15 ◇ 忘れた涙の墓参り(中編)
第五部(18話+幕間2話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
ザルナドーレではさすがに一晩宿屋に泊まった。
あんま思い入れも記憶もねえ町。
13年前は、ここに来て「人が住んでる町に着いた!」っつって、とにかくただ安心した。
……けどまあ、世の中そんなもんだろうとは思うけど。
当時、ボロボロだったガキの俺ら二人を見ても、誰も助けてくれなかった。
町中回って助けを求めまくれば、誰か一人くらいお人好しが見つかったかもしんないけど。
なんか……俺らも俺らで、遠巻きに見られて怯えられたときに、早々に諦めてた記憶がある。
あのときは試しに目が合った何人かに「すんません。何でもいいんで、何か食べ物くれませんか?」「この町に、山で獲ったもんを買い取ってくれる場所はありますか?」って聞いてみたけど、ドン引きされたり無視されたりで、結局全然ダメだった。
そんで……そうしたらなんか、離れたところにいたオバサンが俺らのことを指差して「魔物が人に化けることってある?あの子らは本当に人間かい?みんな早く逃げたほうがいいんじゃ──」とかって言い出して、それを見たユンが、泣きながら舌打ちして「もういい!!」っつって終わった。
その記憶ならある。っつか、それしか思い出がない。
当時は金を1リークも持ってなくて、ギルドもないこの町じゃ、何かの素材を換金して稼ぐってこともできなかった。だからここじゃ買い物一つできなくて、また次の街に出るために野宿を続けながらもう一つ山を越えるしかなかった。
……だから、このザルナドーレで宿屋に泊まんのは初めてだった。
田舎のしょぼい宿屋の部屋の窓から暗くなった夜の空を見てたら、少しずつ実感が湧いてきた。
「兄ちゃん。明日……やっと俺たち、帰れるね。」
ユンが不意に言ってきたその言葉で、俺はいよいよ実感した。
◇◆◇◆◇◆
ザルナドーレの宿屋を朝イチで出て、俺らは徒歩でウェルナガルドに続く道に向かった。
ラルダが言ってた通り、道は封鎖されてた。
封鎖っつっても通行禁止の柵があるだけだったから、俺らは普通に道の脇の茂みを通って柵を避けて、そんで道にすぐ戻った。
それから二人で、ただ普通に歩いてった。
「……ねえ兄ちゃん。ウェルナガルド着いたらどうする?」
足元を見ながら歩いてるユンが、俺に話を振ってくる。
「父ちゃんと母ちゃんのところに帰ったらさ……近況報告、何しようね?
13年も経っちゃったから、全部話すってなったら話散らかりまくりそうだよね。」
「…………まあな。」
「でもやっぱりまずは兄ちゃんの結婚相手の報告かなぁ。父ちゃんと母ちゃん、絶対驚くだろうね。」
ユンがそう言って笑う。
でもユンは顔を下に向けたままだったから、その表情までは見えなかった。
「どんな反応すると思う?
父ちゃんは『……王女サマ?』って言って固まるだけで、母ちゃんは『ゼン?どうしちゃったの?いきなり何を言ってるの?どこか頭でも打ってきたの?……あなた、そういう御伽話に憧れるような性格してたかしら?』って言って、兄ちゃんの正気を疑ってきそうじゃない?」
「……めっちゃ分かるわ。まじでそう言われそうだな。」
ユンが、まるで親父とお袋が生きてるみたいなことを言ってくる。
そのユンのせいで、俺は今、普通に親父とお袋のいる家に帰ろうとしてるような錯覚に陥った。
そんなことないって分かってるのに、もしかしたら本当にあの頃の──みんなが生きてるウェルナガルドに今から俺らは帰るんじゃないかって、どっかで期待してる俺がいた。
でも、道は両脇から草や木に覆われてきてて、人や馬車が通ってないせいですでに自然に飲み込まれかけてて……それが、俺らに現実を突きつけてくる感じがした。
──「ウェルナガルドはもうない」って。
親父もお袋ももうとっくに死んでるから、近況報告をしたって、反応なんて返ってこない……って。
周りのこの現実の景色が、夢を見ることすら、淡い期待を抱くことすら……それすらも許してくれなかった。
虚しいって感覚がないわけじゃないけど、でも言うほど虚しくなかった。
……いや。まだ錯覚してるだけで、俺が現実を見きれてないだけなのかもしんない。隣でユンが、普通にまだ親父とお袋が生きてるようなテンションでぶつぶつ喋ってきてるから。
身体強化魔法を使わずに何時間も何時間もずっと歩き続けて、ついに森を抜けて景色が開けて、ウェルナガルドの町が遠くに見えた。
そうしたら、ユンが急に立ち止まって、静かに質問してきた。
「…………ねえ、兄ちゃん。」
「……何だよ。」
「父ちゃん、俺たちのこと『よくやったな』って褒めてくれると思う?
『お前ら二人で喧嘩しねえで、よく協力できたじゃねえか』って。
母ちゃんも褒めてくれるかな?
『頑張ったわね、偉いわ』って。『あなたたちは私の自慢の息子だわ』って。
…………俺たち、褒めてもらえるかな?」
「…………………………。」
錯覚じゃなくて、まじでそう言ってもらえる気がした。
このとき本気で、俺は親父とお袋が生き返ったと思った。
家に帰ってドアを開けたら、お袋が泣きながら俺ら二人に抱きついてくる。
それを見た親父が、多分、遅れてお袋ごとまとめて抱きしめてくる。
「……で、褒められた後に、お袋が泣いて叱ってくんだろうな。
『でも、もうそんな無茶は絶対にしないで!お母さん本当に心配したんだから!』っつって。」
「…………そうかも。」
「それで、多分……親父は謝ってくる。
『お前ら、守ってやれなくてごめんな。危ない目に遭わせてごめんな。』
──……『俺は、父親失格だ。』っつって。」
俺がそう言ったら、ユンは遠くに見える町を見たまま笑った。
「……うん。父ちゃん、めっちゃ言いそうだよね。そういうこと。
そんで、それ聞いた瞬間に母ちゃんが泣きながらブチ切れんの。
『父親失格って何よ!レイはこの子たちの父親でしょう!?失格も何もないの!何があっても、私とレイがこの子たちの親なの!代わりなんていないんだから!私たちがしっかりしなきゃダメじゃない!』って。
『そんな家族を諦めるようなこと言わないで!無責任なこと言わないで!私、その言葉は大嫌いよって、散々言ってきたわよね!?』って。そこで一番怒んの。」
俺はそのお袋の台詞に笑った。
お袋がそうやって俺とユンをそっちのけにして親父に説教を始めて、親父が何も言い返せなくなってんのを見て、俺とユンがコソコソ「親父ダッサ。」「父ちゃん、余計なこと言っちゃったね。」って言い合う。
余裕で、全部想像できた。
「お前、やっぱお袋の言うこと予想すんの上手えな。」
俺がそう言ったら、ユンは
「兄ちゃんこそ。今の父ちゃんの再現、完璧だったよ。」
っつって笑った。
そうして笑い合って「行くか」っつって、俺とユンはウェルナガルドに走って向かった。
◇◆◇◆◇◆
ずっと視界に入ってたから、なんとなく心の準備はできてたけど。
ウェルナガルドの町に着いて、ボロボロに朽ちた看板の横を通って町に一歩踏み入れたときは……少しだけ、感動した。
ユンが「先に町ぐるっと一周しとく?」っつってきたけど、俺は「最初に家行く。親父とお袋が先だろ。」っつって却下した。
親父とお袋が生きてるような錯覚に陥ってて、完全に忘れかけてたけど。
今、ユンに質問されて思い出したから。
俺らは13歳と9歳のガキじゃなくてもう二人とも大人で、俺らにはあの日のことが夢じゃなくて現実に起こってて──
──……その記憶をユンは「嘘」で塗り替えてるままなんだ、って。
俺は今、急にそのことを思い出した。
目の前の廃墟になった町とユンの質問で、俺は完全に現実に引き戻された。
だから、ユンにはなるべく町の景色を見せたくないと思った。今さらまた警戒した。
ユンはそんな俺の言葉に素直に納得して、そのまま真っ直ぐ家に向かって廃墟の町を歩き始めた。
町に入ってから家に行くまでの間は、妙に緊張した。
さっきまで昔に戻ったみたいに笑い合ってたのに。俺もユンも、急に真顔になって無言のまま歩いてた。
久々すぎてただ懐かしさを感じてんのか、あの日の光景と目の前の町の残骸を重ね合わせて参ってんのか、自分でもよく分かんなかった。
でも圧倒的に一番は、ユンがいきなり全部思い出して発狂しないか。俺はそれが急に怖くなってきて……とにかくそれで緊張した。
よく分かんねえままユンと無言で歩いて、俺らは家の前に着いた。
俺たち兄弟は13年振りに、自分たちの家に帰ってきた。
◇◆◇◆◇◆
家は案外綺麗に残ってた。
全然綺麗じゃねえけど。
1階の割れた窓と壊れた壁、それと2階のユンが寝てたベッドのあたりが抉れてて……でも、壊れてんのはそんくらいで、あとは普通に家として建ってた。
隣のサラん家は、工房になってたところが少し残ってるくらいで、あとは焼け落ちたか潰されたか分かんねえけど、全部瓦礫になって、炭と朽ちた木と、なんかゴロゴロ石材と、あとはその上を覆い始めてる草や苔の色になってた。
それに比べたら、俺らの家は全然綺麗だった。
俺が自分の家とサラの家をボーッと眺めて、それからユンに家ん中入ってみるか聞こうかと思った──そのとき、
いきなりユンが、馬鹿みてえに大声で泣きだした。
「ゔぇえぇーーーーーん!!!
どゔぢゃん!!!があぢゃぁあーーーん!!!
ゔぁああぁあぁーーーーん!!!!」
っつって。
まじで親父とお袋のことだけ呼びながら、涙も鼻水も思いっきり垂らしながら、思いっきり突っ立ったまま泣きだした。
あの日、この町から逃げ出して二人になった日から、俺らは毎日泣いてた。
でも、夜の山ん中は、魔物に気付かれちまいそうで、魔物が追ってきそうで怖かったから、
声出して泣いちゃいけねえと思ってたから、
……だから、声を殺して震えて泣く泣き方しかしてなかった。
悲しいよりも怖いが大きすぎて、
俺もユンも、何を泣いていいか分かんなかったから、
……山一つ越えた頃には、ユンはもう自分に「嘘」をついて笑ってたから、
俺も、なんか知らねえけど笑えるようになってたから──……
俺らは、親父とお袋が死んでから思いっきり声をあげて泣いたことがない──ってことに、俺はユンが泣いてんのを見て、今さらだけど気が付いた。
それに気が付いた途端、涙が出てきて……俺もいつの間にかユンにつられて、ユンと同じように親父とお袋を呼びながら泣きまくってた。
帰る前は「近況報告」とか言ってたけど、それどころじゃなかった。
もうずっと二人で、家の前でただひたすら延々と泣いてるだけだった。
一生、このまま死ぬまでずっと泣いていられるとすら思った。
◇◆◇◆◇◆
それでも一生泣いてるわけにはいかなくて、でも止めどきが分かんねえなって、どっか自分の頭が冷静に泣いてる自分を見始めたあたりで、隣のユンの泣き声に「ゲホッ」っつって咳が混ざってきた。
最初は泣きながら咽せてんのかと思ったけど、だんだん泣き声よりも咳の方が多くなってきたから、そこで俺は思い出した。
で、ユンも思い出したようだった。
……ユンは、昔みたいにまた体調を崩しだした。
「ゲホッ…………兄ちゃん、……俺、無理。」
それが俺らの泣き喚きの終了の合図になった。
俺が「…………どうすっか。家ん中入ってなんか持ってっとくか?」って聞いたら、ユンは
「……できる限り全部持っていきたいけど、でももう今さら何も持っていきたくない。
…………次のときでいいかな?でも、次に来たときにはもうなくなっちゃってるかな?
次じゃダメかな?……俺もう考えたくない。」
って、意味分かんねえけどすげえよく分かることを言ってきた。
そうしたら、ちょうどそのとき、俺らが来たのと逆の山の方──鉱山のある方から、魔物の鳴き声みてえなのがした……気がした。
「兄ちゃん。今の、聞こえた?」
「…………聞こえた。」
「さすがにでかい声で泣きすぎたかな。こっちに来ちゃうかもね。……どうする?」
「『どうする』って、お前そんなんじゃ死ぬだろ。逃げるしかねえだろ。」
「分かってるけど、そうじゃなくて。
……もう帰る?家ん中見る?町ん中、回ってく?」
ユンはそれからまた咽せながら、俺が思ってんのと同じことを言った。
「もうさ、このままここにいたいし、帰りたくないんだけどさ。
家ん中も見たいし、町も見て回りたいし、せっかく来たんだから、なんかいろいろしたいし……
…………ってか、もう、全部いいやって。
帰んないで、ここで座ってそのままボーッとしながら死んじゃってもいいやって。
そのまま魔物来るまで、ここで待っててもいいやって気にもなってるんだけどさ。
…………でももう帰りたい。
そうやって本当にここにいたら、まじで死んじゃうかもしれないし。……やっぱ、帰んなきゃいけないし。
だから、家ん中も、町回るのも、……次でいいかな?
次来たときは、また変わっちゃってるかな?
俺と兄ちゃん……次、またもう一度来れるかな?」
「………………次にすっか。次また来ようぜ。
そんとき考えるか。今考えんのしんどいわ。」
俺がそう言ったら、ユンは「そうだね。もう今日はこれで帰ろ。」っつって頷いた。
そんで、ユンがもう歩けねえみてえなこと言い出したから、俺はユンのことを背負って、歩いてもと来た道を戻りだした。
◇◆◇◆◇◆
何かを考える気力もなくて、そのまま何も考えずにユンを背負って、周りを見渡しもせずにただ真っ直ぐ歩いて町の端まで来た。
そこで、何となく立ち止まった。
で、俺はそこでようやく周りを見た。
左側に見える山。俺らはあの日、あの山の中に逃げ込んだ。
あの山の中で何日も、何日も、何日も泣きながら二人で彷徨ってた。
「……………………普通に道に出りゃよかったな。」
俺はまじで今さらそう思った。
普通にこの道に来れば、別に普通に道なりに歩いてすぐにザルナドーレの町に出れたんじゃん。……って思った。
あのときは、とにかくすぐに町から離れなきゃダメだと思ってた。
1秒でもそこに突っ立ってたら、そこからまた魔物が永遠に湧いてくるような気がしてた。んな訳ねえのに。
とにかく焼け落ちる町から出なきゃいけねえと思ってた。焼けてっとこ避けながら行きゃよかったのに。
とにかくもう、みんな死んでんのが見えねえ場所に逃げなきゃいけねえと思ってた。そんだけ訳が分かんなくなってた。
──……いつも親父について山に狩りに行ってたから、山ん中に入んのが普通な気がしてた。
…………多分、これだ。これが一番納得いく。
親父のせいだ。……親父のせい。
そうやって親父のせいにしながら山を眺めてたら……なんか……
──……ふと、何かを思った。
ちょうどそのとき、俺の背中にいるユンが、妙に冷静な声でこう言った。
「…………兄ちゃん。俺、なんか忘れてる気がする。
忘れ物したっていうか……なんか、忘れてきちゃった気がする。
何かを取りに戻った方がいい気がする。」
って。
俺と同じことを言ってきた。
ユンが言ってんのは、多分……っつーか、絶対にモノじゃない。
ユンが言ってんのは、あの日の「記憶」だ。
…………でも、俺も何故か、ユンと同じことを思った。
「…………俺も。なんか忘れてる気がする。」
とりあえず口に出しといた。
……俺には記憶があるから、ユンと同じはあり得ねえのに、…………なのに、何故か同じことを思った。
ユンが「記憶」を思い出しちまう前に早く帰んなきゃいけねえのに、俺は何故か動けずにその場で立ち止まった。
なんか、何か忘れてる気がするのを思い出しときたくなった。持ち帰んなきゃいけねえ気がした。
……でも、俺にはちゃんと記憶があるから、ユンと同じなのが、なおさら訳分かんなかった。
でも、だからこそ思い出してスッキリしたかった。
「──……もういいよ。ねえ兄ちゃん。もう早く帰ろ。
よく分かんないけど、もういいや。」
俺が無言で山の方を見ながら立ち止まってたら、俺に背負われてるユンが、俺の背中を軽く叩いてきた。
……だから俺は、ユンに背中を押されるようにして、また歩き出した。
なんか気持ち悪いままだったけど。
多分、ユンも同じだから。
とりあえずユンが思い出しちまう前に町を離れることにした。
で、しばらく歩いてたけど、やっぱ普通に歩いてるだけじゃなかなか左側に見える山が視界から消えなかったから……
……だから、町が見えなくなりそうなとこまで歩いて、そこで「走るぞ。町見たかったら振り返って見とけ。」っつって何秒か立ち止まって……そこから俺はユンを背負ったまま走り出した。
◇◆◇◆◇◆
◇◆◇◆◇◆
「何もしてないのに妙にくたびれたね。兄ちゃん。」
結局そのままユンを落っことさねえ程度に思っきし走って、一気にまたザルナドーレに戻ってきた。
……13年前はすげえ時間かかったのに、今は行きも帰りも、馬鹿みてえにあっという間に着いた。
俺らが成長したって言っちまえばそれまでだけど、なんか釈然としなかった。
ずっと俺に背負われて何もしねえでサボってたユンの声がまあまあ明るかったから、もう体調も戻ったかと思って、俺は担いでる手を離した。
そうしたらユンは俺の背中から普通に飛び降りた。
「どうする?
ここでまた泊まってってもいいし、野宿にしてもいいし。まだもうちょっと日が暮れるまでに時間ありそうだから、馬車使って移動して別の街に行ってもいいし。」
ユンが今後の方針を適当に思いつくだけ並べてきた。
「お前は?どれがいいんだよ。」
「んー………………うーん……」
ユンはどれもピンと来ないような顔をしてた。
俺もどれでもよかったし、何でもよかった。
けど、何となく今日は、兄弟二人だけだと眠れる気がしなかった。
「…………どうせならこのままクソジジイ参りに行くか。
多分、着くの夜中になっけど。」
俺がそう提案したら、ユンはピンと来たようで「あ!そうだね!そうしよ!」って言ってきた。
それから俺らは馬車屋に行って、馬車庫に2台しかねえうちの1台を借りて、そのまま呑気に馬車に揺られながらベスティレッダに向かった。
正確には、「今から行くには遠すぎる。日を跨ぐから無理。」って言われたから、ベスティレッダがある西の方に向かって行けるとこまで連れてけっつって馬車に乗って、日が暮れたところで降りた。それからユンと二人で、夜道を歩いたり走ったりしながら向かった。
◇◆◇◆◇◆
ベスティレッダに着いたのは真夜中だった。
ユンが鞄の中に入れてた腕時計を見たら、3時近くだった。
でも別に気にせずギルドん中に入った。
ギルドの中は、ところどころ改修したのか、少し思い出と違ってた。もしくは、別のギルドと記憶が混ざってるか。
……よく分かんねえけど、13年前と同じように、扉を開けたら正面の奥にはクソジジイ用の謎のカウンターがあって、そこでクソジジイがカウンターに脚乗っけて普通に寝てた。
全然顔も何も変わってなかった。
ユンがスッと気配を消す。
それから俺に「どうする?いきなり起こす?それとも俺らもここで休む?ってか、勝手に寝る?」って無駄に防音魔法を俺らの周りに掛けながら聞いてきた。
「んー…………クソジジイがいつになったら気付くかやってみっか。」
俺がそう言うと、ユンは妙に楽しそうに「そうだね。そうしよ。」っつって笑って防音魔法を解除した。
それでもユンは性格が悪いから、気配は消したままうろつきだした。
小声で「腹減らない?そういえば飯食うの忘れてたね。」っつって食事処の方に行って、当然閉まってる誰もいねえ注文カウンターを見て「何か出てこないかなぁ。」っつって無茶を言い出した。
……言いたいことは分かる。
腹は減ってっけど、携帯食を食う気にはならなかった。
よく分かんねえけど、何か誰かに用意してもらったもんを食いたかった。
俺も注文カウンターのところに行ってユンと並んで「何か出てこねえかなー。」っつって、何も考えずにぼーっとしてたら、急にクソジジイの方からガタッ!と音がした。
俺らが揃ってクソジジイの方へ顔を向けると、クソジジイは寝ぼけてんのか知らねえけど、目を見開いて無言で俺らを見返してきた。
「…………気付くの早えじゃん。」
俺はクソジジイを褒めた。
「でもダメじゃない?もし俺たちじゃなかったら、普通に金盗られてるか死んでるよ。ちゃんと気を付けなきゃダメだよ。」
ユンはクソジジイを指導した。
クソジジイは目が覚めてきたのか、今度は目を細めて眉間に皺を寄せて
「…………お前らな。いきなり来るんじゃねえよ。」
っつって文句を言ってきた。
ユンはそんなクソジジイを見ながらけらけら笑って
「言った通り、兄ちゃん連れてきたよ!
……ねえクソジジイ。厨房の鍵持ってるんでしょ?
何でもいいから俺たちに何か作ってよ。腹減っちゃったの。」
って、夜中の3時にいきなり来といて、思いっきり甘えた我儘を言った。




