8 ◆ 博打娘の究極の逆張り
第五部(18話+幕間2話)執筆済。基本毎日投稿予定です。
週の最後の平日。時刻は昼の12時半。
オレは早めに昼食を終えて、午後の訓練前に少し自主練をしようと、他の人たちよりも先に演習場へと向かった。
すると、まだ誰もいないはずの演習場の真ん中に、ぽつんと立っている人影が見えた。
「──あれ?ユン?来てたんだ?」
オレが後ろから声を掛けると、ユンはいつもはクルッと髪を靡かせながら身体を捻って笑顔を見せてくるのに、今日はスッと首から上だけを動かして虚無の顔で振り返ってきた。
「あ、クロド。お疲れ。」
………………疲れてるな。ユン。
ユンが入団してきて1年半。この1年半の付き合いの中で学んだけど、ユンはこんな風に定期的に「無」になってくる。
たしか最初は、ユンの初めての討伐遠征……例のセレンディーナ様沿道暴走事件の翌日。
それから……ああ、クラウス隊長が銅像を真っ二つにしちゃったときも完全に「無」だったな。
あとはー……けっこう魔法研究所の方で疲れ切ってるときに、ユンはこうなってる気がする。
だから、まあ……今日は多分、魔法研究所の出張が原因なんだろうな。ユンのこのテンションは。
「ユン、今日まで出張じゃなかったっけ?」
オレが質問すると、ユンは淡々と答えてきた。
「うん。午前中に帰ってきた。」
「そのまま今日は休んじゃえばよかったじゃん。……そんなに疲れてるなら。」
オレがそう言うと、ユンはより一層死んだような目をして
「うん。もともとそうするつもりだったんだけど……もう何も考えたくなくて。現実逃避しにきた。」
と言った。
「……?どうしたん?ユン。何か嫌なことでもあったってことか?」
ユンが魔導騎士団の方の出張──討伐遠征に関しては、行けば行くほど元気になることはこれまでの経験から知っている。
だから、今回の魔法研究所の方の出張で何かげんなりすることが起きて……それで気晴らしに身体を動かしにきたーってことかな?
オレが虚無状態のユンに質問すると、ユンは口をムッと尖らせて眉間に皺を寄せて、複雑そうな顔をした。
「嫌なことっていうか……嫌なことじゃないんだけど──……まあ、とにかく順番を完全に間違えた感はあるよね。」
「???」
「順番を全部間違えて……結果は予想外でこの上なく最高なはずなんだけど、その結果の前後が完全に崩壊してて最悪すぎてやばくて……
……総合すると本当にあり得ないくらい最高なんだけど、俺単体で見たら取り返しがつかないレベルで最悪なの。
はぁ…………泣きたい。」
ユンはそう言って尖らせていた口をへにょっと曲げて、しょんぼりした顔になった。
「出張中の実験の話?
何か盛大に失敗してフォローされたとか?」
よく分からないけどオレはユンにそう尋ねた。
するとユンは、スッと虚無の顔に戻って
「ううん。俺、出張中はめっちゃ頭冴えてた。
現実逃避して無心で仕事してたら同期のフォローを完璧にできて、あり得ないくらい感謝された。」
と答えてきた。
「え?……じゃあ良かったじゃん。」
「そう。良かった。全部上手くいきすぎて最高なの。
問題は俺が最悪すぎるってことだけで。」
「どういうこと???」
ユンの話だけだと全然意味が分からない。
意味が分からないなりに要約すると、どうやら出張自体は普通に上手くいったけど、ただ何かユン的には最悪なことがあって、それで一人で自己嫌悪に陥ってるだけ──ってことのようだった。
オレはよく分からない「無」のユンを眺めながら、「そういえばユンに言おうと思ってたことがあったんだよなー」って思って……それからしばらくして、その言おうと思っていた話の内容を思い出した。
「──あ、そうだ。思い出した。
そういえばさ、ユン。ユンが出張から帰ってくる前に、魔導騎士団にセレンディーナ様が来てたよ。今朝。」
◆◆◆◆◆◆
「…………へ?」
ユンがワンテンポ遅れて、虚無の顔を崩して目を丸くしてオレの方を見てきた。
「なんか午前の訓練が始まってすぐくらいのときに、事務局の人に案内されて来てた。
それで、事務局の人がゼン先輩とラルダ団長とクラウス隊長のこと呼んで、セレンディーナ様と建物の中に入ってってた。
わざわざユンがいないときに来るなんて、アレだよな。気を遣ってたのかな?セレンディーナ様。
それとも帰ってくる日を勘違いしてたとか?」
演習場の端の方に事務局の人と立ってた、今朝の突然の訪問者。
あれはオレたち世代の超有名人、パラバーナ公爵家のセレンディーナ様で間違いなかった。セレンディーナ様は遠目で見ても、雰囲気からしてもう超目立つから。
ユンが嫌がるだろうから言わないけど、セレンディーナ様の姿を目撃した前衛のみんなが「あれ、パラバーナ家のセレンディーナ嬢?」「……ってか、ユンの婚約者じゃね?」「あー!あの沿道にいた、例の!」「え?じゃあ特別見学か?でも今日はユンいないのにな。」ってざわざわしてたな。
ってか、四大公爵家でユンの婚約者のセレンディーナ様くらいの人じゃないと、突然来たところでいきなり騎士団施設内に案内されてラルダ団長に会うことなんてできないからな。
そこら辺のご令嬢はあんな風に演習場には来ない。だからあれは絶対、セレンディーナ様で確定だ。
オレが今朝のちょっとした出来事をユンに軽く報告すると、ユンは目を丸くしたままオレの話を聞いて固まって……それから瞳を少し斜め上の方に泳がせて何かを考える素振りを見せた後、ハッとしたように息を呑んでサッと顔を青くした。
「えっ?………もしかして…………『破談』?」
「は???」
いきなり発想を飛躍させるユン。
オレは首を傾げたけど、ユンは勝手に一人でどんどんそっち方向の思考に嵌っていった。
「……えっ。どうしよう。
日を跨いで冷静になって『やっぱ無理』ってなったとか?
でも実際に俺、まじで酷かったもん。あり得る。
…………え、どうしよう。…………どうしよう、やっちゃった。
終わった。……終わった。最悪。もう終わった。完全に終わった──」
ユンがその辺りで思考停止し始めたから、オレは剣の柄でユンの腕をツンツン突きながらとりあえずツッコんだ。
「いや、いきなり何でそこに飛躍してんだよ。
わざわざユンのいない魔導騎士団に来て、ゼン先輩とラルダ団長とクラウス隊長まで呼び出して自分とユンの『破談』の話すんのおかしいって。
普通に考えたら『寄付』だって。ご令嬢が来るっていったら。
パラバーナ家のことだから金額もでかいだろうし、それでラルダ団長が直々に挨拶したんでしょ。そのついでにユンの身内のゼン先輩と上官のクラウス隊長にも挨拶してった──ってだけじゃない?」
「──あっ!そういうこと!?」
ユンはオレに突かれたお陰で、まともな思考を取り戻したようだった。
「『寄付』かぁ!そうだよね!ご令嬢って寄付もしたりするんだもんね!」
…………と、そこでユンの脳裏に、一つの可能性が過ったようだった。
「そっかぁ〜寄付かぁ〜!びっくりしたぁ──……って、
まさか『銅像』!?!?」
ユンは戦慄した。
「エッ?……ちょっと待って、ちょっと待って。
俺が知らないだけで、やっぱりご令嬢の文化ってそういうもんなの?現金は奥ゆかしくないとかセンスないとか……そんなことある??
──っ、いや!セレンディーナ様は金掛けてくるタイプだけど、ちゃんと現金でくれるはず!
……………はず、だよね???」
ユンは混乱しながらブツブツ言って、そのまま一人で勝手にまたさっきとは違う方向に焦りだした。
「──やばいやばい、何もいらない!っていうか、せめて俺に個別で言ってよ!!何でいきなり魔導騎士団に来ちゃったの?!
お願いセレンディーナ様!!俺の銅像だけはやめて!!いきなり意味分かんないから!!せめてラルダさんの黄金像にして!!!!」
ユンは悲鳴を上げた。
周りにはチラホラと昼食を終えた他の団員たちも来始めている。そして演習場で突然叫びだしたユンのことを、みんな不思議そうに見ていた。
でも、ユンはもう周りが全然見えていないようだった。
「いや、銅像も黄金像も基本的にあり得ないから。
あの一件でユン、貴族令嬢にまた変な偏見持っちゃってるだろ。アレ全然普通じゃないからな?」
オレはまたユンをツンツンした。
するとユンはハッとして停止して、それから再び何とか最低限の思考を取り戻した。
「──あっ!そう?本当?……そうだよね!やっぱそうだよね!」
そうしてユンがちょっとだけ冷静になりかけたところで、ユンの騒がしい声を聞いたクラウス隊長が笑いながら声を掛けてきた。
「あはは!大丈夫だよ、ユン。
僕もちょっとだけ立ち会ったけど、用件はパラバーナ公爵家からの現金の寄付だったよ。日頃から婚約者のユンがお世話になってるから──って、ラルダだけじゃなくてゼンと僕にも挨拶してくれたんだ。」
「アッ!そうだったんですね!よかったぁ〜!!」
クラウス隊長の言葉に、ユンは一気にホッとしたような笑顔になって脱力した。
──しかし、その直後。
ユンだけでなくオレまで戦慄してしまうほどの恐ろしい言葉が、クラウス隊長の口から聞こえてきた。
「んー……まあ、金額はちょっとびっくりする額だったけどね。
とりあえず今年度分として、100億リーク寄付してくれるって。」
「「「「100億!?!?」」」」
オレたちは叫んだ。
オレたちが叫んだと思ったら、周りにいた他の人たちも一緒になって叫んでいた。
「グェッ!!!」
潰された蛙の断末魔のような奇声を発しながら、ユンが胃を抑えて蹲る。
ユンはどうやら限界を迎えたようだった。
「ちがっ──……違うのに……っ、セレンディーナ様そうじゃなくってぇ……俺、っ……あぁ〜……違うのにぃ……金じゃないって、金じゃないのにぃぃ……」
ユンはどうやら情緒が無茶苦茶になってしまったらしく、瀕死の蚊みたいな弱々しい声で嘆きだした。
続々と演習場に集まってきた団員たち。
後から来た人たちも、いきなりオレたちが「100億」って叫んで動揺したのを見て、「……何?どうした?」「100億が何だって?」みたいにこっちに注目をし始めている。
どうやら一度はクラウス隊長と別れて第1部隊の隊列の方に行っていたらしいゼン先輩も、ユンの一連の様子を見て、複雑そうな顔をしながらこっちにやってきた。
「……おい、ユン。お前さ……」
蹲っているユンに、躊躇いがちに心配そうな声音で話し掛けるゼン先輩。
そのゼン先輩の声を聞いたユンは、蹲ったまま弱々しく鳴いた。
「にぃちゃぁん…………違っ……、あぁ〜……俺もうやだぁ〜……」
「ユン。……大丈夫だから。な?
……もうあんま気にすんなって。いろいろ。」
「あぁぁあぁ…………むりぃぃ…………」
「………………。」
何とも言えない顔で心配そうにユンを見下ろす兄のゼン先輩。
あの初遠征の沿道事件と同等かそれ以上に深刻なダメージを負っていそうなユンに、オレはよく分からないなりにそっと隣で提案をした。
「なあ、ユン。……事情は分かんないけど、とりあえず今日は帰って休めば?
もともと出勤予定じゃなかったんだし。」
オレの言葉を聞いたユンは、しょぼしょぼな顔をして「…………そうする。」って言って、胃を抑えたまま何とか頑張って立ち上がった。
そしてそれからクラウス隊長に弱々しく「あの、すみません……ちょっと、一度来ちゃったんですけど……今日は休みます。……お疲れ様でした。」と宣言して、そのままとぼとぼと帰ってしまった。
………………どういうことだったんだろう?
状況を整理しきれないままユンを見送っていたら、クラウス隊長が申し訳なさそうに反省をしながら、そっとオレに質問をしてきた。
「……やっぱり驚かせちゃったか。
全体連絡のときにいきなり団長から寄付の話をされるよりもいいかと思ったんだけど。……言わない方が良かったかな。
ところで、ユンはもともと体調が悪かったのかな?クロドは何か聞いてる?」
調子が悪そうだったユンのことを気にするクラウス隊長に、オレはユンが言っていたことを曖昧にだけど一応報告した。
「えーっと……魔法研究所の出張の方で何があったかは聞いてないんですけど。
なんか『順番を間違えた』みたいなことは言ってました。それで自己嫌悪に陥ってたっぽいです。」
「ふーん?」
クラウス隊長がいまいちピンとこないといった表情で、軽く首を傾げながら報告を受け取る。
オレも周りの仲間も、みんなそんな感じだったんだけど──……そのとき、少し離れたところで、一人だけ違う反応をした人がいた。
「──は?もしかしてそれで向こうが100億も寄越してきたってこと?
やばくね?どういう感覚?何の貴族文化なん?」
その声にオレたちが振り向く。
思わずといった感じの驚きの反応を示したのは、ユンと同じ第3部隊員……じゃない意外な人物、
ゼン先輩の所属する第1部隊の【ベイン】隊長だった。
◆◆◆◆◆◆
………………貴族文化?
ベイン隊長の謎反応に、オレたちはみんなで静かに困惑した。
「ベイン隊長、何か知ってるんですか?」
ベイン隊長の近くにいた団員の一人が尋ねる。
すると、その質問に逆にベイン隊長は首を傾げて「え?何?知ってるってか、『順番ミスった』ってそういうことじゃねえの?」と、よく分からない聞き返し方をした。
それからベイン隊長は首を傾げたまま視線をゼン先輩の方へと向けて、今度はゼン先輩に質問をした。
「……ん?でもさ、ゼン。ユンって今朝来てたあのご令嬢ともうとっくに婚約してんでしょ?
ならまあ、別にいくね?普通に……ギリセーフっしょ。
『おめでとー』ってことでいいの?ゼンより早いのは意外だけど、アスレイに続──
「おいベイン。まじテメェ黙れ。」
疑問符だらけのベイン隊長の言葉を聞いて、ゼン先輩は一気に眉間の皺を深めてベイン隊長の方に歩いていって、ゴスッ!と思いっきり理不尽な蹴りをベイン隊長の脛に入れた。
「──っ痛!は?!何?!」
ベイン隊長はゼン先輩にキレ気味に抗議しながら、周りを視線だけで見渡して──……そこで急に態度を変えた。
ベイン隊長はゼン先輩への怒りをスッと引かせて、それから目を見開いて驚いて、それから再び困惑した。
「…………あ、ごめんゼン。……もう黙るわ。」
「チッ!最初から黙っとけよ。」
「ってか……えぇー……いま俺、ここ数年で一番のカルチャーショック受けてんだけど。……これ、庶民限定の表現だったんだ?」
「その前にまずテメェは飛躍しすぎてんだよ。クソがよ。」
「え?違うの?……あー!そっか。貴族相手だとアレか。そもそもダメなんだっけ?ごめんごめん。……ん?ってことは、ユンが気にしてんのそれだけなん?」
「……おい、黙れっつってんだろ。いい加減にしろよ。」
「あ、分かった分かった。ごめんって。」
ゼン先輩に散々「黙れ」と言われたベイン隊長は、そう軽く謝ったあと、最後に付け足すようにしてボソッと感想を漏らした。
「……ん〜、けどさぁ。
100億もくれんのはマジで意味分かんないけど、要するに『全然問題なかった』ってことっしょ?
だったら別にそんくらい、いいじゃん。──って俺は思うけどね。
……ユンは真面目なんだね。
そんなに考え過ぎなくたっていいのにね。」
「……………………。」
ゼン先輩が、ユンが消えていった演習場の入り口の方をチラッと見てから、重めの溜め息をついていつもの表情に切り替える。
ベイン隊長は、そんなゼン先輩とただの雑談のテンションに戻って
「──あ、そういえばゼンさぁ。いま思い出したんだけど。
今度またアスレイに会う予定ある?この前借りたままの物があんだけどさ──……」
と話しながら、二人で第1部隊の待機列の方に向かって歩いていってしまった。
……………………?
オレを含めた団員たちはみんな訳が分からないまま、集合時間に向けてなんとなくそれぞれの部隊列に移動していった。
──王国最強の戦闘集団である「クゼーレ王国魔導騎士団」。
まず魔法を使うことができるのは、基本的には魔力を持っている貴族だけ。さらにここ魔導騎士団に所属するためには、その魔法の特殊戦闘技術で王国最難関と言われる厳しい入団試験に合格しなければならない。
その試験突破のためには、本人の才能や努力に加えて、特別に強い師匠について学ぶ機会を得たり鍛錬に打ち込める環境を整えたり……と、両親や周囲の理解と協力が必要不可欠になってくる。
こういった背景があるからか、オレの体感としても、魔導騎士団に所属している団員たちはみんな、貴族の中でも特に育ちが良い方だ。
身分こそ、そんなに高くない──家を継がない次男や三男、もしくは長男でも家を継ぐのを放棄して弟や親戚に託してきてる人がほとんどだけど。
でも良く言えば、家のしがらみや重圧をあまり感じずに、好きな武術や魔法にひたすら打ち込んでのびのびと育ってきた人が多い。
その上で、自分の意志や周りの期待……そこら辺は人によるけど、最終的に「国民を守るために魔物と戦おう」って決断をしちゃうような、そんな「前向きで勇敢」もしくは「割と無謀で考えなし」の戦闘好きが揃ってるって感じだ。
そんな騎士団の中にいる超例外。
貴族でもなければ師匠についたこともない、すべてを本人の力だけで乗り越えて入団してきた超天才。
それが、「平民の魔力持ち」のゼン先輩とユンの兄弟。
それから、「貴族の血を引く婚外子」で姓氏を持たない、平民同然の育ちをしてきたベイン隊長。
──我ら魔導騎士団が誇る【庶民三傑】。
たまに常識や価値観の違いによる驚き体験が発生しがちな三人だ。
それこそユンの初遠征のときの魔物料理みたいな。
ちなみに魔導騎士団には、あともう一人、暗殺組織出身の殺伐とした育ちの御方も存在する。
貴族か庶民かどころじゃない。論外でしかない反社会的勢力の常識と価値観を知るセゴット第2部隊長をここに混ぜると、【例外四天王】になる。
当たり前だけど、セゴット隊長からたまに飛び出るヤバすぎる倫理観の名残りは、庶民三傑も含めて誰も対応できていない。
まあ、逆に育ちが良すぎる第一王女ラルダ団長も、同時に在籍してるけど。
当たり前だけど、ラルダ団長からよく飛び出る凄すぎる王女様然とした発言も、もう慣れて受け入れてはいるものの、誰も共感はできていない。
……よく考えるとすごいな。
本物の王女様から凶悪な暗殺組織の生き残りまで、幅広い多種多様性。
魔導騎士団の基本方針って、極論、本当に「強ければ出自や経歴は何でもいい」なんだよな。落ち着いて考えると、けっこうイカれてる集団だ。
それで、この「庶民三傑」と「例外四天王」。
たまに本気で意味が分からないんだよな。オレたち多数派の貴族からすると。
だから今も、庶民三傑のベイン隊長にはすぐにピンと来てオレたちには分からない何かが、ユンの発言と今の状況にあったんだと思う。
何だろう?
……………………。
オレは隊列に並んで午後の訓練開始時間を待ちながら、一人でぼーっと考えていた。
最高だけど最悪で、何か「順番を間違えて」いて、
でもベイン隊長的には「別にいいじゃん」って感じで、
何故かセレンディーナ様は、破談どころかいきなり100億リークもくれちゃって、
それは「庶民限定の表現」で、貴族相手だとそもそもダメなやつで……
──…………あっ。
ユンに寄り添ってベイン隊長になりきって考えてみた結果、オレは一つの予想に辿り着いた。
そしてちょうどオレが辿り着いたのと同時に、ラルダ団長が颯爽と髪を靡かせながらオレたち団員の前に来て、身が引き締まる号令をかけた。
「定刻だ!これより、午後の訓練を開始する!」
……100億の寄付金の報告は、最後の解散時にしてくれるのかな。
ユン…………いや、ユン様。
なんか、いろいろとすげーな。
あのセレンディーナ様を相手に。
……でも、許されるどころか100億リークも貰っちゃうのは、さすがに「魔性の男」すぎるだろ。
もう全然感覚が追いついていなかったけど、とにかく多数派の貴族のオレは、そんな漠然とした感想を抱いた。
……育ちの良いオレの予想が、ちゃんと当たってたらの話だけど。




