13 ◇ 親になれない兄の岐路(後編)
第五部(18話+幕間2話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
「ご存知ですか?お義兄様。
あの男──ユンは、わたくしに仕事の話を何もしてくれないんですの。話したとしても、同僚との雑談内容だの、魔物の換金相場だの可食部位だの。どれもくだらない瑣末なことばかり。
わたくし、ユンの仕事ぶりは、同僚のご婚約者様を通じてようやく知りましたの。
それだけではありません。
あの男、お義兄様がラルダ様の非公表の旦那様であることも、わたくしにまったく教えてくれていなかったんですの。
そのせいで、ラルダ様から直接お話しいただく羽目になってしまいました。
事前に聞いていなかったので、わたくし本当に驚きましたわ。当然ご挨拶も遅れてしまいました。
……その節はラルダ様、大変失礼いたしました。
そして、そのお義兄様が、現在も王都の宿屋にお住みになっているということも。
偶然お会いしたミリア様とやらに、つい先日お聞きしました。
…………だって。ユンが誤魔化そうとしたんですもの。
本当のことをわたくしには言ってくれなかった。
……あの男、わたくしをまっっったく信頼してくれていなかったの。わたくしはもう婚約者だというのに。」
セレンディーナは話しながらその真顔を少し崩して、不満そうに口を曲げた。
「……実はわたくしは以前に、ユンの学園寮のルームメイトから、こう言われたことがありますの。
『ユンはとある事情を抱えているけれど、詮索はせずにそっとしておいた方が良い』と。
ユンが、何も言ってくれなかったから……本当にわたくし、オーレンからその話を受けるまで、ずっと頭を悩ませていましたの。
まったくあの男ときたら。『今は言いたくない』すらも言わずに、ただヘラヘラ笑っているだけで……わたくしに全然向き合おうとしてくれなかったわ。
……お分かりいただけましたかしら?
酷い男なんですの、ユンは。婚約者であるこのわたくしに対して。
本当に何も言ってくれない。全然何も教えてくれない。わたくし、いつまで経っても何も分からないんですの。」
それからセレンディーナは呆れたように大袈裟に溜め息をついて、それから誰が見ても分かる作り笑いで、思いっきり不自然ににっこりしてきた。
「──ですからわたくし、もうユンに期待するのをやめることにしましたわ。
どうせあの男に聞いても、あの男は何も話さない。どうせ教えてくれないもの。
だったら、本人に聞くだけ無駄。わたくし、そう思いましたの。
それでわたくし、お義兄様に直接お伺いしてしまおうと。そう思いまして今日はこちらに参りました。
本人不在の今であれば、文句も言われませんし。丁度良いかと思いまして。
わたくし、今日までそれなりに悩みましたけれど。最終的に『ユンよりもお義兄様の方がまともにお話ししてくださるだろう』と、そう判断いたしましたの。」
◇◇◇◇◇◇
そう言って俺に笑顔を向けてくるセレンディーナ。
けどその目は思いっきり、俺に向けて圧をかけてきてた。
……………………。
…………多分、大丈夫だと思う。
多分セレンディーナは俺が何言ったって、ユンに失望しないでくれるんだと思う。
……そのために今こうやって、わざわざユンの文句を言いまくってきたんだと思う。
──「自分はユンに期待なんかしてない。ユンは酷い奴だってもう知ってる。
だから何でもいいから、全部遠慮せずに自分に話してくれ。
自分はもうその程度のことじゃ、ユンに冷めたりなんかしないから。」
って。……多分、そう言ってんだと思う。
…………けど、自信がない。
俺は別に勘がいい方じゃない。
大してよくも知らねえ他人が何を考えてんのかなんて、俺には全然読めない。
……ずっと一緒にいた弟のことさえも……俺は全然、分かってやれてなかったから。
俺がそうして迷いまくって自信持てずにいたら、隣に座ってたラルダが、俺に声を掛けてきた。
「…………ゼン。
もし何か、彼女に兄として伝えておきたいことがあるならば、臆せず伝えてみてはどうだ?」
っつって。
中途半端にすっとぼけながら、俺に助言してきた。
……ラルダは多分、ユンの「嘘」の話をしてる。
その話をしたらどうか──って。
ラルダは俺にそう言ってきた。
俺が顔を動かしてラルダの方を見ると、ラルダは俺に笑いかけてきた。
「ゼン。何も心配することはない。
セレンディーナ嬢はすべて理解して受け入れてくれるはずだ。」
それからラルダは、セレンディーナとはまた違う──言い慣れねえ冗談を無理して言うときのような、若干悪めの作り笑いをした。
「『これは女の勘だ』と言えれば格好がつくのかもしれないが。ゼンも知っての通り、生憎私は、そういった方面の勘はあまり鋭くはないのだ。
故に……そうだな。敢えて言うのであれば、こうなるだろうか。
『秘密主義の厄介な庶民兄弟にうっかり惚れた女として、私にはセレンディーナ嬢の気持ちが手に取るように分かるぞ。』
…………どうだろうか。」
……………………。
ラルダの言葉を聞いて、セレンディーナは作り笑いをやめて、俺とユンを小馬鹿にするような声で「あら。ラルダ様もご苦労なさっておりますのね。」っつって小さく笑った。
「……僕、退室してようか?」
タイミングを見計らったように、いい感じの間を取ってクラウスが俺に普通に聞いてきたから、俺は「いや、別にいい。」っつって返した。
それで俺は、今のラルダを頼りにして、クラウスの言葉を合図にして──腹を括ってセレンディーナに話すことにした。
ユンはウェルナガルドのあの日の記憶を自力で塗り替えちまって、そのせいで悪夢にも気付けなくなっちまったから、不眠のタチが悪いんだ──って。
その「嘘」から全部、ユンは間違え始めた。
自分を弱いと思い込んだ。俺を強いと思い込んだ。
……自分はいざというときに勇気を出せない、卑怯で情けない奴だって。自分は両親の死に様を夢に見ても笑えるような……まじで薄情な奴なんだって。
ユンはその「嘘」を一生懸命信じて、今でも勘違いし続けてる。
あいつをそうやって狂わせたのは全部、俺が弱かったせいだ。
……狂い続けてるユンを止めてやらずに、黙ってそのままにしてたのも……俺が、……俺が馬鹿な勘違いをしたまま「ユンのためだ」とか思って──……そう思って結局、正解が分からないまま、全部手遅れにしちまったせいだ──って。
そうして俺はセレンディーナに、ユンの嘘と俺の罪を喋った。
◇◇◇◇◇◇
何度も自分の口が思い通りに動かなくなるのが分かった。
だんだんセレンディーナの顔も見てられなくなって、俺はまるで詫びを入れるように、途中からは完全に項垂れながら喋ってた。
「──質問されたのが、どれのことだったのか俺には分かんねえけど……でも、ユンがこんな厄介なことになってんのは、全部俺のせいだ。
……アイツが何も話せないのも、何も言えなくなってんのも……多分、アイツ自身がよく分かってねえだけだと思う。
アイツは何も悪くない。兄貴の俺が言うのも馬鹿みてえだけど……ユンは、本当にいい奴なんだ。
だから、面倒なことは分かってる。迷惑掛けてることも分かってる。
でも……お願いだから、アイツの『嘘』には、気付いてないフリをしてて欲しい。
あの日のアイツの記憶はもうこのまま、間違えたままでいいから……本物を思い出させないでやって欲しい。
それで、俺がこんなこと言えた義理じゃないってのも、分かってるけど……
──……お願いだから、弟を、どうか見捨てないでやって欲しい。
それだけでいいんで……お願いします。」
項垂れたままだったから姿勢は変わんなかったけど、俺はセレンディーナにそう言って頭を下げた。
そこから俺は今の話で良かったのかどうか、これが正解だったのかどうかも分かんなくて、顔を上げられなかった。
そうやって頭を下げてたら、少しの間の沈黙があって──それからセレンディーナが、俺に向かって声を掛けてきた。
「お話、ありがとうございました。
お顔を上げてくださいませ。お義兄様。」
その声を聞いて、俺は顔を上げた。
俺と目が合ったセレンディーナは、何秒か俺を見たあと静かに目を伏せて、溜め息混じりに言った。
「わたくし、ユンのことはある程度、理解できていたつもりでしたけれど。まだまだ浅かったようですわね。
……そうでしたか。
ユンは世界で一番、愛情深い男でしたのね。
…………ユンの世界には、ずっと──……最初からもう、お義兄様しかいなかったのね。」
俺はそれを聞いた瞬間、本当に泣きたくなった。
セレンディーナの言葉に感動したとかじゃない。
ユンが婚約者に認められて嬉しいとか安心したとか……全然、そんなんでもなくて──……
──なんか知らねえけど、誰が死ぬ訳でも何でもないのに、走馬灯みたいに昔のユンが、急に頭ん中に出てきた。
今の騎士団員や研究員のユンじゃなくて。学生時代のユンでもなくて。
……俺らがウェルナガルドに住んでた頃の、病弱なユンでもなくって。
ただ、俺ら兄弟二人で、山ん中彷徨って野宿して狩りをして──馬鹿みたいな失敗ばっか繰り返しながら二人だけで生きてたあの頃の記憶が、一気に蘇ってきた。
そうしたら急に涙が目元まで溢れてきた。
これからいよいよセレンディーナにユンを取られちまうから寂しいとか……全然、そんな感情でもなくて──
──ただ、なんか知らねえけど……この瞬間、俺は急に、あの頃の俺らに戻りたくなった。
親父とお袋を亡くして。故郷のウェルナガルドから逃げて。
何も分かんなくて全部がヤバくて、将来どころか明日のことすらも何も考えてなくて──お互い毎晩ひたすら悪夢に魘されまくって──……それでもユンと笑って生きてた、あの二人だけだった頃に急に戻りたくなった。
泣きそうになってる情けねえ俺を見て、セレンディーナは俺を安心させるような、なんなら慰めるような──そんないかにも婚約者らしい綺麗事を、俺に向けて言ってきた。
「……ようやく分かりましたわ。
わたくしはそんな世界一愛情深いユンに、お義兄様の次に選ばれる程度には、愛されている──ということね。
であれば、何の問題もございません。
わたくしはそれで満足いたしますわ。
お義兄様のおっしゃった通りに。今いただいたお話はすべて、わたくしの中だけに留めておきます。
要するに『ユンが悪夢に魘されていようと、ユンが勝手に何か勘違いをしていようと。わたくしはただユンを放っておけばよい』のですね?
簡単だわ。造作もないわ。だってあの男、あり得ないほどに鈍感ですもの。ユンが何かを勘付く日など、絶対にこないでしょうね。
…………ですので、お義兄様。
どうぞご安心くださいませ。
──わたくし、必ずユンと幸せになりますので。
ユンには一生、『わたくしといて幸せだ』と錯覚させ続けてみせますわ。
それが、事実ではなくても。」
俺は自分の感情すら分かんなくなって、何も言えずに情けなく涙だけ浮かべてた。
けど、次の瞬間。
今にも目から零れそうになってた涙は、セレンディーナの次の言葉を聞いた、その一瞬で引っ込んだ。
「…………さて。そうですわね。
それでは、今のお義兄様のお話への御礼として、わたくしからささやかながら、王国魔導騎士団へ気持ちばかりの特別寄付をさせていただきたく存じます。
お義兄様にはお渡ししても、受け取っていただけないでしょうから。
──取り急ぎ、100億ほど。
少額で申し訳ありませんけれど。」
◇◇◇◇◇◇
それからセレンディーナはホッとして緊張が解けたのか、ずっと硬かった表情を崩して満足げに笑った。
そんで油断したのか何なのか……まあ、ただの素なんだろうけど。
思っきし世の中の女全員を馬鹿にするようなことを、俺とラルダとクラウスを前に、堂々と嬉しそうに口にした。
「ああ。それにしても。
どこぞのくだらない恋愛小説に出てくる馬鹿真面目でお綺麗なお姫様だか平民女だかのように、ユンに馬鹿正直に向き合おうとしなくて本当に良かったわ。
浅はかな考えで『あなたの悩みを教えて』『私はあなたを助けたいの』『本当のあなたを知りたいわ』だなんて鳥肌が立つことを宣うような偽善ぶった女には、ユンの相手は到底務まらないということね。
やっぱりわたくしこそが正しかったんだわ。
……良かった。ユンに相応しい女は、この世でわたくし一人だけ。
わたくし以外の女なんて所詮は皆、取るに足らないド三流だということよ。いいことだわ。
…………そうよ。そうだわ。そうじゃない。
そもそも、過去にユンに触れたどこぞの馬の骨とも知れない穢らわしい女共なんて、最初から全員取るに足らなかったのよ。
そんな穢らわしい馬の骨共は、ユンの足元にも及ばない軽薄なド三流の男共にでも落ち着いていればいいのよ。……ああ、違うわ。そんなお遊びがすぎるお嬢様方は、どなたかお一人に落ち着くことすらできないのかしらね?
……はぁ。駄目ね。わたくしには理解できないわ。脳が想像するのを拒絶してしまうわ。そんな汚らしいお考えをお持ちの方々の行く末なんて。
……そうね。それでいいわ。わたくしが嫉妬する価値もないわね。
そうしたら今からは、存在自体を無かったことにしてしまいましょう。わたくしの脳が拒絶しているから。
ユンも可哀想に。今まではドブネズミ以下の存在すら無い架空の女共に、わざわざ心を痛めてしまっていたのね。優しい男なのね。……そんな要らない優しさ、とっととドブにでも捨ててきてしまえばいいのに。情けない男。」
「「「……………………。」」」
…………オイ。
その「馬鹿真面目なお姫様」のラルダと、お姫様との婚約が内定してるクラウスも今ここに居んぞ。
発言が不敬すぎんだろ。
しかもユンの女事情までうっかり暴露してんじゃん。やめろ。今のでクラウスとラルダが察しちまったら、ユンがまた泣いて吐くぞ。
……っつーか、セレンディーナ。女事情まで全部知ってたのかよ。
…………………………そうか。
それなら、良かった。
そこまでユンのこと、分かってて受け入れてくれんなら。
そうしてセレンディーナはついでに最後に、思っきし目の前の俺を含めた平民全員を馬鹿にするようなことを、ニヤけを隠しきれてない変な呆れ顔で口にした。
「はぁ……まったくユンは。
なんてややこしい男なのかしら。いい加減にしなさいよ。まるで学園の期末試験のいやらしい引っ掛け問題のような男ね。
相手がこのわたくしでなければ、一体どうするつもりだったのかしら?ユンはわたくしに一生をかけて泣いて感謝すべきね。
…………馬鹿な男。だいたい、わたくしの価値に気付くのがあまりにも遅すぎるのよ。『わたくしと付き合えることがいかに素晴らしく光栄で有難いことなのか』を理解するまでに、まさか2年もかかるなんて。
……ああ。けれど、仕方がないかもしれないわ。あの男は所詮は『平民』だから。ろくな審美眼を持っていなくても、それはどうしようもないものね。
もうユンには期待しないと誓ったばかりなのに。期待したわたくしが馬鹿だったわ。」
「「「……………………。」」」
…………ユンお前、やっぱまじで趣味悪いな。
俺は今日初めてセレンディーナの普段の素の様子を垣間見て、ユンとセレンディーナの組み合わせがなんやかんやで成立してんのが、割と奇跡だと思った。
それでようやく、俺はアスレイが言ってたセレンディーナの評価と、ユンが好きになる女の相変わらずな傾向を──今日、なんとなくだけど理解した。
◇◇◇◇◇◇
それから週末を挟んで、次の週の頭になった。
午前中にセレンディーナが急に来て、その後の昼になんかユンが出張帰りに一瞬だけ顔を見せて帰った──次の週の最初の平日。
ユンが俺に言ってきた。
「結婚する日が決まった」って。
◇◇◇◇◇◇
午後の訓練終わりだった。
ラルダが解散の号令をかけて、それぞれが帰る準備をしに隊列を崩して動き始めたときだった。
ユンが演習場の出口の方じゃなくて俺のいる方に歩いてきたから、なんか用があんのかと思って「どうした?」っつって聞いた。
そしたらユンが、まじで普っ通〜な顔して、すげえ投げやりな感じで報告してきた。
「兄ちゃん。俺、結婚する日決まった。」
っつって。
……………………。
別に「喜べよ」とも「照れろよ」とも思ってねえけど。
お前、もっと何かあんだろ。……って思った。
「いつ?」
「年明け。だからまだ半年以上先。」
「…………さっきから他人事みてえに言ってんじゃねえよ。反応し辛えだろ。」
俺が結局思ったことを口に出すと、ユンは「うん。」っつって意味分かんねえ返事だけしてきた。
「お前、先週のあれからセレンディーナと話したん?決まんの早えな。」
ユンがあまりにも話膨らませる気がなさそうだったから、俺がとりあえずそう聞いたら、
「セレンディーナ様が、冬がいいんだって。
だから『それでいいです』って言ったら、もう次の日には日付決まってた。『急がないと準備が間に合わなくなっちゃう』って。なんかセレンディーナ様が焦ってた。」
って返してきた。
「ふーん。」
「………………。」
「っつか、お前大丈夫なん?」
「何が?」
「だってお前、先週演習場で潰れてたじゃん。セレンディーナが来て100億寄越してったって聞いて。」
俺が突っ込んでみたらユンは普っ通〜だった顔を崩して、口を尖らせて不貞腐れた。
「だから責任取るって言ってんじゃん。」
「……………………。」
ユンのその顔は、昔よくやってた顔だった。
……泣く寸前の顔。
大人になった今じゃ、もうさすがにこんな演習場のど真ん中じゃ泣かねえけど。昔はユンはこの顔をしたら、あと一言俺が何か言ったら即泣いてた。
………………不満なんだろうな。
二人に何があったか、詳しくは知らねえけど。
セレンディーナがって訳じゃなくて。多分、この今の状況っつーか、流れが。
……まあ、ユンはもともと「ピュアすぎ」で「恋愛に夢見すぎ」な「ロマンチスト」だからな。
だからいい加減、何でも気にし過ぎんのやめて喜んどけよ。お似合いだから。激重同士。
そんな風に目の前で拗ねてる今のユンと、クソ真面目で潔癖だった昔のユンが重なって……
そこで俺は、なんかもう限界になった。
「…………なあ。墓参り行こうぜ。今週の仕事が終わったら。
平日10日分の休み取ろうぜ。来週と再来週分。……2週間ありゃ行って帰ってこれんだろ。」
いきなりそんな休み取る許可が出んのかとか、魔法研究所の方はいいのかとか、ラルダやセレンディーナはいいのかとか……まともな方の頭も一応動いてはいる。
でも、限界だった。
俺は兄貴のくせに……セレンディーナと結婚するっつってきた弟に向かって、いきなり思っきし足引っ張るようなことを言った。
けど俺の唐突な提案を聞いたユンは、昔と違って泣かなかった。
泣かない代わりに、不貞腐れんをやめて不意打ちを喰らったように目を丸くした。
……そんで、それからユンは眉を下げながら笑って、あっさりと俺の提案に乗ってきた。
「うん。いいね。行こう行こう。
…………俺も何だか、疲れちゃった。」




