1 ◇ 完璧な妹の正しい過ち(1)
ラルダの生き方が、身内の目にはどう映っていたのか。王家の人物視点の答え合わせ編(全6話)です。
第三部(全16話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
クゼーレ王国第一王子【リレイグ・クゼーレ・ウェレストリア】。
私が将来、この国を背負って立つことは、生まれた瞬間から決まっていた。
そしてそんな私には3歳下の妹がいる。
クゼーレ王国第一王女【ラルダ・クゼーレ・ウェレストリア】。
妹が将来、私を超えた地位に就けないことは、生まれた瞬間から決まっていた。
◇◇◇◇◇◇
自分が我ながら優れていると思うのは、勉学の才能でも剣や魔法の腕前でもなく、この「性格」だ。
私でなければ恐らく、この環境が耐えられずに精神を病むか、道を踏み外して悪事に手を染めていただろうと思う。そのくらい、私の生まれ育った環境は厳しいものだった。
別に虐げられていた訳ではない。
両親である国王と王妃は、夫婦仲は良好で、厳格で不器用で愛情表現が下手ではあったが、私と妹のことも等しく愛してくれていた。周囲の人間も、第一王子である私に、仕事の一環としてではあるがよく尽くしてくれた。
別にどこか身体が弱かった訳ではない。
私は心身ともに健康で、勉学も、剣術も、魔術も、良き師について問題なく学ぶことができていた。
たしかに「未来の国王」という重責はあったものの、それに見合うだけの恵まれた環境が私には常に与えられていた。
だから私はこの上なく幸せだった。
ただ一つ。
それに見合うだけの恵まれた才能が、妹にすべて与えられてしまっていたという、残酷な現実を除いては。
◇◇◇◇◇◇
妹は紛うことなき天才だった。
3つも歳が離れているというのに、いつの間にか私の横で共にあらゆる学問を学ぶようになった。
女性だというのに、いつの間にか私を真似て剣を振るうようになった。
まだ何も教えていないというのに、いつの間にか美しい魔法の炎を手のひらの上で燃やせるようになっていた。
そして私が11歳の頃、妹はまだ8歳だというのに、妹はすべての分野で、私のことを追い越した。
私は秀才程度ではあったと思う。両親からきちんとそれなりの才能も受け継いで生まれてきたと言える。
ただ、妹はすべてが規格外だった。
周囲の人間は私を大切にしてくれていたが、さすがに隠す気も失せるほどだったのだろう。私の目の前で堂々と「ラルダ様は天才だ」「この国で一番有能だ」「ラルダ様が男に生まれていれば」と賞賛と嘆きを繰り返した。
──「ラルダ様が王位継承一位でないことが悔やまれる」。
私の心を一番抉ったのは、誰しもが思う至極当然の事実だった。
◇◇◇◇◇◇
そんな劣等感に苛まれる日々を過ごしながら、何故私は心が折れずに済んだのか。
──それはただ、妹が真っ直ぐ、真面目で、優しい人格者だったからだ。
妹は才能豊かなだけではなく、人間としてもよくできていた。
妹が「兄上」と呼ぶ声には、一片の曇りもなかった。私に向ける眼差しには、一片の陰りもなかった。妹が私に懐いていることは、誰が見ても明白だった。
妹を恨む気など、それだけで失せてしまう。私は自分よりもすべての分野で優れていながら、私を兄として慕ってくる妹を、嫌うことなどできなかったのだ。
劣等感こそ感じたものの、それは妹のせいではない。妹は何も悪くない。
現状を憂いたところで、何かが変わる訳ではない。妹を妬んだところで、妹の能力が手に入る訳ではない。
私はいずれ己の能力で、国王として生きてゆかねばならないのだから。私はただ、優れた妹を誇らしく思いながら、自分なりに精一杯の研鑽をするしかないのだ。
私はそう考えていた。
その思考こそ──そう考えられる「性格」こそが、私が持って生まれた稀有な才能であると気付いたのは、ある人物のお陰だった。
◇◇◇◇◇◇
フィリア・コーリンベル侯爵令嬢。
私が11歳のときに決まった婚約者は、私の一つ下のご令嬢だった。
彼女のことは、パーティーの場で何回か見かけたことがある程度。そして次に顔を合わせたときには、すでに彼女は私の婚約者になっていた。
私と彼女の意思など、あって無いようなものだろう。ろくに打診された記憶もなかった。「先方が同意したから婚約者が決まった」といきなり伝えられたような気がする。
そんなものだろうと、特に何の感慨もなく受け入れた。
互いに自己紹介をして、初めて時間をかけて話した彼女は、とてものんびりとしていた。
王城の庭園を共に散策したときには、
「まあ!もうこのお花が咲いているのですね。わたくしが庭で育てているものはまだ蕾なんです。」
「こちらには珍しい鳥が来られるのですね。無知でお恥ずかしいのですが、あれは何という名前の鳥ですか?」
と、社交辞令でも話題提供でも何でもなく、ただ心から気の向くままに周りに目を向けて、立ち止まって楽しむ人だった。
決して博識ではない。花が好きだと言いながら、私よりも種類は多く知らなかった。国内に生息する鳥も覚えていなかった。もちろん国政についても、まだ特に何も思うことは無いようだった。
実は刺繍があまり得意ではないのだと、少し照れながら白状をしていた。
ましてや剣術など、嗜む発想すら無いようだった。
……当たり前だ。フィリア嬢はまだ10歳の少女なのだから。
──彼女が、私の将来の伴侶。
──私はこれから、彼女を愛して共に生きる。
私に新たに与えられた将来。そこには何も不満はなかった。
ただ、私は申し訳なく思った。
こんなにも自由で穏やかな時間を過ごす彼女に、未来の王妃として、これから不自由で目まぐるしい時間を過ごさせてしまうことを。
◇◇◇◇◇◇
身を焦がすような激しい恋ではなかったが、私は彼女の性格のように、ただ穏やかに、ゆっくりと彼女に惹かれていった。
彼女は会う度に、私にのんびりとした時間を過ごさせてくれた。
私は彼女に会っている時間だけ、自分が未来の王であることを忘れて、一人のただの人間として、何も構えずに笑って他愛もない話ができた。
何と言い表せば良いのか、未だに的確な言葉は見当たらないが、私は彼女の中に自分の幸福を見出すことができるようになっていた。
フィリアも私のことはよく思っていてくれたと思う。
自惚れていた訳ではない。彼女は私に分かりやすく、丁寧に好意を伝えてくれる素直な性格の持ち主だった。
……もし仮にこれが芝居で、本心では私を嫌っていたのだとしたら、それはそれで天晴れだ。
だとすれば、易々と本心を悟られぬ強かさがあるということだ。それもまた未来の王妃として素晴らしい才能だろう。
愛のない夫婦生活は味気のないものになるだろうが……そうだと判明した際には、何かまた彼女が別の面で幸福を感じられるように考慮しよう。
ただ、どうせならば私も嫌われるよりは愛されたい。そう思って、私は私なりに好かれるように努力をした。
せめて私と話しているときくらいは、王妃教育の辛さを忘れて、彼女らしくゆったりとした時間を過ごしてほしい。そう願って、私なりに気を配っていたつもりだった。
……しかし、私の度量では、フィリアを未来の王族としての重圧から守ることはできなかった。
◇◇◇◇◇◇
フィリアと婚約してからしばらく経ったある日のこと。
第一王子としての公務に押され、婚約者フィリアとの茶会の時間に大幅に遅れてしまった私を待っていたのは、フィリアと妹のラルダだった。
「あら!リレイグ様。お疲れ様でした。お先にお茶をいただいております。」
「ああ、待たせてすまなかった。遅くなってしまったな。……ラルダと話していたのか?」
するとフィリアは屈託のない笑顔で「ええ。リレイグ様を待っている間、いろいろとお話をしていましたの。」と頷いた。
フィリアの言葉に、ラルダも嬉しそうに微笑む。
どうやらラルダが日中のレッスン等の予定を変更し、フィリアに付き合っていてくれたようだった。
「ラルダ、ありがとう。忙しいところすまないな。」
私がそう言うと、ラルダは「いえ、私もフィリア様とゆっくりお話ができて嬉しかったです。」と、フィリアと目を見合わせて笑った。
「二人は何の話をしていたんだ?」
私が席に着きながら尋ねると、フィリアがとても楽しそうに答えてくれた。
「ラルダ様が今お読みになっている、異国の物語の内容を聞いていましたの。
ラルダ様のお話が上手なのはもちろんですが、とにかくストーリーが本当に面白くって。
ええっと……ごめんなさい。どこの国のお話でしたかしら?」
「リーベンヌ王国です。東方の島国が舞台の物語ですね。」
「ああ、そう!そうでしたわ。ありがとうございます。
そう……それで、その物語は、リーベンヌ王国に伝わる7つの宝玉を巡って起きる数々の事件のお話なんですけど……とにかく続きが気になって仕方がないんです。
ああ、その第3部の主人公の少年はどうなってしまうのかしら?宝玉を取り戻せると良いのですが……」
これだけでは私には物語の内容は分からないが、どうやらフィリアはすっかりのめり込んでいるようだった。
ラルダはそんな彼女に照れくさそうにしながら、「私もお話ししたところまでしか読めていないので、続きはまだ知らないのです。次にお会いするときまでに、また読み進めておきますね。」と伝えた。
フィリアはそれを聞いて、特に深くは考えずに、思ったままの素直な気持ちを述べた。
「ラルダ様から聞くのも良いですが、こんなにも胸踊るお話ならば、自分で読んでみるのも楽しそうですわ。
ラルダ様、わたくしにもう一度、物語の題名を教えていただけませんか?
わたくしも本を取り寄せて、家で読んでみようと思います。次にお会いするときには、ぜひ感想を語り合いたいですわ。」
それを聞いたラルダは、ほんの一瞬だけ躊躇うようにして──……すぐにそれを隠して、少しだけ申し訳なさそうにしながらもそっと微笑んだ。
「フィリア様。実は、その本はクゼーレ王国ではまだ翻訳されていないのです。ですので、私は原著のリーベンヌ語のものを読んでいるのです。
……そのことをお伝えしそびれてしまっていました。」
フィリアは「まあ!……そうでしたの。」と驚き、目を丸くした。
「リーベンヌ語……でしたら、わたくしはすぐには読めませんわ。……お恥ずかしいです。ラルダ様はお分かりになるのですね。」
目を丸くしたままそう言うフィリアに、ラルダはすかさずフォローを入れた。
「リーベンヌ王国はだいぶ遠方にありますし、現在はまだそこまでクゼーレ王国とも関わりがありませんから。我が国の貴族教養には入っていませんし、お気になさらないでください。
ただ、私が最近、個人的に語学に興味を持っているだけなのです。特にリーベンヌ語など、私も今月勉強し始めたばかりなので、辞書を片手に持っていないとさっぱり分からないのです。」
そう言っておどける妹。
しかし私はこの言葉の中で、妹の恐ろしい才能をいくつも感じ取った。
我が国の貴族教養の範囲内である3ヶ国語を、恐らく当然のように習得しきっているであろうこと。
その上でリーベンヌ語などという、クゼーレ王国からすれば極めてマイナーな言語に手をつけているということ。
そして、今月学び始めたばかりの新言語で書かれた物語を、もう辞書を片手に第3部まで読み進めているということ。……「今月」はまだ二週間ほどしか経っていないというのに。しかもラルダには、朝から晩まで王女教育と公務の予定が詰まっているというのに。
それらの語学の「趣味」の勉強を、多忙なスケジュールをすべて完璧にこなした上で、追加で行っているのだ。
……相変わらず妹は、私の理解の範疇を超えるな。
フィリアは、まだそんなラルダの末恐ろしい才能には気付いていないようだった。
素直に「リーベンヌ語まで勉強している」ことを驚いて、それから素朴な質問をした。
「素晴らしいですわ。……ところで、ラルダ様はなぜ最近、語学にご興味をお持ちになっているのですか?」
するとラルダは、私とフィリアが二人で並んでいる様を見て微笑みながら、9歳の少女が考えることとは到底思えない理由を口にした。
「兄上がフィリア様と婚約した際に思ったのです。
──私は恐らく、外国に嫁ぐことになる。もしくは、外国から伴侶を迎え入れることになる。
ですので、兄上とフィリア様のように、私もパートナーと良き関係が築けるよう、お相手の方の国の文化や言語への理解を深めておきたいのです。
……とはいえ、まだお相手は分かりませんが。リーベンヌ王国も候補には上がる可能性が充分にあると思っておりますので、リーベンヌ語は今のうちに習得しておきたいのです。」
その返しに、フィリアは呆然とした。
フィリアにはそういった考えが露ほどもなかったのだろう。2歳下の未来の義妹の思慮深さに、呆気に取られていた。
……本当に、ラルダは完璧だ。恐ろしいほどに。
ラルダは私の婚約から、正しく現在の王国貴族の勢力図を把握したのだろう。そして自分が政治の駒としてどう扱われるかを正しく予想したのだろう。
隣国のエゼル王国、小国ではあるが今諸外国からも注目を集めているバルダード公国、遠方ではあるが今後友好を築いておきたい東方の経済大国リーベンヌ王国。
……この辺りか。
ラルダは王女でまだ9歳。第一王子の私とは違い、まだそういったことは直接は教わっていないはずだ。だが、ラルダは正確に王宮の思惑と今後の展望を捉えていた。
ラルダはその事実を悲観していないようだった。
すべてを理解した上で、自ら最善を尽くそうと語学に励んでいた。……将来の伴侶と、クゼーレ王国以外の新たな国の民を心から愛するために。
妹の心は清らかで、真っ直ぐで、前向きだった。相変わらず一片の曇りもなかった。
もっと人並みに嘆けば良いのに。たまには現実逃避をすれば良いのに。
その隙すらも、ラルダは見せなかった。
「……ラルダ様。そろそろお時間でございます。」
後ろから使用人がそっとラルダに声掛けをする。
ラルダは「ああ、ありがとう。」とその使用人に礼を言ってから、私とフィリアの方を向いて微笑んだ。
「では、私にはこの後予定がありますので、ここで失礼いたします。フィリア様、今日はありがとうございました。」
「え、ええ。……わたくしこそ。ありがとうございました。楽しかったですわ。」
フィリアが慌てて礼を返す。妹はそれを笑顔で受け取り、席を立った。そして丁寧に私たちに一礼をして去っていった。
「……お噂には聞いていましたが、ラルダ様は本当にすごい御方なのですね。
恥ずかしながら、今さら実感しましたわ。……ラルダ様はいつも気さくにお話ししてくださっていたので、気が付きませんでした。」
ラルダが去った後、ぽつりとフィリアが感想を呟いた。
「妹は誰がどう見ても規格外だ。語学も妹が自らの意思でやっているだけで、本来ならばあそこまでする必要はない。」
──だから、フィリアは必要以上に気にするな。
私はフィリアにそう伝えたが、最後の一言は言えなかった。
まだフィリアは、妹を意識して張り合ってはいない。そこに「必要以上に気にするな」と先手を打って声を掛けてしまっては、かえって意識するようになってしまう。
そう思った。
しかし同時に……私がここで言おうと言うまいと、どちらにしろ時間の問題でもある気がしていた。
フィリアはやはり、その日をきっかけに徐々に妹の細やかな気遣いや滲み出る才能の片鱗に気が付くようになっていった。
そうして、徐々に感じ始めていったのだった。……妹への激しい劣等感を。
◇◇◇◇◇◇
妹は、完璧だった。
フィリアと共にいるときは、常にフィリアのことを立てていた。
彼女の前で己の教養をひけらかすこともなく、剣や刺繍の腕を見せつけることもない。
フィリアの発言の間違いを指摘することもなければ、フィリアの作法の甘さに顔を顰めることもなかった。
彼女を心から未来の義姉として慕い、敬意を持って接していた。
……妹は、何も悪くない。
ただ……妹は、完璧すぎた。
お茶会でフィリアが口元にクリームを少しつけたままになってしまっていたとき、私がそっと声をかける前に、ラルダは自然に自分の口元をナプキンで拭った。
それを見たフィリアは、少し遅れてハッとしたように自分もナプキンで口元を拭い、そしてナプキンについたクリームを見て、一人で静かに恥じ入っていた。
ラルダはフィリアの好きな花の話を聞いているとき、笑顔で頷いて、興味深そうに咲き誇る花々をじっくりと観察していた。
それからフィリアは、侯爵邸へと帰り……次に王城にきたときに、羞恥で顔を赤らめながら「前回わたくしは花の種類を勘違いしてしまっていましたの。家に帰って調べ直して気付きました。ごめんなさい。」と謝った。
そしてラルダは……軽蔑の欠片もない真っ直ぐ綺麗な眼差しで、彼女に優しく笑いかけながら「あれらはとてもよく似ていますから、私もよく間違えてしまいます。」とフォローした。
……ラルダは間違えたことなどないというのに。
謙虚に一歩下がり、未来の義姉の顔を立て続けた。
そして、そんな妹の振る舞いに、周囲は感銘を受け、妹を絶賛し続けた。「何てお優しい王女様」「何て隙のないお姫様」「これぞ王族のあるべき姿」と。
そのラルダの完璧さが、フィリアへの温かい思いやりが、逆にフィリアを傷付け、追い詰めていたのだ。
……妹は、何も悪くない。
ただ……妹は、そこに居るだけで、周りに屈辱と苦痛を与えてしまう存在だったのだ。
◇◇◇◇◇◇
「フィリア。どうか無理をしないでくれ。心身を壊してしまっては元も子もないだろう。少し休んだらどうだ?」
「お気遣いありがとうございます。けれど、大丈夫ですわ。今日は少しお化粧を失敗してしまいましたの。顔色が悪く見えるのはそのせいでしょう。」
明らかに無茶をして、自分を追い込んでいたフィリア。
到底できるはずのない目標を掲げ、到底こなせるはずのないレッスンをこなそうとし、無茶を何度指摘しても聞く耳を持たなかった。
そして案の定やりきれずに失敗し、自己嫌悪に陥り、劣等感に苛まれる。……その繰り返しだった。
「……フィリア。話は聞いた。フィリアの方から追加の課題を要望していたそうだが……その量は一週間ではこなせないだろう。
差し出がましいことは承知だが、私の方から従来通りの難易度と課題量に戻すよう、各指導者に伝えておいた。
あまり気負わないでくれ。今日は侯爵家に戻って、身体を休めて好きなことをすると良い。」
「っ!リレイグ様!何故そのようなことを!わたくしはできます!やらせてください!
……リレイグ様は、……リレイグ様も、わたくしのことを信じてくださらないのですか?!」
「フィリア、そのような捉え方をするな。」
「だって、……だって!わたくしにだって、できるはずなんです!できなきゃ……!できなきゃ駄目なんです!わたくしの方が歳上なんだから……っ!」
フィリアが誰を意識しているのかなど、明白だった。
だが、私が止めようとする度にフィリアは「信じてくれ」「自分にもできる」と言い張り……そのうちに、それらは「信じてくれないのか」「自分にはできないと言いたいのか」という私への非難に変わっていった。
そして遂に、フィリアは限界を迎えた。




