後談5 ◆ 悪役令嬢と平民男の破局危機(前編)ユン視点
紆余曲折の後日談です。
全9話。基本毎日投稿予定。
……はぁ。まじでもう無理。本当に別れよっかな。
セレンディーナ様のことは好きだけど、こんなに人前で恥をかかされ続ける人生はさすがに耐えられない。
告白って、本来なら言われる側は嬉しいはずなのに。なんでこんなに毎回追い詰めてくんの?
公開告白二回で第一王子様と第一王女様をコンプリートするって何?まじで何なの?三回目は国王様の前で告白してくれんの?毎度サプライズをどうもありがとう。
……いや、やめよう。こんなこと考えてたらそのうち現実になりそう。
セレンディーナ様はどこからどう見ても純度100%のロマンチストだと思うけど、俺は違う。俺はどっちかっていうと普通に現実主義者だ。
前にセレンディーナ様に、謎の期待の眼差しとともに「ユンの初恋はいつ?誰?」って聞かれたときも、普通に「7歳のときにサラ姉を好きになって、それからずっと片思いしてました。」って即答した。謎の怒りだか嫉妬だかとともに「それ、誰よ。どんな人?」って言われたから、若干面倒くさくなったのと、そのときはあんまりあの光景を思い出させないでほしい気分だったから「ウェルナガルドにいたときのお隣の家の姉ちゃんです。でも死んじゃったので強制失恋しました。」って答えておいた。その後セレンディーナ様に謎にめそめそ謝られたけど、謝るくらいなら最初から聞かなきゃいいのにって思った。
ちなみに二回目の恋は、11歳のときに1ヶ月くらい滞在した街のギルドの受付嬢の人。めっちゃ可愛かった。
……まあ、そんな感じだから、俺は「一生に一度の恋」みたいなのには微塵も拘ってない。だいたい、結婚したって離婚する人はするし。
浮気や不倫は俺の真人間認定から外れるからしないけど、普通にパートナーが無理になったり嫌いになったりしてどうしようもなくなったら俺なら別れる。その選択肢は普通にある。
セレンディーナ様とは婚約する直前まで続いたから、別れたらけっこう引き摺るとは思うけど。……1年くらいかな。
サラ姉のズタボロ死体っていう衝撃の失恋を受け入れて割り切って、次に恋できたのが2年後だったから、最長でも2年あれば俺は何やかんやで吹っ切れる自信がある。
セレンディーナ様が出家しちゃうのは困るけど、もう知らない。
出家しないで他の人とあっさり結婚しても別にいい。その場合ショックであと1年引き摺るのが追加されるとは思うけど。それでぴったり合計2年。そんなもんでしょ。恋愛って。
そんなことを思いながら、15分以上かけてとぼとぼと研究所の職員寮に向かっていたら、寮の前に一人でぽつんと立っている人が見えた。
セレンディーナ様だ。
さっきのアレから、俺に会うためにここに移動してきたんだろう。でもさっきセレンディーナ様を押さえていた従者の人たちは周りには見当たらなかった。
……また馬車帰しちゃったのかな。それとも今日はちょっと遠くに控えさせているのかな。
外は若干暗くなり始めていて、遠目からでは表情は分からなかった。でもどうせめそめそしてるんだろうな。
……はぁ。
俺は気乗りがするでもしないでも、どちらでもない気分で寮の入り口の方へと歩いて行った。
「……どうも。」
俺は適当に声を掛ける。
セレンディーナ様はその声を聞いてゆっくりとこちらを見た。
思ったよりも泣いてなかった。というか、泣き疲れて涙が枯れたみたいに、生気の抜け落ちた顔をしていた。
でも、今の俺の挨拶が妙に他人行儀だったせいか、セレンディーナ様は口をぎゅっと結んで、目に涙を浮かべた。
「ユン…………わたくし──……」
俺は何か言おうとしているセレンディーナ様の言葉を躊躇うことなく遮った。
「外だと寒いですし、人も通りますし、話しにくいですよね。とりあえず俺の部屋に来てもらえませんか?行きましょう。」
そして俺は歩き出す。後ろから聞こえる足音がいつもよりも元気がない。けど、ちゃんとついてきていることが分かったから特に振り返ることはしなかった。
……はぁ。どうしよっかな、俺。
◆◆◆◆◆◆
「何か飲み物でも淹れてきますか?」
部屋に向かって歩いている間に妙に冷静になった俺は、自分でもびっくりなくらい普通に笑顔を貼り付けていた。
セレンディーナ様は相変わらず枯れてるけど。この世の終わりみたいな顔をしてる。
彼女はゆっくりと首を振った。
「……いらないわ。」
………………。
俺はなんとなく、セレンディーナ様はそう言っているけど何か飲ませた方がいい気がしたからさっきの質問の返答は考慮しないことにした。
「まあでも、一応何か淹れてきますね。ちょっと待っていてください。」
そう言って俺は1階の共用スペースにあるポットで紅茶を2杯分淹れた。
あれ?どっちが出涸らしのやつだっけ?
……まあいいや。セレンディーナ様からしたらどっちも微妙なお味だろうから、今さら気にしても仕方ないよな。
俺は紅茶を持って部屋に戻る。
そしてセレンディーナ様の座っている椅子の横にある机の上に、出涸らしがどっちだか忘れた紅茶のうちの1杯を置いた。
「どうぞ。お味はあんまりかもしれませんけど、とりあえず温かい飲み物を飲むと落ち着きますよ。」
そう言いながら俺は行儀悪く立ったまま持っている方のカップの紅茶を一口飲んで、机の端の方に置いた。
うーん、普通。でも自分で言った通り、一口飲むと落ち着けるもんだな。
俺は他に座るところがないからベッドの縁に腰掛けた。そしてセレンディーナ様の様子を窺う。
今の俺は見事にノープランだ。何も考えていない。話の切り出し方も、話の持っていき方も、そもそも仲直りするか別れるかどうかの強い希望も、特にない。
まあ、これで話が拗れたらそれまでかなぁ。……そんな気分。
セレンディーナ様はゆっくり、少しだけ震えながら紅茶に手を伸ばして、ゆっくり、少しだけ震えながら紅茶を口にした。まるで自分の身体がうまくコントロールできないとでもいうように。
そしてゆっくりと紅茶を飲んで、それを机にそっと置いて…………それから目に涙を浮かべて、それで思いっきり泣き出した。
「うわあぁーーん!あぁーーん!うわぁーーん!」
「……えぇー……嘘ぉ………」
俺は思わず素で困惑してしまった。
今までセレンディーナ様が泣いた姿は何回も見たことがある。初めて告白された卒業式のときも泣いていたし、初デートの日も泣いていた。それ以降も些細なことでよく泣いていた。
泣きながら叫ぶこともあれば、震えながら涙をポロポロ流すときもある。しくしくめそめそするときもあれば、無言で涙だけ流して俯いていたこともあった。
でも、こんな子どもみたいな泣き方をしたことはなかった。
これまでの泣き方はなんやかんやでセレンディーナ様らしかったなと思う。
怒りながら泣いていたときは高飛車なお嬢様っぽかったし、静かに泣くときはやっぱり育ちのいいお嬢様なんだなって感じがした。
……でも今は違う。
人間が「貴族」と「平民」に分かれる前の、そんな意識を持ち始める前の、もっともっと幼い、ただの子どもみたいな泣き方だった。
きっと、ついにセレンディーナ様が「公爵令嬢」でいられなくなっちゃったんだ。
俺はとりあえず音が漏れないように部屋全体に防音魔法を掛ける。同僚たちに「ユンくん、部屋に女連れ込んで泣かせてましたね。」とは思われたくない。
それでとりあえず、ノープランだったからそのままセレンディーナ様を静かに見ていた。
さっきまで枯れてたのに、紅茶あげたら泣いちゃったな。
あ、そうか。多分、セレンディーナ様が枯れてたから水分摂った方がいいんじゃないかって思ったんだな、さっきの俺。我ながら何だか草木の水やりみたい。
……でも今、摂取した以上の水分流しちゃってるな。結果マイナスじゃん。
俺は今まで何だかんだでセレンディーナ様が泣いたら一旦は宥めたり慰めようとしていた気がする。こんなに初手から静観を決め込んだのは初めてかもしれない。
セレンディーナ様はその事実に気付いているのかいないのか、どんどん辛そうになっていった。ハンカチを使うでもなく、手のひらと腕でぐしぐしと涙を拭い続けていた。
それからしばらくして、ようやく「うわーん」「えーん」以外の言葉を発しだした。
「うわぁぁーーーん!ユンがっ、ユンがいなくなっちゃう!わたくし、振られちゃうっ……!うっ、うわぁーーーん!」
「…………。」
「っい、嫌、嫌よ……どうしてうまくできないの?なんでこうなっちゃうの?どうしてうまくできないの?っ、うっ、うえぇーーーん!」
「………………。」
「……好きなのに!こんなに大好きなのに!どうしてわたくしはユンのことを悲しませちゃうの?どうしてユンが嫌がることしかできないの?どうして嫌われちゃうの?こんなことがしたいんじゃないのに!違うのに!!っ、うわぁああーーーん!!」
「……………………。」
なんか……可哀想になってきたな。
俺のことを言ってるんだけど、俺のことじゃないみたい。
泣きじゃくってるセレンディーナ様もまあこれはこれで意外な一面って感じがして可愛いと思うけど、このまま放置してたらやばそうだな。倒れちゃいそう。誰か早くなんとかしてあげた方がいいんじゃない?俺だけど。
……って、なんか全部、他人事に感じる。
何でだろう?俺が薄情な人間だからなのかな?
うーん……多分、この想ってもらっている熱量のデカさと、それによって遭う被害のデカさの振れ幅が凄すぎて、俺の感情が間に合ってないんじゃないかな。
俺のことが好きすぎて、周りが見えないくらいに暴走しちゃって、結果としてこうなってるんだろうけど。
こんなにも一途に想われて、ありがたくて嬉しくてものすごく幸せなはずなのに、その結果として俺は毎回ものすごく絶望して傷付いている。
……………………。
俺はなんとなく、今聞くのはタイミング的におかしいとは思ったけど、ずっと疑問に思っていたことをセレンディーナ様に聞いてみた。
「あのー……セレンディーナ様って、俺のどこがそんなにいいんです?」
どうしてそんなに俺のことが好きなんです?
俺はついに質問してみた。
それを聞いた彼女は、両手の手のひらで目をぐしぐしと擦りながら答えた。
「全部よ。全部。全部が好きなの。ユンの全部が好き。」
……うーん。
嬉しいしありがたいしめっちゃ照れるしちょっとキュンときたけど、めっちゃ重いし結局全然分からない。キュンときつつも、正直ちょっと引いた。
俺はそんな複雑な気分のまま、セレンディーナ様の盲目すぎるところをそっと指摘してみた。
「俺、自分で言うのもなんですけど、けっこう情けないし、弱いし、薄情だし……割と酷い奴だと思うんですけど。」
別に謙遜じゃない。本当のことで、嘘じゃない。
するとセレンディーナ様は、なぜかものすごく傷付いたような、ショックを受けたような目で俺を見た。
「なっ……なんで……なんでそんなことを言うの?……どうしてそんな酷いことを言うの?」
「………………はい?」
俺は思わず疑問符を浮かべてしまった。
セレンディーナ様は、そんな俺の顔を見たまま、また一気に涙を目に浮かべてぐっと口を結んで、それからまた冒頭に逆戻りしたみたいに大声で泣き出してしまった。
「うっ、うわぁーーーん!えぇーーーん!うわーーーん!」
「……えぇー?どういうことぉ?」
俺はセレンディーナ様に聞こえないようにそっと呟く。
俺が困惑している間にも、セレンディーナ様は子どもみたいに泣き続けた。
「っ、なんでそんなことを言うの!ユンはそんな人じゃない!そんなことっ、……そんな酷いことを言わないでよ!ユンのことそんな風に言わないで!!酷い!酷い!っ、酷いわ!!
……っ、うわぁーーーん!あぁーーーん!!」
えぇー?????
申し訳ないけど、これは困惑せざるを得ない。
ていうか、他でもないセレンディーナ様から今までそう言いたげな視線をけっこう投げかけられてた気がするんだけど。「情けないわね」とか「薄情な男」とか「酷い男ね」とか。
……「弱いわね」はないかもしれないけど、「頼りないわね」はしょっちゅう思われてたな。多分。
っていうか、そもそも俺本人なんですけど。
しかも今めっちゃ「酷い」連呼してるじゃん。じゃあやっぱ酷い奴なんじゃん、俺。
とはいえ、俺はこのまま眺めているだけなのはさすがにまずい気がしたから、泣いているセレンディーナ様の両肩をちょっと強引に持って彼女を椅子から立たせて、よいしょっと向きを変えて3歩くらい動かして、そしてベッドの縁に腰掛けさせた。
それから俺も隣に座って、兄ちゃんが俺にやってくれるみたいにセレンディーナ様の背中をさする。
「……とりあえず落ち着いてください。セレンディーナ様。」
セレンディーナ様は横でうわんうわん泣いている。
「ユンはそんな人じゃないもの!ユンは優しいもの!優しくて、格好良くて、強くて……誰よりも偉い、誰よりもすごい人だもの!馬鹿にしないでよ!!」
…………それ、兄ちゃんかクラウス隊長あたりと間違えてません?人違いですよ。
とは言えないから一応「ありがとうございます」と言っておく。
でもセレンディーナ様は、俺の「ありがとうございます」に心がこもっていないことに気付いたらしく、またさらに傷付いたような目でこっちを見た。
……セレンディーナ様って、けっこうこういうところ目ざといっていうか、反応するんだよな。言葉の雰囲気……っていうか、俺の本音に。意外と鋭いと思う。
「違う!違うわ!ユンがユンのことをそんな風に言わないで!!なんでそんな酷いことを言うの?!酷い!っ、信じられない!!」
……うーん。哲学。
俺はこれ以上何かを口にしてもセレンディーナ様を興奮させる気しかしなかったから、静かにすることにした。
セレンディーナ様は泣きながらも必死に俺に訴えてきた。
「ユンは優しいもの!わっ、わたくしが入学式の日にユンに怒鳴ってしまったときも、……笑って許してくれたもの!」
ああ、あれか。
だってそんなに怒ることでもなかったし。
……何だっけ?たしか「馴れ馴れしいのよ愚民!」みたいな感じだっけ?細かいニュアンスは忘れたけど。すっごく「貴族のお嬢様」って感じの発言で、むしろ感動したまであったんだよな。その後のアルディートとのテンションの差に笑った気がする。双子なのにどんだけ違うの?!って。
「それにユンは格好いいの!不意打ちで声をかけられてもちゃんと木の上から飛び降りれるし、ギルドに行ったときはとっても双剣が強そうで格好良かったしっ!そっ、それに、ギルドでご飯を食べていたときはいつもより足を開いて、テーブルに肘をついて笑っていたの!すっごく格好良かったんだから!!」
…………木の上から飛び降りて双剣素振りしてただけじゃん。何とも戦ってないし。
しかも後半はそれ、「かっこいい」っていうより、「行儀が悪い」って言うんですよ。言わせないでください。
もしかしてあれかな?セレンディーナ様って、周りと違うことしてる人を見るとテンション上がっちゃうタイプなのかな?俺平民だし。そりゃ周りの貴族令息の人たちと違って木に登るし双剣使うし、行儀もけっこう悪いけど。
セレンディーナ様、そういうの危ないですよ。ヤバイ男に引っかかりますよ。「他人とは一味違う彼」みたいなのを特別視してホイホイ騙されて、お金を毟り取られたり、一緒になって変な薬にハマっちゃうやつです。
「……それだけじゃないわ!ユンは本当にすごいのよ!誰よりも偉いのよ!ちゃんと育てのお兄様に報いるよう、必死に勉強したんだから!っ、それで魔法研究所にもちゃんと入ったんだから!!ユンは努力家で天才なのよ!!」
そこはたしかに、自分でもよく頑張ったと思う。
でも「偉い」って言うなら、それは自分を犠牲にして俺を育ててくれた兄ちゃんの方だし、「努力家で天才」って言うなら、それどっちかって言うとずっと学年一位だったセレンディーナ様とアルディートの方じゃない?
なんか、学年一位の人に「すごい」って言われても、素直に喜んでいいのか分からない。「あっ、どうも」って感じ。逆に恥ずかしいからやめてほしい。
セレンディーナ様は他にもいろいろ挙げてくれたけど、どれも全部ささやかすぎて、なんならしょうもないエピソードばっかりだった。
こんなしょうもない要素の積み重ねで、あんなに大暴走できちゃうんだ。セレンディーナ様の人生って、本当にささやかで平和なことでできてるんだな。……で、それがセレンディーナ様の世界を揺るがすくらいの一大事になったりしてるんだな。
……でも、これが彼女の羨ましいところなんだよな。
………………あ。そうだ。
不意に、なんだか好奇心が疼いてしまった。
俺にはけっこうこういうところがある。
鍋に三色草入れてみたらどうなるのかな?って急に試したくなったり、爆竹に魔法使ったらすごいのできるんじゃない?ってふと思い立ったり。昔は命に関わるレベルの閃きでも、けっこう躊躇わずに実行してた。大きくなってからはさすがに、命を賭けてまではしてないけど。
でも、今も完全にそういう、ただの思いつきで好奇心。
別に彼女を傷付けたいわけでもなかったし、このまま別れたいわけでもなかったけど。
これ言ってみたらどうなっちゃうのかな、っていう興味本位で、俺はあえて積極的に振られにいくようなことを言ってみた。
「……でも俺、女遊び激しいクズな最低男でしたよ?」
………………。
するとセレンディーナ様は、今までで一番傷付いたっていう感じの、本当に本当に辛そうな顔をして泣き叫んだ。
「っ、なんでそんな酷いことを言うのよ!!
ユンがそんなこと望んでやっていたわけないじゃない!!!
ふざけないでよ!!!!」
「………………は、」
俺は言葉を失ってしまった。
……は?セレンディーナ様、何言ってるの?
「ユンが自分のお兄様を傷付けるようなことを平気でするわけないじゃない!!大切なお兄様を裏切るわけがないじゃない!!
ユンはそんな人じゃない!!ユンはそんな馬鹿じゃない!!馬鹿にしないで!!ユンはそんな人じゃないの!!二度とそんなこと言わないで!!そんなこと言わないでよ!!!ユンの馬鹿!!!っ、ユンの馬鹿!!!
っ、うわぁぁーーーーん!!!!」
……俺、何かセレンディーナ様に話したっけ?
何も話してない。別に何も言ってない。
セレンディーナ様も、多分、何も知らない。
……じゃあ、セレンディーナ様は何を言ってるんだろう?
多分全然、俺が考えているのとは違うこと。
何も分かっていないまま、ただ俺のことを美化しているだけ。セレンディーナ様のことだから、どうせよく分からない根拠で勝手に俺のことを信じているだけだ。
──……でも、
──でも、このとき俺はようやく初めて、セレンディーナ様に「愛されてる」と思った。
今まではセレンディーナ様からの熱量を嬉しいと思いつつも、心のどこかで、正直重いなって思ってちょっと引いたり、何でだろうって疑問に思ったりしてたけど。
今は、「重い」とか、「何で」とか思わずに、ただただ救われた気がした。
冷静に考えれば「重い」んだけど。普通に「何で」なんだけど。
でも、俺は初めて、自分がしてきたことを、今までの自分の人生を──間違ってなかったんだ、正しかったんだ──って、認めてもらえた気がした。
そんな俺をセレンディーナ様は愛してくれてたんだって、分かった気がした。




