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婚約者様は非公表  作者: 湯瀬
第五部
118/120

18 ◇ 旦那様はまだ非公表

 ゼンとユンが王都に戻ってきてから数ヶ月が経ったある日。王国全土を賑やかす驚愕の真実が駆け巡る。


 これにて、本編完結です。

 クゼーレ王国魔導騎士団。


 危険度最大級の魔物を討伐するために結成された、魔法による特殊戦闘を専門とする王宮直属の騎士団。


 まず魔法自体がほぼ貴族にしか扱えず、平民の魔力持ちは滅多に現れない。その上、魔物と対等以上に戦うためには天性の運動神経と徹底的に鍛え抜いた強靭な肉体が不可欠である。

 希少な魔力と、超人的な身体能力。この二つを兼ね備えた者だけが所属することができる、勇猛果敢な最強のエリート集団。

 クゼーレ王国では、舞台役者よりも歌手よりも芸人よりも、何よりもこの「魔導騎士団」こそが圧倒的人気を誇るスターなのだ。


 そんなカリスマ揃いの魔導騎士団きっての超絶美形な花形剣士【クラウス・サーリ】第3部隊長。

 圧倒的な国民人気を誇る彼について、ある日、全国民を震撼させる一大発表が王都中を駆け巡った。



「号外ー!号外ーーーッ!!速報だ!!


 クラウス様が『ご婚約』されたぞーーー!!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 衝撃の号外新聞が朝一でばら撒かれてからというもの、王都ではどこもかしこも誰も彼もがクラウス様の婚約の話で盛り上がっていた。


 王都の中心部から少し外れたところにある、庶民の憩いの場「クゼーレ・ダイン」。1階が大衆食堂で、2階と3階は宿屋になっている。これが私【ミリア】の実家であり職場だ。


 今日は平日。現在時刻は午後3時。

 普段だったらこの時間に1階の食堂が満席になってるなんてあり得ないんだけど……今日は満席大盛況。こんな光景はラルダ様の婚約発表のとき以来。

 どのテーブルでも当然話題は国民みんなの憧れの的──魔導騎士団第3部隊長クラウス様のご婚約についてだ。


「いやぁ〜!クラウス様もついにご結婚かぁ!!」

「もうウチなんて朝から娘たちが大騒ぎで大変だったのよ!学校行くまでずーっとキャーキャー叫んじゃっててさぁ!ま、あたしも叫んじゃってたけどね!」

「そりゃ驚くだろう!うちの妻もだけどよ、男の俺だって驚いて声上げちまったよ!っつーか、驚かねえ奴なんているのか?!」

「でも()()()を見ちまったら、納得しかねえよなぁー!」

「ほんとほんと!こんなのお祝いするしかないわよねぇ!」


 ガハハハと笑い合う中年男女達のテーブルにビールジョッキを並べながら、私は心の中でひっそり同意していた。


(わーかーるぅー!突然の発表でびっくりしちゃったけど、号外新聞に載ってたお相手のお顔を見たら『もうこのお二人の組み合わせ以外あり得ない!』って一気に納得しちゃったもん!超超ぴったり!超お似合い!!)


 以前、一度だけこのクゼーレ・ダインにも来たことがあるクラウス様。

 美しすぎる見た目と凄すぎる剣の腕前だけじゃない。中身も礼儀正しくて、笑顔を絶やさず私たち庶民にも優しく接してくださったクラウス様。私は実際にお会いしたあの日以来、もっともーっとファンになっちゃった。

 そんな外面も内面も非の打ち所がない、とにかく完璧すぎる御方。「クラウス様に釣り合うお相手なんて、この世の中に存在するの?」なんて思ったりもしてたんだけど……


「まさか、お相手が『お隣の国の王女様』だなんてよぉ!」

「そうそう!写真を見て腰を抜かしちゃったわよ!あんなに綺麗なお姫様が隣国にいたなんてねぇ!」

「なんでも自国(あっち)じゃ【エゼルの妖精姫】だなんて異名を持ってるらしいじゃないか。」

「エゼル王国の人外の美貌の王女様まで落としちまうなんて、さすがは俺らクゼーレ王国の花形魔導騎士様だぜ!」


 そう。このクラウス様の婚約発表。


 ──なんと、婚約者様が「エゼル王国の第二王女様」だったのだ。


 すごい、すごい……すごすぎる!

 本当にクラウス様は、クゼーレ王国が世界に誇れる【絶世の美男子】だと思う!


 私は貴族じゃないけど、それでも分かる。

 貴族とはいえ侯爵家()()のクラウス様が、ここクゼーレ王国に並ぶ大国エゼル王国の王女様を射止めちゃったのが、どれほどすごいことなのか。

 それでしかも……何となんと!新聞によると、どうやらその「エゼルの妖精姫」こと【リーレンゼルテ】第二王女様は、ご結婚にあたってクゼーレ王国に嫁いできてくださるらしい!

 つまり、私たちクゼーレ王国民にとっては、()()()()()()()お姫様ができるようなもの!こんなの、お祝いしない方が無理だって!!



 もうこれだけでも大興奮の大ニュース。

 でも、みんながここまで異様に騒いでる理由は、()()()()ある。


 それは、私たち王国民が誇る「クゼーレ王国の象徴」。第一王女【ラルダ・クゼーレ・ウェレストリア】様にあった。



 お父さんとハルが作った料理をまた別のテーブルに運んでいくと、そのテーブルでもまさにちょうど、我らがクゼーレ王国の王女ラルダ様についての話題が上がっていた。


「それにしてもよ〜。俺、ぜってーラルダ様の結婚相手はクラウス様だと思ってたんだけどなぁ〜。」


 私は「お待たせしました!ご注文の品です!」と言ってテーブルに料理を並べながら、私と同い年くらいの若い男性グループの会話を聞いていた。

 決して盗み聞きしている訳じゃない。近くにいるせいで勝手に耳に入ってくるのだ…………ということで、今日もこっそり聞き耳を立てること、どうかご容赦いただきたい。


「でもクラウス隊長じゃないとしたら、結局誰なんだ?ラルダ王女のお相手は。」

「う〜ん。こうなると……魔導騎士団でクラウス様の次にラルダ様に歳が近い、【ベイン】第1部隊長……とか?

 ほら、ベイン様って貴族じゃないだろ?身分差があるから公表しちゃ駄目なんじゃないか?」


 私が置いたばっかりのポテトのお皿に手を伸ばしながら、グループの一人が首を傾げる。


「えぇー?そこは無いだろ。

 それこそ身分差もあるし……そもそもベイン隊長にはあれだろ?お相手っつーか、例の『駆け落ち聖女』がいるだろ?」

「ああ。そういえば最近ちょうど新聞で、聖女様の特集やってたな。懲役10年の刑もそろそろ終わるって。釈放までいよいよあと100日を切ったんだっけ。」

「エゼル王国の姫様がクゼーレ王国(こっち)に来て、しかも年明けには特級聖女様までお目見えするってことか!めでたいこと続きでヤバいよな〜!」

「けどもしラルダ王女のお相手がベイン隊長だとしたら、聖女様が出所してから揉めそうじゃね?」

「うわー……なんか嫌だな、それ。」

「あ!でも、だからこそ『非公表』なんじゃないか?聖女様と王女様の泥沼三角関係だから!

 ──あっ、すみません。この皿も下げてもらっちゃっていいですか?あと、ビール追加で。」

「俺もビール!」

「……いや!俺はラルダ様を信じる!正義の女神ラルダ様には、そんな痴情のもつれは似合わない!あり得ない!1万リーク賭けてもいいね。」


「はーい。ビールが追加でお二つですね!以上でよろしいですか?」


 追加の注文はしっかり聞き逃さないようにしながら、私は心の中でニヤニヤしていた。


(あぁ〜っ!残念!さっき、ちょーっといい線に行きかけてたのに!

 ──『身分差』!それ当たりなの!実はラルダ様のお相手は『貴族様じゃない』の!

 っく〜!言いたい!言っちゃいけないけど、知らないフリするのも大変だよ〜!)


 私が注文を受けて、下げた皿を持ってカウンターに戻る間にも、また別のテーブルからラルダ様のお相手を予想する声がする。


「クラウス様が違うとなると、やっぱり副団長の【ドルグス】様ってところか?歳はちょっと離れてるけど。いつも隣に並んでて、信頼関係めっちゃできてそうじゃん。もうあれ夫婦みたいなもんじゃね?」

「それか、魔導騎士団じゃないのかもね。私たちが知らないだけで。普通に、王宮のお役人の誰かとかなんじゃない?宰相様〜とか、何とか大臣様〜とか。」


 もう2年半近く前になる、ラルダ様のお相手非公表の婚約発表。

 それから王都では定期的にずっと、事あるごとに「お相手が誰か」の話題が上がり続けていた。

 でも、私が聞いてきた限りでは、真実に辿り着いていた人はいない。未だに誰も、お相手を言い当てることはできていなかった。



「んー……でもさぁ。正直ずっと思ってたんだけど。

 そもそもお相手がドルグス副団長でもお偉い大臣様でも誰であってもさ、わざわざ『非公表』にする意味なんて無くないか?

 ドルグス副団長だったら当たり前に大歓迎だし……別にベイン隊長みたいに、少しくらいお相手に何かしら事情があったとしてもさ。

 僕たち国民はみんな、ラルダ王女が選んだお相手なら、誰でも祝福できると思わないか?」



 一周回って、誰かが今さらながら当然の疑問を口にした。


 その誰かの当然の疑問に呼応するように、いろんな人たちが「たしかに。」「だよな。」「分からないのはそこなのよねー。」と、テーブルの垣根を超えて頷いて同調していた。


 気付けばいつの間にかこの1階の食堂は、知り合いも他人も関係なく──1階全体でみんなが一つの会話をしているかのような空気になっていた。


 みんな、とにかく誰かと話したくて、いろんな人たちの意見を聞きたくて仕方がないんだろうなぁ。

 わかる。わかるよ?だって私ももしその「答え」を知らなかったら、絶対に今この場の空気に乗っかって、あれこれ考えてたに決まってるもん。



 ──隠されたラルダ様の大切な「お相手」。


 ──誰もが解き明かしたい不可解な「非公表」の理由。



 でも、きっと絶対に辿り着けない。

 だって、その「非公表」の本当の理由は、真相を知ってからじゃないと、絶対に納得なんてできないもん。



 ラルダ様がした前代未聞の決断は、身分差や世間体ももちろん関係あるんだけど──


 ──……何よりも、それは「お相手」のゼンを守るための、大国の王女ラルダ様の、誰よりも強い覚悟をもった「愛」の形。


 王国史上最悪の「ウェルナガルドの悲劇」を乗り越えて……辛い過去をたくさん抱えながら生きてるゼンが、ラルダ様と幸せになるために。

 ここ「クゼーレ・ダイン」でみんなで話し合って、そうして決めたことなんだ。



 お相手を知りながら隠すのは、たしかに大変。真実を言いたくてもどかしくなっちゃう気持ちを抑えるのも、正直言って楽じゃない。


 だって、絶対に真実を知ったら、みんなものすごく驚いて……それで、絶対に大盛り上がりになって、王国中が祝福してくれるはずだもん。


 でも、言わない。

 私以上に言いたいはずのラルダ様が、こんなに頑張り続けてるんだから。

 それに、もう10年近くの付き合いになるゼンには、やっぱり情は湧いてるもん。ずっと幸せでいてほしいもん。



 私はそんなことを考えながら、またカウンターに並べられた出来立ての料理を持とうと両手を伸ばした。



 ──すると。



 ちょうど私のいるカウンターから一番遠くの奥まったテーブルにいる、野良の冒険者らしいワイルドな格好をした集団の一人が、酔っ払いらしく笑って酒を煽りながら、大声で食堂のお客様たちに向かって話しだした。



「おいおい、おいおい!

 みんな知らねえのかぁ〜?!

 王女様の『お相手』なんてよぉ!ギルドの冒険者の間じゃ、もう散々(うわさ)になってんぞ?とっくに知ってるっつーの!」



 ………………へっ?



 自信満々の酔っ払いの大声に、私だけじゃなく食堂中の全員が振り向いた。


 そしてこの場の注目を浴びた酔っ払いの野良冒険者は、気分良さそうに堂々と、信じられない驚きの予想を言い切った。



「最高にイカれた伝説の()()()()。【ギルド荒らし】のゼンとユン。


 ──その兄の『ゼン』こそが、隠された王女様の旦那様だ。


 ってな!

 歴代最強剣士の姫様には、王国最強の伝説の男しか釣り合わねえに決まってんだろ!」



◇◇◇◇◇◇



 今までのお相手候補の傾向を一気にぶち壊してきた、支離滅裂な酔っ払い。


 お客様のほとんどが、いきなり「ギルド」だの「冒険者」だの──そんな荒くれ者しか使わない聞き慣れない単語を並べられて、咄嗟にはついていけずに、ポカンと呆気に取られていた。



 そして、私も。


 私もお客様と同じ……ううん。お客様の百倍はポカンとして、身体に染み付いた仕事の動きも忘れて、その場に立ち尽くしてしまった。



 えっ?嘘でしょ?


 そんなことって──



「──ちょっ……お前、酔いすぎだろ!

 ほら!周りをよく見てみろよ。馬鹿みてえに注目浴びちまってんじゃねえか。

 ホラ吹くのも大概にしとけって!んなギルドの中だけの面白(おもしろ)話なんて、ここじゃ誰にも通用しねえっつーの!」


 向かいに座っている冒険者仲間らしき人が、呆れ笑いをしながら酔っ払いに指摘する。

 でもその酔っ払いは、ハッとして酔いを覚ますどころかますます愉快そうに笑いながら、自信満々にそのお仲間に向かってこう反論をした。


「あぁん?ホラじゃねえよ!

 お前が知らねえだけだろぉ〜?お前はカッコつけて孤高を気取ってっからなぁ〜?

 俺みてえにギルドの主人(マスター)と仲良くして情報を仕入れることができる社交的(しゃこーてき)な奴はな、さっき言った通りとっくに知ってんだっつーの。


【ギルド荒らし】のゼンとユンは、テキトーな作り話なんかじゃねえ。

 ここ数年、王都近くのギルドには、ちゃーんと『本物』が現れてんだって。目撃情報どころじゃねえ。フツーに顔見知りなんだっての。

 気晴らしにたまーにフラッとやって来て、最高難度の依頼だけを秒でこなして帰ってく、常連のイカれた荒らしなんだとよ。


 ──ソイツら伝説の兄弟は今、確実に()()()()()()()()


 んでもって、そんなイカれた強さの奴らが王都にいるとしたら──……んなもん、『魔導騎士団』しかあり得ねえだろが。」


 王国中の誰も彼もが知りたがっている、カリスマ王女ラルダ様の旦那様。

 眉唾だろうと突拍子が無かろうと、面白ければそれでいい。

 もうこのクゼーレ・ダインにいるお客様はみんな料理を食べる手を止めて、誰よりも面白そうな迷推理を語る酔っ払いに注目しきっていた。


「じゃあお前、そ〜んな(つえ)え化け物が幹部陣に見当たらねえっつーのは、一体どう説明すんだよ。

 その『最強兄弟』が本当に王都にいたとして。結局は『イカれた強さ』っつっても所詮、ギルドの中だけで盛ってる話ってことなんじゃねえのか?

 どうせソイツらはただの野良冒険者で、最近はここら辺を拠点にやってるってだけだろ。」


 同じテーブルに座っているまた別の冒険者の一人が、鼻で笑いながら酔っ払いの推理の穴を突いた。

 でも酔っ払いはその指摘にも堂々と、胸を張って即座に言い返した。


「テメェは馬鹿か?

【ギルド荒らし】の兄のゼンっつったら『二丁銃』に決まってんだろ?『最強』が剣士じゃなきゃいけねえなんて決まりはねえんだよ!」



 私は自分の心臓が今すごくバクバク鳴っているのが、胸に手を当てなくても分かった。


 酔っ払いの突拍子もない語り。

 周りの人たちにはどう聞こえているか、私には全然分からない。


 だって、私は真実を知ってるから。


 ……だからその酔っ払いの冒険者が今、次々に真実を言い当てて、どんどん真相(ゼン)に迫っている──ということが、私には当然、分かってしまっていた。



「…………そういえば私、聞いたことある。


 何年か前に、一度だけ。

『魔導騎士団の公開訓練で、ラルダ様に模擬戦で勝っちゃってた、信じられない強さの()()()()()()()がいた!』って。


 又聞きだけど、聞いたことがあるの。

 抽選に受かって公開訓練を見に行った知り合いから聞いた──って。私の友達が言ってたの。


『その謎の魔導騎士様は、剣でラルダ様に勝った後、()()()()()()()()()()、クルクル格好良く回してた。その人は前衛の剣士じゃなくって……本当は射撃手(ガンナー)なんだ。』って。」



 酔っぱらい冒険者たちの奥側のテーブルとは離れた、入り口近くの別のテーブルに座っている若い女の子が、静かにポツリと呟いた。


 私の心臓はもうバクバクを超えていて、私は棒立ちしたまま全身の感覚を忘れかけていた。


 その女の子の呟きを聞き取った酔っ払いが、思いっきり嬉しそうに手を叩いて、仲間の方を見ながら勝ち誇った顔で推理の答え合わせをした。



「ガッハッハ!ほら見ろ!オイ聞いたかぁ?!

 だから言ったろ?


 ソイツが『ゼン』に決まってんじゃねえか!!


 最強の王女様に剣で勝っちまうくれえに化け物じみた超最強!!

 んなもん、王女様の旦那様以外あり得ねえっつーの!!


 ──って…………ん?


 ……っつーか、……オイまじかよ?

 本当にあの『ゼン』が……まじで魔導騎士団にいんのかよ?!

 オイオイ、まじか……信じらんねえ!!」



 どうやら酔いながら勢いで気持ちよく語って、それでしばらく経って、自分の言葉で今になって酔いが覚めてきたらしいその冒険者。

 酔っ払いじゃなくなった彼は、今さら冷静になって自分の話と女の子の話を繋げて……そうして遅れて驚き始めているようだった。


 そんな酔っ払いの彼に続くようにして、二人の情報を繋ぎ合わせた他のお客様たちも、だんだんとざわつき始める。


「嘘!もしかして……」

「今の話……でも、もしそれが本当なら、実際あり得るんじゃない?」


「……『ラルダ様の旦那様』が?」


「よく分からないけど、『ギルドで名を馳せてきた有名人』ってことは……貴族様じゃない『荒くれ者の平民』で?」


「でも、歴代最強の団長ラルダ様も敵わない程に滅茶苦茶に強い『最強の剣士で射撃手(ガンナー)』で……」



「……その非公表の旦那様は、『ゼン』って人だ──ってこと?!」



「まじか……まじか!」

「そっか!だから『非公表』なんだわ!貴族様じゃないから!」

「平民だとしても、さらに『ギルド上がりの化け物』なんて、王女様とは正反対の生き物だもんなぁ?!」

「えっ!?やばくない?!もしかして、この食堂にいる人たちで、今真相に辿り着いちゃったんじゃない?!」

「うおー!すげーっ!!」

「うそ!どうしよう!えぇーっ!今すぐラルダ様推しの友達みんなに教えてあげたい!」

「──そうだ!今思い出したんだけどね?友達が言ってたの!『その公開訓練に出てた謎の魔導騎士様、訓練前の余興でラルダ様だけじゃなくクラウス様とも戦ってたらしいよ!』って!」

「えっ!それ本当?!」

「キャー!そんなのもう確定じゃん!大剣のクラウス様とも渡り合えるくらいすごいってことでしょ?!」

「絶対その人だって!ラルダ様の旦那様!」


「ラルダ様の旦那様は──【ゼン】って男で決まりだ!

 100万リーク賭けてもいいぜ!!」


 誰かがそう声を張り上げると、食堂中のみんなが一斉に沸き立った。

 あちこちからビールジョッキがぶつかり合う乾杯の音と、ゲラゲラと愉快に笑い合う声がする。



「──っ、お父さん!」


 そこでようやく私は全身のコントロールを取り戻して、慌ててカウンターの方へ振り返って、引き攣った小声で奥でハルと一緒に揚げ物を揚げているお父さんを呼んだ。


 お父さん!どっ、どど、どどど……どうしよう!?

 何でか全然さっぱり分からないけど……ゼンのこと、お客様たちにバレちゃったよ?!?!


 私が目で必死にお父さんにそう訴えると、私と目を合わせたお父さんは、片眉を上げて3階のゼンの部屋がある方の天井をチラッと見て、それから呆れたように「ハンッ!」と鼻で笑ってすぐに唐揚げに視線を戻した。

 それからハルに「……もういいぞ。どんどん上げてけ。」って軽く指を差して指示をしてから、今度は私に視線を戻して、顎でクイッとカウンターに並んだ料理を示してきた。


「ミリア。何をボサッと突っ立ってんだ。

 料理が冷めちまうだろうが。とっとと持ってけ。仕事しろ。」


「でも、……お父さんっ、」


 私が戸惑いながらもう一度そう呟いたら、お父さんは意地悪そうに笑って、私に向かってこう付け足してきた。



「ハッ!ギルドの『冒険者様』だか天下の『魔導騎士様』だか知らねえけどよ。


 そんな奴、()()()()()()()()()()な。

 ここはただの宿屋と食堂だからよ。俺は()()()()()()()()()()


 ギルドで意味わかんねえ二つ名を貰って騎士団の公開訓練ではしゃぐ奴なんざ、ただの自業自得の大馬鹿野郎の間抜けだろ。


 ……いいか、ミリア。分かったらさっさと料理持っていきついでに、追加の注文を取ってこい。

 今日はクゼーレ・ダイン史上一番の売り上げが出んぞ。料理も酒も全部出し尽くすまで、気合い入れて働け。」



 …………!!



「──うん!

 はーい、お父さん!分かりました!さっそく気合い入れて行ってきまーす!」



 私はお父さんの言葉で、一瞬で頭の中を明るくパッと切り替えた。


 うん。そう……そうだよね!

 やっぱりお父さん、格好いいっ!!



 まさに今、ここでゼンの存在が、偶然びっくりな流れでバレちゃったけど。


 でも、全部お父さんの言う通り。

 私たちが()()()守らなきゃいけないのは、他でもないここ「クゼーレ・ダイン」にお金を払ってくれている【お客様】。


 私とお父さんとハルは、絶っっっ対にお客様の秘密を漏らさない。

「クゼーレ・ダイン」は安心と信頼と美味しいお父さんの料理が売りの、王都(いち)快適な宿屋ですから!


 ゼンがそのギルドや魔導騎士団みたいに、自業自得で宿屋(ここ)で目立っちゃうような変なことをしない限り。

 王都中の人たちが「ゼン」に辿り着いたとしても、あの「3階の部屋」までは辿り着けないでしょうね。……ふっふっふ。


 ──じゃあ、ま!それでいっか!




 …………あ。でも、さすがにこうなっちゃったら警戒度を上げないといけないから、ゼンにちゃんと私から忠告してあげなくっちゃ。


(今晩()()()が帰ってきたら全部バッチリ教えてあげよう。今日のお客様たちみんなの、偶然噛み合っちゃった奇跡の話の内容を。)


 どんな反応するかなぁ〜?

 絶対に嫌がって、それから超〜焦るだろうなぁ〜!


 あー楽しみ!思いっきり揶揄って焦らせてあげちゃおうっと!

 ゼン、今日はこっちに帰ってくるかなー?!



 こうして、私は久しぶりに(やつ)の帰りを待ち遠しく感じながら、せっせと仕事に励むのであった。



◇◇◇◇◇◇



 バターン!ドカッ!


「おい、ミリア。(めし)なんか残ってねえ?

 晩飯ろくに食ってなくて腹減ったわ。」


 夜11時。

 閉店後の食堂の片付けを終え、ようやく一休みできると思った矢先。

 閉めてあったドアが勢いよく開かれ、綺麗に拭いたばかりの椅子に図々しく座る男が現れた。


「ちょっと!ドア蹴って開けるなって言ってるでしょ!」


 ……と、いつものやり取りをしたところで、私はピンと閃いた。


「あ!ねえ!そうだよ、ゼン!

 もうこれからは絶対にドア蹴って派手な音立てて帰ってこない方がいいよ?!

 万が一()()()()()()ら、ドアの修理どころの話じゃなくなっちゃうから!」


「あ゛?何の話だよ。」


 ゼンが当たり前のように私を威嚇してくる。

 私はそんなゼンの前に座って、さっそく今日あった出来事をぜーんぶ余すことなく教えてあげることにした。


「ねね、ゼン!ゼンは当然知ってるでしょ?今日のニュース!」

「は?」

「もー!アレだよ!『クラウス様のご婚約』!」

「あー、ハイハイ。」

「それでね?今日はお昼も夜も、食堂がずーっと満席で!みーんなその話題で持ちきりでね?!」

「うっぜ。聞かれても何も答えねえよ。」


 勝手に勘違いしてフライングで鬱陶しがってくるゼンを、私はニヤニヤしながら煽った。


「あ。ゼン。そんなこと言っちゃっていいのかな〜?

 私、今から全然(ぜーんぜん)違う話をしようとしてるんだけどな〜?

 聞いておかないと損するよ?……っていうかゼン。冗談抜きに、本当に真面目に聞いておいた方がいいよ?今日の私の話()()は。」


 私はニヤニヤ笑いながらも、ちゃんと本気で心配してることも、ゼンに伝わるようにした。


 ……だって、宿屋(ここ)はゼンにとって本当に大切な、失ったら困る場所だもんね。


 するとゼンは、私の煽りと本気が混ざった言葉に、(いぶか)しそうに眉間に皺を寄せて首を傾げてきた。


「…………は?何だよ。」


 聞く気になったな。よしよし。


 私はそうして、何も知らない呑気なゼンに、今日の出来事を完璧に語って聞かせてあげた。



◇◇◇◇◇◇



「──はぁ?!まじかよ!?!?

 オイまじでふざけんなよ!!何でそうなんだよ!!?」


「ほらぁー!だから言ったじゃん!

 これから先『バターン!』なんてさっきみたいに派手な音立ててドアを蹴って開けてたら、夜中でも外を歩いてる通行人や宿泊客の人に見つかっちゃうかもしれないよ?

『──え?今の音、何?……あれ?あの人、魔導騎士団の団服じゃない?……ん?【クゼーレ・ダイン】?この宿屋に入ってったよね?』

『えー?!ちょっと待って!?あの人って、まさか噂の王女様の──?!』」

「おいやめろやめろ!気色(わり)い声でんな(こえ)え妄想垂れ流してんじゃねえよ!!」

「この妄想を現実にしたくないなら、明日からはちゃーんと静かにドアを開け閉めしてくださーい。」

「チッ!テメェ、まじ調子乗んなよ!!」

「私に当たらないでくださーい。ウチの守秘義務の遵守は完璧だもん。だからこれは全部ゼンが自分で勝手にやっちゃった、『自業自得』の『自己責任』でーす。」

「っあ゛ぁー!やってらんねーーークソが!!」



 そうして、ゼンが我が家の居候になってから早9年半。


 苦節10年目にしてようやくこの野蛮で粗暴な最強の「不良魔導騎士様」は、()()()()()()()()()()()()という、まともな人間の文化を身に付けた。



 長かった本編をここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。


 100万字超えとなった本作の語り手たち。

 まず第一部はミリア、クロド、アスレイ、ハンネエーラ、ドルグス、ユン、ゼルドー、後日談にクラウス。

 続けて第二部でセレンディーナ、故人のサラ。後日談にアルディートとヴァルフィートがきました。

 第三部はリレイグ王子と、オーレン。

 第四部ではメナー、スノリー、グレイ、エリィ、ギルド主人のクソジジイ、雑貨屋「リリ・アルベン」店主。

 その第四部と後日談に繋がる関連作品では、グレヴィア、クラウスの兄と、妹。シラー、セゴット、シャメリー、スミク、ミカ、ユキア、ベイン、ゲンジがそれぞれ主役を張ってくれました。

 そして第五部で、ゼンと、ナナリーの従姉マナの登場となりました。

 第一王女ラルダの婚約発表から始まったこの物語を語り紡いでくれた人物は33名いました。

 ラルダを筆頭に、リーレンゼルテ、ミズハ、ハル、X、キリナードなど……まだまだ語り手を担当したことのない人物もいます。(なんならまだ一瞬の言及しかされていない、裏設定にしかいない人物もいます。)


 これだけいれば、読者様にとって苦手に感じる人物が出てきていても、まったくおかしくありません。いまいち共感しきれない、理解できない思考の持ち主もいたかもしれません。

 ですが、そんな欠点だらけの彼ら彼女らを好きになっていただけていたら、作者としてこれほど嬉しいことはありません。


 皆様はどの組み合わせがお好みでしょうか。

 推しの騎士様は、一人はできましたでしょうか。

 気が合いそう、自分に少し似ているかもと思えるような人物は、この中にいましたでしょうか。


 親子、兄妹、義姉妹、義兄弟……たくさん登場しましたが、ゼンとユンの兄弟のことは、気に入っていただけたでしょうか。


 ふと思い立って挑戦してみた初めての小説。最後まで楽しみながら書き切ることができたのは、ひとえに読者の皆様のお陰です。

 長い間本作を見守ってくださり、本当にありがとうございました。


 本編はこれにて完結ですが、読者様への御礼を兼ねて、気軽に読めるような番外編──王都に戻ってきて再び日常を楽しんでいる兄弟それぞれの様子でも、また一週間以内を目標に書いて上げようと思います。

 それでは。改めて、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
本編完結お疲れ様です! 前回の完結からまた投稿してくださり本当に嬉しかったです。 こちらの作品すごくすごく大好きで、関連のお話も楽しく読ませていただいているのですが、どのキャラクターも素敵なのに完璧じ…
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