後談5 ◇ 魔導騎士団員クロド再び(後編)
ハッピーエンド増量版の後日談の最終話です。
(詳しくは後書きおよび活動報告をお読みください。)
「そんな面白いことになってるんだったら、後衛も特殊訓練場で訓練してないで見に行けばよかった。惜しいことしたなぁ。」
「だろ?!絶対見といた方が良かったって!」
「まあ、俺たち後衛はみんな毎日のようにもっとすごく強いゼン先輩の『銃』を見てるけど。俺も威嚇射撃されたことあるけど。何発か。」
「なんだよ自慢かよ!ずるいなお前ー。……ってか、あの人そんなにすぐぶっ放すの?!怖っ!」
オレはその日、興奮冷めやらぬまま同期の後衛の奴を誘って飲みに来ていた。
今日の衝撃を一人で消化するのは到底無理そうだったから。
そしてオレは、今日起きたことを片っ端から全部話した。ソイツはオレがうっかりゼン先輩を練習台にして1時間うっかりクラウス隊長と猛特訓してしまったくだりで目に涙を浮かべながら大爆笑した。
この同期の後衛の奴、どっちかっていうといつも無表情で淡々としてるんだけどな。腹を抱えながら「お前がそんな命捨てに行くアホだと思わなかった!」って。失礼だな。おっしゃる通りだよ。
存在自体が出鱈目な最強の男、ゼン先輩。
オレは今日の出来事を今一度振り返りながら、思ったことをそのまま素直に同期に話した。
「なんかさ、思ったんだよ。
ラルダ団長って、ゼン先輩とのことを『非公表』で貫き通そうとしてるだろ?でもさ……そもそもゼン先輩を隠すなんて無理じゃね?って。
だってあんなに派手な人だろ?今日の公開訓練だって、ただ出るだけのはずが、結局クラウス隊長と戦り合って観覧席に銃をぶっ放して、訓練中ずっと隅にぽつんと立たされて。挙句、団長に模擬戦で勝っちゃうなんて。もう無茶苦茶だよ。全部たった一回の訓練内でやらかしたんだぞ?それで『目立ちたくない』って方が無理あるって。」
「まあな。」
「だからさ、ラルダ団長がどんだけ頑張っても、ゼン先輩がどんだけ嫌がっても、もう時間の問題な気がする。
どうせすぐに国民にも知られちゃうよ。だってみんなから見たら『バレバレ』だもん。」
「クロド……。」
同期が少し顔を曇らせる。でもオレが言いたいことはそんなことじゃない。
オレは笑って続ける。
「でも不思議だよなー。
ゼン先輩って無茶苦茶じゃん?それなのに何故か結局、最終的にはみーんな、ゼン先輩のことを好きになっちゃう気がするんだよな。あんなに怖くて破天荒なのに。
怖いはずなのに優しいし、破天荒なのに頼りになるし、何より強くて超カッコいいし。
オレも今日一日で好きになっちゃったもん。お前がゼン先輩に懐いてる理由、よく分かっちゃった。お前も、クラウス隊長も、ラルダ団長も……みんなそうやって気付いてたらゼン先輩のこと好きになってたんだろうなって、今日思ったんだよ。
だから……オレみたいに最初は国民も怖がるし嫌がるかもしれないけどさ。『ラルダ王女のお相手が庶民の乱暴者だなんてー!』とか。『クラウス様に比べたら天地の差だー!』とか。
でも、どうせすぐみんな手のひら返して好きになるよ。だってゼン先輩だもん。」
それを聞いた同期は声をあげて笑った。
「そんで、何だかんだであと数年もしたらみんなすっかり慣れちゃってさ、ラルダ団長……第一王女の生誕記念の式典の日には王都の酒場でこう言われてんの。
『ん?……ああ、王女様の旦那様?
非公表だから誰とは言えねえけど、あの破天荒な最強騎士様のことか?今日も相変わらずどこかで無茶苦茶やってんだろうな!』
『ハッハッハ!そりゃ当たり前だ!魔導騎士団の団長を勤めて、お相手も隠しちまうやりたい放題の王女様だぜ?!手に負える奴は他にいねえさ!』
『どっちが手に負えないんだか分かんねえな!』
『何にせよ、王女様が幸せならそれでいい!』
『王女様と非公表の旦那様に乾杯!!』
なーんて。庶民にも貴族にも笑われながら言われてさ。
隠してるけど隠せてない、そんな未来が見えるんだよな。
団内でオレらが団長から婚約報告されたときみたいにさ、いつか世間にゼン先輩を『公表』する日が来たとしても、その頃には国民全員がこう言うんだよ。
あのときオレら団員全員が言ってたように。
『でしょうね。知ってました。お幸せに。』
って。」
同期も全力で頷いている。そしてオレに向かってこう言った。
「クロドはそういう勘が鋭いからな。絶対当たるよ、その未来。」
そうして国民みんなに祝福されたとき、きっとゼン先輩は顔を顰めながらクラウス隊長に八つ当たりするに決まってる。けど、ラルダ団長の顔には絶対こう書かれていることだろう。
──ああ。これだから私の彼は困るのだ。周りの皆が全員漏れなく、彼に見惚れているではないか。
──これでは「非公表」の意味がない。
〈ご挨拶と今後について〉
拙作を読んでくださり、ありがとうございました。
本編の後書きにも書きましたが、誰かお一人にでも読んでいただけることがこんなにも嬉しいことなのかと、反応をいただける度に感じておりました。
数多の作品がある「小説家になろう」の中から、片隅でこっそり好き勝手に書いていた拙作を見つけてくださり、さらにここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
さて、これも本編の後書きで触れましたが、一応、さらに続きの話も考えております。さらなる続編につきまして、もしご興味のある方がいらっしゃいましたら、活動報告の方に詳しく書いておりますのでそちらをご覧ください。




