経験して聞き取れた。


 ──っ、兄ちゃん!!!


 それが、ユンが叫んで飛び起きるときに決まって言う言葉。


 人によっては無神経だと思うかもしれないけど、僕の中では「ユンには変に気を遣わない方がいい」という持論が確立されつつあったから、飛び起きた直後なのもお構いなしに、一度ユンに普通に聞いてみた。「ねえ、どんな夢見てんの?こういうとき。」って。

 そうしたらユンは俯いて、小声でボソッと「ウェルナガルドのあの日に、兄ちゃんが俺を残して死んじゃう夢。」って教えてくれた。


 ユンはお兄さんのことが大好きだ。

 お兄さんのことをいつも尊敬してるし、お兄さんに会いに行くときはいつも嬉しそうで楽しそうだし、お兄さんに会った後はいつも元気になっている。

 お兄さんの話をしているときは、いつも生き生きとしている。


 すごく分かりやすいことだった。


 ユンはお兄さんがいるから、学園生活を頑張れているんだ。ユンはきっと、頑張って大好きなお兄さんの期待に応えたいんだ。


 ……だから、そんなお兄さんが死んじゃう夢が、怖くて怖くて、辛くて苦しくて仕方がないんだ。


 本当は、ユンはお兄さんと一緒にいた方がいいんだろうな。こんな学園の寮で離れて暮らしてないで。

 学園の寮生活で親元を離れて、それで寂しくなって教室でいきなり泣き出しちゃったり、耐えられなくなって転校しちゃう人も1学年の頃は何人かいた。ユンなんて、お兄さん一人しか家族がいないんだから、よっぽど辛いんじゃないかな。

 ユンはすごいな。本当に……偉いな。


 それが学んだことの二つ目だった。



◆◆◆◆◆◆



 ユンは辛いトラウマを抱えながらも、一生懸命頑張っていた。

 ほとんど毎晩魘されながらも、たまに叫んで飛び起きながらも、それでも毎日、クラスでは笑顔で過ごしていた。


 ただ、だんだんとユンに疲労は蓄積していった。

 部屋に戻ってくるなり「うぇー疲れたぁー……」と言ってベッドに倒れ込んで中途半端な時間に寝たり、完全に無表情になって目を開けたまま死んでいるように横になっていることも多くなった。

 じわじわと辛くなってきているのか、授業中にたまに意識が飛びかけたようにカクッとなったりしていた。先生や周りには図太くうたた寝してる奴って思われていたみたいだけど、僕は事情を知っていたから、そういう日は「ユン。昼休み、部屋に戻ってちょっと休んでくれば?」と声を掛けたりした。

 ユンは素直に「そうする〜」と言って昼休みに消えたりしていた。


 じわじわと辛くなるのを、何とか休んで取り返して──それを繰り返していたユン。


 そんなユンの綱渡りのような生き方が、決定的に崩壊してしまったのは、中等部の3学年の終わりだった。


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