11 ◇ 同期の茶番と情け心
第五部(18話+幕間2話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
本編に戻りまして。ユンのプロポーズ初挑戦の日の、一方その頃……のお話です。
オーネリーダ公爵邸での、魔導騎士団第27期生定例の同期会。
俺たちが魔導騎士団に入団して早9年。この4人での同期会も、とうとう10年目に突入した訳だが。
……よくまあ、こんなにも長く続いているものだな。
「10年近くもの間、一人も欠けずにつるみ続けていられるのは、俺たち4人の絆が他の代よりも深いからだ。」などという暑苦しいことは一切思わない。
単に条件の問題だろう。もともと4人という絶妙な人数が同期であったこと。そしてゼン以外の3人が王都生まれ王都育ちで、俺が退団してからも王都に住んでいる──といった環境があるから、今でもこうした定期的な集まりを継続できているというだけだ。
そもそも年度や入団過程によっては、同期自体が存在しない者もいるからな。
……まあ、第27期には特に一組夫婦がいるが。それはまた別枠だ。
そんなすっかり習慣化した惰性まみれの同期会だが、今回は冒頭の数分だけ、普段とは違う特別ゲストが参加していた。
「メナー様。この度はご出産、誠におめでとうございます。
気持ちばかりですが、我々からのお祝いの品です。どうぞお受け取りください。」
そう言ってラルダが俺の妻メナーに至極まともな祝いの品を手渡す。
メナーは「まあ!ご丁寧にありがとうございます。」と言いながら、抱いていた娘を俺に渡して、ラルダから恭しく祝いの品を受け取った。
「それと……はい、これ。アスレイに。
ちゃんと特注のミニアスレイ人形を乗せておいたから。娘さんがなかなか寝付かない日は、このオルゴールのメロディーを聴かせて寝かせるといいよ。」
そう言ってクラウスが俺に完全にふざけた祝いの品を渡そうとしてきた。
「俺の場合は普通に有用だな。ありがとう。
適当にそこら辺に置いておいてくれ。」
俺は手が塞がっていたから、直接受け取らずに適当に顎だけで置く場所を示した。
「テメェは有用じゃねえもんを俺とラルダに寄越してんじゃねえよ。」
俺の言葉にゼンがツッコミを入れてくる。
「いい歳して同期内でオルゴールを贈り合っているというのも愉快な話だな。……残るはクラウスか。楽しみにしていろ。」
「え?僕が次に何かもらうときは、もうオルゴール確定ってこと?いらないんだけど。」
「テメェはいらねえもんを俺とラルダに寄越してんじゃねえよ。」
俺の返しに反応したクラウスの言葉にも、ゼンは律儀に真っ当なツッコミを入れてきた。
「ふふっ。……それでは、私たちはこれで失礼いたします。ごゆっくりお楽しみくださいね。」
妻は俺からまた娘を受け取って、皆に娘を軽く見せて礼をしてから、そっと退室していった。
俺の同期3人に初お目見えした娘は、歯のない口を開けて機嫌よさそうに「キャハッ!」と笑顔を振り撒いて、身体をふんふん動かしながら妻に抱かれて去っていった。
◇◇◇◇◇◇
「……本当に可愛いな。見ているだけで癒される。」
妻と娘を見送りながらラルダが頬を緩ませて感想を呟く。
それを受けて、クラウスが
「せっかくだからアスレイだけじゃなく、メナーさんと娘さんの人形も作って一緒にオルゴールの上に乗せてあげればよかったね。」
と、どうでもいい反省を呟いた。
「んじゃ、お前の婚約祝いは選ばせてやるよ。
お前単品でオルゴールの上で回るか、お姫サマとセットで回るか。」
「というか、クラウスの場合は既製品でも二人のオルゴールが揃えられそうだな。用意が楽で助かる。」
ゼンと俺の冗談に、クラウスは苦笑しながら答えた。
「どっちでもいいよ。まあ、リーレンゼルテ様も乗せる場合は不敬にならない程度のデザインにしてもらって。
でも敢えて希望を出すなら、オルゴール以外のものがいいかな。」
個別では顔を合わせる機会があったものの、同期会として4人が集合したのは……もう9ヶ月振りか。
3人が妻の出産に気を遣って間を空けていたこと。それと、ラルダはともかくとして最近はクラウスも週末に予定が入ることがあり、なかなか4人の予定が合わなかったというのが主な理由だ。
そしてクラウスが最近、若干多忙になっている原因。
それは、俺たち同期の最後の独身であったクラウスの縁談相手にあった。
「……それにしても。話を聞いたときは耳を疑ったが。
まさか本当にエゼル王国のリーレンゼルテ第二王女との縁談を成立させてしまうとはな。恐れ入った。
最後にして特大の結婚を提供してくれてありがとう。お前は毎度期待を裏切らないどころか、悉く期待を上回ってくる男だな。」
クゼーレ王国に並ぶ大国である、隣国エゼル王国。
そのエゼル王国で【エゼルの妖精姫】の愛称で国民から絶大な支持を得ている【リーレンゼルテ・エレスフィール】第二王女。
クゼーレ王国が誇る【絶世の美男子】ことクラウスは、冗談ではなく本当に例の他国の姫を落としてしまった。
しかもあろうことかコイツは、求婚してきた第二王女とエゼル王国を相手に「自身がクゼーレ王国魔導騎士団に所属し続けること」を条件として呑ませるという恐ろしい荒業までやってのけた。
つい今しがた「俺たち第27期は他の代に比べて特別絆が深い訳ではない」とは思ったが……さすがに他の代に比べて、圧倒的に「権力集中」してしまっている自覚はある。
もともとクゼーレ王国第一王女のラルダと四大公爵家後継の俺が揃っている時点でかなり異質ではあったが。さらにクラウスがエゼル王国の第二王女を配偶者にしてしまうとなると……この同期会も、いよいよ外交会議ないし二国間対談の様相を呈してきそうだな。
その肝心の内容は、至って平和な雑談をしながらの間抜けなオルゴール交換会だがな。
俺はそんなことを思いながら、クラウスに愉快な話題提供への感謝を述べた。
するとクラウスは、現在の素直な心境を口にした。
「まあ、僕自身も最初は先入観や偏見があって、避けようとしちゃってたんだけどさ。
家族にも勧められて直接ちゃんと話してみたら、案外気が合いそうな感じがしたし、変に気を遣わずにお互い自然体でやっていけそうだなって思えたんだよね。
……それに、ちょっと交渉をお願いしたら、クゼーレ王国からもエゼル王国側からも、かなり僕にとって都合の良い案を再提示してもらえたし。『相手が王女様』ってことを抜きにして考えたら、かなり好条件なお見合いの部類な気がしてきたんだ。」
「そこで『相手が王女様』って大前提を抜きにして考えれんのおかしいだろ。お前どんだけだよ。」
ゼンが畏怖の念とともに震え上がる。
……俺からしたら、お前もあまり人のことは言えないと思うが。
すると話を聞いていたラルダが、自国の王女らしく、今後王室特有のややこしい世界に巻き込まれていくであろうクラウスの身を、純粋に心配して気遣った。
「実際のところ、こうしたエゼル王室との直接的な繋がりができることは、クゼーレ王国としても願ったり叶ったりなのだ。
しかし本来であれば、そのためにクラウスに身分以上の理不尽な負担を強いてしまうことは、決してあってはならない。
もともとクラウスにリーレンゼルテ様への謁見と見合いを勧めたのは私だが……その後、私の知らぬところで、王宮側からクラウスの実家に縁談を成立させるよう強く要望を入れていたいう事実があったと聞いた。
王家の人間として──そして実質的に外交的政略結婚を肩代わりさせてしまった身として、クラウスには感謝してもしきれない。同時に、本当に申し訳なく思っている。
……ありがとう。そして、すまなかった。
現状に何か不満があれば、遠慮なく私に言ってくれ。クラウスの意思を最大限尊重し、婚約の公表についてもエゼル王国側と時期や形式を慎重に検討すると約束する。
不本意な形で必要以上の注目を浴びたくはないだろう?」
しかしクラウスはラルダの心配をよそに、清々しい顔をして、ここでしか言えない本音を言い放った。
「全然?注目されることは何も嫌じゃないよ。
だって僕、今までの方がよっぽど王女様に迷惑かけられてたし。
──リーレンゼルテ様のお陰で、ようやく僕は『ラルダの非公表の旦那様(仮)』の役を卒業できる。
そう思うと、嬉しくて仕方がないよね。
むしろ正式に婚約成立したら、さっさと大々的に公表してほしいな。」
美しい容貌を惜しみなく輝かせる、満面の笑みのクラウス。
しかしそのエメラルド色の瞳は、疲労と怒りを通り越して諦めの境地に至りかけた者にしか出せない、鈍く暗い輝きを放っていた。
「…………2年間に渡るパートナー代行、お前はよくやり遂げたと思うぞ。」
俺がそっと労うと、クラウスは
「百歩譲ってラルダとの結婚を祝われるだけなら、まだ我慢できたけどさ。
最近はリレイグ王子とフィリア王子妃の第二子のご誕生もあったせいか、『ラルダ様とのお子様も楽しみにしてます!』まで言われちゃってたんだよね。
……さすがに耐えられなかったよ。」
と、何とも哀れなぼやきを零した。
「その件については、本当にすまないと思っている。……恩に着る。」
ラルダが真面目な顔をして謝ると、クラウスは「まあ、非公表は仕方なかったことだしね。ラルダも頑張ってるもんね。」と、優しく理解を示した。
もう一人の当事者であるゼンはというと……口を開くだけ損だと思っているのだろう。完全に気配を消して黙々とテーブルの上の菓子を堪能していた。
9年前は遠慮して様子見していたコイツも、今では俺たちの分など気にせず、次から次へと菓子に手を伸ばしている。……もはや同期会で提供される菓子類は、ほぼゼンの餌付けと言っても過言ではないな。
「クラウスがそういった声を掛けられてしまっているということは、ラルダの方も同様だろう?
お前自身は大丈夫なのか?」
ゼンとの婚約発表時に少々参っていたラルダのことを思い出しながら俺がそう尋ねると、ラルダは軽く溜め息をついて
「ああ。たしかに、そういった期待を向けられることは増えてはきているが。
私は『王女』で『女性』だからな。クラウスのように直接あからさまに言われることは、あまり多くない。何より、私はもう『配偶者の非公表』を自らの決断とし、覚悟をしてすべて受け入れている。
……だが、それに巻き込んでしまっているクラウスやドルグス、ベインたちには……本当に申し訳ないと思っているんだ。」
と、クラウスをはじめとする、ラルダの配偶者予想によく挙げられている独身幹部らへの複雑な心境を吐露した。
そしてそれから続けて、国民たちから寄せられている期待についても、ラルダは自身が感じていることを述べた。
「ここ15年ほどで、王侯貴族の初婚年齢は一気に上がってきている。
エゼル王国の大学院設立などまさに決定的だが、昨今は専門性を高めるための教育の長期化や、仕事での成果主義の流れが世界的にきているからな。
一世代前であれば、王侯貴族女性の結婚適齢期は19〜22歳、出産適齢期は20〜25歳と言われていた。
しかし現在は、まだ新たに定められているわけではないが、有識者の間では男女共に結婚適齢期を19〜26歳、出産適齢期を20〜30歳まで広げようという動きもある。そして実質的に、その認識はすでに王侯貴族間で共有されている。私とゼンの結婚然り、クラウスとリーレンゼルテ王女の婚約然りだ。
一般市民にまだその新基準が普及していないが故に、結婚や出産を急かすような声が私やクラウスのもとに届いてきてしまっているのは事実だが……今後しばらくすれば、一般市民の間でも同様の価値観が広まっていくだろうと予想はしている。」
──要は「最近は『20代半ばでの結婚』や『30歳近くでの妊娠・出産』も当たり前になってきているから、国民たちに煽られてはいるが、別にそこまで焦っていない」ということだ。
「こればかりは自分の思い通りにいくものでもないからな。絶対だと固執しているわけではなく、あまり気負うつもりもないが。
ただ私としては、もうしばらくは団長職に専念したい気はあるが──……あまり悠長には構えずに、できることならばゼンが20代のうちに、環境を整えて子どもを迎えたいと思っている。
私は知っての通り、欲張りだからな。王女の務めも、魔導騎士団の仕事も、どちらも手放す気はない。
ただ、何か一つを選ばなければならないとなったときに、私が何よりも優先したいのは『ゼンとの家庭を築くこと』だ。
私はゼンとともに親になり、子を育ててみたい。これまでの結婚生活を通して、その意思はより強くなっている。
己の内にそうした確固たる方針が存在していることもあって、私は今のところは、あまり世間の声は気になっていないな。」
◇◇◇◇◇◇
相変わらず俺とクラウスを信頼して、聞いているこちらが恥ずかしくなるような夫婦愛を赤裸々に語るラルダ。
俺は王女様の盛大なお堅い惚気を受けて、そろそろ気配を消しているゼンに揶揄いの一言でも掛けてやろうかと思い、菓子を食べているゼンの方を向いた。
…………そして、そこで俺は気が付いた。
ゼンの様子がおかしいことに。
ゼンはラルダが自分たちの話をし始めた途端に、照れ隠しなのか、より一層気配を消していた。
俺はてっきり、ゼンは俺の視線を受けたら、恥ずかしがって話を振られるのを嫌がるような素振りを見せるか……もしくは案外開き直って、普通にラルダの思い描く将来設計に補足なり感想なりを付け足してくるかと思っていた。
しかしゼンは、そのどちらでもなかった。
ラルダの話終わりに合わせて俺はすぐにゼンに視線を移していたのだが、そのときゼンは、ラルダの話を聞きながら静かに口の中の菓子を飲み込んで、それから何かを考えるように窓の外を見ながら軽くぼーっとして──……
──それからいきなり、息を呑んで顔を強張らせて、目を見開き瞳孔を開いた。
突然、何か強い恐怖を感じたかのように。
ゼンが身体全体を緊張させたのが、明らかに見てとれた。
そしてそれからゼンは瞳孔の開いた目を彷徨わせて、慌てて何かを探すようにして目の前のテーブルに音を立てながら左手をつき、そのまま再び焦ったように窓の外をもう一度見て──……そこでようやく、ゼンは正気に戻ったようだった。
「ゼン?……どうかしたのか?」
俺だけでなく、当然ラルダとクラウスもゼンの異変に気が付いたようだった。
自分の話を聞いていた夫ゼンの挙動が突然おかしくなったことに、ラルダが動揺しているのも分かった。
心配そうなラルダの声を聞いたゼンは、もう一度ハッとしたように浅く呼吸をした。
そしてラルダと目を合わせて……その目をバツが悪そうに背けて、ゼンはこう謝った。
「…………いや、何でもない。……悪い。
少し、親父とお袋のこと思い出してた。」
………………。
…………まさか、ここで引っかかってくるとはな。
俺がそう思うのと同時に、クラウスの方から微かに俺への視線を感じた。
俺が眼鏡を指で軽く押し上げながら横目でクラウスを見ると、クラウスは絶妙な眉と口の角度だけで、俺に分かりやすい感想を伝えてきていた。
(……アスレイの『推理』、やっぱり当たってそうだね。)
だろうな。クラウスの言いたいことは。
ゼンとラルダの婚礼式典前。ちょうどふざけた結婚祝いのオルゴール購入を決めた日だったか。
クラウスとの雑談の中で話した、俺の単なる予想。
──ゼンは「自分の両親」が引き金となる、何らかの心の傷を抱えている。
恐らく、現在のゼンの精神を一気に崩壊させかねないほどの、かなり危険な爆弾を。
……その予想の根拠となるような事例がまた一つ、この瞬間に増えてしまった。
恐らくゼンは今、ラルダの「『親』になりたい」「『子ども』が欲しい」という話を聞いて、そこから自身の少年時代と両親のことを連想でもしたのだろう。
……そしてそこで、何かが引っかかってしまったんだろうな。
ゼンがラルダと今までそのような将来の話をしたことが一度もないとは思えないが……たまたまそのときは自分の両親を連想しなかっただけなのか……それか、俺が見ていないだけで、ラルダの前では何度もこうなっているのだろうか。
そこまでは俺には分からないが……まあ、いずれにしろ、これ以上は踏み込まない方が良さそうだな。
冷静さを取り戻しながら、妻のラルダに申し訳なさそうにして目線を床に落とすゼン。
それを受けてまだ心配そうにしながら、夫のゼンのために平静を装おうとするラルダ。
側から見れば、何とも虚しい、必死のお互いへの思いやりだった。
しかし、まさかここでゼンの「傷」が引っかかってきてしまうとなると……ラルダの望む未来の「家庭」も、どうやら一筋縄ではいきそうにないな。
どこまでも茨の道なのか。ゼンの──……この二人の人生は。
平和な惚気話から一転、一気に不穏になってしまったこの場の重い空気を、俺は複雑な気分で受け止めていた。
己の傷も劣等感も、相手の心情も周囲の環境も何もかも。
「恋愛」ひとつがまるで「万能薬」のように作用し、主人公の想いが叶うだけですべての問題が一気に解決し、大団円の終幕を迎える。
そんな童話か歌劇のような簡単な世界も、探せばどこかにはあるだろう。
ラルダとゼンのお互いの愛は、俺からすればこの上なく真摯だ。
ゼンは一途にラルダのすべてを支え続け、ラルダは健気にゼンのすべてを受け入れ続けている。
──……ただ、その程度ですべてが救われるほど、ゼンの生きてきた世界は平和ではなかったというだけで。
純愛で両親の死が払拭される訳ではない。
大恋愛で故郷の悲劇が忘れ去れる訳でもない。
真摯な夫婦愛だけで、これからの未来が幸福で満たされるという保証など……ゼンにはないということだ。
そして、ゼンがそうであるというならば、ラルダもそれを共に背負わざるを得ない。
まあ、当然だろう。
ゼンの過去の「傷」は、夫婦関係とはまったく別のところにある問題なのだから。妻とはいえラルダには、外野からゼンの精神が安定するよう干渉することしかできない。
今後ゼンの抱える傷に直接作用する可能性があるとしたら──……それは同じ悲劇を共に経験してきた弟の、ユンしかいないだろうな。
そのユンも、ゼンの話からするとなかなかに厄介な爆弾を抱えているようだが。
…………何とも歯痒い夫婦だな。俺の同期の二人は。
俺が改めて自分の推測に確信を深めたところで、クラウスが重い空気を払拭すべく口を開いた。
クラウスは強引に自分の方に舵を切りながら話を再開させ、そのまま一気に明るくまとめに持っていった。
「……まあ、僕の方もこれからどうなるかは、全部は予想しきれないけど。
結婚や一時引退をしながら長く在籍してる諸先輩方を見ると、まだまだ僕たちも現役最前線でやっていけそうだと思えるよね。」
すると、それを聞いたラルダが、クラウスに続いて強引に笑顔を作って
「ああ。そうだな。
私も己の力が及ぶ限り、魔導騎士団の仕事は長く続けていきたいと思っている。そう思える環境に身を置けている現在が恵まれているということだな。」
と、一般的な仕事の継続の話に流れを変えて着地させた。
ラルダの方とはゼンの「傷」の予想を共有したことは無かったが……恐らくラルダも、俺やクラウスと同じように「ゼンは『両親』に何らかの傷を抱えている」という推測に辿り着いているのだろう。
過去に唯一、ゼンの逆鱗を皆の前で踏み抜いたのは──……他でもないラルダだったからな。
…………俺も便乗しておくか。
「まったくだ。魔導騎士団で戦闘に明け暮れる日々を何十年と続けている戦闘狂の諸先輩方には、尊敬の念しかないな。
……羨ましい限りだ。お前たちも、あと少なくとも20年は魔導騎士団に居座るつもりなんだろう?」
クラウスとラルダの作り出した流れに乗って、俺はただ適当にそう言った。
あからさまな同期2人と妻からの気遣いを受けたゼンは、苦い笑みを浮かべながら短くひと息だけついて、気合いで茶番のような会話に合わせてきた。
「……それを言うならお前も普通に戦闘狂だろうが。
未だに週末にギルド行ってはしゃいでるくせに、引退面してんじゃねえよ。」
するとダメ押しをするかのように、クラウスが最後に珍しく一線を超えた冗談を言ってきた。
「羨ましいと思うなら、また魔導騎士団に復帰しちゃえば?
ほら。今なら『兼業騎士』っていう先人も2人いることだし。アスレイも『四大公爵家当主』と兼業しちゃいなよ。僕たち、現役で待ってるよ。」
本当に、クラウスは同期一、折り合いをつけて前を向くのが上手いな。
……いや。「割り切って世界を簡単にする」のが上手いと言うべきか。
爽やかに笑っているクラウスを見て、俺は素直に感心した。
……まあ、俺は今コイツにささやかな「傷」を抉られた訳だが。
たが、クラウスが俺を信頼した上でゼンの方を庇いにいったのだということも、これまでの付き合いから理解できる。だから俺は今回は犠牲になって、話のオチに使われることを容認した。
「やれやれ。『四大公爵家当主』の座も随分と軽く見られたものだな。
……世の中そう簡単にいくなら、俺は最初から苦労などしていない。
それが実現可能ならば、ラルダに次いで俺も『兼業跡継ぎ』になっていたに決まっているだろう。無茶を通しまくるお前たちと常識人の俺を一緒にするな。」
婚約者も、夫婦も、家族も……友人も。永遠の幸福が保証されている関係などどこにもない。抱えている背景の傷が大きければ尚更だ。
しかし「万能薬」にはならずとも、多少の「麻酔薬」程度にはなるだろう。
時には真剣に話を聞くが、時には全員で茶番を演じてお互いの傷を誤魔化し合う。
それが同期4人で10年近く築いてきた、俺たちなりの「絆」の形というものだ。
これはちょっとした裏話ですが……
リーレンゼルテの方も最近は自身が未婚であることを「妖精姫は王国の妻」「妖精王の嫁」「人間の男ごときが並び立っていい御方じゃない」と国民たちに変な方向に持ち上げられ始めていて辟易しており、クラウスと同じく「さっさと大々的に婚約公表して『リーレンゼルテ様も普通に人間と結婚するんだ』と言われたい」と思っています。
その点も含め、どこまでも気が合う二人です。




