16 ◇ 忘れた涙の墓参り(後編)
第五部(18話+幕間2話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
「ちょっと待って!まだ全部切ってない!」
ユンが包丁でキャベツを切りながら文句を言ってくる。俺はユンの言葉を無視して、ゼンが肉と人参とジャガイモを炒めてるところに適当に塩を振りかけた。
「味付けなんかどのタイミングでやったって変わんねえよ。お高級な舌を気取んな。」
雰囲気で胡椒をゴリゴリ入れていく。
そうしたらユンが「切ったら思ったより量あった。」と右手でゼンが持ってるフライパンにキャベツを投げ入れながら、左手でフライパンに入れきれねえキャベツを生で食い始めた。
「あ。けっこう甘い〜。」
ユンが左手でキャベツを食いながら、それでもまだ余ってるキャベツを、今度は右手でゼンの口に突っ込んだ。
ゼンは炒めている手は止めずに、無言で口を開けてキャベツが突っ込まれんのを待って、そのままムシャムシャ生のキャベツを食い始めた。
お前らどんだけ腹減ってたんだよ。青虫かよ。
生キャベツでいいならわざわざ厨房まで開けさせんな。急に来て我儘言ってんじゃねえよ。
そうして俺は真夜中に突然やってきた身勝手な兄弟のせいで、料理を振る舞ってやる羽目になった。
◇◆◇◆◇◆
「オラ。俺が作ってやった特製料理だ。ありがたく食え。材料と手間賃で1万リークだ。」
「わーい!いただきまーす!」
「クソジジイは塩胡椒ふっかけてきただけじゃねえか。作ったの俺らだろ。」
金を払う気もなく、礼すらも言わずに食い始めるゼンとユン。
相変わらずふざけた兄弟だった。
「……それにしてもお前ら。急にまた何しに来たんだ?
ユン。テメェは何ヶ月か前に来たばっかだろうが。
そんでもって、ゼン。テメェはこんなデカくなってたのか。」
並んで炒め物を食う二人の向かいに座って、片肘ついて眺めながら質問する。
するとユンの方がリスみてえに炒め物を頬張ったまま、何も分かんねえ返しをしてきた。
「ひへいひてきた。」
「そうかそうか。テメェら疲弊してんのか。そりゃそうだろうな。俺に飯をたかってくるくれえだからな。」
俺が適当に相槌を打ってやると、ユンは料理を飲み込んで言い直してきた。
「『帰省』してきたの。」
「ほーん。そうかそうか。そりゃお疲れ様だ。」
孤児のコイツらの「帰省」なんて、どうせろくなもんじゃない。
俺は5秒で感想を言って、まったく掘り下げずにその話題を終了させた。
「……で?ゼン。お前は本当に久しぶりだよなぁ。
最近どうだ?お前は。今はユンと魔導騎士団なんてお偉いとこでやってんだろ?
王女様とは相変わらず仲良くやってんのか?」
俺がゼンに近況を訊いてやったら、ゼンは「ガンッ!」と音を立ててフォークを皿に突き立てて、隣に座ってるユンを睨んだ。
「…………おい、ユン。」
「違うよ!俺じゃない!クソジジイが勝手に言ってるだけだもん!」
「ふざけんなよ。んな訳ねえだろ。」
「本当だもん!俺は本当に何も言ってないのに、クソジジイがいきなり言ってきたんだもん!しかも俺、まだ否定も肯定もしてないし!」
ゼンに睨まれたユンが、ちょっとでも自分の罪を軽くしようとふわっふわな言い訳をする。
俺は兄弟のどっちの味方でもないが、この前ユンをいじった分、今日はゼンの方をいじってやることにした。
「な〜?そうだよな〜?ユン。
……あーあー。ユンに訊いたときは『やっぱり違うか』と思ったが。今ので確信できたな。
ゼン。お前の方にカマかけてみて正解だった。口が堅え弟と違って、兄貴は分かりやすいなぁ〜。」
「あ゛?」
「ユンは兄貴の秘密を守ろうと、健気にしらを切ってたってのによぉ〜。テメェが台無しにしてどうすんだよ。
おいゼン。王女様との新婚旅行は楽しかったか?土産話でも聞かせてくれよ。」
俺がそう言ってやると、ゼンは本気で不快そうに舌打ちをした。
「でも俺、本当にラルダさんのことは喋ってなかったんだよ?
俺が『兄ちゃんは新婚旅行に行ってるから今日の討伐には来てない』って言ったら、クソジジイが『ゼンは王女様の旦那様だ』って急に言ってきたんだもん。
本当だもん。俺、それしかクソジジイには言ってないもん。」
ユンはユンで兄貴に懸命に言い訳を重ねる。
ゼンはそんなユンを呆れるように横目で見て、それから俺の方を見て文句を言ってきた。
「だったら何でクソジジイは知ってんだよ。」
俺が例のギルドで流れてる【ギルド荒らし】の噂話をしてやると、ゼンは思いっきり嫌そうな顔をした。
「──はぁ〜?
まじアホくさ。バッッッカじゃねえの。全員勝手に言ってろよ。」
「兄ちゃん。そんなこと言っちゃうと、クソジジイに本格的に言いふらされちゃうよ?」
「おう、そうだな。その通りだ。【ギルド荒らし】の兄のゼンの許可を直々にもらっちまったからな。よし、明日から張り切って旦那様の名前を王国全土に広めてやるとするか。」
「ほらぁ〜。」
弟の健気な忠告を聞いたゼンは、俺を馬鹿にするように鼻で笑って、世の中を舐め腐った発言をした。
「ハッ!どうでもいいわ。そんなん。
こんなバカ遠い南部のギルドで何言われてたところで、どうせ何も変わんねえよ。」
◇◆◇◆◇◆
「ねークソジジイ。宿屋借りんの面倒くさいし、ここに泊まってっていいでしょ?」
「あぁ?ユン、お前そんなにあの物置きがお気に入りなのか?
こんなでけえ図体の男二人が入れる訳ねえだろうが。ケチってねえで大人しく宿屋で部屋借りろ。」
俺が拒否をすると、ユンは「えぇ〜……じゃあいいや。普通に床で。そっちの空いてるとこ、ちょっと俺たちに貸してよ。」と言いながら、換金所の奥の空いてる場所を、勝手に荷物を置いて陣取った。
ゼンとユンはそのまま徹夜で俺にどうでもいい話をぐだぐだと聞かせてきて、それから日が昇ってきたところでギルドの掲示板を見に行って、当たり前のように一番高額な報酬の依頼書を取ってきた。
「なんだぁ?テメェら。依頼受けんのかよ。
金も持ってきてねえのか?それともまた盗まれちまったのか?」
「そんな訳ないじゃん。馬車代くらいはちゃんと持ってきてるよ。」
「じゃあ何してんだよ。お前ら帰らなくていいのかよ。」
俺がそう聞いてやったら、ゼンとユンは二人で顔を見合わせて、それから「今日、何日目だっけ?」「忘れた」とすっとぼけたことを言った。
それからゼンが指を折って何かを思い出しながら数えて、二人で今後の計画を今さら打ち合わせしだした。
「…………8日目か?ちょうど今日で平日最後じゃね?合ってっか?クソジジイ。」
「全然違えよ。」
「ってことは合ってるな。ありがとなクソジジイ。」
「うーん。どうしよっか。再来週の頭までに戻ればいいんだもんね?
今日と、週末の休み2日と、それからまた丸々1週間分……じゃあ、あと今日含めて10日あるのか。
急げば5日で王都に戻れるでしょ?あと5日間くらいはフラフラしてられるね。」
「だなー。けっこう時間あんな。休み取りすぎたわ。」
「兄ちゃんはどっか行きたいとこある?他に寄っときたいとこ。クソジジイ参りみたいに。」
「んー……特にねえな。」
「だよね。俺もない。」
「……オイ。『クソジジイ参り』って何だ。俺様はここに祀られてる神様じゃねえぞ。」
俺がなんとなくツッコミを入れてやったところで、ゼンとユンは結論が出たらしく、取ってきた依頼書を改めて俺に渡してきた。
「んじゃ、適当に5日くれえここで暇潰してこうぜ。ここなら宿代もかかんねえし。もう移動すんのも、なんか面倒くせえし。」
「だね。……ってことで、じゃあクソジジイ。はい、これ。」
………………。
「登録用紙くれえちゃんと出せ。まともに手続きしねえ奴には金払わねえぞ。」
俺がそう言ってやったら、ゼンとユンは「うるせえな。」「もう顔知ってるからいいじゃん。」とぶつぶつ文句を言いながら単発登録の用紙を二枚取ってきた。
昔はユンが二枚分せっせと書いてた登録用紙。
だが昔と違って、ゼンとユンは並んでペンを持って、それぞれが自分の分をさらりと書き上げた。
「……ゼン。お前、まともに字が読み書きできるようになったのか。
お優しい王女様にでも教わったか?」
俺がほんの少しだけ驚きながらゼンを揶揄ってやると、ゼンは俺の顔を見てほんの少しだけ驚いた顔をして──それから登録用紙に目を落として、返事はせずに苦笑した。
◇◆◇◆◇◆
「おーっす主人──って、何だこりゃあ?!」
「おいおい!何でこんな馬鹿でけえ魔物がこんな入り口に転がってんだよ!?」
「ってかこれ気持ち悪いな!?今まで一度も見たことねえヤツだ!」
太陽が完全に真上に来た昼時。
ベスティレッダ所属の冒険者どもが、ぞろぞろとギルドに入ってきて早々に騒ぎだした。
「鬼慈虎蛇尾だ。文句ならあの馬鹿兄弟に言え。
……ったく。どこで見つけてきたんだ。こんな訳分かんねえ獲物。」
俺はややこしい鬼慈虎蛇尾の皮を慎重に剥ぎながら、呑気に食事処で飯を食ってるゼンとユンを雑に顎で示した。
アイツら兄弟は昼前に戻ってきたと思ったら、いきなりこの鬼慈虎蛇尾の死体をここに転がして「クソジジイ。コイツの皮の剥ぎ方分かんねえからここ置いとくわ。」「処理代は引いてもらっていいから。ちゃんと綺麗に剥いでね。」とだけ言って食事処の方に行って飯を食い始めた。
それで俺は今、こうして数十年ぶりの鬼慈虎蛇尾の皮剥ぎに四苦八苦してるという訳だ。
「あっちの山越えた先にある岩峰にいた。」
「偶然見つけたからついでに狩ってきたのー。」
「はぁ?テメェらあんなとこまで行ってきたのか?」
「だって暇だったんだもん。」
俺の小言を聞き取ったゼンとユンが、飯を食いながら反応してきた。
そしてその声を聞いた冒険者どもが、つられるようにしてゼンとユンの方を見て、目を丸くしながら固まった。
「…………………………へ?」
「おい、まさか……」
「お前たち……【ゼン】と【ユン】か?」
野郎共に驚かれた二人は、ソイツらを見て、あからさまに不愉快そうな顔を作った。
「あ゛?」
「うわっ!まだいたの?コイツら。」
固まってる野郎共の代わりに、俺はゼンとユンと会話してやることにした。
「ユン。お前がこの前来たときもコイツらは床に転がってたぞ。
ってかお前ら、コイツらの顔まで覚えてたのかよ。義理堅えこって。」
「は?『義理』?ふざけんな。完全に『恨み』だっつの。
忘れるわけねえだろ。ソイツら、俺らに『飛竜の裏依頼』とかふざけたこと吹き込んできたカスじゃん。」
「そっちは俺のこと『500万で売る』とか言ってきた奴らね。思い出すだけでまじで腹立ってきた。」
「……!ほ、本当にゼンとユンなのか……!」
「まじか!お前ら元気にしてたか?!」
「お前らの腕前なら死ぬことはねえと思ってたけどよ!ちゃんと生きてたんだな!」
冒険者どもがざわつきだす。
その様子を見たゼンとユンは、二人して不愉快に照れが混じったような微妙な変顔をした。
「っつーかユン!やっぱお前……っ、本当に男だったのかよ!
あぁー!あの美少女ちゃんが完全に男になっちまってる!あのまま女で成長してれば、俺が嫁にもらってやっても良かったのに!時の流れはなんて残酷なんだー!」
「うわキッショ。やめてよ冗談でもそういうこと言うの。吐き気する。」
「あぁー!声も男だ!あの頃のユンはもういねえ!終わった!!」
「…………お。でも、よくよく見たらあの頃の面影、めっちゃあるぞ?
ユン。……お前、まだいけるぞ。もういっぺん髪伸ばしてみろよ。意外とまあまあな……いや、むしろ超イイ値段で売れるんじゃねえか?今こそ、逆に。億いくぞ。」
「キッッッショ!きんっっっも!まじで最悪。あっち行ってよ。」
「おいゼン!お前は本当にでかくなったな?!今どこで何してんだよ!お前らの意味分かんねえ噂、そこら辺のギルドでよく聞いてんぞ?」
「今は『王都で王女様の旦那様』してんだよなぁ〜?ゼン。コイツらに教えてやれよ。テメェと王女様の新婚旅行のことでもよ。」
「はいはい嘘嘘。っつか、うっせえんだよクソジジイ。テメェは黙って早く皮剥げよ。」
「はぁあ!?おい主人ホントか!?
──なあゼン!おまっ……お前、マジで王女様の『非公表の旦那様』なのか?!」
「だから『嘘』っつってんだろ。耳ついてねえのかよカス。」
「なぁんだ嘘かよ。ま、そりゃそうだよなー!……じゃあお前、今どこで何してんだ?」
「………………。」
「返事しろよ!耳ついてねえのかよ!」
鬱陶しがる兄弟を囲んで騒ぐ冒険者ども。
俺は一気に煩くなったギルド内に呆れながら、何とか1時間以上かけて鬼慈虎蛇尾の皮をいい具合に剥ぎきった。
◇◆◇◆◇◆
◇◆◇◆◇◆
「…………オイ。お前らいつまで居座るつもりだ。
もう6日経ったぞ。お前らがここに来て7日目だ。」
ここ最近で一番涼しい、適度に雲がある晴れた日の午後。
俺のカウンターに一番近い位置にある食事処のテーブルに突っ伏して何をするわけでもなくだらだらしてるアホ兄弟に、俺は声を掛けてやった。
「え?わざわざ日数数えててくれたの?優しいじゃんクソジジイ。」
ユンがテーブルの上に顎を乗っけたままの姿勢で、舐めたことを言ってくる。
「お前ら帰らなくていいのかよ。」
「うーん…………んー…………」
ユンが適当に唸る。返事すんのも考えんのも、どっちも面倒臭えようだった。
「おいゼン。テメェは無視してんじゃねえよ。どうせ起きてんだろ。」
俺が突っ伏してるゼンにそう言うと、ゼンは頭を動かして顔を上げて、それからテーブルに肘をついて、怠そうに俺を見てきた。
「お前ら。今は魔導騎士様やってんだろ?いいのか?こんなとこでサボってて。
……もう間に合んねえんじゃねえか?来週頭のお仕事によ。」
ベスティレッダから王都までは、馬車でもだいたい6日はかかる。初日に言ってたように来週頭の平日から仕事なんだとしたら、コイツらのこれは完全に意図的なサボり確定だ。
俺がそう言うと、ゼンは怠そうに欠伸をした。
「かもな。…………あ゛ー……もう間に合んねえわ。」
「サボりか。クビになっても知らねえぞ。」
「心配してくれんの?優しいね、クソジジイ。」
………………。
「お前らいいのか?こんなとこで連絡も入れずにだらだらしててよ。
王都の箱入りのお姫様方が、大事な騎士様のお戻りを心配して泣いちまうんじゃねえのか?」
俺が馬鹿でも分かるように言い直してやったら、ゼンとユンは二人して無言のまま、よく分かんねえ視線を俺に寄越した。
「ん?何だ?その目は。
……あぁ〜そうかそうか。お前ら『帰省』ってのは嘘で、本当はお姫様方に捨てられたから『傷心旅行』してたのか。繊細なお心をお持ちだなぁ〜。
残念だったなぁ、ゼン、ユン。束の間でもイイ夢見れて良かったな。」
「クソジジイうざ。」
「反論すんのも面倒くせえわ。」
……………………コイツら。
「ったく。お前らがお姫様方に捨てられてようがお仕事をクビになろうが、別にどうでもいいけどよ。
俺はこんなでけえ男二人をいつまでもギルドに置いときたくねえんだよ。もう一週間もいるじゃねえか。そろそろ目障りになってきたから出てけよ。」
俺が適当に文句を言うと、ユンが口を尖らせて「別に毎晩ここにいたわけじゃないじゃん。半分くらいは俺たち外で野宿してたじゃん。」と一丁前に俺の文句にケチをつけてきた。
「はぁ……うっせえなぁ。んで?お前ら今、歳いくつだよ。」
「急に何?」
「いいから答えろ。」
「……26と22。」
口を尖らせたままのユンの答えに、俺は盛大に呆れた。
「ああ〜?テメェらもう完全に『オッサン』じゃねえか!
どうりでむさ苦しい訳だ。いつまでもガキみてえに甘えたこと言ってねえでとっとと帰れよ。このクソガキ共が。」
「オッサンかガキかどっちかにしろよ。」
「22でオッサンはさすがに早すぎでしょ。無理ある主張やめてくんない?」
「ケッ!うるせえガキ共だな。いちいち揚げ足取るんじゃねえよ。文句あんなら帰れ。」
「真っ当な指摘だろ。」
「ねえクソジジイ。『揚げ足』って言葉の意味、本当にちゃんと分かってる?」
ああ言えばこう言う、いい歳してもまだ鬱陶しいクソガキ兄弟に、俺は本格的に面倒臭くなった。
「あ゛ぁ?何だぁ?
じゃあテメェらは例の王都の大切なお姫様方より、こんなクソジジイと居る方がいいってことかよ。
いいのか?お姫様方を泣かせちまっても。いい趣味してんなぁ〜?そんでお姫様方を泣かせた挙句に取んのが俺ってことか?そうかぁ〜そりゃありがてえなぁ〜。
……そういうことならテメェら。お望み通り早速こき使ってやるよ。
オイ。お前ら今すぐ俺様のために金になる素材を取りに行ってこい。気分がいいから相場の半分の値段で引き取ってやるよ。もちろん半分は俺様の懐行きだ。」
「「……………………。」」
「………………うっっっざ。
まじでうざいんだけど。このクソジジイ。」
「煽るにしても程があんだろ。まじできめえわ。このクソジジイ。」
俺をクソジジイ呼ばわりして顔を顰める二人。
相変わらず馬鹿でクソ面倒臭え不器用な二人に、俺は呆れて溜め息をついた。
「そう思うならいい加減行け。
お前ら、もう充分ここに居たろ。……さすがに居過ぎだ。もう帰れ。」
「「…………………………。」」
俺が最後にそう言ってやると、二人は「……最後のそれが一番キモい。」「まじで鳥肌立ったわ。見ろよこれ。」っつって俺に最後まで甘えた文句を言いながら、ようやくのろのろと立ち上がった。
……10歳やそこらの年齢でもう、親に甘えることができなくなってたガキ二人。
誰にも甘えることができないまま図体だけデカくなっちまった、大人のフリしてるだけのゼンとユン。
コイツらがいい歳こいて俺に甘えてきてることくらい──……さすがに、とっくに分かっていた。
だが残念ながら俺は、そこで甲斐甲斐しくコイツらの親代わりをしてやるようなお優しい精神は持ち合わせていない。
俺は荷物を持って出口に向かってトロトロ歩きだしただらしねえ二人の背中に向かって、二人が望んでいそうな「またいつでも来いよ。」は言わずに、別の言葉を掛けてやった。
「おう。ゼン、ユン。……このクソ兄弟。
もうしばらくはその面を俺に見せんなよ。」
俺の言葉を聞いた二人は、揃って眉間に皺を寄せて口を尖らせて、馬鹿みてえな変顔をしながら俺に礼を言ってきた。
「……言われなくても見せねえよ。
ありがとな。このマジクソうぜえクソジジイ。」
「うん。本当にありがとね、クソジジイ。
お陰様で、しばらくは戻ってくる気なくなった。」
そうしてゼンとユンはベスティレッダのギルドの扉を抜けて、またお姫様方のもとに戻っていった……はずだ。
「…………ようやく静かになったな。」
俺は一週間振りに戻ってきた平穏な日常に感謝して、カウンターに足を乗せて適当に昼寝でもすることにした。




